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迷宮深部の偽宝箱《トレジャー・ミミック》  作者: 流水一
第六章『迷宮最寄りのクラレント』
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第一話―斜めに全力―2

迷宮の管理者ダルフ・レファンシアが、迷宮内部の宝箱に『火爆魔宝(ボムフレイム)』を詰めてから三日経った頃。

迷宮のすぐ隣にある大都市『クラレント』では、いつも以上の喧騒の中、噂話が広がっていった。

ガヤガヤする商店街では、ここ一月くらいから、本来は取れる筈がない低層でも宝箱から取れるようになった『幻の金属オリハルゴン』に『完全回復薬(フルポーション)』などが出回り始め物価を沸騰させていた。


「『オリハルゴン』が必要なんだ!!金貨5千で売ってくれ!」

「何を言うか、ド素人め!ワシは金貨1万枚出す!」

「いや、白熱してる所わりぃーんだけど、これ売り物じゃねーんだわ」

「「……」」

「ほんとわりぃな、俺もおこぼれを買い取ったくらいだけど、そのせいですっからかんなんだわ。こんなん一生の内にあるかどうかだろう?時ヶ織東大陸に戻って、ガキに見せてやりてーんだよ」


売る気はなく東大陸に帰ると言い、申し訳ない顔をする黒い髪の商人に、冒険者の青年と太った貴族の男性は、がっくりと項垂れていた。


また別の場所では、


「『これ』薄めてはいませんか?」

「おいおい、嬢ちゃん言いがかりはやめてくれよ!疑う気も分かるが、『それ』は紛れもなく『フルポ』だぜ?」

「……可笑しいですね、私の【鑑定】スキルによれば濃度ん%と―――」

「おわああああああ、わかったわかった、負けたよ、クソっ、言い値で売ってやるよ!!」

「いえ、適正の3割引きで良いですよ」

「ほっ、良いのかよ?まぁ、ありがてぇ、変わりに…頼むぜ?」

「ええ、私はちゃんとした『完全回復薬』を買いました。良いお買い物ですね」

「かー、全く恐れ入ったぜ」

「……(でまかせでも、言ってみるもんですね)」

「ん?なんか言ったか?」

「い、いいえ、では!」


露天の薬売りの獣人男性相手に、値引き交渉をするローブを羽織る小人族の少女がいた。


クラレントの街中は、沢山の種族が違う人々で溢れ返り、今日も今日とて、お祭り騒ぎが収まることもない。それもすべては、『呪殺のレファンシア』と恐れられる魔精が、作り上げた迷宮のお陰でもある。クラレントは街の規模も大きくしようかと、上層部でも話が上がるらしい。所詮は噂だが。

噂話と言えば、今ホットな話題この5つだ。

『【魔】ダークエルフが『あの宝箱』の番人をしている』

『【呪い】の迷宮武器は《エルフの秘店》へ』

『大・魔導&武術チームトーナメンツ』

『迷宮三層のホワイト・ヒーラー、実はボッチ』

『宝箱にイタズラか?銀色の髪の毛』


が熱く語られている。

その噂は、領主であり城主でもある城に住まう王族にも伝わるほどだった。

真偽は定かではないが、想像を膨らませて楽しむのも、街に住むすべての人々の糧となっていく。


しかし、そんな街中とは打って変わり、ギルドでは頭が痛くなる問題が発生していた。

そうして、昼間である今もまた同じ報告が来ていた。

ギルドに駆け込んできたのは、鎧がボロボロの男だ。

腕の籠手はないし、靴も片方がない。

爆発に巻き込まれたのか、髪はちりちりのボサボサ。

頬には赤黒いアザ、血のついた錆びた剣を抜き身のまま腰に差していた。

肩で息する男は、ふらつく足取りで空いているカウンターまで来た。


「はぁはぁ、迷宮が危険だ……」

「……はぁ」


男が言う言葉に、頭に?を量産する受付嬢。

焦りすぎであろう。

受付嬢が理解できないのも無理はないが、男にとってはそうではない。

悪態をつき、もう一度言う。今度は丁寧に。


「くそっ、だから宝箱が爆発したんだ!原理はわかんねぇ、トッタンの野郎が、【罠外し系】スキルを持つ奴が、調べたんだが、異常は出てこなかったんだ!なのに開けたら爆発した!しかも高威力だ!40層辺り通路脇の宝箱なんだが、あの威力はヤバイ、トッタは死んではいないが重症だ」

