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迷宮深部の偽宝箱《トレジャー・ミミック》  作者: 流水一
第六章『迷宮最寄りのクラレント』
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第二話―聖&コメット&リフレク side 2『開幕』―

遅れました!!ごめんなさい!!


お盆?

お盆はあった……確かにあった。

しかし、あれを休みと言って良いのか?

否、断じて否!

草むしりで疲れたのに休みってなんだ!!


騎士の街クラレントは、数年前に勢いづいた迷宮『レファンシアの呪海迷宮』のお陰で、街が大規模な発展を遂げた。昔はこんな北大陸の最北端に位置するこの街を気に止める人など誰もいなかった。しかし、いまでは、逆に知らぬものがいないほど北大陸では有名になりつつあり、西大陸からも東大陸からも、さらには極端に位置する南大陸からの出身者が集まって賑わっている。迷宮様様である。


一年前に迷宮の大暴走(スタンピード)が起きたが、その復興もすでに終わりを迎えてた。

昔の名残で王族であり、そして今は領主でもある―モルドブルー・ファーストラウンド―は、復興のついでに新設した闘技場を訪れていた。

この闘技場は、迷宮のモンスターが街を襲いに来た際に誘導して、ここで仕留めるために作られている。

しかし、迷宮の暴走も大体は10年に一回限り、今回は早めに起こってしまったが、その知らせは暴走一日前に王宮に届いていたため被害は出たが対処は容易かった。

しかし、誰がその知らせを寄越したのか分からないという。不思議なことがあるのものだと、モルドは思っていた。


それにしても、と、モルドは後ろに着いてきていた護衛に話しかけた。

モルドの後ろを歩く二人の護衛はモルドに最敬礼をして返事を待った。


「民のためにやったとはいえ、集まりすぎではないのか?」


モルドは闘技場の入り口で入場を待つ民の多さに驚きを隠せないでいた。

年一回行われるモルドブルーの演説の時の人員の約4倍はいるのではないだろうか?

他大陸から、名声を求めてとか商売で一儲け、とか最強の武器をこの手に!など様々な理由で訪れることは近年珍しくもない。最近では城壁の外側で野宿をするたくましい冒険者や商人が増えているらしい。

クラレントの拡張事業に本腰を入れるときかもしれない。



「ハッ! 王の言う通りでございます! しかしながら、まだ開会式まで1時間はあり、そうなると今以上に増え、会場は満員間違いないでしょう」


入れない方もいるかもしれませんね、護衛はニッコリと微笑み「大成功ですね!」と告げた。

モルドは困った顔をした。


「う、うむ、成功には違いないが、それだけの人が集まるとはおもわなんだ」


冒険者がたくさん参加するトーナメントならまだ良い。

しかし、今回参加しているのはこの都市の最高戦力と言っても過言ではない聖騎士に王族の私兵。さらに探らせると娘の一人が従者を連れて参加するということも分かっている。

正直辞退してほしいと思うモルドだった。


(そもそも、迷宮を訪れられない冒険者や、流通が滞る商人のために開いたのだが、何故王宮からの参加があるのだ?)


モルドは、こちらに手を振る子供や、頭を下げる親たちに手を上げながら応じ、今現在沢山の人々が並んでいる一般入場口の隣にある別の入場口に入っていった。こちらは選手と関係者用で分けてあるのだ。

本来は円形に出来た闘技場にある8つの出入り口の3つを関係者用に分けておいたのが項をそうして、簡単に入ることが出来た。


闘技場の通路をこちらに駆けてくる甲冑の兵士に慌てるなと手で促し、隣の護衛に話しかける


「この大型闘技場が満員とな? この街に住まう民の数は7万人だが、その人数が軽く入れる大きさの闘技場を作った筈であろう? それよりも多くなるかもしれんのか?」


しかも、それは観客席にだ。

アリーナを含めるともっと入るだろう。


「ハッ、間違いないかと……私の知りうる限りでは、街の外で野宿をしていた殆どの者が闘技場を目指しているようです」


城壁の外で野宿している人数は約5万人。

先程の入り口では大行列で1万人としよう。

残りの入り口も同じと考えると確かに膨大な人数になりそうだ。


「そうか、トラブルも絶えなそうだが……こういうのは見たい民全てに見せてやりたいのう」


どうにかならないものだろうか?

