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迷宮深部の偽宝箱《トレジャー・ミミック》  作者: 流水一
第四章『迷宮への道のり』
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第四十一話 『終局②』

大変遅くなり申し訳ありません。


突然現れたダルフが、聖と、聖に擬態した影人(ドッペルゲンガー)に向かって、真っ黒の火の玉を打ち出した。まさかダルフはどっちが本物か判断できたのだろうか? 性格もある程度トレースされているというのに、さすが魔精ってことだろう。


『なに!?くっ』

『ふっ......』


そう考えていた俺は、着弾した黒炎が二人を包み込むのを見てしまった。

炎の中で焦る声が聞こえた。


「呪術ー黒炎葬(こくえんそう)ー」


.......ダルフの声と同時に着弾した炎が燃え上がった。

玉座から離れている俺の方まで熱気がすごいんだが......

え、というか両方攻撃したの?

ちょっ......

チャクラムを飛ばし、視線をダルフの方に向けると、何故か銀髪の前髪を払うやり遂げた姿のダルフがいた。


いったい、なぜこんなことになったのだろうか......



――――――――――


数分前......


この広い空間に響く衝撃音。

なぶるように、遊ぶように様々な攻撃をしてくる見えない敵。

それをかろうじでかわしていくのは、金髪碧眼の小柄なコメットだ。


『ほう、その体でよく避けるな......これならどうする』

『っ....ぐぅ』


姿を表さない敵が突然、実体化して回し蹴りを放ってくる。

コメットは、それをしゃがんでやり過ごす。

蹴りという、避けられたら隙がでかくなる攻撃を選択したこいつに、反撃するチャンスが来た。

おし、いまだコメット!

俺もチャクラムを突っ込ませる。

しかし、このヤロウ.....余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)とチャクラムをかわしやがった!

だが、こちらはコメットとの波状攻撃だ。

俺がかわされてもコメットが、その隙をついてくれる。

しかし、隙だらけになったやつに、コメットからの攻撃はない。


『おい、どうし!?』


コメットをチャクラムの目でコメットを写す。

すると、しゃがんだまま動かないコメットがいた。

いつも、無表情のコメットが表情を歪めている。

腹部を抑えていることから、痛みによって動けなかったのだろう。

しかし、敵はこの隙を逃すほど甘くない。

さっきまで姿を消してきた擬態影人がこちらの隙を易々と突く。


『先程の透明化に対する機転は畏れ入ったが、それまでだな』


実体化した影人は、玉座に腰掛けていた影そのものではなく、別の形をしていた。

いや、もはや別人といっても良いほどの変化だった。


少し離れた所に立つ奴は、細い体にしっかりと筋肉がついている男性の姿そのものだ。

その男性はツンツンした短髪を逆立て、褐色の肌を持っていた。ダークエルフよりも配色は薄い。

玉座に座っていた影としか表現できない人物と、同じだとは思えない。

そもそも、存在感、いや、質量が違いすぎる。

だが、目の前の奴はそうとしか考えられない。

そんなレベルだ。

これが擬態影人の【擬態】スキルの本領ってことか。


『少しは期待できると思ったが、所詮数ある配下の一人にすぎないか』


奴から興味がなくなったという雰囲気を感じ取れる。


『お前と同型の連中は最早解析済みだ、よってお前を取り込むまでもない』


何気ない仕草で、左足を振り抜いた。

その速度は足が一瞬ぶれた程で振り抜いたのか、元に戻したのかわからないくらい早い。

その振り抜かれた足から斬撃を飛ばすほどだ。


『消えろ最後の配下よ』


コメットは、自らが得意な障壁や結界で対応しようとするが、そのどれもが砕かれる音がした。


『っ!!』


連続でガラスが割れる音が、どれ程強力なモノが飛ばされたのかがよく理解できる。

男は離れた位置から、何度も何度も斬撃を飛ばしてきた

8枚張った障壁のウチ6枚まで貫かれ、それでも諦めずに障壁を強化しようとするコメット。

しかし、7枚目にヒビが入っていく。

このままでは、すべての障壁を貫かれるのは時間の問題だ。

一応俺も援護で、チャクラムを操り攻撃を繰り返すが効果はない。

作ったばっかのチャクラムを強化しても、この敵は楽にかわすのだ。

まるで軌道が見えているのかのごとく。

だが、【透明化】に対して俺のチャクラムそれなりの結果を上げていた。

もしや、透明化をやめさせたのは俺のこのお陰かもしれない。

2つのチャクラムに急遽(きゅうきょ)付けたのは、【捕捉】【追尾】【予知(弱)】の3つだ。

本当は、【自動追尾】【自動迎撃】【時限干渉】をつけたかったが、今の俺は、そのスキル達のコードはあるが、この体では好きに追加することは出来なかったのだ。

くそ、元の身体がドンだけ異常か理解できたぜ。

俺が手間取っている内に、ヤられたら元も子もないし、一発生成に掛けてみたが、存外悪くない結果だったようだ。俺が生成している間に、コメットもどうやってか分からないが、相手の攻撃をある程度、上手く避け始めていたし、コツを掴んだのかもしれない。

