第一話―斜めに全力―
おひさしぶりです。
再開しました。
暇があれば見てみてください。
レファンシアの呪海迷宮―ダルフの部屋―
周りに散らばるのは、色とりどりの魔石。
こじんまりとした作業机に、部屋の空中に浮く魔力映像ディスプレイ。
部屋の広さは、20m×20mの大きさだが、いかんせん、物が乱雑に置かれているため、広いようには見えない。少し前までは、コメットという金髪碧眼でエルフにそっくりの付き人が、綺麗に片付けてくれたが、今では荒れ放題だった。ベッドの上だけは、何もない無垢な状態であったのが一応生活できると思わせる。
「ああああああああ、もう、嫌!!」
そう声を上げて、乱れた銀髪を掻きむしるのは、この部屋の主であるダルフ・レファンシアである。
作業机の前方に展開されるディスプレイには、色んな数値と、グラフ、出現位置の情報が映っている。
迷宮の主で、人の世に恐れられる魔精と言われる人類の敵対種であるダルフの心を折るのは、勇敢なチート勇者でなければ、成り上がりの英雄というわけでもない。むしろ、そういった輩との命のやり取りの方がダルフは喜ぶだろう。理由は、簡単な一択で済むからだ。
そう、殺せばいい…
それで終わるからだ。
しかし、今現在の状況は、光の剣とか、超魔法とかそういったモノが問題ではないのだ。
ダルフを苦しめているのは、勇者でも英雄でもなく、普通に何処にでもいる沢山の冒険者のせいである。
「いっそ、髪の毛一本でも良い気がしたわ…」
「なんか抜けるし…」そう呟いてダルフは机に突っ伏した。
『呪殺のレファンシア』と恐れられた魔精ダルフはもう、ピクリとも動かない。
いや、動きたくないようである。
なぜ、迷宮の管理者であるダルフがこうなっているのかは、色々長くなるため省くが、冒険者が沢山迷宮に乗り込んでくるからだ。と言える。
ダルフは迷宮の主だ。モンスターを引き連れて冒険者の迎撃とか、そういった実働的なことは滅多にしない。そういうのは、血の気が多い幹部が、勝手に冒険者を間引いていくだろう。
(私もそっちがよかった…)
ダルフは突っ伏したままため息を吐く。
横を向いたダルフの視線の先には、両手で抱えられるくらいの箱があった。
上蓋は大きく口を開けている。
中には結構入りそうなサイズだった。しかし、中身は空だ。
ダルフの迷宮で任されている仕事は、大きく分けて2つしかない。
一つは、迷宮の管理である。管理というかどちらかと言うと監督である。今現在の迷宮内の冒険者の数や、種族と年齢。さらには、全階層の異常の感知。それの対応だ。
ダルフはそれ自体は、渋々やっているが、問題はもう一つの方である。
それは、『迷宮内部の宝物庫以外の宝箱の詰め替え作業』のことを指している。
なぜ、迷宮主がそんな誰でも出来そうなことをやっているのか不思議に思うが、遥か昔、それこそ迷宮が出来たばかりの頃に、ダルフ自らがやると言い出したお仕事である。
昔は楽だったと今なら言える状況だ。
迷宮で開けられた使用済みの宝箱は、一回ダルフの元に返還され、ダルフがモノを詰めて再び配置しているのだ。配置自体は魔精になったときに手に入れたスキル【ダンジョンツール】というスキルがしてくれるが、モノの詰め込みは手動のため、ダルフの横に空き箱がある。
「どうして冒険者の為に、私が働かないといけないのよ…」
そう愚痴るダルフ。
見上げたディスプレイの左端には箱のアイコンがあった。
その横に数値が表示されている。その数値が2秒間に1減っている光景に、うんざりした顔をした。
その他に表示されるのは、迷宮内の人数。配下の数。戦闘中の階層主の部屋番号。使用中の宝物庫の番号。他にも色々あるが、ダルフにとって今大事なのは、箱の表示だ。
この箱の表示は、ダルフの仕事に直結している。
ダルフが箱に詰めて送り出せば、1増える。
冒険者が箱を開けれて中身を取れば、1減る。
そうなっているのだ。
因みに箱に詰めるものも考えなくてはいけない。
現在のこの状況を作り出した宝物庫みたいに、適当にするわけにはいかないのだ。
上層域で、エリクサーとか、迷宮が受け持つ出費の方がでかくなるのは、よくないからだ。
