第二話―聖&コメット&リフレク side 1『5veコンボ』―
ちょっとした出来事。
冒険者ギルドを慌てるように去っていく漆黒のローブを纏う人物がいた。
「ちょっと、なんで? なんで? なんでここにいるのよ!?」
度々振り返りながら、人混みに紛れていく。
手には、『参加承認《済》』と書かれた書類を持っていた。
「バレないように気を付けるしかなさそうね」
そういって裏路地に消えていく。
時間を少し遡る。
リフレクと別れた聖とコメットは冒険者ギルドを目指していた。
「商店街を抜けた方が早いよな!」
結晶専門店『C.C』に来るときに使った道を行こうとする聖に、コメットは待ったをかけた。
『そっちは道的に最短ではありますが、聖ちゃんが居るので寧ろ裏通りを通った方が早いですよ』
聖が進もうとする進路方向とは違った方向を指すコメット。
理由は、そのままの意味である。
商店街の連中に絡まれるからだ。
コメットはこれまでの出来事を思い出してため息を吐く。
今回は別行動中にお金を持たせていなかったが、持たせていたら数分で使いきっていたに違いない。
それにもし、これから商店街を通ると、財布がいるので上手く丸め込まれ買わされる未来しか浮かばないコメットだった。
「私がいると遅くなるだと……なんでだ?」
不思議そうにキョトンと首をかしげる聖は理解していなかったが、別に反対するわけでもない。
『……では、行きますよ聖ちゃん』
「おい、コメットなんでだ? 」
『いずれ分かります』
「むぅ」
歩き出すコメットに聖が付いていく。
コメットの身体から漏れ出る粒子がキラキラと輝いて次第に消えていく。
ここから、冒険者ギルドまで裏道を通って30分くらいだろう。
「コメット今度は一緒に商店街に行こう!」
道中、ボスを倒しミミックから武器を手に入れることしか考えていない聖からの珍しい提案に、嬉しい反面、複雑な気持ちもあった。なので、いつもならすぐ賛同するコメットも探りをいれた。
『……理由はなんでしょうか?』
コメットが先頭を歩いていたため、律儀に後ろを振り返る。
その際に舞う光の粒子が裏路地を照らす。
後ろを付いてきている聖はニッコリと爽やかに笑った。
「ああ、実は、あんだけ沢山良くされると、何かしないのは騎士の名折れ!」
ぐっと拳を握りしめる聖に、何となく予想していたコメット。
「というわけで、今度は買いに行くんだ! これは決定だぞ!
騎士でありながら矜持も持たないと噂されては堪らないからな!はっはっはっ」
まいったまいった、と言う姿は、言葉と裏腹に嬉しそうだ。
これはコメットが何かを言っても覆らないだろう。
コメットはそんな様子に、本来なら綺麗な碧眼を酷く濁らせる。
(ちょっと目を離すとこれです……聖ちゃんが人気なのは良いですけど、扱われ安すぎですよ! )
未だ集めるべき金額は膨大だが、出来ないことではないためテンションが高い聖。
あっ、と聖が歩みを止める。
なにかに気がついたようだ。
「結構達成までに時間かかる……なら商店街に通っても良いな!」
あそこは良いところだ!という聖はワクワクした顔だった。
その言葉に表情を固まらせるコメット。
つまり、毎回顔を出す気ではないだろうか? という不安がどばどばと溢れ出してくる。
遠くない未来、稼ぐべき金貨を使い込みそうで怖いと感じる。
(商人達は、まさか…そこまで計算を!? いや、でもだからといって―――)
考えれば考えるほど商人に対する警戒心を上げるコメットだった。
30分歩き続けたコメットと聖の目の前には目的の建物がある。
クラレント唯一の冒険者ギルドに着いた。
「久々のギルドだ!!」
ガランガランという音を出した両開きの扉を潜る聖とコメット。
そこには―――沢山の冒険者と、それを捌く職員との祭りのような騒がしさがあった。
それも扉を空けた途端にシンと静まり返った。
聖とコメットは何度も訪れているのでスムーズに空いてる受け付けに向かって歩き出した。
周りからは声が聞こえる。
『帰ってきたのか? 』
『今回はどこまで行ったんすかね』
冒険者ギルドには食事処が内部に存在しているため、そこかしこにテーブルがあるのだ。
いくつもあるテーブルの一つから声がする。
声は壮年の男のバリトンな声と、軽い雰囲気の男の声。
当然それ以外にも沢山いる冒険者によって、再び喧騒になる。
『二人で64層の階層主を倒すって結構すごいよな』
『個人の実力はSランクに迫るのか?』
冒険者ギルドの内部はこうだ。
入り口から、正面に受付嬢が座るカウンター『クエストの発注と冒険者サポートをしているところ』。
