第三十七話『偽宝箱と黒幕②』
大変遅くなりました。
デスマーチ....このやろう。
なるべくアップします.....したい。
読んでくれてありがとうございました。
暇潰しにでもなれれば幸いです。
「そう、じゃあ、死ね」
ダルフの声は聞いたものですら存在を否定されるかのようだ。
声と同時、光の瞬きと轟音が響き合った。
コメットの周りに、ブン―――という音。
視界が薄い虹色の膜で覆われる。
どうやら衝撃波から守る障壁を展開したようだ。
「な、なんだ? いきなり!? 」
俺の視界に、盾を正面に構え、地面を滑って押されている聖がフェードインしてきた。
俺はコメットに背負われているので、音だけで判断するが間違いなくダルフが攻撃したと分かる。
ダルフの戦闘は見たことがないが、よく挑む聖から聞くに、『呪符』と『体術』というダークエルフが得意としているのと一緒らしい。
この場合、遠距離の攻撃か。
しかし、何者かに邪魔されたようだ。
「ちっ、邪魔よ、退きなさいエルフィ!! 」
「......【クロス・レイ】」
ダルフが忌々しそうに叫ぶと、ここで始めて聞く声が光属性魔法を放ってきたようだ。
この声の主は、ダルフの言っていたエルフの魔精なのだろう。
俺はコメットが後ろを振り返らない限り、姿が見えないんだが、もしコメットが喋れたらそんな声なような気がする。
あれだな、アニメ声優が脳内で一致したみたいな。
キュワン―――。
という音と少しの後退り。
コメットが張った障壁に光の魔法が直撃したのだろう。
【クロス・レイ】は拡散放射系の光魔法だった筈。
照準を絞ることで、高密度の光エネルギーを空中に描いた十字からぶっパする奴だ。
そんな説明と講演を聖が昔してくれたのを思い出したぞ。
なんでそんなことになったかと言うと、俺に『新魔法』を教えてくれ、とか言ってきたのが始まりだった気がするが、いまはどうでも良い。
俺は始めて見たとき『ブレストふぁ.....』とか『拡散メガりゅ.....』とか口走っていた。
まあ、なにが言いたいかと言うと光属性でも強力な魔法だってことだ。
それに俺たち【魔】に列なるものは【光属性】や【聖属性】に弱い。
下手したら蒸発だろう。
俺は、コメットが障壁でレジストしたから良いとして......
さて、その他のメンバーは......
「問答無用.....いえ、自意識を封印されているのかしら? ー【鏡加符】ー」
声と共に何かが撃ち合う音が聞こえてきた。
光エネルギー同士の衝突とでも言うのか、ロボットアニメでよく聞く音だ。
ダルフの位置は俺達より前にいるため姿が見えないが、音が重なるように聞こえるのは、呪符によって跳ね返しているのかもしれない。
ダルフも同じ魔精のエルフィにやられることもあるまい。
きっと......たぶん。
と、いうかね、俺が気にしているのは......
俺は視界にフェードインしてきた、ブレザーから中途半端に武装したダルフ似の少女を見る。
俺の脳内予想では【ブラック・パラディン】の聖は、盾を構え光の奔流に抗っているはずだ。
それに【魔】である聖は光エネルギーで負傷しているかもしれないし。
そんな予想の元、視線を送ると
そこには......