そうして、攻めあぐねた奴が戦法を変えてきたのだ。

透明化をやめて、こちらも攻めていくが、【見切り系】のスキルだろうか、攻撃はちっとも当たらないんだけど......

スキル.....今まで手こずらせてくれた【透明化】もスキルだろう。

それに、見えない魔法とかまだ、何かありそうだ。

もしや、姿を変えると使えるスキルも変わるのか?

いや、スキルも真似できるのかもしれないな。

そうなると、こっちの勝ち目が極端に下がるんだが.....

怒濤の攻撃はいまだにコメットが張った障壁に降り注ぐ。

てか、この攻撃ってスキルじゃないのか?風圧?

そしたら、こいつの身体能力はどんだけ高いんだよ!!

ピシピシという音が聞こえてきた。

障壁にヒビが入り始めた。

コメットも障壁ごと後滑りをしている。


『やはり、結界系統の魔法は同化するのが一番早いな、この歴戦の格闘家の体を使っても物理一辺倒だと破壊するのに時間が掛かるらしいぞ?』


蹴りを放ちつつ余裕を見せてくる男に、俺だって見ていただけではない、何度も何度もチャクラムで攻撃したが、やっぱりあたんねーんだよ!!


『なるほどな.....取り込むということは姿とスキルを手に入れて、擬態の引き出しを増やす.....そういうことか?』


焦りを悟らせないように不遜に振る舞う。


『ん?、あ、ああそうだな、そういうことにしておこう』


一瞬呆けた顔をした男だが攻め手が緩むことはない。

7枚目の障壁が砕かれた。


『く、けほ......』


咳き込むコメットの口から血が吐き出された。

腹部を濡らす血も脚を伝い床に溜まっていく。


『はっ、つまり他人の姿を借りないとお前自身は戦えないってことだろ、それを誇られてもな』

『抜かせ、そうやって守って貰っている骨董品に言われたくはない、そっちこそ、俺の前に立ったらどうだ?ああ、足がないから無理なんだったな、くくくっ』


だめだ、言葉の応酬すらも勝てない。

本格的にヤバイな、これ。


なにか他に手はないか探すと、あるところで視界が留まる。


『は?なんだそれ』


俺がそれを見てつい漏らしてしまった声に、奴がバカにした反応をする。


『ふっ、子供だましも良いところだ、誰が騙され―――ガハッ』


今まで蹴りを放ち続けていた奴が、不意にコメットの正面から消えた。

崩れる石柱に投げだされた奴の姿を確認した。

ふっとばされたようだ。


奴は起き上がり、ある一点を睨む。


『お前、どうやって.....いや何者なんだ』

『......』


奴の訝しむ問いに無言で返す人物。

目線の先には、真っ黒なオーラを立ち上らせる【ブラック・パラディン】の聖がそこにいた。

聖は俺が見たこともない雰囲気を纏い、冷たい視線を奴に浴びせていた。


『まぁいい、どうせ、さっき突っ込んできたバカなヤツだ程度はどうあれ、所詮そのlevelだろう』


瓦礫を払い立ち上がった奴は、驚異ではないと口にする。

聖は、手を奴に翳した。

その手には魔力が物凄い勢いで貯められていく

体の一点に溜められる量ではなかった。

それを放つというのか?


「黒の魔力は闇の象徴―【闇・波動弾(ダークショット)】―」


聖が溜め込んだ魔力が奴に向かって解放された。

詠唱と共に使われた魔法は、闇属性の初級魔法のはずだ。

闇で出来た魔力弾を作り、対象にぶつけるそういう魔法だ。

しかし、目の前の光景はおかしかった。

まずそもそも、弾ではなかった。

闇色の圧縮された一条の光が光線となり奴の体を貫通しているではないか。


『バカなぁ!?』


表情を歪ませる奴は膝をついていた。

ダメージは小さくないだろう。


そして、奴を貫いた後、光線は神殿の壁を貫いていた。


なんて威力と速度だ!!

手を向けたまま、どす黒いオーラを纏い無表情に佇む聖が恐ろしく見えた。



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