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迷宮深部の偽宝箱《トレジャー・ミミック》  作者: 流水一
第六章『迷宮最寄りのクラレント』
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第二話―聖&コメット&リフレク side 2『準備』―

『はいはい、始まりました、ついに開幕です。実況兼審判はこの私―コカトリア―が勤めさせていただきます! え? 引っ込めって、冗談じゃないですよ。ええ、お仕事ですお仕事。というか私は気高き龍人の一人ですよ? え?不正しませんよ!! というかおまえら先に進まないだろうが!!私の初の仕事失敗させる気か!?このヤロウ!! ちょっと静かにしてろよ!!』


アリーナで一人会場の視線にさらされ喚く、実況兼審判のコカトリアは騒がしい会場の声を拾っているようだ。だが日頃の鬱憤が溜まっているのか沸点が低い。

コカトリアも、お金をボロ儲け出来ると聞いて引き受けた仕事だ失敗は避けたい。


マイクを片手に会場をくるっと見回して、ある程度落ち着いてきたのを雰囲気で確認する。


『ではでは、落ちついてきたので始めに、このクラレントの領主であり、王族であるモルドブルー様より一言!』


そういって彼女はマイクを持っていない方の腕で指を鳴らす。


コカトリアが指を鳴らすと、アリーナの上空に四方向に向けてアリーナの対戦フィールドよりもでかいディスプレイが出現した。

突然の事に驚く会場。

ざわざわとしている。


すると、出現したディスプレイには闘技場最上階にある王族の専用の観戦席が映し出された。



『おっと、突然ですいません、いま私の上空に展開しているのは私の魔法ですのでご安心してください。ささっ、王様一言どうぞ!!』


映像では少し驚いた王の顔と、そのすぐ後ろで殺気だつ護衛。

王の隣では口に手を当てて絶句している青い髪の王妃がいた。

王は顔をすぐ引き締めカメラ目線を寄越す。

モルドが見つめるのは、突然現れた目玉のようで機械のような存在だった。

この世界の人たちは知らないが、それはカメラのレンズにそっくりである。

さすが、王。

予定されていたとはいえ、予定と違うフリの展開に適宜応答して見せた。

王が喋り出す。


『うむ、モルドである。今回は会場に入れないものもいると聞いた…ここまで人が訪れることを予想できなかったワレの失態である。申し訳なく思う―――』


結果モルドが話した内容は、今回のことが予想よりも大規模になってしまったことに対する謝罪と、次回も行うという確約をした。さらに、どうにか街全体に映像だけでも届けられないか検討中であるとはっきりと伝え、最後に、


『他種族も純人も関係なく、精一杯楽しんでいってくれ』


と言い、ついでに、


『ワレがいうのもなんだが、賭けもほどほどにせよ』


と締め括った。


今回のトーナメンツは誰が優勝するかの賭けが会場で行われているのだ。

当然王も認めてはいるが、あまり無茶しないでね。

という釘をさした。


モルドの挨拶が終わり、盛大な拍手と口笛、演奏隊の音楽が鳴り響く。


挨拶も終わりディスプレイに映った王が腰を下ろした所で、映像は切り替わりコカトリアを4方向から写す。

コカトリアの前後左右の映像の4つである。


『ありがとうございます!! さすがモルド様考えていらっしゃるようですね。確かに、今回初に開かれた『大・魔導・武術トーナメンツ』を見逃すのは欲しい! 欲しいでしょうね!! はい、そこでこのコカトリアさんが一肌抜いで差し上げましょう!』


