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迷宮深部の偽宝箱《トレジャー・ミミック》  作者: 流水一
第六章『迷宮最寄りのクラレント』
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第二話―聖&コメット&リフレク side 1『2ndコンボ』―

「久々の外だな!!清々しいぞ!」

「私もそんな気がします。5ヶ月くらい潜ってましたから」


さっそく迷宮の外に出た三人は、迷宮のすぐ隣にある門を目指す。

歩いて3分くらいの距離にある城門だ。

迷宮の反対側は絶壁になっており、その向こうに広がる少し色が濃い海が見えた。

北大陸の最北端に位置するこの場所は、北大陸で一番温度が低い。

海に浮かぶ流氷が決定的だ。

こんな辺境に城や街を作ったのは、遥か昔に巷を騒がした魔精が迷宮を作り上げた為、それの防衛手段らしい。

現在では、その迷宮は街の収入源としての地位を築いているのを、当時の人々は知らないのだろう。

そこに住まう魔精も、毎日来る人の多さに自分の自由時間が取れずうんざりしているため、ある意味で抑止力として効果を発揮してるに違いない。


城門は迷宮に一番近いということもあり、立派な造りになっていた。

門は両開きで、その奥に上から落とせる鉄格子の柵。

城門自体に書かれた防御魔方陣。

体制は万全である。


一年前の『迷宮の大暴走』で迷宮から溢れでるモンスターをこの城門が塞き止め、かなり時間を稼ぐことが出来たほど優秀な防壁だ。

しかし、門を破壊することは出来なかったが、当時迷宮のモンスター達は門を開けることに成功している。その際取られた方法は『トロイの木馬』だった。

69層に住まうサキュバスが、色々とやったのだ。

つまりは搦め手で破ったに等しい。

正面からは流石にモンスターも破れなかったようである。


しかし、現在その門は開いていた。

人が迷宮に行き来するために当然だ。

聖達は街との境目に立つ門番に向かって歩き出す。


「街についたら早速、結晶専門店に行くぞ!」


リフレクは視線の先に門番を見つけて俯いた。


「あっ、そうでした門番での対応………」

「どうしたんだ? 腹痛か!?」

『どうしたんです? 』


足取りは軽く、スキップでも踏みそうな聖も、聖の後ろを付き従うようについていくコメットも、後ろを振り返る。

そこには足取りは重く、段々と距離が離れていくリフレクの姿があった。



すぐに門にたどり着くというのに、様子の可笑しいリフレクを不審に思い、歩くペースを落とし、リフレクに合わせる二人。


「コメット、なんで新入りは落ち込んでいるんだ?」


落ち込み具合が酷く話し掛けるのを躊躇い、コメットに話を振る聖。


『…………私の予想ですけどトラウマ、じゃないでしょうか?』


桜色の唇をツンツンと指で突いて思案するコメット。


「はぁ………」


コメットの予想が当たったのか更に落ち込むリフレク。

聖はそんな状態のリフレクに話しかけた。


「なんだ、本当に」


「いえ、コメットさんの言う通りです。

嫌なことを思い出しまして……いいんです、気にしないでください。私は黒木さん達が通過した後に時間をおいて通過しますので」


物凄い諦念のオーラを出すリフレク。

触れないでそっとしておいてください、と遠回しに伝えるが、聖には伝わらなかった。

雰囲気を察したコメットが聖の腕を引くが、聖はモノともせずに言った。


「そう言われると余計に気になるじゃないか!」

『聖ちゃん……』

「しかし、中で待つのも面倒だぞ」

『そうですけど……嫌な思い出は誰にでもあるでしょう?』


小精霊のコメットでも嫌な思い出は存在するし、聖にだって喋りたくない嫌な出来事はあるだろう?

と言うコメットに聖は、数瞬考えてから。


「ないな!!」


いい笑顔でコメットに告げた。


「そもそも、溜め込むのが良くないと思うんだ! 溜め込むとデカ乳みたいなめんどくさい奴になるからな……私はああはなりたくない」


うんうん頷く聖。


聖は、迷宮の主であり創造主であるダルフが、事あるごとに水無月に愚痴を言いに来ているのを知っている。その光景をよく目にしており、一回付き合ったが、それ以来は逃げるようにしているのだ。

捕まれば最低4時間は拘束されるため、うんざりしたのだ。

そんな永遠と続く、ダルフの愚痴は聖の理解を頭飛びにしていたし、聖にとって何をそんなに悩んでいるのか訳が分からないくらいだった。

それに、聖にとって主である水無月に迷惑を掛けている点で気にくわなかったため、反面教師にしている。

そんな聖にとって、よく分からんが溜め込んでいそうなリフレクがダルフと重なり、ああなっては困ると思ったのだろう。無理矢理にも聞き出す構えだ。


「話せば、スッキリするし、これ以上溜め込むのは良くないと思うぞ」

「いえ、溜め込んでは……」

「それに私たちはパーティーを組む仲間じゃないか! 遠慮はいらないぞ!!」


歩くのをやめ、リフレクの前に立ちふさがりそう言った聖に、リフレクはポカンとした。

リフレクはこれまでパーティーを組んだ仲間は、大抵が人の意見を聞かないし、やってもない問題を人のせいにする奴ばかりだった。

リフレクはろくでもない奴ばかりとパーティーを組んでいたのだ。

アイテム配分は自分の分だけ無かったり、報酬の分配はいくら戦闘で貢献しても最低だった。

当然意見するが、聞き入れて貰えることもない。

諦めたリフレクは、ソロで迷宮に潜ることにしたが、ソロでは行ける階層に限界があった。

しかし、変な奴らとはパーティーを組む気にはなれない。

そういうときに、雰囲気良さげなパーティーが度々迷宮内で現れ、『一緒にいきませんか?』『すごい魔法ですね!!』と誘ってくるのだ。

リフレクが見た感じ、今まで組んできたパーティーのような嫌らしさや利用しようという雰囲気を感じず、『今回ならば……』『このパーティーなら』と期待して参加するのだが、いい雰囲気のパーティーがいつの間にか、人が変わったように激変するのだ。

