第二話―水無月side 3『上下』―
ちょっとした出来事。
迷宮に設置された宝箱の前で、言い争いと擦り付けをする冒険者達。
話の内容は、誰がこれを開けるか、という議題だ。
メンバーは、戦士、盗賊、魔法使い、僧侶、侍、の5名だ。
戦士「いやいやいや、ここは、盗賊職の仕事でしょ?」
盗賊「はぁ?俺の仕事は罠が有るかどうかだし」
魔法「で? あったんですか? なかったんですか?」
盗賊「無かった……んだが」
戦士「なんで、そんな言いづらそうなの?」
盗賊「いや、俺の先輩が調べて無いって判断したのに、爆発したって言ってたし」
魔法「先輩って100層越えのベテランですよね?」
戦士「それなのに爆発した?」
盗賊「俺にもわかんねーけど、中身が爆弾とかあり得るし」
盗賊「最近、噂になってるじゃん?」
魔法「『愉快犯』の事ですか……今関係あります?」
戦士「ここ15層だぜ?」
盗賊「そう、言われるとそうなんだが、でも俺は開けねーし」
戦士・魔法「うっわ~」
その時、宝箱のもっとも近くでは、
侍「拙者、罠外しは出来ぬで御座る」
僧侶「平気ですよ!侍さん!」
僧侶「こういうのは大抵振動を与えれば、良いんですよ」
侍「む!? 拙者の刀でツンツンと宝箱をつつく出ない!!」
僧侶「平気、平気、死にそうになっても僧侶がいればひと安心ですよ!」
侍「ふむ、一理あるが、僧侶が真っ先に死にそうなんだが……」
侍「そこまで言うのなら、信用しよう」
盗賊・戦士・魔法「ちょっと、ちょっとまて、止めろよ!侍!!」
彼ら冒険者は無事宝をとれるのだろうか。
「ガァァァ!!」
飛竜はその場で尻尾を振り回してくる。
尻尾が槍の先端になっているためその攻撃は、打撃系ではなく、切断系のようだ。
結果、傷が全くなかった大理石に大きな爪痕を残し、台座にある俺に向かって振るわれた。
俺は刃をグリーンに光らせるチャクラムで防御を行う。
ギャリンッ―――
まるで金属同士がぶつかり受け流される音がする。
飛竜はグルッと一回転した後、両方広げれば10mを越える翼をうまく使い着地する。
飛竜が着地したことで辺りの残骸が吹き飛ばされるが、今の俺は目が放せない。
なぜなら、こちらを向いた飛竜が大きく口を空け、そこに摂氏何千度とも分からない灼熱色を目撃したからだ。
「―――ガッ!!」
放たれる炎の弾丸。
都合7連射。
一秒間に一発の【ガトリング・フレア】。
その間隔は銃器に比べては致命的に遅いのだが、何分高威力であり着弾すると爆発する。
俺は動けないため守るしかないが、動けたとしても、爆発の範囲外に逃げ回るのは難しいと思う。
しかも、この飛竜、異常に照準が上手いのだ。
逃げた先を読んでいる化のごとく、簡単に捕捉されてしまう。
先程、刃をオレンジに染めるチャクラムを【ガトリング・フレア】6発で原形を留めなくされてしまった。
今はもう片割れで対処するしかないのだが―――。
5m離れた俺に襲いくる【ガトリング・フレア】の一発目をチャクラムで切り裂く。
切り裂かれた炎の弾は、左右に別れ、爆発を起こす。
切れ味は抜群だ。
その際に、山積みに放置されていた宝物が吹き飛ばされ、部屋に降り注ぐ。
しかし、
続く二発目は回転が弱まったチャクラムに激突し、爆発を起こす。
時間差で向かってくる三発目は、二発目の爆発に巻き込まれ更に爆発。
その時、視界の端に衝撃を受け、吹き飛ばされる円形の武器が見えた。
チャクラムにカメラをつけていたのだが、俺の視界の個別ディスプレイにはノイズしか写していない。
そして、障害物がなくなった四発目から七発目までの計4発が俺に直撃する。
ドガガガガガガ―――――――。
揺れる視界。
ちょっとした振動。
暑さも冷たさも感じない。
ダメージは受けたのだろうか?
―【ガトング・フレア】4発命中、損傷計算開始―
―心臓部魔核異常なし―
―損傷、外部表層に焦げ目を発見―
―計算終了―
―全体から見てダメージ3%、ダメージ…軽微―
―次行動に支障なし―
おぉ、問題ないようだ。
というか何かね?
俺はチャクラムでガードする必要も無かったんじゃないのか?
