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迷宮深部の偽宝箱《トレジャー・ミミック》  作者: 流水一
第五章『迷宮の日常と冒険者の苦難』
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第四十三話 偽装宝箱=『???』

おひさしぶりですね。

ごめんなさい!!

何故書けなかったのか、それは.....あれです、社会で生きるって大変ですよねってことで。

さて、20日ぶりくらいですが、改めておひさしぶりです。

これからも書いていきますが、20日も明けることはまれです。

1週間以内に一回は更新する予定ですので、気が向いたら読んでみてください。


薄暗い洞窟。

じめじめした足場。

所々でカサカサと俊敏な早さで動き回る虫。

魔晶石の仄かな明かり。

不気味な叫び声。

重苦しい空気。

魂を削り技巧を極める階層戦。

散らばる夢幻のお宝。


≪レファンシアの呪海迷宮≫


誰もが憧れる迷宮がここにはあり。

深部到達者が、話題に取り上げられているほどの盛況。

1年前に起こった、モンスターが迷宮より溢れかえる大暴走(スタンピード)も収まり、再び活気を取り戻していった近隣の都市や街。

迷宮の入り口のそばに城門があるクラレントでは、モンスター被害が一番大きかったが、もう既に復興も終盤だった。


崩れた城壁。

モンスターが食い込んだままの家。

バリケードの残骸。

などが残るのみだ。

復興作業中の住民達のわいわいとした声。


『大暴走も終わった今なら深層域の更に奥まで行けるんじゃねーのか?』

『そういや、迷宮の外で死んだ迷宮モンスターは再生しないんだったな』

『いや、うそだろ、あれ【魔】の連中だぜ?』


大通りに屋台を組み立てるオヤジに、通りを歩く騎士の姿。


『おい、お前ら聞いたか? あのパーティがついに179層まで到達したらしい』

『それって死に戻りじゃねーのか?』

『ばか、生還だよ!!』

『『すげぇ......』』


広場では様々な冒険者が、冒険で手に入れたものを自慢し、競りに掛け、お互いを健闘し合っている。

レファンシアの迷宮が一番近い街であるため、出てくる武具や鉱石による恩恵もでかく、冒険者でなくても、商人や鍛冶師、果ては農業に至るまで、最北端の街でありながら飛躍的に質が向上していることは確かである。

それは冒険者も同等で、様々な武具やアイテムの入手により、迷宮攻略の速度は、次第に勢いを増していた。

そして、そんな中、大暴走からこの一年で、絶えず話に上がる大きな出来事が3つあった。


一つ、大暴走時、クラレントの第三王子......のふりをしていた王女が、呪海迷宮の幹部の一人『大地断ヴァルヴェル・トーラス』を倒したことにより、迷宮の戦力が低下したこと。

大暴走後、冒険者が調べたところ165層に居を構える幹部の間がもぬけの殻だったらしい。


一つ、大暴走時、クラレントを、囲むように広がっていくモンスター達の半数が、不思議な極光によって塵に還されたこと。これにより初代王様の聖剣伝説に火が吹き、街中の吟遊詩人、劇場での公演などが盛り上がり、大暴走後と言うのにそれなりに街の復興時間が短縮したこと。初代王様は600年前になくなっている筈なので、誰が聖剣を使ったのか。もしや、初代様が生きているのではないかと噂されている。


一つ、.......レファンシアの呪海迷宮で『あの噂の宝箱』から出てくるものが、今までの比ではない性能で、昔より入手が困難になったことだ。

一時期『攻略本』などと言うものが散布されたが、その効力も最早ない。


そして、冒険者にとって心揺さぶられるのがあるのは言うまでもない。

ハイリスク、ハイリターンを望んでこその冒険者だ。

始まりは、大暴走後の迷宮帰還パーティーの持ち物だった。

鎧はぐらぐら、服はボロボロ、武器の剣は折れて使い物にならない。

他のメンバーも似たり寄ったりだ。

腕がない者。

足を引きずる者。

などだ。

魔力が切れていたため回復も出来ない、まさに満身創痍。

そんな彼らが持ち帰ってきたのは、未踏破だった160層まで行ったこと、手に収まるサイズの見たことない筒状に指掛けフックがある謎の構造の品。

そのアイテムは今まで誰も見たことも聞いたこともない物だ。

大陸を渡ってきた冒険者すら知らない程の新発見。

街の鑑定ギルドに鑑定して貰うと、この不規則な物は、名称『デリンジャー・MP(マジカル・バレット)』。


【デリンジャー・MP(マジカル・バレット)】......魔力を籠めることで、それ相応の威力の魔力弾を打ち出す単発銃。連射不能だが、籠める魔力を凝縮させることで、射程と貫通力が上昇する使い手に左右される武器。実弾要らず。

