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迷宮深部の偽宝箱《トレジャー・ミミック》  作者: 流水一
第六章『迷宮最寄りのクラレント』
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第二話―聖&コメット&リフレク side 2『一回戦』―

ちょっとした出来事。


会場のとある受け付けに魔女クリエイトは来ていた。



受女「いらっしゃいませ、レートはこちらになります」

クリ「おお、何て倍率……異種族だからかな」

受女「あっ、そちらにするのですか?」

クリ「そうだな、一回しか賭けれないかぁ、でも期待したいしなぁ」

受女「…………」

クリ「おし決めた」

受女「ありがとうございました。 返金は受け付けていませんのでお気をつけください」


はいはい、っと手をふり消えていく少女。


場所は闘技場の控え室。

開幕の挨拶と同様の大歓声で建物の中にある控え室が震動してた。

天井からはパラパラと何かが落ちて来るほどだ。

先程、突然この部屋に現れた空中ディスプレイに映るコカトリアの声が聞こえる。


『それでは数分以内に……………』


一回戦の対戦が決まり、この部屋に集まる参加者が先程よりも殺気だっていた。

早く自分も戦いたい。

対戦はまだか?

とか考えているのだろうか?

この控え室に集まった人数は約16人だ。

個人戦ならそれですべての参加者が揃うわけだが、これはチーム戦だ。

チームの最大人数は6人まで。

つまり迷宮に潜る規定人数と同じ1パーティーということになる。

16チームの参加から最大96人の人数がいても可笑しくはない。

そう考えるとここには2割程度しかいないことになる。

控え室は他にもいくつかあると考えるのが妥当なのだろう。

部屋に現れたディスプレイが不思議なのか、近寄って触れようとしたり、解析の魔法を掛けている者達もいるようだが、残念ながら触ることも解析に成功することも出来なかったようだ。


そんな光景を、控え室の隅で壁に寄り掛かり、身長よりデカイ杖を抱え、魔女帽を深くかぶるリフレクはため息を溢す。

頬に入った『9』の白い紋様が仄かに発光している。


先程映像に映った同じパーティーの仲間が、突然この大会に出場を決めてさらには身分を偽らず、堂々と『魔女』と登録用紙に書いてくれたせいで、彼女の周りには半径5m程の空白が出来ていた。この街で魔法使いとして迷宮に潜ってきたが、それの理由は不用意に警戒されないためだったのに、ヒソヒソしたり、控え室なのに魔力障壁を展開していたりと……警戒の視線を向ける……この有り様である。

まぁ、それはいい。

いいわけではないが、そんなことより、よりによって実況兼審判の龍人はなんと言っていたのだろうか?

一回戦はA級冒険者『セブンスウェル』とリフレクのチームである『ブラック・パラディン』の試合と言っていなかっただろうか?

ここの控え室には準備して出ていく一団がいないことから、ここではない何処かの控え室から移動を開始ているのだろう。

リフレクは気が重かった。

魔女として注目を浴びることは避けたかったが、これも仕方がないことだ。

昨日の晩、この街で面倒を見てくれた頼れる先輩魔女のクリエイトにどうしたらいいのか、と相談したら


『あははは、なにそれ、絶対見に行くよ! 頑張ってね』


と言われてしまった。

なぜ私はこの人が頼りになると勘違いしていたのだろうか。

自失呆然として今日という日を迎えて今に至るのだが、

いっそのこと、適当に足を引っ張って負けようか?

そうすれば実力を世間にバラされることもあるまい。


(よしそうと決まれば、あの方達が戻り次第、さくっと戦ってサクサクっと負けましょう)


リフレクはそう決意した。

すると丁度、ここの控え室に知っている人物の声が聞こえてきた。

ここ二日ばかり行動を共にしただけだが、側にいないと周りが物静かに感じて物足りなくなってきたのは、きっと試合前の控え室のせいだけだろう。

心細いなんてことはけしてあるまい。

通路に反響しつつ聞こえてきたのは何かを引きずる音と、コツコツとあるく規則正しいリズムの足音。

引きずっているのに足音からは抵抗を感じさせなかった。


『離せぇコメット!!あの放浪幹部ここでとっちめてやる!』

『……実力的に無理ですよ、聖ちゃん。 コカトリア様は198層を守るお方です』


そうして控え室に現れたのは、引きずられてきたちぐはぐな騎士装備をした見た目ダークエルフの黒木聖と、それを引きずる見た目エルフのコメットである。二人はリフレクと同じパーティーを組んでいるのだ。


