表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
迷宮深部の偽宝箱《トレジャー・ミミック》  作者: 流水一
第六章『迷宮最寄りのクラレント』
62/75

第二話―聖&コメット&リフレク side 1『3rdコンボ』―

ちょっとした出来事。


その頃のダルフ。

ダルフは『エルフの秘店』にいた。

ダルフの対面のカウンターにはお菓子が積み上げられ、その奥にエルフィがいる。


ダル「なんか知らないけど、ここの商店街が私を良くしてくれるんだけど……」

エル「そう言えば、聖ちゃんが商店街や城下街全体で結構な人気らしいですね」

お菓子を取りつつ言うエルフィ。

エル「今のアナタそっくりのようですし、間違えられたんじゃないですか?」

ダル「そんな馬鹿な、容姿端麗、頭脳明晰な私とお馬鹿な聖よ? 全く違うじゃない」

いつもより若干小さい胸を張るダルフに呆れた視線を送るエルフィ。

エル「そういう自分大好きな所とか、そっくりだと思うのですけど……」

ダル「エルフィ、誉めてもこのお菓子しかあげないわよ!」

遥か昔に見た少女姿のダルフに適当に相槌を打つエルフィ。

ふと、エルフィは閃いた。

エル「私もその頃の姿になってみましょうか……」

ダル「え? 今とあまり変わらないんじゃ……」

エル「どこ見てその憐れみの視線を向けますか!?」

チラチラとエルフィの顔とその少し下を交互に見るダルフ。


そんな一幕。



「確かに銅貨9枚人数分受け取ったよ。

今、街に聖騎士が集まってるから、騒ぎを起こさないようにね」


『……(コクコク)』


門番に通行料を渡したコメットは、門番の注意を頭に入れておく。

門番がコメット達を注意したのは、全員が人族ではないからだ。

この街は騎士の街と言われるクラレントだ。

遥か昔よりあり、それこそ『国』として存在していたときからある歴史深い街である。

だからこそ、昔から他種族と一戦を交えたことのある騎士団は、他種族に対して亀裂や偏見も大きかったりする。エルフやドワーフなどは国の成り立ちからの付き合いゆえに認められているが、それ以外の種族は、騎士団に警戒されるのだ。

当たりが強いとも言うのかもしれない。

さらには、その騎士団の中でも優れた12人が王族によって選ばれる『聖騎士団』はこの街の最大戦力で王族に次ぐ権力を持っている。

そんな彼らは優秀だが、当然変わっている奴もいる。

その内の数人が他種族対して見下した対応を取るのも有名である。

12人に選ばれるほど優秀なため、下手に処分を下せないのも悩みの種だ。

ここ数年は迷宮の爆発的発展によって、様々な種族の出入りが激しい。

街に住む住民にとっては、他種族に対して思うことは無いが、騎士団と他種族の揉め事は日常茶飯事に起きているのも事実である。

そして、今回『迷宮の大暴走』時に周辺に逃げていった迷宮モンスターの残党を討伐する為に出ていった聖騎士が戻ってきていると言う。


反対側にいた門番もコメットに近づいてきた。

ちょうど手が空いたらしい。


「まぁ、集まったもの迷宮関係の緊急事態らしいし、下町の方には降りてこないと思うけど」


「気を付けるこったな……嬢ちゃんたち」


『……?(緊急事態?)』


コメットは首を傾げつつ、最終的にはペコリと頭を下げて、門を後にする。

街の人混みの中に飛び込んでいこうとする聖をリフレクが腕を引っ張り止めているところだった。


「来たぞ! クラレント! 私は帰ってきた!!

いざ行こう、さぁ行こう!!」

「ちょっと待ってください!? さっきのリーダーぽさはなんだったんですか!!

