第二十八話『偽宝箱は逃げられない』
ー見ているのだろう迷宮の擬態者よー
脳内に流れた【サポート・アシスタント】とは違う声。
いまだに踞るダルフを見るが気付いた様子はない。
つまり、この声は俺だけに聞こえている。
ー驚くのも無理はない、そういう風に造ったからなー
ーああ、実に残念だ.....君の動揺しているところを見ておきたかったー
変声器を通した薄気味悪い笑い声。
やはり、原因はこの三枚目の魔方陣だろうか。
紫色に発光しているようだ。
ちなみに俺は動揺していない。
ちょっとビックリしただけだ。
けして動揺はしていない。
ー自己紹介をしたいところだが時間もあまりない、省かせて貰おうかー
ーといっても、迷宮に巣食う骨董品である君に、我々を理解できるとは思えんがなー
ぶっ飛ばしてぇ.....
薄気味悪い声が聞こえてくるがまったく.....
いったい何者だろうか。
魔力の逆探知を【サポート・アシスタント】に頼むとしよう。
そう思ったが直後、釘を刺すような声
ー言っておくがこれは『再生』されているに過ぎないー
ー過度な期待は辞めることだー
む?読まれたのか?
いや、誰でも考え付くことだろう。
俺だってそれっぽいの作れるしぃ!
『再生』かつまり、音声メッセージと認識すればいいのか。
この紫色の魔方陣の発光が終わったら再生も終わるのだろう。
しかし.....勘違いしてもらったら困るのだが......
ーさて、言いたいことは山ほどあるが先にいっ.....ー
プツンっ―――。
俺は三枚目を表示させていたタブを閉じた。
俺の視界内はスムーズに動かしやすいように、窓の最小化と閉じるアイコンがあるのだ。
まさにPCと変わらない扱いが可能である。
故に、気味が悪い声が窓を閉じたことできれいさっぱり消え去った。
うん、人違いだな。
そもそもダルフ宛の手紙だし、俺関係ないや。
見なかったことにして、もうダルフに渡してしまえ。
俺は三枚目の手紙の事を忘れることにした。
だって、絶対厄介事だよ。
あと、ちょいちょい煽ってくるのがウザかった。
あれはスパムだな。迷惑メールだ。
こんなものいつまでも体内に入れておけるか!
いまだに膝を抱えているダルフ目掛けて手紙を吐き出す。
ぺっ―――。
「痛っ!なに頭に刺さったんだけど!?」
Oh.....勢いつけすぎてダルフの後頭部に手紙が刺さってしまったようだ。
【居留守】と【自宅警備】スキルを......
「なにするのよ!?ってあっ!手紙」
詰め寄ってきて、箱(俺)をがしがしと揺らそうとしていたダルフは、投げられた手紙に気付いたようだ。
先程までの落ち込みようが、嘘のように切り替わっていた。
「そういえば、手紙があるって言ってたわね」
これのことか....と呟き、手紙の封筒をバリバリ破く。
びりびりではない、バリバリだ。
「ふ~ん......」
(っておいこら!)
ダルフは指で三枚の手紙を挟み俺の上に腰掛けて黙読しだした。
ダルフのヒップの感覚が俺の上蓋に......だめだ!感覚器が存在しない!畜生!
「なるほど.....めんどくさいわね」
読み終わったダルフは、あからさまに嫌そうな顔をしている。
俺は手紙の内容を、三枚目以外詳しく知らないが、二枚目辺りになにか書いてあったと予測できる。
「私の迷宮の触発されて新規改造したから、遊びにこないかって......場所『サーセルブ南大陸』じゃないの、遠っ!」
てもなぁ....と悩んでいるようだ。
後から聞いたんだが手紙差出人は、ダルフの昔馴染みらしい。
ダルフと同じく魔精に身を落としたお方のようだ。
「うぅん、それにあの子達が折角持ってきてくれたし、コメットにとってもひさびさだしなぁ.....」
立ち上がったダルフは手紙を持ちながら俺の周りをぐるぐるしていた。
たぶんだがダルフ自体は行きたくないが、思いを無駄にしたくないと思っているのだろう。
「あ、これ多分あんた宛よ?」
ダルフは立ち止まり.....やはり三枚目の手紙を俺へと差し出してきた。
おぅ、やはりそうだったのか.....受けとりたくないな。
それうぜーし。
俺をイラつかせるなんて相当な手紙だと思うぞ。
才能だな。ハハッ。
ダルフからの受けとりを拒否してみた。
受け取らない俺を見たダルフは、頭に疑問符を浮かべていた。
「あれ?違ったかしら?この魔方陣の隅に『擬態者へ』って書いてあるからそうだと思ったんだけど」
【いやいや、ダルフさん。擬態者って言っても一杯いるじゃないですか、スライムにトレントに影とか、俺だけじゃないと思うんですよね】
そう書いたプラカードをダルフに見せる。
ダルフは何を今さらみたいな顔をしていた。
「いや、この迷宮に擬態するタイプのモンスターなんていないわよ?」
なぁぁぁぁにぃいいいいい
「69層の小悪魔が擬態?っていうのかしら?猫被ってる?」
ダルフの続いた声は今の俺には聞こえていない。
なぜ、迷宮なのに騙し討ちをするモンスターがいないんだ!
はじめの頃、俺もおかしいと思ってはいたんだ......簡単に罠に掛かる冒険者。
無警戒に近づく奴とかいたし。
宝物庫だから無警戒なのかと思ったが.....そういうことか!
そもそも騙し討ちするやつがいないからか!
そう考えると、はいそうですね。
その手紙は私宛です、はい。
口を開けて舌を伸ばし、手紙を受け取った。
仕方ない....この手紙読まずに捨てようかと思ったけど、ダルフに内容聞かれたら困るし....聞いてやるか。
俺が再び、手紙の窓を開き同じ手順をしているとダルフがうろうろしながら言った。
「その手紙だけど、差出人は別の人よ?どこかでこっそり封入されたのね」
そうだよな....だって魔方陣一つだけとか怪しさ全快だもんな。
ダークエルフが本来運ぶのは前の2枚だけだったけど、こっそり三枚目を混入させられたと言うわけだろう。
「しかも念入りに識別魔法まで掛かってるから私じゃ読めないし」
やはり.....まぁ、いいや聞けば解るだろう。
再生された気味悪い声が再び脳内に響く。
先程の続きまで流し、聞き始める。
ーさて、言いたいことはあるが、先に言っておこうー
ー私が作成した攻略本の調子はどうだい?ー
.......ほう?