「だからそいつがなんでここにいるんだ!!」

『侵入者が来なくて、最近は188層のヴェルイットも相手にしてくれないから遊びに来たそうですよ?』

「気安いな! なんだそれでも幹部なのか? 私並みに街に溶け込めるとは思わないな、早く帰らした方がいいぞ」


解放された聖は立ち上がり身体の埃を払う。

それを引きずってきた本人であるコメットもなぜか手伝いつつ言った。


『聖ちゃんよりは人間に詳しいと言うか、コカトリア様は色々と人間臭いというか』


ちょっと困った感じで言うコメット。

しかし、ここは控え室である。

そんな迷宮の幹部とか話をすれば、必然的にバレてしまうものだが、この会話を理解できるのはこの場にリフレクとコメット、聖の三人しかいない

なぜなら、コメットが発する言葉は普通の人には聞こえないからだ。

他の参加者が見れば、会話しているのは分かるが何を話しているのか、聖の言葉から導き出すしかないのだが、無理である。

結果、『なんだ、あの実況の子と知り合いなのか』『さっきもここに呼びに来てたしな』という認識にかならない。


しかし、もし、この会話を理解できるものがいたとして、それとつるむリフレクは確実に抹殺対象になること間違いなしだ。

リフレクはそう考えると手足が凍るような感覚に襲われるが、つるむのを辞めることはなぜか出来ない。したくなかった。

よってそれとなく二人をフォローすることにした。

この場合は、早めに会場に移動して余計なことを言わせないことだろう。


リフレクは二人に駆け寄った。

リフレクが駆け寄って来ると、ちょっと不貞腐れていた聖は顔をパッと輝かせた。

きっとリフレクに対してではないだろうが、なぜかむず痒くなる。


(どうして、そんな嬉しそうなんですか……まったく)


「お二人とも先程はご苦労様です」

「ああ、で!出番は!?」

「一回戦ですよ、このまま移動しましょう」


やはり移動中で対戦が決まったことを知らなかったようだ。

それを伝えると、さらに嬉しそうにしてる聖。

そんな聖を微笑ましそうにコメットが見ている。


(いまから対戦なのに、この二人には緊張とか不安とかないんでしょうか……)


そうして、控え室を移動する。

リフレクは二人の先程の会話で、実況をする人物が迷宮の関係者と知りたくもない事実を知ってしまったが、忘れることにした。

今度、魔女集会(ミサ)に行ったときに『忘却』の呪文を教えて貰おうと思った。



そうして、数分後。


アリーナに集まったリフレク達の反対側に同じように武装した集団が集まっている。

あれが今回の対戦相手なのだろう。

向こうには、

刀を腰に差した侍の男。

黒装束の影の薄い人物。

長弓を持つ巫女。

上は白、下は水色の袴の無手の人物。


いかにも東大陸の出身だ。

あちらは魔法より、奇術、妖術、気などに精通している。

リフレク達魔女族も余り寄り付かない大陸なのだが、戦うのは始めてと言うわけでもない。

嫌われ体質のリフレクは、昔目の前にいるパーティーにお邪魔していたことがある。

苦い思い出だ。

思い出したくもないが、思い出してしまいそうになる。

リフレクが微妙な顔をして、『セブンスウェル』のメンバーの顔を見ると、目があった。

すると、向こう側で殺気だっているのがわかる。

口調を読むと『裏切者!』『最低です!』と言っているのがわかる。

だが、リフレクにしたら、最低なのはお前らだ! と声高らかに叫びたい。


リフレクはそうはせずに長いため息をはく。


「なんだ? 知り合いだったのか?」


会場はコカトリアの選手紹介で盛り上がっているため、隣に立つ聖の声も聞き取りづらい。


「ええ、昔、報酬をちょろまかしたと疑われまして、東大陸の方は守銭奴が多いようでして……まぁやったのは私じゃないんですけどね」

「ふーん」


聖は興味がないのかそれとも、紹介が終わり始まりそうな雰囲気に飲まれているのか。


「負けようと思いましたが、いい機会ですね!ボコボコにしてやりましょう!!」

「なんだ偉くやる気だな、だが言われるまでもない!!」


にかっと笑う聖。


適当に負けようと思っていたが気が代わりやる気を出したリフレク。

そんなやる気に満ちる雰囲気に聖は、


(なんだ、おまえも目立ちたいんだな……)


とちょっと違うことを思っていた。


『というわけで、お待たせしました!!

