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迷宮深部の偽宝箱《トレジャー・ミミック》  作者: 流水一
第三章『迷宮への招待状』
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第二十九話『偽宝箱は決意した』

攻略本.....

確かにこの気味が悪い音声がそう言った。

聞き間違いではないだろう。

俺自身も攻略本なるものを最近見かけてるし、それに何が書かれているのかは分からないが、そのせいで、めっきり冒険者達を撃退できなくなりつつあるのは事実である。

なら、こちらから強制的に罠に掛ければいい、と思うかもしれない。

だがそれは、俺が宝箱としてのプライドを捨ててしまう気がするのだ。

確かに、相手の行動を一秒も逃さず、最適なタイミングで攻勢に出れば、孔明よろしく勝ちを拾えるだろう.....しかし、俺は、俺が考えて予測した罠で戦うことに誇りがある。

それでも、俺の罠を奇抜な発想で突破するヤツだっているのだ。

悔しいし、次はこういうのを!とか考える。

それだけでなく、相手を賞賛する気持ちを持っているのだ。

それを感じるこのやり方を変えるなんてことはしないだろうな。


それ故に、この本は俺の前提を覆しかねない。

本を見れば全て載っている、と言うように流れ作業のように開けて、宝物を手にして去っていく。

そこに、ドキドキやハラハラした臨場感、達成感なんかがあるのか?

頑張って頑張って手に入れた剣と本を見てちゃっちゃと手に入れた剣では思い入れが違うんじゃんないのか?

そんな冒険のやり方では、早い内にやる気なんか無くなり、飽きてくるのは明確だ。

なぜなら、前世でもゲームの攻略本片手にクリアしたゲームは、一通りやったら飽きてしまうことがあったからだ。

まだ、なにか隠された要素を探すワクワクと、終わりを知っているのでは違うのは当然なのかもしれない。

そう思ってしまうのだ。

それに物を産み出す作り手としても、喜んで手に入れて欲しいと思う。

手に入れた場で、嬉しそうにハシャグ様を見るのは作り手冥利につきるんだ。

いいね!と言われるだけでテンションがちょっと上がる、そんなことだけかもしれない。

でも、ほっこりするのも違いない。


だから.....


ー迷宮の骨董品である君の考えは人間臭くー

ーなにより、我々からしたら時代遅れで簡単に予測がついたからねー

ー迷宮に入る冒険者にこの本を売ることで大儲けさせて貰ったよ!ー


(俺の場荒らす奴を許す訳には.....いかないな)


ー買っていった冒険者は大喜びさ!ー

ーいつ君に会えるか分からないから携帯しておきたいのかもしれないねぇー

ーそうそう、君が姿をドラゴン?に変えたときからこれはもうけれると思ってねー

ー最初は口伝だったけどねー

ー本にしたのは最近だよ?ー

ー同じ攻略方法をとる奴を不思議に思わなかったのかい?ー

ーそれとも、最近の冒険者は頭がいいと思ったのかな?ー

ーああ、ドラゴンの牙に鍵を隠して残りに罠を仕込む発想ー

ーあれは罠ってレベルじゃないね?お遊びかい?ー

ーあんなのは口を閉じなくしてしまえば楽なもんだよー

ーそういう魔法の使い方を予測すらしていなかったのかな?ー

ーまぁ、君は骨董品だからね、時代に着いてこれないから魔法の使い方すら知っていないのかもしれないねー


聞いてるだけで不快指数が急上昇しているのが俺には分かる。

ああ、そうか、当時全員が同じ対応をしていたのは、こいつの話を聞いていたからか?

確かに、魔法の自由度を甘く見た俺が悪いことは間違いない。

それゆえ、ドラゴンの罠は使わなくなったし、毎回毎回変更している。

でも、それらすべてがこの気味悪い声の主のお陰ではないだろうに、頑張っている冒険者を汚さないで欲しい。

俺についてはいいさ、ある程度は自覚している。

古典的な罠しか作れないし、それに対応する魔法の存在も知らないから。


ーそうだ、言っておこうと思うけど【アラームトラップ】っていうのかなー

ーあれね、部屋に【サイレント・ルームル】て魔法で無効か出来るんだよ?ー

ー知らなかったよね?でもこれで―――ー


いい加減うざいな、消えて欲しくなったぞ。

そもそも【アラーム・トラップ】を俺は使う気がないんだが.....切り札とでも思ったのか?

