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迷宮深部の偽宝箱《トレジャー・ミミック》  作者: 流水一
第六章『迷宮最寄りのクラレント』
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第二話―聖&コメット&リフレク side 2『観戦』

今行われている試合は聖騎士団同士の戦いだった。

滅多に見られない試合である。

迷宮の幹部を倒した英雄である第三王女の出場試合並みの盛り上がりを見せている。


闘っている聖騎士は聖騎士団でもトップ5に入る実力者で、他種族にも大人気の『ランスロード』。

武器は6つの武器とひとつの聖剣の担い手だ。

兜を被っていてはっきりとは見えないが、美しい銀髪の美少女らしいという噂もある。

白銀の騎士甲冑の胸当ての部分が異様に膨れているところを見ると相当なモノを持っているのは間違いない。

下心ある男の眼を釘付けにしていることだろう。


対しているのは、同色で意匠や輪郭が違う騎士甲冑を纏い、激しい動きによって黒い髪が尻尾のようにゆらゆらと揺れらしている目付きが鋭い少女だった。名を『モルティナ』という。

12人いる聖騎士の中でも滅多に表舞台に出てこない聖騎士の一人である。

しかし、裏では有名な聖騎士だ。他種族にとってけして出会ってはいけないと言われる程畏怖の対象になっている。

今回なぜこの大会に出てきているのかは、不明だが、滅多にお目にかかれない人物だ。


そんな二人はつばぜり合いをしたあと距離を取っていた。

『モルティナ』が話しかけ、『ランスロード』が、6つある武器のひとつ、蛇腹剣オースティンの剣先を構える。


『モルティナ』が緑色の魔力を剣に纏い、斬撃を飛ばしていた。



――――――――



聖は膝を抱えるリフレクを放置して、ふと思った。


「そういえば、聖騎士は迷宮に来たりするのか?」


聖は最後の試合が行われているアリーナを見ている。

観客席にまで、戦闘の余波がビリビリと来るほどの戦いがもう25分続いていた。


一試合にかかる時間は大体5分~10分で、15分の整備を挟んで次の試合と流れていく。

今行われている試合は第8試合。つまり一回戦の最後だ。

その後にあるのはお昼の休憩を挟んで二回戦へと移行する。

それゆえに、時間が掛かっても運営は止めようとしない。

いや、止められないのかもしれない。


試合が行われている結界内に、危険を犯してまで実況兼審判をするのは、相当な実力者じゃないと勤まらない。その一人がコカトリアだが、彼女は迷宮のラスボスのひとつ前の部屋の番人であるといっても過言ではない。そのくらいの実力者がいないと結界内で行われる闘いを御することはできないだろう。それゆえなのか、今回の試合中断の合図は出ておらず、闘っている両者は止まらない。

実況審判を勤めていたのはコカトリアではなく、白い魔女だった。尖り帽子もマントも純白なのだ。

その魔女は闘いを唖然と見上げるだけで動くことはできないようだ。

間近で見る魔女はどう感じたのかはわからないが、会場は熱気に包まれていた。


『ランスロード』の顔に廻し蹴り放つ『モルティナ』。

蹴りしゃがんでかわしたと同時にハルバードを蹴りあげ反撃する『ランスロード』。

しかし、『モルティナ』の手甲で防がれる。

そのまま、距離をとる『モルティナ』。



この試合は刺激的で、本能を呼び覚ます。

戦え、圧倒しろ、すべてをさらけ出せ―――。

会場は熱く熱狂し、両者への声援は大気を揺るがす大歓声だ。

観客席から立ち上がって応援する人もたくさんいる状況だった。

種族なんて関係なく皆食い入って試合を観戦してる。

余計な冷やかしもなく一丸となっている様に、種族間の拗れなど大したことの無いように見えてくるようだった。


隣でリフレクの背を撫でているコメットは、歓声をモノともせずに聖の声だけを識別していた。


『聖騎士ですか? 私がダルフ様付きになってから15回の挑戦がありましたけど、大体が個人で攻めてきていました。冒険者みたいにパーティーを組んで来ることなんて全くなかったですよ、あのときは結局、幹部の一人が嬉しそうに応戦していました』


「ふーん、その中にあいつらっていたのか?」


聖が指し示す人物は、会場でいまだ剣撃の応酬をしている白銀の騎士甲冑に、美しい顔立ちの少女達だ。人で言うところの15くらいに見えていた。

片や、黒い髪を靡かせ、地を這うように駆けていく人物と、片や、自身の周りに多種多様な5つの武器を地面に突き刺し、そのうちの一本を両手で構える半壊した兜を被る人物。

背中に銀色の髪が見え隠れしている。


『見たことはありませんね……迷宮外では数回ありますけど』


そう言ったコメットに、そろそろお昼時で日が一番高くなる時間帯なのに苔やキノコが栽培できそうなほど立ち直られないでいるリフレクは、顔を挙げて遠くで行われている戦闘に興味無さそうにして言った。