堪え性のない子供みたいですよ!!」

「くっ、離せ! あと私は子供ではない!!新入りの方がチビだ!」

「減らず口を……」


『……(はぁ…)』


コメットはため息を吐いて、急いで駆けていった。



コメットが二人と並び、街に消えていく様を見ながら、門番の二人は思っていたことを口にした。

彼らは、きっとお互い同じことを考えているだろうと確信があった。


「なぁ、あのバカっぽいダークエルフだけど……」

「皆まで言うな、きっと姉妹だろ」

「同一人物の線は?」

「ないな、背丈は同じだが、纏う雰囲気が違うだろ?」

「だよなぁ……あっちは自分で払ってたし」


顔を見合わせ、同じ意見にたどり着く門番。

彼らはコメット達が来る一時間くらい前に、全身を隠せる漆黒のローブを纏う聖そっくりの人物を街に入れたばかりだったのだ。

同一人物としては、微笑を浮かべるダークエルフと、さっきのバカっぽい雰囲気が噛み合わない。

別の門から抜けて街を周り、近くの門から入り直すのはよくあることだが、今回は別人のようだ。

となると、見た目がそっくりすぎるので姉妹が一番有力だろう。

二人はそう結論付けた。


「それにさぁ、最初のお姉さんのほう? あれじゃんちょっとエロスっていうか……」


言い澱む門番達は顔を赤くする。


「あれだな、何がとは言わないが『デカかった』な」

「うん、デカカッタね」


お互い気まずくなりサッと視線を反らして、仕事を再開した。


(それにしても、姉妹で別行動なのか?)


門番は再び聖達が消えたところに視線を向けるが、そこには喧騒な街が広がっているだけだった。



♯♯


クラレントの大通りを抜け商店街に入った聖とリフレクは、リフレクの案内を受けて、目的の結晶専門店『C.C』を目指していた。

目指しているのだが……中々進まなかった。


通りに入った瞬間、一番近くにある八百屋の店主に、


「ありゃ? さっきぶりじゃねーか!チビッ子」


と聖に話しかけた。

聖は一瞬眉を寄せた。


「さっきぶりとはなんだ、私は今来たところだぞ! あとチビッ子いうな!!」


八百屋の店主に指を突きつける聖。

そんな聖に今度は、八百屋の隣の雑貨屋の妙齢の女性が声を掛けた。


「あらあら、じゃあ、さっきのはお姉さんかしらね」


どうしましょう、と困った顔をしていた。


「??? 本当に訳が分からん………はっ、もしや!?」


二人から後退りして距離を取ろうとする聖。


「そうやって私を騙して、何かを買わせようという新たな兵法だな!?」


違う違う、と八百屋と雑貨屋の二人は手を左右に振った。


「いや、さっきなちょっと見ない間に雰囲気とむ……おほん、雰囲気が変わったお前に会ってよ」


咳払いをして言い直した八百屋にジト目を送る雑貨屋。


「そうね、なんか凛々しくってでも、抜けてるところがありそうなダークエルフだったわねぇ~」


雑貨屋が思い出しながら、苦笑いをしていた。


「一人でお買い物なんて珍しいわね、って声をかけたら―なんですって!?私の正体に気付いたと言うの!!―って、言ってたわ」


クスクス笑う雑貨屋。


「そうなのか? 私に姉妹は……そういえばベルは姉妹に入るのだろうか?」


聖は、自分に姉妹なんているのか? と考えてると、ダルフの付き人をしているベルベットが自分のことを『御姉様』と呼んでいたのを思い出した。

だが、この場で答えられる人は一人もいないだろう。


よって聖は、ベルベットが買い物にでも来たんだろう。と思って返事をする。


「姉妹と言えば確かにいるな……」


八百屋と雑貨屋は、「へぇ、あれが姉妹か」「聖ちゃんは妹かしらね」と言った。


そうして世間話に花を咲かせていた。


「お目付け役はどうしたよ?」

「む、コメットか? 今は別行動中だ」

「あら、珍しい!雨が降るわね」

「今日は店畳むかな」

「おい、お前らいい度胸だ!表に出ろ!!」


そそくさと店の中に逃げる八百屋と雑貨屋を、恨めしい目で見つめる聖にリフレクは言う。


「くっ、黒木さんは友好関係が広いですね……どんな出会いがあったんですか?」


リフレクは【魔】である聖が、街の商人達とまるで近所付き合いのように仲が良いように見えていた。

聖の友好関係を見てちょっと胸に引っ掛かりを覚えた。

リフレクの言葉に聖は何でもないように言う。


「そうか? 『学院』に通っていた頃、よく抜け出してここら辺を彷徨っていたら、説教されたのがきっかけだぞ」


「が!『学院』!? なんでそんなところに通えるんですか!!