うんうん、お互い準備はいいようですね。 あと、一応言っておきますけど、アリーナの外に被害は出さないでくださいね。では…………』


両陣営に忠告したコカトリアは指を鳴らして、真横に金色の大銅鑼を出現させると、大きく足を振りかぶって蹴りを叩きつけた。


『始め!!!』


グワワワワァァァァァアアン――。


と会場に響き渡る大きな音。


そして試合は始まった。


4対3の戦いだが、人数の少なさは戦力の決定的差ではない。

これはチーム戦だ。

連携がモノをいうバトルである。


因みにリフレク達はこれまで、出来たばかりのこのメンバーで戦ったことなど一度もない。

初日に作戦など聞いておいたが実際動くとなると変わってくる。

故にどのように動くかリフレクは一瞬出遅れてしまう。

そう、リフレクは。


「コメットさん私はどうすれ「はっはっはっ、喰らうがいい開幕の【ホーリーセイバー】!!」」


対戦フィールドはけして狭くはないが、聖が剣から放った光の斬撃が相手目掛けてまっすぐ飛んでいく。開幕直後に広範囲技は有効だが、相手もA級の冒険者。

なんなくかわした。


聖は避けられるとこがわかっていたのか、4人目掛けて突っ込んでいく。

ここまで、開始から僅か3秒の出来事。

唖然にとなるリフレクは、警戒しながらコメットに視線を送ると

突然、こちらに走ってきたコメットが前に立ち片手を伸ばしていた。

それにもビックリしたが、そのあとコメットが手を翳している正面の障壁に、手裏剣が10以上で刺さっていた。

動きがないリフレクを狙われたのだろう。


今は戦闘中だ。

下手したら命を落とす。

そうだ、確かに、今までパーティーを組んでいたメンバーに自ら敵陣に突っ込んでいくような奴はいなかった。しかし、そんなことに驚いて取り乱すなんて!


コメットが不安そうにこちらを伺っている。


『大丈夫ですか? 戦えます?』


心配されてしまったようだ。

リフレクは深呼吸してパニックを押さえることにする。

そうさ、この程度で驚いてなんかいられないのだ。

今も前線で聖が侍と忍者二人を相手に接戦を繰り広げている。

その聖の身体を刃が通る度に、金属同士のぶつかり合いの音が聞こえたとしても………


『おおっとどういうことでしょうか!! セブンスウェルの攻撃は確かに当たっているのに、全く傷がついてないぞぉお! 侍の持つ刀はここではありませんが迷宮で見つかった出土品なのに、全くダメージを与えられていなあぁ~い。どうする、セブンスウェル!!ん、おお全員での………―――。』



そこで、落ち着いてきたリフレクはよく周りを見るとこにした。

コメットは自身とリフレクの二人を覆う結界を生成しており、物理、魔法を止めている。

先程まで、こちらに飛んでくる魔法があったが、悟ったのか今では何も飛んでこない。

一人一人を順番に倒す方針にしたようだ。


しかし、そうなるとコメットもリフレクもここの結界を出れば攻撃し放題だ。

だが、コメットは結界を解こうとしない。


「コメットさん!今がチャンスなのでは!?」


リフレクは先程の失態を取り戻したいと考えていた。

しかし、コメットは首を振る。


『だめですよ。私たちも巻き込まれます。

それにさっきのことは余り気にしないで下さい。私は付き合いが長いですから何となくやりそうだと思っていましたが、聖ちゃんが突貫するのはそういう習性があると思っていただければ』

「習性って!? 」


若干引いているリフレクにコメットは言う。


『それに手の内を見せるのは得策ではないでしょう?』

「そうですけど」


そんな会話を続ける中でも、戦闘は激しさを増している。


「お前ら!連携だ!」

了解頭領(ボス)

「なぜでしょう初めてなのに、前に似たような戦いがしたことあるのは」

「わたしもです」


四人は斬撃でダメージが入らないことを理解した。

そこで、嬉しそうにしつつも目は真剣な銀髪で褐色のダークエルフに驚異を感じ、連携技を決めることにした。

今回の対戦のルールではフィールド場外まで吹っ飛ばされても敗北にはならないが、復帰までは時間が掛かる筈。

その時間を利用して残りを片付けた後、相手をすればいいと考えていた。


「あははは、どうしたぁ!!さぁ…こい!!」


六角型の盾を背中に背負ったまま、黒と紫で出来た不気味な剣を構える中途半端な装備をしたダークエルフ。


「いざ参る!」


侍の掛け声と共に前後左右から同時に強襲しようとする。

狙うは防具をつけていない心臓の一点のみ。

何かしらの魔法によってピンポイントガードをしていると当たりをつけていた。

そうなれば、同時に攻めればガードは間に合わない筈である。

本来はプレートメイルなどで胸を守るモノだが、


(防具をつけていないことが仇になっている)