あんな後片付けが面倒なもんを誰が作動させるか!


しばらく、俺へのダメ出し.....というか俺SUGEEEEEっていう自慢が終わりを迎えた。


ーこの手紙は迷宮に入るダークエルフ達に、こっそり忍ばせたことはもうわかるよね?ー

ー今の君の仕掛けを見ずに当ててあげるよー


!?

あり得ないだろ?

これは録音テープと一緒のはず。

いつ俺が読むかもわからないのに.....


ーもし当たったらメンタリストと読んでもいいよー


ぜってー呼ばねー。

ストーカーって呼ぶわ。


ーここ最近の話から君は宝物庫を色々な薬品で充たしているみたいだねー


それくらいだれでも知っている。

だが、この仕掛けはダルフに頼んで【忘却の呪】を付けてもらっている....罠にはまっても覚えていないはず....故に漏れることはない。


ーその薬品を落とさないように対策でもしてそうだけどー


......落ちて瓶が割れないように緩衝マットを敷いている。

気味の悪い声は本当はこの場にいるんじゃないのか?

そう感じても可笑しくない。


ー薬品を落としたら緩衝マットに化けたスライムが襲うとかー

ー薬品瓶を体温で暖めると溶けてしまうとかー


確かに『考えなかった訳ではない』な

俺はこいつ外したと思いニヤニヤするが、この声はタイミングを図ったように再びしゃべりだした。


ーそういうのとは関係ないよねー

ー仕掛けは.....そう微粒子とかだねー


な!?俺は二の句をあげれなかった。

こいつの言った通りだからだ。

この部屋には常に『ある』微粒子が存在する。

基本的には無害だ。さらにいくら吸い込んでもこの部屋を出れば勝手に浄化されてしまう。

つまりはこの部屋で『あること』をした場合のみ効果を発揮する気体なのだ。

それを当てた?

だが、ここで死んだ冒険者はこの部屋の記憶が消されているはずだ。

どうして分かるんだ?


くすくすと笑うイラつく声。

段々とその声が得体の知れない化け物に感じてきて背中がゾクゾクする。


ー魔晶粒子と結晶水の関係だろうー

ーどうだい当たっただろう?ー


一切の躊躇なく告げられる答え。

その答えは間違いはないのが余計に悔しい。

ホントにこいつは......


因みにどういう罠かというと、魔晶粒子は結晶水と反応し魔結晶を産み出すのだ。

これを利用した結構エグいものだ。

結晶の生成速度は量にもよるが物凄く早い。

魔晶粒子が漂う空間に数滴垂らすと、魔晶粒子が結晶水に吸い寄せられて透明感溢れる薄紫の結晶が出来るのだ。

魔晶粒子は部屋に充満。

では、結晶水は?

そう結晶水はこの部屋の瓶にすべて少量含まれているのだ。

さらにこの結晶水単体では水と何ら変わらない。

つまり、単体同士なら問題は皆無だ。

魔晶粒子自体も、今では存在も疑わしいらしい。

最近は地下遺跡のみ微弱に観測され、ここまで高濃度はあり得ないんだそうだ。

そう【サポート・アシスタント】が教えてくれた。

魔晶粒子のコードはこの部屋の空気解析で簡単に手に入っていた。

というわけだ。

階層主と戦い、回復するために、鑑定もせずここの薬品を飲むと......体内で結晶が生成され、死にたくなるような、内側から溢れる苦痛を受けて気を失うのだ。

本来は気を失っても結晶は魔晶粒子取り込み続ける限り生成されるため死に至るが、この部屋では、魔精の気まぐれ、と言われる加護が掛かっているため、気を失った時点で裸で転送される。

トラウマになるといけないので、ダルフに頼んで記憶を消す機能を頼んだのだ。


この危険な組み合わせ、つまり魔結晶の危険は子供にも教えられる常識らしく。

聖が、学院で教えて貰ったと自慢していたことからヒントを得た罠だったんだが....


それを容易く見ずに看破するのか......

気味の悪い声は、いまだに看破した俺SUGEEEEと喋り続けるが、ふと間が空いた。


ーさて用件を伝えようか?ー


(おい!用なんてあったんかい!?)