「ふはははっ、この盾と最近やっと手に入れたレギンスの前では無意味だ! 」
『ちょっ、御姉様!? 脚より胴体と頭を守りましょうよ! ほら盾構えて....って、え? 』
聖の影が勝手に蠢いている。
「......必要あるのか? 」
ふっと笑うドヤ顔の聖。
『え、えええええええ!? なんで!? あとドヤ顔の御姉様の慢心にベルは、はぁはぁですぅ』
影は驚きの声をあげ、さらには影だまりからひょっこり顔をだしてはぁはぁしているベルベットの姿。
......平常運転の二人がいた。
いや、聖が考えていそうなことはわかる、長い付き合いだからな。
あれだよ、
『あれ、この攻撃を防げる私最強じゃ.....つまり魔精の攻撃を防げる私は魔精より強い、結果ダルフより強い!!』
と思っていそうだ。
それに、盾に付与した【魔法吸収(中)】のスキルのお陰で盾に当たった攻撃が消されているのは分かるんだが.....盾以外の生身―服は着ているが―の部分に当たった攻撃は当たった瞬間に屈折して逸れていくのが分からん。
ダルフの影に潜むベルベットも俺と同じくポカンとしているのだろうか。
違うな、はぁはぁ言っているな。
聖こいつ、なんのスキル使いやがった?
『というか、御姉様なんで光魔法喰らって無事なんですか? 』
「ん? 特別に教えてやろう」
『とく、べつ.....』
若干トリップしている影に潜むベルを無視して、聖は光の散弾の中を堂々と進む。
未だに光が降り注ぐ中、平然と会話をする二人に戦慄を禁じ得ない。
「私のスキル【剣身一体】は剣の性能を可能な限り身体に付与するモノだ、これによって、手刀で名剣並みの切れ味や、硬度も得るんだぞ!」
『それは知ってますけど.....それだけじゃぁ』
「ふっふっふ、新スキル【盾心一体】というスキルだ、こっちは盾のスキルを身体全体まで効果範囲にする奴だ、これにより、元々私の適性である【魔法無効化】と【魔法反射】が強化された形だな」
自慢げに話ながら近づいてくる聖。
しかし、言いたい。
それ、チートや、チートやないか!!
俺よりひどいぞ!
戦闘中とは思えない空気を醸し出す俺達。
普通なら、緊迫感を持つものだが、俺も慢心していたのかもしれない。
ダルフが負けるわけはないから安心だろうと過信していたのもあるか。
そんなこともあり、ダルフのことは注意してなかったが、戦闘は今でも凄まじい。
戦場を隣の部屋に変えたことでドコン、バコンという音が聞こえ振動によって天井からパラパラと破片が落ちてくる。
「おい、影これでお前を守るものはなくなったわけだが、覚悟はいいな? 」
聖が横で剣を向けていた。
そう、いままでじっとしているだけで、なにもしていなかったヤツにだ。
「覚悟か.....そっちこそ世間知らず共の集まりが、世界を知る我らに勝てるとでも? 」
やはり、この声は手紙の主。
でも、手紙を紛れ込ませたのは何時だ?
最初からか?
そうとしか考えられんが......
影?の台詞に聖が嫌そうな顔をしている。
そうだろ、アイツの傲慢なしゃべり方や、態度にムカつくだろう?
きっと聖もそう思ったんだろう
「まて、世間知らずは私以外の連中だ一緒にしないでもらおうか」
そんなことかよ!?
―――――――――――――――――
「いふぁいいふぁああ!? 」
隣でコメットに頬を引っ張られる聖。
俺らを無視して、この影?
............
.......いい加減視界がほしい!!
欲望がたまった俺は、このとき神がかった脳内ペイントパット捌きをみせた。
「それにしても、魔精ダルフは直情的すぎるようだね、僕がちょっと煽っただけでこれだもの」
知るか、ちょっと黙ってろ。
俺は忙しい。
流線的なフォルムにデジカメのような高性能画素を搭載のキャメラ。
どうして高性能って分かるって?
線引きした吹き出しに説明文を書くと再現してくれるんだよ。
ご都合主義万歳。
でも、出来ないこともあるのがいたい。
「でも、こうやって2年越しの計画も大詰めだよ」
影?独り言のように話を続ける。
未だに、遠くで戦闘音が響いているがこっちは今のところ平和だ。
2年越し?
つまり......