左右にある階段を登ると、S、SSクラスの冒険者限定のクエストが張ってあるボードがあり、食事処もついている『上級冒険者限定領域』。
そうして、一階の大広間にはテーブルが沢山あり、ギルドの裏手には訓練施設と、小型な闘技場がある。これらは、強くなるための設備であると同時に、ギルドランクを上げるときの模擬戦に使われる。
先程の壮年の男のテーブルに座る残りのメンバーも話をしてる。
金髪碧眼で耳も尖ったまさしくエルフの女性の視線はコメットに釘付けだ。
『ねぇ、もう一回誘ってみましょう?』
そういう女性にあきれた返事をするメンバー達。
『バカをいうな。あれはやっかい事の臭いしかねーな』
『そうっすね。』
『なんでしょう、エルフ?なんですか?』
コメットはその声を聞きつつ周りをさっと見渡す。
先程入り口を抜けたときのような、静けさはなく、ガヤガヤとした雰囲気が戻ってきた。
じろじろとぶしつけな目線を感じるが、今は談話スペースに連れていかれる聖の後を追いかけることにした。
談話スペースでは話が始まっていた。
受付嬢は申し訳なさそうに言う。
「ごめんなさい、黒木さんとコメットはギルドのチーム認定が『A』ですので、それ以上、つまり『レファンシアの迷宮』に挑むことは出来ません」
それを聞いて唖然とした後叫ぶ。
すると……
「ふざけるな!! 冗談じゃないぞ!!」
『よっしゃぁ!人類ざまぁ、休暇よ!休暇が来たわ』
どこからか聞こえた声と聖の声が被った。
声質も同じなため、混ざり合って聞こえてきて不気味だった。
コメットは受付嬢に詰め寄る聖と、さっきの聞こえた声がそっくりだと気がついた。
もう一人の声の主は、ここの談話室を挟んだ、3つ先にいると当たりを付けて、早速見に行くが……
目的の談話室にはぐっすり眠る受付嬢だけがおり、それ以外には誰も見つからなかった。
コメットは不思議に思い後ろ髪を引かれるが未練を絶ち、元の談話室に行く。
そこでは詰め寄られた受付嬢がある提案をしてるところだった。
「約1万金貨ですか? そうしたら、『大・魔導・武術トーナメンツ』に参加されてみてはいかがでしょうか?」
首をかしげる聖。
さらに詳しく説明する受付嬢。
「今回、迷宮でお金が稼げない冒険者に救済措置として、領主つまり王族命令でやるみたいですね。
あとは新システムの実験も兼ねて、と言っていました」
となるということで!!と溜めを作る受付嬢。
「報酬は……一番のチームは金貨3万枚にあの迷宮の武器!! 後は残念ながらランダムらしいですよ」
「ほほう、面白そうだな!!」
「そうでしょう? そうでしょう!!」
にやりとする聖。
コメットはそっと聖の後ろに佇む。
いつもの位置だ。
主人と使用人みたいなポジションである。
受付嬢は、そういえば……と口にした。
「今回は聖騎士のランスロード様が参加するらしい、って噂がありますね」
「聖騎士ランスロード?」
聖は受付嬢の言葉に疑問符を浮かべる。
そんな聖に受付嬢は驚愕の顔になった。
聖騎士はクラレントでもっとも有名な騎士団だ。それを知らないとは例え種族は違うという点があったとしても驚きだ。
さらに聖騎士ランスロードの実力は聖騎士団でもトップ5に入る。
他種族に対しても偏見を持たない珍しい騎士である。
住人はもちろん。
北大陸に住む冒険者なら誰でも知っているほど有名だ。
それを知らないらしい。
「そんな、この街にいながら知らないなんて!!
12人しかいない『聖騎士団』の中でも武器の扱いが一番上手いと言われている人なんですよ!!」
「ふーん………そうか」
「ふーんって――」
受付嬢の言葉に聖が余りに反応が薄い様に見えた。
あれぇ?と普通の人と反応の違いに戸惑う受付嬢。
『………はぁ』
後ろにいるコメットはそんな聖を見てため息を付いていた。コメットから見たら、聖の様子はウズウズしているようにしか見えない。
テーブルに挟まれた対面にいる受付嬢からは見えないが、聖が手を握ったり閉じたり忙しなかった。
反応薄い目の前の聖と後ろでため息を付くコメットの様子に、聖騎士には興味がないと判断した受付嬢は話を切り上げることにした。
「後はそうですね。ランスロード様が色々と賞品を持ち込むみたいですよ。何を持ち込んでくるのかは私たちも知りませんが……」
ランスロード様の行動って分かんないんですよね、たははっ、と笑う。
そうして、今までの冒険者に向けた同じ質問をする。
「どうしますか? 大会に参加します?」
その返答は―――――――。