ハイテンションでしゃべるコカトリアに物凄い魔力が集まっていく。

100m以上離れていても、魔力酔いを起こしている人もいても間違いない。

しかし、魔力は数秒の内に何事もなかったように霧散してしまった。

霧散した魔力は天に昇っていった。

ちょっとした幻想的な光景に言葉を出すことができない会場の雰囲気。

小さい子供だけが、『あれ、なに!?』『ふぁぁぁぁ、キレーだね』

『のろしだよ!きっと』『えぇ、そうかな?』

といってはしゃいでいるようだ。



会場にいる観客が呆気に取られる中、コカトリアは片手をその場で数回振った。


『ほいほいっと、良好ですね』


しかし、会場には何も変化はなかった。

だが、会場の外からものすごい歓声が聞こえてきた。

まるで、先程のこの会場のような盛り上がりを見せている。

観客が不思議に思うのも無理はない。

コカトリアがやったのは、ここにセットした四枚の大型ディスプレイと同じものをクラレントの至るところに設置しただけだ。

そのために膨大な魔力を消費したがコカトリアは平然としている。

まだまだ余裕がありそうだ。


『おおっと、上手くいったようですね! さすが私! 報酬upしてもいいですよ! てかしてください。いま、やったのは私のチー………オリジナル魔法の『ライブ・リポート』です。やってることは簡単ですよ、先程の王様の挨拶のように映像と音声を設置したディスプレイにお届けする能りょ………魔法です! はい、会場の皆さんは分からないでしょうから、ちょっと映像を貰いましょうか!さてさて、どこに繋がるかなぁ』



そう言ってアリーナ上空にある四枚のディスプレイは数秒の砂嵐のあと、パチンと映像が映し出された。映ったのは商店街の映像のようだ。


『おお、俺が映ってやがる!!』

『あらら、すごい魔法ね』

『しかし、聞いたことありません、世界は広いですね』


八百屋と雑貨屋の店主に、買い物客の魔法使いが写し出されている。

映った彼らは若干の戸惑いがありながら、手をこちらに振っていた。


そして、映像は再び会場に切り替わった。


『はい、というわけでこの私が、ここクラレントの至るところに会場に来なくても見れるようにさしていただきました!! え、じゃあ、会場に来る必要がないじゃないかって、いやいや、ここで起きる臨場感や雰囲気まではお届けできませんので、損はしてませんよ!』


コカトリアはディスプレイ上に表示された時刻を確認する。

もはや魔法の一言で片付けられるレベルの技術ではないが、この世界は広い。

そういうのもあるかもしれないと流している人が多い。

今はきっと対戦にワクワクであまり気にしていないのだろう。


『おっと、時間ですね、それではルールの説明をいたしましょう。 ルールは簡単です、私が立っているここから落ちたら負けです。あと気を失ったり、降参したら終了ですね。そして今回はエルフのすごい術師に提供された魔法を組み込んであります』


コカトリアは自身が立つ正方形の舞台を指差して説明をする。


『ここで、命を落としてしまってもなんと復活できるのですよ!!しかも服も脱げない!! え? それは、呪海迷宮の宝物庫だけの機能だって? ちっちっちっ、私もそうだと思っていましたが、提供してきたエルフさんが自らの仲間を使って証明してくれましたから問題ありません。いやぁ、驚きですよ、疑ったら、その場で仲間を撃ち殺すんですよ、私この世界に来てエルフに対してトラウマになりそうです。 ああ、私の話はどうでもいいですね、そうです、つまり、ここのアリーナに『魔精のいたずら』が展開されてるということなんです。これによって、いままで殺さないように手加減して戦わないといけない模擬戦が、情け無用の残虐バトルが可能になったということですね。 いや、やっぱり、本気でぶつかり合ってこそ戦いでしょう!! 参加される実力者諸君、全力を出して勝利を目指してくださいね!』


コカトリアから軽々と伝えられたことは、実際は物凄いことなのだが、本人の軽い雰囲気に会場の人は殆ど気づかない。大体が、全力の戦闘が見れることに対して興奮しているからかもしれない。


『はぁ? 証明して見せろって? 私に死ねと言うんですか!? おし上等、あとで覚悟しろよそこの貴族!! しかし、気持ちも分かります。 そう実際戦闘の際殺して、もし生き返らなければどうするのだ? と、というわけで試しに……いや、私は死なないからね、だから糞貴族覚えとけよ!!』


一角に向かって指を指した。

その後、コカトリアがパチンと指を鳴らすと、アリーナの入場口から出てきたのは……右手のガンドレットに金属ブーツ、腰元を覆う鎧という、中途半端な騎士の格好をした銀髪に褐色の肌の少女が現れた。

少女はアリーナまで歩いていく。


『ここでの使用が上手く行ったらそのまま、この街に普及するそうですのでお楽しみにしてくださいね、っと王族の方からもメッセージを頂いております。 さてさて、あ、こっちですよそうそう』