俺の思ったことは聖が質問してくれた。
「つまり、2年前からここを乗っ取っていたのか?」
「残念ながら.....その通りだよ」
その声を聞いて聖が首を傾げる。
「だが、可笑しいな、お前『迷宮核』を持っていないだろ?」
迷宮核とは、ダンジョンを作る上で欠かせないモノだ。
迷宮内の配置を変えたり、配下を作ったり、階層を増やしたりと色々なことが出来るダンジョンマスターとしての資格のようなもので、迷宮の心臓部だ。
この迷宮核を壊すことで、迷宮からわき出るモンスターを消滅させることが出来、なお、再生不可能なダメージを迷宮に与えることが出来る。
勇者達はそれを破壊するか、ダンジョンマスター本人を叩くしかない。
迷宮核の形はダンジョンそれぞれであり、指輪だったり、義眼、または心臓、または宝箱にはいっていたりするのだ。
つまり、ダンジョン攻略者とは最下層をクリア、または迷宮核を手に入れた者も指すのだ。
さらにこの迷宮核を手入れれば、迷宮を乗っとることも可能だ。
しかし、
「はっははは、なんで分かったのかな? そうさ我らはまだ持ってない.....まだね」
突然笑い出す、影?
そして、このとき俺が作っていたものが完成していた。
さっそく影の顔を拝んでやろうと外に出力しようとしたら、遠くの石柱の影からキラリと光る鋭利なものが飛んできたのだ。
俺目掛けて、いや、この角度......
コメットの首筋だ!!
狙いはコメットか、誰か分からんが、何とかしないと。
結構なスピードで飛来してくる。
しかし、コメットは障壁を全面に張っている筈だ、貫けるわけがない。
でも、なぜだろう、胸騒ぎが.....箱だけど。
コメットは気づいていないようだし、もしものためにやっておかないこともない。
そう思って向かってくる飛来物を迎撃するように、俺の口から輪投げの輪が出てくる。
輪の中心にはカメラのレンズが申し訳程度についている。
そう、これは俺がさっき作ったものだ。
輪の外側は鮮やかにオレンジの光を発し、高速回転を始め浮遊している。
もうひとつはグリーンでこっちは輪に沿った回転ではなく、全体をくるくると乱回転させている。
こちらも中心にレンズがある。
(行ってこい迎撃じゃぁ!!)
俺の自由意思により好きに動かせる輪は飛来してきたモノが、コメットの障壁を『抜けた』と同時に弾く。
やはり、『抜いて』きたようだ。
なぜコメットを狙うかは分からないが、敵が後ろにもいることがこれでメンバーにも知れ渡っただろう。
「.....!? 」
「なんだ? 奇襲か? 」
ビックリして、後ろを振り向くコメットと聖。
そうして、このとき『偶然に』やっと俺は『おまえ』を見ることが出来た。
玉座に偉そうに座るのはまさしく影だった。
探偵ものの犯人みたいな真っ黒さと異様な存在感。
割けた口は真っ赤につり上がっている。
目は穴がそこに空いているのかのように身体と反対の真っ白だ。
眼球も眉もまつげもない。穴があるだけの異質さ。
その姿を目に焼き付けた俺は、こいつの正体に心当たりあった。
『始めまして、お前、擬態影人だな』
さらに口を歪ます影。
「そうさ、よくわかったね、手足がない宝箱」
こいつを見たことでなにか違和感が沸いてきたが、コメットがまた振り返ったことで視界から消える。
俺は先程迎撃に使った輪投げの輪にカメラがついたものの、本当の機能をONにする。
すると、俺の視界に2つのウインドウアイコンが表示された。
ひとつは、あの影やろうを写すもの。
もうひとつは俺たち全体を写す上からのもの。
そう、おれが作ったのは『目』だ。
チャクラム型のこの目は戦闘ももってこいだ。
俺の意思で動く様はさながらサイコミュのごとく。
原理は簡単、俺の魂のコピーを搭載しただけで、俺の手足の延長のように動かせる。
これでお荷物という看板を下ろせるな!
ほっとしている俺。
しかし、あとで気付くが俺、もしやただのコメットのバックパックじゃないの?
とショックを受けたのは言うまでもない