第十八話=level:93
お待たせしました。これにて2章終了です。
12月中は忙しくって不定期になります。これが最後になるやも知れません。
コミケェ......
読んでくれて有り難う!!
「お?」
「やったぞ!!」
「......楽しいんだけど、長かったわ」
『......(ソワソワ)』
あれから、聖達が何回か挑戦したときに、運良く『指定配色』と『ルービック・キューブ』の面が揃い、ロック解除に成功した。
嬉しさの余りに、剣を振り回してはしゃぎまくっている聖。
その剣の間合いで振られる凶器を何事も無かったかのようにかわしているダルフ。
俺を開けたそうにしているコメットがいた。
それにしても、トラップってよりロックと言えるこの『ルービック・キューブ』は、今更ながら気付いたんだが、5分で変わるならその色が出るまで待っていれば良いだけじゃないか!!
「なんたる失態!○ータの計画を歪めてしまった!!」
欠点に気づき嘆く俺の声を聞いた聖は、嬉しそうに勝ち誇っていた。
「ふふん、さすが私だ!水無月を悔しがらせるとはな」
くそ、悔しがっているのは聖の事じゃないが、この仕掛けを自信満々に展開していた手前、恥ずかしくってなにも言えぬ!
「くそっ、で?何が欲しいんだ?」
問いかける俺の声に、嬉しそうな表情から真剣な表情に一変させる聖。
「うん、思ったんだが......全部は貰えないのか?」
「おう.....」
聖さん、大きく出ましたな.....
「潔さは良いが.....俄然、断る!」
俺の答えを予想していたのか余り悲しそうにしない聖。
なにか考えでもあるのか、聖は指を立てる。
「しかし、私がこの格好のまま彷徨くと、ストレスで胸が萎む奴がいるかもしれないぞ?」
「なにバカなことを言ってるんだ?」
ふっ、何て理論だ.....そんなことで、夢と希望が詰まったモノが萎むわけが無いじゃないか....
そんなんで、数々の宗教と訪問販売を撃退してきた俺が、なびくと思ったのか?甘い甘すぎる。
それに、後ろで鬼の形相をしている御方がいるのだが.....
まぁ、そんなわけで俺の答えは決まったも同然だ。
俺の声は聖にしか聞こえないし.....
ハッキリと言っておこう。
「わかった。2つな?」
「やったぁ!!」
言っちゃなんだが俺は信じてないよ?違うよ、必死そうだからおまけしただけだよ?
って言いたいが今回は少し.......な。
『あれ、でもここって異世界だからあり得るのかな?』
って思っちゃったら、妄想が止まらなかったんだ!!
仕方ないことさ。
ダルフがペッタンになった姿を想像して、胸苦しい思いを感じてしまったんだ!!
俺は、そう、これはダルフのため強いては、世界の『ないすばでぃ』のためだ!!
俺が自分に言い聞かせていると聖に迫る上司の姿があった。
「なんの話をしてるのかな?」
「ばか、交渉はもう終わったんだ!やめろ!そっちに手は曲がらなぁあぁあ」
聖の手を取り、関節技を決めているダルフに、聖が涙目でタップしているが.....
思えば、聖の泣き顔を始めてみた気がするぞ?変態的な意味じゃないぞ?
「!?あの壷毒でボコボコにされても平気そうだった聖を泣かせるなんて!上司なんて恐ろしい人.....」
さて、バカなことを言ってないで、何を渡すか
......悩むなぁ。
とりえず、一個目は鎧が脱げても行動できるようにインナーの上に着る物を渡そうと思う。
さっきの話からヒラヒラフリフリは嫌らしいので、ここに訪れる女冒険者を参考に作るかな。
作ると言っても冒険者から鎧からインナーまで入手している俺にとっては解析が終っている物を再構築し直すだけで良いから数秒なんだけどな。
「しかし、女パラディンのイメージって『王の配下にいる優秀魔導神官の弟子』の服装しか浮かばないんだが....扇情的すぎるな」
となれば、無難にありのままをを呼び出すしかないか、サイズについては聖を一回取り込んだときに網羅してるし、間違いはないだろう.....数日で成長してなければな。
「鎧の下の着る服だが、色は何が良いんだ?」
「白か黒!!」
シンプルだな......おし、じゃあ、鎧がメタルブラックになるから白だな。
【コード解析】スキルによって得たコードから該当のモノのコードを魔素を消費して再構築した。
一応なんかあったときのために【再生】【魔力回復(小)】を付けておいた。
【再生】は文字通り服が全損しない限り、時間は掛かるが自動的に元に戻るスキルで、【魔力回復(小)】もその名の通りの効果が付いている。
「まず、これな?」
「うぅむ!」
俺は口から吐き出し、正面にいる聖に渡す。
聖はわなわな震えていたが、服ってそんなに嬉しいのか?