付与スキル:【自然吸収(オートチャージ)】【容量限界(キャリーオーバー)】【魔力喰らい】【連射不能】【圧縮硬化】【自動回復(リペア)】【属性弾】【特効弾】......。


鑑定して出た結果はこうなっており、スキル詳細を教えて貰う前に、鑑定したギルド員が青ざめてフラッと気を失ってしまったのだ。

何故気を失ったかというと、魔力切れだった。

この武器は鑑定に物凄く魔力を必要としたのだ。

武具ランクが高くなると、鑑定に掛かる魔力負担も増えるが、優秀なギルド員を一回の鑑定で魔力不足にしてしまう程の高価値で、破格の力を持つことが分かる。


もしこれを持ち主が売ろうとしたら、買い取るのは主に魔法使いが多くなるに違いない。

なぜなら魔法使い故に、魔力操作はお手の物。

玉を作るにも問題は皆無。

そして接近されると、不利になりがちな魔法使いにとって、中近距離で使えるこれは喉から手が出るほど欲しいだろう。


これを手に入れた冒険者は、実演を兼ねて、魔物商が連れた魔物と闘技場で一戦交えたが、決着は一瞬。動こうとした進化個体の【コボルド王】の眉間に穴が空いて、そのまま倒れ伏して動かなくなったのだ。


唖然とする観客に、武器の威力に身体を震わす者。

それほど愕然としていた。

そして、我先に武器を求め、冒険者が急上昇したのだ。

迷宮に波のように冒険者が押し寄せるようになった。

冒険者達が惹かれたのは、武器だ。

確かにこの迷宮は、見たことも聞いたこともない物を量産しているが、今までのモノががらくたに変わるほどの高性能を体現したのだ。

また、手に入れた武器によっては一生暮らせるレベルの大金を払う依頼もあった。

さらに、手に入れるには、『噂の宝物庫』に行かなければならないのだ。

最近では、100層を越えていないと出現しなくなった偽宝箱住まう宝物庫。

彼らが一攫千金を夢見るのは致し方無い。



そうして、この迷宮の迷路を歩く彼ら冒険者の目的も一緒だ。


先頭を蜘蛛の巣を松明で払いながら歩く、槍使いの青年。

次を歩くのは、真っ青な顔をした金髪碧眼の美女。

そしてその美女を後ろから脅かすのは、褐色の肌に、紅蓮の短い髪、小柄だけど勝ち気な少女がゲラゲラ笑い。

最後尾には、無精髭を生やした呑んだくれの酔っぱらいが千鳥足で着いていく。


「暗いな......それに虫も多い」

「虫!?もしや私の肩がむずむずするのって『あ、足が沢山生えている奴が首の方に.....』ひゃぁぁああ!?」

「くっ、あ、はっはっはっ、くくくっ」

「あれぇ、なになに、どーしたの?おっさんに言って、ひっく、ごらん.......おぇっ」


最後を歩いていた剣に弓など使える万能戦士のルーバスが側壁に手を当て立ち止まっている。


「おっさん、昨日『竜殺し』を一気飲みするから、ぶっあはははっ」


立ち止まったルーバスを振り返り指差すのは小柄なドワーフでありながら格闘家をしているシャネル。


「貴女も飲んでいたでしょうに.....いいから早く出ましょう、こんな不潔なところ一秒たりとも我慢できません。一言言わせて貰えば、まず、虫がいるのが不潔と言えますね。ああ、それに明かりが余り無いのもいけません。これではジメジメした性格になる人続出ですわ。それと、臭いもよく有りません。ここは、せめて香りだけでも改善すべきです。そうですね、フローラルな香りがあれば少しはましになるのではなくて?それと――」


さきほどシャネルに嘘の虫発言をされ、立ったまま気を失っていたエルフのトリエンスが、意識を取り戻した後、勢い良く喋りだした。


「......俺らなんでここまで来れたんだ?」


ぼそりと言ったのは、槍を持つ青年でパーティーリーダーを務めるイクス。

イクスは自由奔放なメンバーに一抹の不安を感じながら、先に進む。

彼らが迷宮階層148層と階層主の部屋までを繋ぐ【ヨルムの洞窟】に入ってからもう3日経っている。

途中で寄った怪しげな物売りから手にした食料は既に乏しく。

仲間に内緒で隠し持つラギの実だけだ。

空腹感を実を口に入れることで、誤魔化した。


そろそろ、出口に出てもいい頃だろうと、イクスは考えていたら......当たりのようだ。

洞窟を抜けると、そこには......