コカトリアに手招きされて連れてこれられたダークエルフは、コカトリアの隣に立った。


『なにするんだ? アホ幹ぶぅふ!?』

『おおっと何を言おうとしているのかな? 今私の年齢を聞こうとしたのかな? おねえさん驚いてボディをいれちまいましたよ!』


なにかしゃべろうとしたダークエルフの鳩尾に拳を素早く叩き込んだコカトリア。

どうやら知り合いのようだ。

会場は良く分からないがとりあえず盛り上がっていた。


『女の人の年齢を聞くのは感心しませんよ? まったく……ってあれ大丈夫でしょうか?』


適当なことを言って誤魔化している。

中腰になるダークエルフに頭を近づけるコカトリア。

まるで内緒話をするようだ。


(なに平然とバラそうとしてんですか!同郷のモノなら理解してくださいよ!!)

(同郷って私の生まれは迷宮だが、お前がいうニポンなど知らん)

(はいはい、きっと死にすぎて記憶が曖昧なんですよ、というか私の仕事邪魔しないでくださいよ?)

(邪魔だと? ふざけろ! こっちは控え室で対戦を待っていたのに、お前が呼び出したんだろうが!!)

(い、いいじゃないですか! というか、なに平然と試合に出ようとしてるんですか『あなた達』は全く)

(こっちにも目的があるんだぞ? 聖騎士を倒すという目的がな)

(え? 転移結晶じゃないんですか? )

(…………ああ、ついでに聖騎士を倒す)

(はいはい)


ため息を吐き、背中を擦ったフリをして、再び会場に声を送る。


『さて、では実証しましょう! この蘇生結界の性能を!!』


ワァァァーーーーーーー。


大歓声の中、コカトリアはダークエルフの少女に振り返った。


『じゃあ、死んでください』

『お前が死ねアホ幹部!!』


頭に青筋を浮かべ、剣も抜かずに殴りかかってくるダークエルフ。

コカトリアがニコニコしていた眼に魔力を集めて、ダークエルフに強い視線を送ると、

ダークエルフは、ピシッという音と共に一瞬で灰色に石化してしまった。

なんの抵抗も感じさせないすんなりとした石化だった。

コカトリアが手を横にフルと石化したダークエルフの上半身と下半身にヒビが入り、意思が割れる音がした後、砕け散り別れた。

石化したものは石化しただけで死んでないが、粉砕されると元に戻す事も出来ない。

そこまで行くと死んだと同義だ。

平然と行われる殺人に、しかし会場は熱気が灯る。

なぜなら、瞬時に殺された筈のダークエルフが、アリーナの外側に現れたからだ。

ダークエルフは自身の体を触ったりしていることがより一層に信憑性を増した。


会場から『まじかよ』『すげぇ』という声が上がる。

コカトリアの実力がスゴいのか、それともこれを提供したエルフが凄いのかどっちに向かった歓声か分からない。


『さてさて、これで納得された方もいるのでは? それでは改めまして、一回戦第一試合の始まりです! あっ、ダークエルフさん協力感謝します。もう帰って良いですよ』


『なんだと!? おまえぇ、ふざけるなよぉおおお、離せコメット!!』


白いゴスロリ服のエルフに暴れるダークエルフが連行されて行く。

コカトリアは視線を会場に向ける。


ディスプレイにはトーナメント表。

しかし、対戦者の欄は空だ。


『一回戦第一試合は―――』


というと対戦者の名前が現れどんどん入れ替わり始める。

ルーレットのようだ。

片側に表示されたのは


『セブンスウェル対―――』


そうして反対側も表示された。


『え? はやっ…………セブンスウェル対ブラック・パラディン!!!!』


コカトリアは一瞬呆気に取られるがすぐに仕事を思い出す。

コカトリアの声に大観衆は

ワァァァアァアアアアアアアア。

物凄い歓声をあげる。


A級パーティー『セブンスウェル』

東大陸の出身の迷宮攻略特化の4人一組のチーム。

攻略迷宮数は12。

レファンシアの呪海迷宮の到達階層は102層。


『それでは、数分以内に各選手はアリーナに集合してください!』


こうして第一戦は組まれることになった。



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