服なんてどこで買っても一緒だろ?と考えている俺には一生理解できないことかもしれん。
早速着替え出した聖を意識から追いやり、次に何を渡すか考える。
中学生くらいの美少女の生着替えをじっくり眺められるほど俺に度胸はなかったんだ。
『.....!!!』
「な!?部屋に行けだと、時間がもったいないだろ!!」
コメットが注意しているようだが、今のテンションの聖は聞いちゃいない。
ダルフは聖の行動について諦めているのか、咎めないようだが......一つ言いたい。
俺の前に、魔法で黒い壁を作るの止めて貰えませんか?
そんなことしなくても見ないぞ!
隠そうとすると見たくなるが、大っぴらにされると恥ずかしくって直視できないんだ。
ああそうさ!!
「......俺はチキンだよ」
「ん?箱なのに?」
俺の呟きを律儀に拾われたが、この際無視する。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー。
「へぇ~、本当にウチの種(子)みたいになったわね......」
「というか、ダークエルフそのもののような気がするんだけどな」
俺とダルフは服を着た聖を見てそう思った。
ここは異世界で、俺の中のイメージであるダークエルフってこうだろう?というモノの体現者が目の前に二人いるのだ。
一人は言わずと知れたダークエルフの元精霊。
もう一人は、【ダーク・ナイト】から【ブラック・パラディン】に進化した黒木聖。
二人は年の離れた姉妹の様に見えるほどそっくりだった。
もしかしたら、迷宮の主であるダルフ・レファンシアに影響されているのかもしれない。
「なんだ?私は【ブラック・パラディン】だぞ?」
「まぁ、そうなんだけどな.....」
不思議そうにしている服を着た聖。
服の感想は良好だぞうだ。
「魔力も良く馴染む!デカ乳の服と違ってな!!」
「絶対っっ、絶対に気のせいでしょ!?」
なぜ、煽る聖さんや....
これについては後程聞いてみるか......
「で、盾で良かったのか?プレートメイル、レギンス、スカートとか鎧が必要だろう?」
「いや、これでいい!これがいい!!」
聖が選んだのは盾だった。鎧も一応あって、外観をホログラムで見せたら『これ!』と即答したのは盾の方だったのだ。
まぁ、いいならいいんだけど、盾より体を覆うタイプの鎧のほうが、俺的には安全だと思うけどな。
2層のボス闘を見ていたが、体を掠める攻撃が何度かあったし、鎧を選べば一部分だけとはいえ【剣身一体】のスキル効果で防御力の底上げが可能な筈だ。
それに盾は相手の攻撃を受け止めるイメージがあるが、小柄な聖が攻撃を食い止めるのか?
盾自体も、剣並みスキルを加えてある。
銘:ルーサルファ・聖
盾形状:六角系ベース
スキル:【魔法吸収(中)】【魔法反射(中)】【闇属性強化(低)】
うん、ちょっと強めになったけど仕方ない。
鎧を着けない変わりにこれである程度防御面を補えれば、少しは戦いやすくなるんじゃないだろうか......
そう思っての事だ。
まぁ、折角進化したのに死んでばかりじゃ可哀想って思っていもいるし、全身装備した状態なら自らのスキルで相当強くなるんじゃないだろうか......と【サポート・アシスタント】がいうから間違いないだろう。
つまり、現在の弱体化の原因は、装備を渡さない俺のせいとも言えるのだ。
俺のプライドのせい.....
「でも、俺は性格も要因だと思う」
俺の呟きが聞こえたのか、盾を胸に抱き嬉しすぎてその場をゴロゴロと転がっていた聖はこちらを向いた。
「ん?性格が、かわいい?」
「言ってねーし、それはない、けして」
子供のようにはしゃいでいる所を見ると、ほんわかしたした気持ちになってきた。
ダルフもコメットも雰囲気的に、そんなところじゃないのか?