もしかしたら、私は呪われているのかもしれない、前回の冒険で思い始めていたくらいだ。


ここまで順調に来たが、門番で街に入るときの質疑応答で、魔精に進められたこのパーティーも急変してしまうのではないか?と心配になり、きっとそうだろうと落ち込んだのだ。


なぜ、そんな考えがリフレクに浮かんだかというと、パーティーを渡り歩いたリフレクの経験がそう思わせるのだ。


門番の


『全員、身分証と冒険者ならパーティー人数を教えてくれ』


という質問で、

どのパーティーリーダーも毎回似たようなことをやるのだ。


「パーティー人数は5人だ(リフレクを入れれば6人である)」


その場に6人いるのに門番も何も言わない。


『そうか、一人銅貨3枚な』


そう言って、やり取りが終わり、みんながリフレクを待たずに街に消えていくのを、唖然としてしまうことがよくある。いや、毎回だ。

最初は伝え間違えだと思っていたが、パーティーメンバーの後を追いかけると、リフレク抜きで、報酬の配分をしていたり、祝勝をしていたりすることが毎回なので、門番を通るときは、基本的に一人で通ることにしているのだ。


(どうせ、すぐに手のひら返しされるくらいなら………)


と完全に卑屈になっている。


今回もそうなるだろうと思い込んでいたため、聖の言葉にポカンとしてしまう。

いままで、ここで距離をとっても気にされたことも、気にかけてもらったことも一度もないのだ。

初めての対応に戸惑いを隠せないリフレクは、これまで事を気持ちとは裏腹にぼろぼろとしゃべってしまう。

それの経緯を聞いたコメットは、話に割り込まないが不機嫌になったり、同情の感情をリフレクに送った。

対して、聖は、


「あ、はっはっはっ、なんだそれ、面白いな!」


爆笑していた。

さすがにカチンと来るリフレク。


「なんです? 喧嘩売ってるんですか!?」


殺意を隠そうとしないリフレクに、笑っていた聖は言う。


「いや、ぜんぜん。

私はコメットだけじゃなくて、色んな奴とパーティーを組むが……」


パーティーを組んでは裏切られているリフレクの前で、自慢しているようにしか聞こえない聖の声。

リフレクは歯を食いしばっていた。


「自慢なら聞きたくありませんよ」


「リフレクは『本当の』パーティーを組んだことがないんだろう!!」


指を突きつけられたリフレク。

(本当のパーティー?)


「いえ、パーティーならたくさん組みましたけど……」


何を言っているのか分からないリフレクは、殺気を押さえ、困惑していた。

聖はそんなリフレクの手を取り走り出す。


「いいか、『本当の』パーティーはな、見てろよ!」

「え? ちょ、ええええ?」

『ちょっと、聖ちゃん、おか―――』


突然の行動に引きずられていくリフレク。

後ろからコメットの声が聞こえたが聞き取れなかった。


門番の前まで来た聖は、すぐ側で行われた奇行を見ていて口元をひきつらせる門番に向かって言った。


「パーティー三人だ! そしてパーティーリーダーは私だ!!」


胸を張る聖に門番は、戸惑いつつも仕事をこなす。

因みにリーダーが誰とか聞いてはいない。

そしてどや顔をリフレク向ける。


「えっ、は、はぁ、じゃあ、一人銅貨3枚ね」


手を繋がれたリフレクは聖が、自分を数に入れてくれたことに驚きを隠せなかった。

いままで、どんだけアピールしていてもハブられた自分が、数に入っているのだ。

気のせいかも知れないと思い、周りの人数を確認するが、少し放れた所にこちらに向かってくるコメットがいるだけで、門番二人と自分達の三人しかいなかった。

リフレクは、初めての出来事に少しだけ感動していた。

早速、お金を取り出そうとしたリフレクに聖が言う。


「いや、ここはこのパーティーリーダーに任せておけ!」


お金を取り出そうとしたリフレクの手を押さえ、キリッという聖。


「知り合いの冒険者が、本当のパーティーは細かい支払いはリーダーが払うものだ、と言っていた!」


リフレクは同性でありながら、少しかっこいいと思った…………

どうやら、リーダーが通行料を奢ってくれるらしい。

それが本当のパーティーなのか……と熱い視線を聖に送るが、聖はなぜかお金を取り出さない。


そんな聖はコメットに向かっていうのだ。


「コメット、銅貨9枚な!!」

「………え?」


呆気にとられ、気持ちも冷めたリフレク。


「……リーダーがタカるんですか?」

「なっ!? 違うぞ! コメットがお金を持たせてくれないんだ!!」


そう叫ぶ聖を見てリフレクは思った。

(リーダーがお金の管理が出来ないとか……ありなの?)


「しかし、支払いは私の取り分から引かれるから一緒だろう!?」


「ええ、まぁ、そうですけど……」


なぜか釈然としないリフレクだった。











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