いや、逆に飛竜の性能が図れただけでよしとしよう。
許せ、俺の武器よ……
無言で鎮座する俺を警戒してか、この狭い室内で空中に浮かび、こちらの様子を伺う飛竜。
さて、どうするかな……チャクラムは飛竜が持つ【D・フィールド】で録なダメージは与えられないし、
それを突破できても固い鱗という強力な防壁。
しかし、防御型だとは思えない俊敏さに、反射神経。
見えない【バレッド・ブレス】に、連射可能な【ガトリング・フレア】。
近接戦闘では竜の特徴を活かした、『噛みつき』。
足や翼に付くカギヅメによる『クロー』。
そして、鞭のようにしなり振り回される尻尾だ。
尻尾の先を使う【スラッシュ・テール】も高威力である。
俺が一番警戒しなければならないのは、その【スラッシュ・テール】のみである。
一回、空中からのサマーソルトのような縦回転行動に、唖然としてしまい、俺を両断せんと迫る尻尾を見逃して食らってしまった。
その威力は、今までどんな攻撃にも耐えてきた俺の身体に、うっすらと傷が出来たのだ。
どんなに噛まれても一ミリも表面に傷を付けることの無かった俺に、唯一傷を負わせのだ。
うっすらとだが。
その傷も時間経過と共に完全に回復している。
しかし、回復したと言っても、次から次へと俺に尻尾で攻撃してくるので削りダメージが怖い。
ゲームでいうところの、相手に1しかダメージが与えられない状態だが、段々と積み重なって根負けするパターンに入ってるのかもしれない。
「ガゥゥゥゥ!!」
再び咆哮上げて上から襲いかかってくる飛竜。
それに対して俺の行動は、
特にない。
いや違う、出来ることがないのだ。
外装は異常に固いが、俺の中は非常に弱いのだ。
コアにでも火炎弾が刺されば、オーバーキル確定である。
そのため、けして蓋を開けることなどできない。
俺目掛けてダイブアタックをかました飛竜。
俺を脚でガッチリ握る。
ミシミシとヤバイ音…………は聞こえない。
ログにはやはり―軽微―としか書かれていない。
ドンだけ固いのだろうか?
俺の防御力は桁が違うのかそれとも、飛竜が弱いのだろうか。
いや、後者はあり得ない。
この部屋にある大理石は【サポート・アシスタント(AA)】曰く、相当硬く頑丈であると言っていた。
それを壊せるのは一握りだと。
そして、大理石を壊す飛竜の一撃すら俺にとっては、表面に一ミリ程度のキズにしかなっていない。
結果、俺は『相当硬い』らしい。
いや、のんびり考えても状況は変わらないのだけれども。
俺にのし掛かる飛竜は、俺を啄み始めた。
ガシガシガシガシ。
俺に噛みつくモンスターは俺が固すぎて歯を全損させていたが、この飛竜はなんの問題もなく俺を噛み続けていた。
普通はあり得ない。
しかし、考えても見よう。
餌に何を上げていたのか思いだし、歯と顎と体表面が硬いことを納得した。
ログが―軽微―の言葉で埋め尽くされた頃。
「―――――アア!!」
飛竜が啄むのを止めて俺から放れて、上を向いて咆哮を上げた。
咆哮の声色から何処と無く嬉しそうだ。
やっと解放された俺。
あれ、もしや俺が何もせずにやられぱなしだったから勝ったと思ったのか?
うーんしかし、行動不能って訳ではないけど、飛竜にダメージを与える手段なんか、あったか?
【滅竜】のスキルを持った剣があるにはあるが、俺には手はないし、舌で振るって、隙をつかれ、内部に攻撃されたら死んじゃうし。
うん、あれだ!
困った。
なんとか打ち負かして、主と認めて欲しいところだが……こりゃぁ、無理そうかな。
攻撃力で負けていることでどうしても、自分の強さを見せる事ができない俺は、このままでも良いかな、と思い始めていた。
防御力では間違いなく勝っているのだ、ならば、後は勝てる方法を考えて挑戦するのみだ。
勝てない何かに勝てるように努力したり、作戦を練ったりするのは良い暇潰しなるだろう。
宝物庫に散らばる、宝物をバリバリと食べる飛竜を見ながら、今度打ち負かすことを考えて、どうしようかとワクワクしていると―――。
「聞いて聞いて、クラレントの闘技場で聖が………………………」
「ガゥ?」
バタンっと開けた扉(当然後ろ)から現れたのは、ダルフがよく着る服、緑色に金とか赤とかの装飾の民族衣装を来たダークエルフ似の【ブラック・パラディン】黒木聖がいた。
宝物を貪る飛竜は音に反応して顔を挙げていた。
………………ん?
髪が膝元まであったか?
なんか雰囲気も大人ぽいぞ?
あれ?…………胸がでかい。
聖じゃないな、じゃあ、もしや――――。
ある方向を見て動きを止めている人物に声を掛けた。
「ダルフさん、何してんすか?」
「え、ああ、街の様子を見に行っていたんだけど―――」
そう、聖に見えていたのはここの迷宮の管理者のダルフだった。
年齢が若いダルフは、いつもよりそっくりすぎて、一目見て全く分からなかった。
長い髪と落ち着いているところが唯一違うところかもしれない。
………………他意はない。
しかし、そんな少女姿のダルフも、テンパってしまえば聖がいるように錯覚するな。
「って、そんなことより、どうなってんのよ!?」
「魔女にもらった【モンスター・エッグ】から産まれたんだ! けして俺のせいじゃない」
「ああ、じゃあ、そういうこともあるわね…………あるかぁぁ!?」
はっきりと言う俺に、一瞬頷き掛けたダルフ。
ダルフはびしびしと飛竜に指を突きつけて、俺に文句を言ってくる。
しかし、飛竜も指を突きつけられたことに、段々とイライラしている。
唸り声まであげ始めていた。
「と言われても、なったし」
いけしゃあしゃあと嘘を付く俺。
なる確率なんか日本人が異世界につれていかれる確率と一緒だろう。
「なったし……じゃないでしょう!?