「はい、はい? あれ?」

「あ?」


受付嬢も、コクコクと頷きながら、言われたことを纏めていく。

あることに気づいた。

そうして、似たような事例が報告されてきているから注視するように、と先輩受付嬢に言われていたのを思い出した。


「宝箱に爆弾や髪の毛を仕込むイタズラって……」


言われていたことを今回の件に照らし合わせると、不思議な点に気がついた。

受付嬢はもしかしたら、凄いことに気づいてしまったのかもれない、と思い込んで、顔を真っ白にしている。


「あ、あの、なんとか対策をとりますので、少々お待ちください」

「ああ、頼む」


そういって男性はギルドを出ていった。

彼が報告をしたのは、迷宮内部で異常を感知したら、至急報告する決まりだからだ。

決まりを守った後は、仲間のお見舞いでもいくのかもしれない。

男性が、居なくなった後、受付嬢はそそくさと、ギルドの2階の執務室に入っていった。


「報告します。迷宮内部で、愉快犯による宝箱の詰め替えのイタズラの犯人が解りました」

「ほう、ほうほうほう」


受付嬢の言葉に、頭が痛くなる問題に解決の兆しが見てきた。

受付嬢は青い顔をしながら言った。


「えっと、それをしているのは冒険者とか、私たちじゃなくて、」

「なくて?」


復唱するギルド長。


「レファンシアです。やっているのは迷宮の主ですよ!!」

「んな!?ばかな…」


驚くギルド長に、受付嬢は資料を渡した。


「これが、最近の報告で、これが最新の報告です」


見れば分かる一番手っ取り早い方法だ。


「ん、1層で『希少鉱石』?100層で『薬草のたね』なんだこの出鱈目は…」


ギルド長が見た資料には、最近までの宝箱の中身について書かれていた。


「あれ、一ヶ月前と比べると比較にならないくらい違うじゃないか……」

「そうです、私たちは暴走後だから仕方ないと、いつも通りになると思っていましたが、違うようです」


じっと資料を見比べるギルド長。

レファンシアの迷宮で何が起こっているのだろうか?

魔精の考えることを理解するのは無理があるだろう。

(もし、俺が魔精なら、騒がしい街、膨大に侵入する冒険者を少しでも減らそうと……減らす?)


いやいやと、頭をふりもう一度考えようとすると、


「どうしますか?もし一層でこんなものがあったら、一層で遊んでいる子供や、上層域で遣り繰りする冒険者なんかは、大惨事ではすまないと思います!!」


受付嬢の言うの通りだ。

高い身体能力と、装備品による強化が充実してくる40層の中域の冒険者が、それによって重傷を負うくらいなのだから、人たまりもない。


「同様の被害は?」

「昨日と今日で3件目です」


そう問いかけるギルド長は受付嬢を見た。


「どれだけ仕掛けられていると思う?」

「予想としては、『あの宝箱』に行ける確率よりは高いと思います」

「やばいなぁ、はっ」


唖然とするギルド長は、はっとして、即座に行動を起こした。


「私はすぐに城に向かう、今出ている冒険者への呼び掛けと、これから入る冒険者への注意をしてくれ」

「ギルド長は何を?」


いきなり、身支度を始めるギルド長に、驚く受付嬢。


「私か、私は城で会議だ。折角ここまで発展してきたんだ、たかが『気紛れ』で潰されたら堪らない」


迷宮の暴走も成りを潜め、爪痕も消えてきたこの街の収入源は確かに迷宮だが、被害をもたらすのもやはり迷宮なのである。


ギルド長は、即座に部屋を出ていき、城への道を走り始めた。

その後ろ姿は執務室からでも確認できた。


「城で会議ですか…もしかしたら聖騎士を召集するのでしょうか…」


受付嬢は呟いた後、執務室を出て、同僚に今回のことを報告して回っていた。

これにより、冒険者ギルドでは緊急措置が取られることとなった。

レファンシアの迷宮に挑める冒険者を制限し、中層域からの実力がある冒険者だけが挑めることになった。当然冒険者は反発したが、次の日には、王族からの通達と、上層域で出た死者が出たため、渋々従うこととなっていた。


「ということになってるようニャ!」

「そうですか、分かりました」

「これが今回の街クエニャ、いつも悪いニャ」

「いえ、では」


冒険者ギルドで、街中の住民から寄せられるクエストを、お使いで取りに来たエルフの少女は、話を聞いた後、急いで勤め先である『エルフの秘店』に走っていく。


「ユエリエ様に報告しないと……」


―――――――――――――――

クラレントでそんな状況の中、迷宮の宝物庫では、嵐のように来て台風のように去っていたダルフを不審がる偽宝箱とその配下であるブラック・パラディンがいた。


「おい、なんであいつテンション高かったんだ?」


「キモいぞ」そういうブラック・パラディンの黒木聖に、偽宝箱は考える。


「キモって!? う~ん気のせいか、なにかやらかしてそうだな」

「コメットと……そこのお前どう思う?」

「私!?」


そういって聖が話しかけたのは、金髪碧眼のエルフ似のコメットと、ここずっとラチられている魔女族の少女だ。

少女は言う。


「いえ、私に聞かれても、というか、なんで私ここにいるんでしょう?」


そう呟くが誰も答えなかった。








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