聖は立ち上がり俺の前に来て、俺の上蓋、つまりドラゴンの上顎をぺちぺちと叩いた。
「水無月ありがとう!!」
「お、おう、でもなぜ叩く?」
俺の台詞をスルーする聖。
聖はダルフとコメットの方に向いた。
「な、なにかしら?」
警戒するダルフと不思議そうに聖を見るコメット。
聖は胸を張り偉そうに腕も組む。
「うん、デカ乳達にもここまでの事......感謝するぞ!」
偉そうだが満足げにそう言った。偉そうだが。
コメットはニッコリとした後、頭を下げた。
これは俺でも分かるが「いえいえ」とか言ったのではないか?
ダルフは.......
「......貴女、偽物じゃないの?」
「なんだと!!」
懐疑的な視線を聖に向けていた。
さすがに憤慨する聖。
「黒木さんが私に素直に感謝を示すわけ無いわ!うそよ!偽物よ!!」
「おい、お前の中の私はどういう人物なんだ!!」
この二人が数日どういう関係を培ってきたのか俺には分からないが......きっと聖がやりたい放題したせいで信じて貰えないって所か?
「いい、私の知っている黒木さんは私に対して『ツンツンツン......ツン』よ!!」
「よくわからんが、聖騎士である私を侮辱したな?その表現にイラっとするぞ!!」
ダルフそれ、デレこねーじゃねーか!!
ただのうざい奴だろ!?
「折角、私がいままでの感謝を込めたのに!!」
「だから、私に素直に言うことが信じ.....なんて言ったの?」
ため息を吐きつつ、聖が言った言葉がダルフにとって何か不思議だったらしく、聞き返す。
「ん?これまでの感謝を込めたんだぞ!!」
「......どういう意味よ?」
今度は真剣な顔をするダルフ。
そういえば『いままで』とか『これまで』とか、なんか関係を終わらすみたいな発言だな。
『???』
コメットも気づいたのか、何が何だかわからないと表情に出ていた。
聖は何を当たり前なことを......というしぐさをした。
「いや、そもそも、私はデカ乳の眷属じゃないから主の元に戻るのは当然だろう?」
「......え?」
「なんですって?」
『!?』
驚く俺とダルフ。
コメットはダルフを見て驚いていた。
つまりコメットは知っていたのか。
いやいやいやいや、何がどうなってるんだ?
黒木聖は魔精であるダルフ・レファンシアの眷属だろ?
それが違うのか?
ここで生まれたのにか?
コメットは違う場所で生まれたから主が違うのは分かる。
つまり、言い方は悪いが、コメットは奉公に来ているんじゃないのか?
俺が考えを巡らしていると、ダルフが聖を追及していた。
「ど、どういうことなの?貴女は【ダーク・ナイト】から進化した私の眷属でしょ?」
「うむ、それは間違ってないが、眷属ではないぞ?」
「そうだ!カードに私の恩恵を受けたスキルがあるでしょ?」
ん?眷属になると恩恵を受けるのか?そのスキルか.....
「いや、そう考えると俺のスキル欄にダルフの恩恵スキルあったか?」
ーダルフ・レファンシアの恩恵は神セーファ・セキュリアの強力な恩恵に打ち消されていますー
まじか!!神、どこまでも規格外!!
ーよって、ダルフ・レファンシアの眷属にはなりえませんー
て、ことはだよ?俺あれなの?
俺の世界で風当たりが強いあれなの?
「つまり、はけーーー」
ー派遣社員ですー
そうかぁぁ!そう考えると俺の派遣元は神だもんな!!俺、神の使徒かよ!!
現実をほったからしにして悶えている俺を余所に、ダルフと聖の会話は続いていた。
「ないぞ?」
「う、そ.....」
「ホントだ!ほら」
スマホに似た大きさと厚みのカードから、空中に投影されるホログラムを操作して、ダルフにカードを
渡していた。
表示される画面に目を通したダルフは、俺の方をチラッと見て、何故か納得していた。
「そうね.....私の眷属じゃないなら、言うことも聞かないのも.....その性格も納得だわ」
はははっ、その言い方だと.....つまり、聖の主の影響が反映されていると言っているようなもんだが、そんな主って誰よ?