俺はさんざん罵倒するだけの糞野郎、ぶっ殺してやると思っていたが用件があったとは.....


ー擬態者.....いや骨董品である君はきっと我々に対して怒り心頭だろうー


ああ、ぶっコロす......いつか


ーだから先に条件を言っておくー


条件?なんだ?何がしたいんだ.....


ー条件を飲むなら、我々は会ってやっても良いー


あってやってもって上から目線かよ。

いや、会ってどうする?

こんな得体の知れない奴とあって何になる?

せめて攻略本だけでも止めるように言うのか?

しかし、発行されたものは止められない。


ーさて、決まったかい?ー

ー用件は簡単だー


いえ、決めてませんけど!?


ーこの招待に同行すれば良いー

ーそれだけだー


同行....ってダルフにか?


ダルフの側にいつの間にかコメットが来て話をしている所だった。

聖はダルフの足元で煙をあげて延びていた。

あ、立ち上がった。


この気味の悪い音声に掛かりっきりで周りでは時間が結構すぎていたのだろうか....


段々と魔方陣が点滅してきた。

この再生も終わるみたいだ。

ふっ、最終的に俺がどうするのか、お前には分かるまい!

そもそも、最後の方俺が条件を呑むとしか考えられないような、話し方だった。

バカ目!俺はこの場に固定されてて動けないから、行けません!ばーかばーか。


音声すらもノイズが混じってきた。

終わりを迎える。

ざまぁぁ。

といってもバチは当たるまい。


しかし―――


ーこの再生が終わったとき君の持っている全てを人質にでも取らせて貰おうー

ーこれを直すのは我らに会うか、招待主に会うかしかないぞー

ー......ざぁざざ......プッー


最後に高笑いと共にそう告げた。


俺が、もし人なら真っ青な顔をして汗が止まらなかっただろう。

俺の視界に埋め尽くされる【サポート・アシスタント】からのエラーメッセージの数々。

それは次第にどんどんと重なりあり、迫ってくる圧迫感があった。


さっきの手紙の魔方陣が赤く輝きだして、急いで外に吐き出すが、遅かったようだ。


ーウイルス感染率88%に押さえましたー

ー使用できる機能、及びスキルに制限が掛かりましたー

ー現在所持アイテム(282,323/321,244)が『呪われ』ましたー

ー感染原因に識別不能の魔法が使われていますー

ー【コード解析】......反応無ー

ー【文字化】.....反応無ー

ー......ー


視界を流れるログに俺は頭が真っ白になりそうだった。


「どうしたのよ?」


なぜか側頭部をさすりながらこちらに近づいてくるダルフ。

その表情は不思議そうだった。

見つめられる蒼い瞳に段々と落ち着きを取り戻してきた。

いいや、心の中は荒れ狂っている....ハズだが。

冷静に状況を見れる不思議な感覚だ。

俺の感情のメーターが振りきれているのかもしれない。


「ん?なんか禍々しい靄なんかがまとわりついてるんだが....」


ダルフの後ろからは、聖が目を擦ったり、細めたりしながらこっちを見ている。


多分呪いの効果でも出ているのだろう。

そう、あの手紙.....んの野郎っ


再び感情が高まってくるが.....こいつらに八つ当たりした何てことはカッコ悪い、と思いなんとか自重した。


――――――――――――――――

俺が変な奴に呼び出されたこと。呪いを受けたこと。


それを当たり障りなく説明すると、ダルフは丁度良いわね。と言った。


「まぁ、元々行くつもりだったし.....嫌がらせを私の部下にした報いを受けさせてやるわ!」

「おい、呪い専門家のダルフが解呪すれば良いだろう?」


そういう聖にダルフがさっと視線をそらす。

コメットが聖に身ぶり手ぶりでなにかを言っている。


「......」

「掛け専....だと?」

「ちょっと、なに、うわぁぁって目線を送るわけ!?」

「でも、なぁ」

「人には向き不向きがあるのよ!!」


ジト目を向ける聖と必死に言い訳をするダルフをみていると、この手紙の主に対する憎悪が薄れていく気がしてきた。

(俺も心配掛けないようにいつものプラカードで......)


ーボードアイテムは呪われていて使用できませんー


......憎悪が上昇した。











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