四人はそう思った。

そうして、強襲がするが………

聖は、


「ふっ!」


正面の巫女から穿たれる三本の矢を無視して、横から迫る侍の刀による刺突を刀を掴むことで止め、


「まだだ!!」


矢が胸に当たって傷つけることもできず、無情にも弾かれると待っていたかのように、侍の逆サイドから短刀が矢があった所に全くずれもなく迫ってきた。

忍者の短刀だ。


「舐めるな……っ!?うごけな、い」


「動きを止めさせていただきました」


聖はもう片方の手で短刀を捉えようとするが、身体が動かない。

驚いていると、真後ろから声がした。

見えないが術師が何かしたのだろう。


「とった!!」


胸元に吸い込まれる短刀。

倒したことを確信した嬉しそうな声。


だが、


短刀は甲高い音を響かせ忍者の手から弾かれてしまう。

その事実に囲んでいた4人はすぐに距離を取った。

解放された聖は胸を触る。


「なんか、ちくっとしたぞ?」


その言葉とその反応に愕然とする4人。

こんな化け物を俺たちは倒せるのか?

アホそうなのに。

そう思った。

もはや戦意が薄れていく。


「なぜ短刀が刺さらなかったんだ?」

「そうです、ガードは崩した筈」

「動きも止めましたし、魔力による防御も確認できませんでした」

「なに!?あの胸が鉄壁だというのか!! 」


「はっはっは…………………なん、だと?」


悔し紛れだろうが忍者が放った一言に聖が青筋を浮かべる。


『おおっと、身体的特徴による精神的攻撃かぁぁ!? これは有効です! 黒木選手効いているようですね。 あ、因みに黒木選手の胸囲は私より小さいですねぇ。もうに私とっては全然驚異じゃな――わわわあああああっとぉぉぉ――。審判に、斬撃を、飛ばさないで、下さい』


失礼なことをいう審判に攻撃を行う聖。


「くそ幹部ぅぅぅぅぅ降りてこい!!!」


叫ぶ聖を無視して実況に戻るコカトリア。


『さぁさぁ、どうするセブンスウェル!攻撃を通すにはあの絶壁(笑)(かっこわらい)をこえるしかないのだが!』


「お前から倒してやるぞ!!こっちにこい蜥蜴女!!」


そんなやり取りすら会場を熱く盛り上げているのも不思議なものだ。



侍は周りの仲間に視線を送る。

どうやら作戦は決まったようだ。

棄権はしないらしい。

それは誇り故か、はたまた、A級冒険者の意地かもしれない。


「あれをする」

「な!?」

「しかし、いえ、それしかありません」

「あとは任せろ」


侍の台詞にうなずくメンバー。

侍は居合いの構えをとる。

すると騒がしかった会場が静まっていく。

その状況に気づいたコカトリアとそれを追いかけ回す聖は、真剣な目で侍を睨んだ。


「この一太刀に全てを掛けよう。全身全霊を込める一撃受けきれるか?小娘よ」


侍はこの相手が簡単に挑発に乗ることは既に分かっている。

そうして、侍の予想通り、


「上等だ、こい! 身体で受けてやる!」


胸をガンドレッドをした片手で叩く聖。

本当に無防備で太刀を受けるのだろうか?


リフレクはなぜそんな状況になったのか、頭を抱える。

コメットも苦笑い気味だ。


二人は聖が負けるとは微塵も思っていないが、何が起こるかわからない。

相手は極東の戦士だ。

受ける必要はこれっぽっちもなかった筈。

あのまま押していけばなんなく勝てただろう。

なぜこうも面倒なことをするのか。

リフレクは頭を悩ませる。


しかし、アリーナとは違い、会場は大熱狂だった。

ものすごい歓声。

拒否権はない。

そんなことをすれば、それこそひんしゅくものだ。


「感謝する。 だが、その傲慢……足元を掬われるぞ!!」


侍が言葉と一緒に剣を鞘から抜き放つ。

軌道は見えず、刀を鞘にしまうモーションしかわからなかった。


結果は…………



















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