「それはそうじゃないですか、あの二人は聖騎士でも上位の実力者ですよ?」


どんよりとしているリフレクの前髪を戦闘の余波の風が撫でる。


「冒険者ギルドで説明を受けた気がしたな……たしか…聖騎士で序列5位だ!!」


説明はされていた聖だが、聖的に言えば5位というのは強くないと考えていた。

強いというならば、四天王とか二強とかの言葉の響き的に4より上の連中に当てはまり、5位は微妙という認識だった。

そう認識させたのは強さについて水無月と語ったのが原因かもしれない。


「だが、5位だぞ?」


それであの強さなのか? と言いたそうな聖にリフレクは、


「そうですよ、しかもまだ本気で戦ってないことは明白ですよ、相手のモルティナも何か企てているようですけど、お互いいまだに聖剣を抜いてませんからね」


聖剣は聖騎士だけが持つことができる特殊な剣だ。

しかも聖剣は使い手を選ぶ。

聖騎士が剣を選ぶのではなく。

剣が使い手を選ぶのだ。


聖剣を抜いた聖騎士は、実力が2倍になるといわれている。


アリーナの結界内は土埃で覆われている。

内部の戦闘が見辛くなってきた。

白い魔女が魔法で結界の掃除をしていた。


「あれほどの強さで、未だに本気じゃないだと!?

となると、さらに上の聖騎士は…………ぶつぶつ」


戦闘を真剣に見つめる聖を見て、リフレクは思う。


(やっと実力の違いに分かってくれましたか……)


次にコメットが言う。


『やはり、棄権しませんか? 』


さすがにこれだけの戦闘を見せられれば、さすがの聖も装備が不十分な状態で挑もうとは思わないのではないだろうか?

しかし、コメットは聖の表情を見て諦めた。


「おい、あいつらと当たるのは決勝かな? いいや、どちらかか!? うーんうーん、どっちともやりたい!!」


『………はぁ、きっと決勝でしょう』


眼を輝かせる聖にため息しかでないコメット。

そのやり取りを聞いていたリフレクは、ふと、思う。


(あれ、剣と盾壊されてましたよね? 戦闘できるのでしょうか?)



試合開始から30分。

ついに大歓声の中、試合が終了した。


勝者は、聖騎士『ランスロード』だ。

決め手は、聖騎士『モルティナ』が降参したらしい。


『……………?』

『…………』


モルティナはランスロードに一言かわして会場を歩いて降りていった。

白い魔女が勝者宣言をして終了となり今後の案内や、勝者インタビューをやっている。

しかし、ランスロードはモルティナが消えた出入り口を難しい顔をして見つめていた。



30分のお昼休憩の後、第二回戦が始まる。


聖は聖騎士の試合に興奮を隠せない。


「ああ、はやく戦いたい!!」

「今の試合、まだモルティナは余力がありそうでしたね」

「ん?そういえばそんな感じもするな」

『同僚だから譲ったのでは?』


コメットの言うことが当てはまりそうだが、リフレクは違和感を隠せないでいた。


「それより、次は誰とやるんだ?」

「次は、英雄王女のシシェル様チームですね。

というか、会場にいたならトーナメント表見てくださいよ……」


リフレクは違和感を奥に押し込んで、聖の質問に呆れながら答える。


「なんだ、シシェルか」

『となるとナエト君も一緒でしょうね、リフレクさんチームは何人でしょうか?』


興味がない反応をすると思っていたリフレクだが、まさか、王女達を知っている反応をするとは思っても見なかった。


「え? えっと6人でしたけど、剣士のシシェル様に僧侶のナエト、魔法使い、魔法使い、僧侶、剣士の組み合わせだったと思いますけど」


バランスはあまり良くないのではないかと思っていたが、一回戦で、A級冒険者を圧倒して勝利したところをみると戦略があるのだろう。とリフレクは思っていた。

しかし、あちらの事を知っている二人がいるのなら、その戦略を容易く突破できるのかもしれない。


二人を見るリフレク。


『その構成……間違いなく私たちのいつもの作戦の真似ですね、微笑ましいです』


そう言うコメットに、


「つまり、私の作戦の『パッと行く?』ってやつだな!!」


聖は頷いていた。


リフレクは思う。


(あれ? なぜでしょう、黒木さんの真似と言われても、黒木さん基本ノープランじゃないですか!! つまり、あれですか、英雄王女もノープランだというわけですか、いや、それはないでしょう! というか、もし、二人の真似というなら、後ろの構成人数多すぎでしょう!? あれですか? 黒木さんが王女だとしたらコメットさんは『回復と防御と援護と攻撃が出来る』ってことになってしまいますけど、流石にそんな万能なはずは………あるん、ですかね?)


うーんうーんとうなるリフレクに聖が急かす。


「何してんだ? もう、行くぞ!」

「あ、いきますいきます!」


三人は観客席を後にした。




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