「はい.....ちょっと見てみなさい」
「お、おう.....」
何故か、張り付けたような怖い笑みを浮かべるダルフによって渡された、聖のカードを確認のため『ペロリんちょ』して一回取り込む。
取り込まないと俺操作できねーんだよ。
手がないし。
聖のカードを操作してプロフィール画面を確認した。
そこにはーーー。
【魔(中)】
名:黒木聖
MP:6831/8000
種族:ブラック・パラディン
タイプ:人系
固有魔法:【黒白の波動】......光属性と闇属性の魔法を無効化し吸収する常時発動魔法。
発動スキル:『【剣身一体】【魔法無効(中)】【魔法剣技】【身体強化(中)】』
保有スキル:【偽宝箱の恩恵】
となっていた。
固有魔法の欄に俺の心を釘付けにする名称の魔法があるが、今は【偽宝箱の恩恵】というスキルだ。
【偽宝箱の恩恵】......装備品及び肉体へのダメージを減少する。隠し武器による先制攻撃の成功率上昇。偽宝箱(水無月)によって与えられる恩恵。
「俺の名前入っとるがな.....」
『ぐえっ』と吐き出したカードを聖に返した。
ダルフは俺に何やら言いたそうな視線を向けている。
「くっ、つまり、お前のせいと言いたい訳か!!」
そう、思っているの違いないだろう。
ダルフは俺に物凄く近づき、内緒話するように小声で話しかけてきた。
その際、デカイ凶器が俺の体に押し付けられていたが、感触がないなんて、なんて生殺しだ!!
「ねぇ、私の言うことを聞かないのって、主じゃないからだと思うのね」
俺がしゃべってもダルフには聞こえないし、喋ると、コメットに嬉しそうに盾を自慢している聖に、聞こえてしまうかもしれないため、ここは言い終わるまで待つことにする。
俺の考えが分かったのか、ダルフはそのまま話を続けた。
「そして、あんたの言うことを聞く。これ決定的でしょ?」
まぁ、おれも不思議に思っていたところだ。
「私の言うことを渋々聞くのは、あんたが何か言ったんでしょ?」
そういえば、最初に俺の上司だぞ、俺が仕えている的な事を言った気がする。
「それは、まぁいいとして......」
チラッと後ろを確認していた。
「本題は、私が黒木さんを従わせたいとき、あんたを通せば素直に従うって所よ」
まぁ、従うんじゃないのか.....多分だが。
「そして、あんたは私の一応は配下な訳ね?わかる?」
あっ、これあれだ、父さんが悩んでいたヤツだ。
つまり、板挟みの.....
「中間管理職!」
聖がちらっとこちらを不思議そうに向いたが、気のせいと思ったのかコメットと話始めた。
「私の言うことを聞くのよ?絶対よ?」
なぜ、そこまで念を押すんだ?あれか?従わない配下でもいるのか?はっ.....
「幹部のことか!?」
最後にダルフは何か指示があったら連絡するからと言って、俺の中に通話受信用の呪符を突っ込んで、離れていく。
「黒木さん、理解したわ」
ニッコリと満足の表情のダルフは、コメットを連れて部屋に戻るようだ。
ん?聖は連れていかないのか?
不思議に思った俺に、早速通信が入る。
『じゃぁ、今度来るときまで、黒木さんを教育しておくように、命令よ?』
は?
なにか?つまり、これから聖とこの場所で.....
「おい、私は久々に中に入りたいぞ!!入れてくれ!」
「共同生活!?っていうか家扱い!?」
俺は確かにお手伝いさんを欲したが、住み込みの人は欲してないと思う。
そう思う俺だが、もはや、覆すことが出来ない事実。
なら、開き直るまで!!
「くっそ、ならば豪勢で『白い家』にも勝てる設備を俺のフレームに造るまでのこと!」
とりあえず、仮の枠に聖を装備品丸ごと突っ込んどいてやる。
待っていろ!俺が最高の住み心地を作ってやるぜ!!
フレームの結合!結合!!結合!!!
次回ー『迷宮への招待状』ー
予告
迷宮に届いた違う迷宮からの挑戦のお誘い、動けない水無月は喜んで留守番を買おうとするのだが....