普通、というか黒木さんはモン………なのに!」


「コネっていう魔法を使ったらしいぞ!!

そんな相手を説得できる魔法があったら私も覚えたいものだな」


(魔精の内通者でもいるんですか!?)


この街にひとつだけある教育機関の学院では、魔法の使用訓練、常識、騎士としての実力など教えてくれるところである。

そこにもっとも入ってはいけない、【魔】のモンスターが通っていた事実にリフレクは驚きを隠せなかった。


(なんか、話聞くと色々と出てきそうで怖いですよ!!)


「なんでも、それは王族にしか使えない特権って、シシェルが言っていたぞ?」


隣の焼き鳥屋も知り合いなのか、挨拶をしただけで焼き鳥を一本渡される聖。

リフレクもなぜかおこぼれを貰い、店主に頭をさげる。

焼き鳥屋の店主は、なぜかリフレクに「頑張れよ!」と声をかけた。

首をかしげるリフレク。


(なぜ、応援を……というかシシェルって)


そして、さらに顔を青ざめるリフレク。


「シシェルって、シシェル・サードラウンド!?

迷宮の幹部殺しの!?」


シシェル・サードラウンドとは、このクラレントの王族の血を引く王女である。

この間まで起こっていた大暴走時に、最高の硬度の防御力を誇る迷宮幹部ヴァルヴェル・トーラスをたった3撃で倒したお方である。有名人だった。



リフレクは聖がなぜ王族とも知り合いなのか、本当に只の迷宮のモンスターなのだろうか?

気になりだした。


(と、いいますか………)


少し進めば、


「おお、ありがとう! 武器ジイ! この研磨石は大切にする!」

「バッッッカヤロォ、ちゃん整備しろよバカヤロォ」


と武器屋の厳つい店主に捕まり、


「あっ、ひじりん!御姉さんにもあげたけど、これ今日作った新作よん、食べてみてね」

「うぅ、色がキモい、だがこれは私に対する挑戦と見た! かかってこい」


ケーキ屋の実験台にされたりと行く先々で、足を止められていた。


リフレクはそんな聖と楽しそうにする商人や職人を見て、もやっとしていた。


「いい加減にしてください! どんだけうらやま………ちっとも進まないじゃないですか!?」


リフレクが叫びながら、聖の手を取り商店街を無理矢理にでも抜けていく。

これ以上見せつけられたら、友達や知り合いが極端に少ないリフレクの心が折れそうである。


「おわぁ! なんだ? そんな急ぎでもないだろう。 それにコメットだって来てないのに」


聖は、ケーキの食べ残しを頬につけつつ首を傾げる。

そんなに急ぐ予定はあったのか、覚えていない。

ポカンとするリフレク。


足を止めて聖に向き直った。


「はぁ、別にいいんですよ。 何時間捕まろうと構いません」


ですが、と続けた。


「結晶専門店に売っている『上質な転移結晶』が売り切れたら当てはあるんですか? 」

「はっ、しまっっっ!?」


リフレクに言われ、聖は目的を思い出した。

聖はリフレクの言葉に、体が電流で痺れるような衝撃があった。

リフレクは思う。


(あれ? マジで忘れてたんですか? なんです、その驚き様は………)