王が唸っていると、目の前に兵士の一人が到着した。


「ハッ、モルド様、自分トレンツ・ヲーレンが会場をご案内するであります!」


緊張しているのか声を張り上げる兵士に苦笑いをして、モルドは後に続いた。



階段を二回登り、右に300mは歩き、更に階段を登り、今度は左に200m歩くとしっかりとした造りの席があった。

場所は闘技場の最上階。

遥か下では兵士やギルドの係員が世話しなく動いている。


日差しを遮る屋根に、石から削り出した肘掛け付きの椅子が両隣に8つあった。

その中で一番造りが良い椅子に歩き出そうとすると、その席から隣に3つずれたところにある席に十代半ばの少女が立っていた。

モルドが入って来たから席を立ったのだろう。


つり目で勝ち気な雰囲気を持つ少女に視線を送った。


「おはようございます、父上…………なにか?」

「お、う、うむ、特には」


母譲りだろうか、力強い眼差しを向けられたモルドは言葉に詰まる。

そんな少女はモルドの反応に首を傾げつつも、挨拶も済ませたので席についていた。

モルドも遅れて席についた。

しかし、モルドは少女が気になって仕方ない。


「あぁ、なんだシシェル」

「はい、父上」


こちらを向く少女を、上から下まで先程と同じくジロジロと眺めてしまったモルド。

少女はモルドの側室の娘である―シシェル・サードラウンド―だ。

迷宮幹部を倒した有名人になった元王子で現在王女の娘だ。

モルドから放たれる懐疑的な視線に不快感を隠さずに顔を歪ませるシシェル。


「なんです? 本当に!?」


モルドはいい辛そうにしていた。

咳払いをしてじっとシシェルに視線を向けた。

シシェルはまた父上が『本当は男なんだろう?』『こんな―――娘がいるはずはない!私の娘は腹く――』とか言い出すのではないかと思っていると


「なぜ、そんな本格的に騎士甲冑を揃えて、しかも『宝剣』を持ち出しておるのだ?

まさか、聖騎士を破って優勝を狙っておるのか?」


モルドの声は後半震えていた。

シシェルは、なんだそんなことか、とため息をついた。


「父上、私は倒したい方がいるのです、その人と全力で戦いたい。それだけです」


少年のようなことをいう娘に微妙な気持ちになりながら、とりあえずは納得した。

しかし、その願いはトーナメントの性質上簡単には叶うまい。

下手なことをいわず、モルドは「そうか、そうなるといいな」と答えた。

因みにモルドは、怪我をしない内に出場を取り消せと、今さら言うつもりはない、


(幹部を倒したと言っても今回は、聖騎士に幹部の階層越えの冒険者達がいるのだ、一回戦敗けだろう)


モルドはそう思ってる。

対してシシェルは、昔は憧れていた父上に返事を返した。


「はい、全力で取り組みます」

(そのために、今まで隠していた『あれ』を持ってきんだからな!)


シシェルは速く始まらないかワクワクしていた。


その後、シシェルの兄弟やその従者があつまり、会場が入場開始されてから、一時間たった頃闘技場のアリーナに一人の女性が現れた。

女性の服は青を基準にした金属装備のない軽装をしていた。

服を押し上げる胸、細い手足。

片手にはマイクという魔導具を持っている。

水色の艶やかな腰元まである髪を遜色ないリボンで留めていた。

タレ目で穏やかそうな雰囲気だが、紫の瞳孔は縦に開いていた。

頭に髪を避けてちょこんと立つ二つの角。

背中には濃い青の竜の翼。

となれば種族は龍人である。


龍人の彼女はざわついた会場で手に持つマイクに向かって声を上げた。

リンとして、騒がしい中良く聞こえる透き通る声。


『はい、おまたせしました! これより皆さんお待ちかね『大・魔導・武術トーナメンツ』の~~~~開催だぁぁあぁぁ!!』


ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ――――。

おおおおおおおおおおおお―――。


会場を揺るがす雄叫びが上がり、雰囲気も申し分ない。

こうして二日ある大会の一日目が幕を開けた。


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