というのを、コメットに身振り手振りと親切に教えて貰ったが、ダルフはよく分かっていない。
それ故、コメットがダルフの元を離れてから、注意する者もいない状態で一ヶ月近く経った。
結果、アイテムの出現率の変化に冒険者が、沸き上がったのは想像も出来なくない。
一層で、『幻の金属オリハルゴン』とか、140層で、『硬い石』とか、凄いことになっていた。
「はいはい、これには私の髪の毛ね……」
空箱の中に手を突っ込み、手を払ったダルフは箱を閉じて、早速宝箱を送り出した。
いったいどの階層に送られるのだろうか、ダルフはもはや確認すらしていない。
そして再び、空箱があった場所に出現する空箱。
「『ス』『カっ』っと」
今度はそこらにある紙に、魔力ペンで文字を書き、箱に突っ込んで送り出した。
その『外れ』要素を教えた配下の偽宝箱の水無月も、あぜんとする光景が送られていた。
コメットが離れてから、ダルフの暴挙が結構ヤバイところまで来てるのだが、配下達は気付くことが出来るのだろうか。
唯一気付ける可能性の高いのは、コメットの代わりに付き人になったベルベットであるが……
「マスター、172層火山エリアで、面白いもん拾ってきましたよぉ!!」
「ベルベット…私を手伝いなさいよ!?」
陽気に部屋に帰ってきた付き人にダルフは不満をぶつけるが、本人はひらひらとかわすばかりだった。
「え~、やってるじゃないですかぁ」
「どこがよ、どこが…」
愚痴を言うダルフの前に、突き出されるパンパンな袋。
ダルフが中を覗くと、そこには、沢山の魔石が入っていた。
「あら?『火爆魔宝』…」
『火爆魔宝』とは、強い刺激を与えると爆発する危険な魔法石である。
爆発の威力は、一個で半径5mのクレーターを作る威力だ。
深層域にしかない、扱いが難しい魔法石で、今世界でも、火山地帯にひとつあるかどうかの稀少な魔石でもある。
しかし、ここレファンシアの迷宮では、袋に詰めれるくらい簡単に手に入るようだ。
冒険者がそこの層に進出したら、再び大きな発展を迎えそうである。
ダルフは爆発させずに運んだ手腕を誉めるべきか、これでどうしろと言うのか、何て言えば良いのか迷っていたら、あっさりとベルベットは助言した。
「それ、箱に詰めておけばいいんじゃないですかぁ?」
「???何を言ってるのよ、箱を開けた瞬間に爆発するじゃない!」
ダルフの言う通り、箱を開けた瞬間の光の刺激で、簡単に爆発するだろう。
防ぐ手立ては、光を当てないようにすることだが、―実際、ベルベットは自らの影に収納していた―宝箱を開ける性質上必然的に爆発は起こる。
そんなことをしてどうするんだ?とダルフは思っていた。
するとベルベットは、両目は包帯でぐるぐるされていて分からないが、指を立ててにやりとする。
「いえ、それでいいんじゃないですぅ?」
「どういうこと?」
「それをやられると、冒険者達は警戒して、宝箱を開けなくなるんじゃないですかぁ?」
「!?」
ベルベットに言われ、ぐったりしていた身体が勢い良く起き上がった。
ダルフの目はこれ以上無いってくらいに爛々と輝いていた。
「ありね!さっそくやるわよ!手伝いなさいベル!!」
「やりますぅ!もう、ベルは唖然とする冒険者の達の顔を思い浮かべただけで、ハァハァですよぉう」
さっそく行動に移る彼女達を止めるものは、誰もいない。
こうして迷宮内に、初見殺しの宝箱がランダムに配置されることになった。
ベルベットの行動は、助言という名の悪魔の囁きだったのかもしれない。
一体ベルベットが何を考えているのか分かるものは、誰もないないだろう。
(ああ、御姉様…これを嬉しそうに開けて、ボロボロになって、絶望するする姿を……)
「ベル?息が荒いわよ」
「平常運転ですよぉ、はぁはぁ」
ダルフは気にせず、作業を続けた。
「そう、どんどんやるわよ」
さて、幾つばら蒔かれたか不明だが、この後、レファンシアの呪海迷宮は攻略難易度が『A』から『AA』に上がったのは当然の流れである。
ありがとうございます。
まとめては、性格上無理でした。
ごめんなさい。