段々と顔が青くなる聖に、ちょっと胸に引っ掛かっていたものが取れた気がした。

そんな気がして、そう感じる自分に自己嫌悪もする。


「お、おい、まだ着かないのか!?」



小走りになり、案内する筈のリフレクを引っ張っていく聖に呆れながら、別れる前にコメットの言っていたことを改めて理解した。


『商店街を抜けるんですか?』

「ええ、そっちの奥に有りまして……コメットさんどうしたんですか?」


微妙な顔をするコメットに不思議に思うリフレク。


『いえ、ただ時間が足りるでしょうか……』

「そんな離れていませんよ? 商店街を抜けて3分くらいです」


そうですか、と不安そうな顔をしていた。

その後、コメットはこの街に滞在している自分の主人の様子を見に向かっていった。

なるべく早く戻ります。と言ったが、その時のリフレクは、


「そんなに、かからないのでは?」


と口にしていたのを今後悔している。



少し前を小走りしている聖は、急いでいても話しかけられるが、今度は止まることなく進み続ける


「あれ? 嬢ちゃんさっき来たような???」

「私は、今来たばかりだ!それと急いでいる!じゃあな!」


「新しいお目付け役ですか? あまり頼り無さそうですね……聖さん悪さしちゃダメですよ?」

(だれが、頼りないですって!!)

「騎士である私は悪いことをしたことは一度もないぞ!!勘違いだ!」


心の中で叫ぶリフレクと、笑いながら早足で通りすぎる聖。

話しかけた商人も職人もそんな様子に余り気にしていなかった。

リフレクは知らないが、商店街ではよくある光景だった。


商店街を抜けた聖とリフレクは、リフレクの的確な指示のもと目的の店にやっとたどり着いた。

ポツンと離れた位置にあるこの店は、外観が独特だった。

家から突き出るような、紫の結晶。

庭に生えるように突き刺さっている色とりどり結晶達。

太陽光に照らされ、魔素をぽわぽわと放出している。

素の光景が神秘的な雰囲気を演出している。

そして、店の前の簡易ベンチにちょこんと座っていたコメット。


「あれ? コメットの用事はもう終わったのか? 」


聖はコメットを見つけたようで話しかけた。

どうやら、別行動をしていたコメットのほうが先に着いたようだ。

リフレクに同情の視線を数秒送ったコメットは、聖にニッコリ微笑む。


『聖ちゃん……買わされては』


至って真顔で手を左右に振る聖。


「ないない、というかお金がない」


コメットは立ち上がり、聖の頬についたままのクリームを拭き取る。


『……これは?』

「ち、ちがうぞ? アイツらが無料でくれたんだぞ!」


慌てる聖にコメットは言う。


『商人達はなにか言ってませんでしたか? 記念とかおめでとうとか?』


昔はお金を持たせていたコメットだが、わずか数時間で一週間分の金銭を使いきった出来事が度々続いたため、今ではお金を必要なとき以外持たせないことにしていたのだ。

しかし、お金を持っていない聖に商人達が何か理由もなく振る舞う筈もないと考えていた。

故に祝い事に近いだろうと当たりをつけると、


「そういえば、黒木さんに言っていましたね……たしか、『お目付け役離れした記念だとか』、『一人で買い物偉い』とか」


リフレクが思い出したように言う。

コメットは聖に向かってため息をついた。

これ以上話しても仕方ないと諦めたのだろう。


『いいです、いつもの聖ちゃんだったと言うことでしょう……商人め、私がいない隙に聖ちゃんに餌付け作戦ですか? やってくれますね』


ぼそりと呟いたコメットから光の小精霊とは思えないどす黒いオーラが出たが、それも一瞬だった。


『とりあえず、話はつけておきましたけど、あっリフレクさんの名前を出してしまいましたが、大丈夫ですよね?』

「ええ、平気ですけど、というか会話できたんですか?」

『筆談でなんとか……』


話をしながら店のドアに手をかけた聖達は扉を開けた。

話が通っているようで、店の奥のカウンターには魔女帽を被り、リフレクと同じローブをした人物がいた。リフレクと同じ魔女なのだろう。


「いらっしゃい、リフレク『初』のパーティーメンバーさん」


そう言ったのは、眠そうな半開きの目をしたカウンターの魔女だ。

リフレクは店内に入ってその魔女に気軽に声をかける。


「なんですか、そのいつも私がボッチみたいな反応は、失礼ですよクリエイト」


クリエイト。

『創作』の二つ名を持つ魔女の店だったようだ。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