遥か高い天井。

上の階層とか貫通してんじゃないか?と思われるほど大きい空間。

しかし、ここは摩訶不思議な魔精が作る迷宮。

空間の拡張は得意分野だろう。

つまり、天井をやぶっても、上の階層に行けるとは限らないのだ。

メンバー全員はなんやかんやで、狭い空間にうんざりしていたのだろう。

それぞれが身体を解したり、のびをしている。

できればその場に座り込みたいが、そうも甘い階層ではないようだと、イクスは思った。


この空間の遥か先には次の階層へ続く扉がある。

その扉を越えれば、下の階層に行ける階段と宝物庫の扉があるのだ。

もちろん目指すは、その扉。

しかし、


「『武を持って武を示し、魔を持って魔を打ち砕き、技をもって数を制せ』か.....」


イクスは、遥か先の扉の上に書きなぐられた文章を読む。


視線を下へと向けるとそこには、この空間の3分の2を覆い尽くす、魔獣の群れ。

緑の肌を持つ小柄なゴブリン。

犬頭のコボルド。

ゴブリンの3倍の大きさで豚顔のオーク。

同じくらい体格をもつ角を生やしたオーガ。

腐肉をつけ、骨が見え隠れする他種族溢れるゾンビの群れ。

武装した白骨のスケルトン。

鎌を持つ不気味に浮遊するレイス。


この光景を見てメンバーが息を呑んでいるのがイクスには分かった。

それもそうだろう、一層分のモンスターがこの空間に纏められているのだから、

本来なら、群れをつくってもの5匹が精々のモンスターが、まとめられているんだ。

この階層に入り、モンスターに会わない原因を知った瞬間だった。

これを突破するには、この中のどこかにいる階層主を倒す他ない。

あとは殲滅させるしか選択肢は皆無だ。

それ故にリーダーとしてみんなを激昂しようとした。

ちらりと後ろを振り返る。


「みんなっ......」


「これ倒した後、腐臭が、あら想像しただけで、もう.....」


魂が口から飛び出そうなトリエンス。


「なんだ、なんだ、イルバール乱世のドレガス原の戦いってか?」


グローブを撃ち鳴らし、好戦的になるシャネル。


「.....あぁ、おっさん歳だわ、ちょっと寝るわ」


.......その場で横になり眠ろうとするルーバス。


.............


どうやら、イクスの勘違いだったようだ。

彼らは通常運転だった。


「うん、分かってた.....さ」


イクスはどこか遠く見ていたが、その間に戦端は開かれた。




――――――――――――――――――



「終わった......」


どさりと、腰を下ろすイクス達は現在、149層へと繋がる階段と、宝物庫へ至れる扉の前に来ていた。さっきの戦闘で半数倒したとき、体力も魔力も突き始めていた彼らは、運を味方に付け、階層主【エッグモンスター】を倒すことに成功した。【エッグモンスター】の大きさは、ピンポン玉くらいしかなく、一度見失うと、見つけるのに一苦労だ。

さらに膨大なモンスターに絶え間なく攻められ続け、気力も減っていくだろう。

そして、邪魔になる倒したモンスターたち。

積み重なる骸。

そんな中に紛れてしまえば、絶望的だ。

攻略方法としては全てを消し去るか、魔力反応が一番高い個体をピンポイントで倒していくしかない。

今回は、シャネルが殴り付けた骸骨の頭が、たまたま移動中だった階層主にあたり、グシャっとなったにすぎない。

卵ゆえに耐久値もひとしいのだ。


さて、あらかた休憩した彼らは、皆で顔を見合わせ宝物庫の扉を開ける。

イクスは思った。

なぜ、このときだけ皆の意思が統一されているのだろう。

あの綺麗好きも、あのバトルマニアも、酔っぱらいも。

みんながみんな真剣な表情だった。


気持ちは分かるが理解しがたい。

確かに、イクス達の一番の目的と言えば、攻略階層数よりも、あの宝物庫に至れるかどうかだ。


「いくぞっ!」


ゴクリっ―――


段々と開かれると扉。

逆光で見えない内部。

目が慣れてきて見た先には、


「「「「おっしゃああああああああああ(ですわ)!!!」」」」


余り広くない正方形の空間。

四隅に盛られる金銀財宝。

コツコツっと足音を響かせる白い大理石の足場。

盛り上がった所にある聖剣が刺してあってもおかしくないところにある両手で抱えられる小柄な宝箱。

その隣に真っ赤に輝く鉄格子。

鉄格子の中には、暗い闇よりも黒い髪、黒い瞳には魔昌石の灯りが反射して星空を写し出す引き込まれそうな目。目に泣き腫らした跡があるが整った顔立ちは間違いなく美人、いや、美少女のくくりだろう。そんな少女が膝を抱えて疲れきった表情をイクスたちに向けた。


かすかに動く少女の口許から声が響く。


助けて―――。







読んでくれてありがとうございます。

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