もしそうだとしても、ドラゴンは産まれるまでに時間が物凄く掛かるのよ?
そんな昨日貰って今日生まれるなんてあり得ないでしょう?」
「そこは俺の【スキル】で時間加速した。
因みに計算上、生まれてからもう25年は経っている」
「とんだスキルをお持ちなことで……」
口許をピクピクさせるダルフ。
いつものダルフと違い、動きが新鮮だった。
地団駄を踏む姿も、怒る姿も、あきれる姿も。
「まぁ、いいわ。
そういうこともあると思っておく、アンタだものね」
諦めた雰囲気のダルフ。
「それはそうと、なぜにその見た目なんですか?」
というか、街に行くのに元の姿だと流石に不味いということだろうか。
喋らなければ、見た目ダークエルフで絶世の美女、胸もでかく、凛々しい姿では一目を引きすぎるからか?
何のために変身して、その行動をとったのか理解できない俺に、ダルフは両手を腰に当てて胸を張る。
「どうよ、この私の姿。
なんと街を歩くだけで、店の人にお菓子を貰えたり、安くして貰えたりするのよ」
「そいつは、すげーな!でも、元の姿の方が男は喜ぶと思うぞ?
そっちの方が値下げしてくれたかもな」
「くっ、その手があったわね!
やっぱり胸なのかしらね?」
「あの、そういいながら自分の胸揉むの止めてもらいますぅ!?
あと、マジでそんな理由なの!?」
「違うに決まってるでしょ?」
ダルフにバカにされた。
俺とダルフは会話ができるようになって、色々とお互いの事を知り合えたが、今のダルフがどうしても聖と重なって見える俺は、どう対処すれば良いか困っていた。
それこそ、この場にいる一匹の存在を忘れていたくらいに。
「ガアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
けして広いとは言えない俺の宝物庫に怒りの咆哮が響き渡る。
何に怒っているのか分からないが、空間を揺らす超振動で何処からともなく、ピシピシという音が聞こえる。
俺は全く被害を受けないから問題ないが、ダルフはどうだろうか? とダルフがいた位置である正面を見てみるが、そこには誰もいなかった。
「ガァァァ―「五月蝿いわよ!私が話してるでしょうが!!」ギャァウゥ!?」
飛竜の方を見るとダルフが飛竜に跳び蹴りをかまし、飛竜が反対側の壁まで吹き飛んでいくところが見えた。
当然のように、空間を揺るがす怒りの咆哮が消えていた。
「まったく、もう!」
と言うダルフ。
遠くでは気を失ってのびる飛竜の姿。
ダルフ的な躾なのかもしれない。
(あれ、もしや、さすがの俺でもダルフの蹴り受けたら死ぬのか?死ぬのか!?)
目の前で起こったエキサイティングでどめすてぃっくな展開に、俺はなにも言うことができなかった。
結果この後、ダルフと対等に喋る俺を見た飛竜が俺に忠誠を誓ってくれたのだが、釈然としなかった。
因みにダルフは、このあと夜通し俺に街であったことをしゃべった後、スッキリした顔をして帰っていった。
そうして訪れる三日目は、飛竜と一緒に行動して、これからの事を考えた。
俺は、どのくらいの武器が有効なのか調べ、飛竜には名前を与えた。
名前がないままだと俺のログに『 』(空白)のまま表示されるからだ。
『飛竜』は見た目ワイバーンの大きいバージョンだ。
さらには、いずれ人を乗せることも可能だと言う。
そうして騎士を乗せる飛竜を騎士の竜通称『騎竜』というらしい。
俺は宝箱ゆえに乗れないが、もしかしたら聖を乗せるかもしれん。
安易だが、『キリュウ』と呼ぶことにした。
『キリュウ』も嬉しそうにないている。
名付けが成功したことを【サポート・アシスタント】がログで教えてくれる。
―『飛竜』の名付けに成功しました―
―個体名【キリュウ】で登録しました―
―魔力ラインの構築を確認―
―主従関係を承認―
―キリュウに【偽宝箱の恩恵】が与えられます―
―キリュウが意思疏通ができるようになりました―
と言うわけで目の前で身体を丸めるキリュウに声を掛けた。
「んじゃ、これからよろしくな!」
『ふっ、俺にまかせな!』
なんか、痛いヤツの気がしてきたんだけど………
そうして三日目は終わりを迎えた。
次回、第二話 聖 side 1―『1stコンボ』―




