第十七話=level:93
遅くなりました!一回書いたものは気にくわなかったんで投稿する前に消して再編しました。
予定より一日遅れましたが、それではどうぞ。
気にくわなかったところ→『黒木さんが真面目にピッキングしていた』シュール過ぎて.....
ついにこの時が来てしまった.....
上司の最近の苦悩の元、【ブラック・パラディン】に進化した黒木聖が、ドラゴンに噛み付かれた宝箱(俺)の方へ走って近づいてくる。
聖はツルツルした台座の前で止まり、魔精のダルフにキッと視線を向けた。
「......なんでデカ乳がここにいる?」
「こ、細かいことは気にするもんじゃないわよ?」
俺の隣に立つダルフがこの部屋に居るのは、幹部会をすっぽかして逃げてきたからだ、とは流石に言えるわけがないな.....
聖はムッとした表情のままだ。
気になるらしい。
「私にとっては大事なことなんだが.....何をしていたんだ?」
聖はそう言って俺に視線を送る。
俺!?
どうするべきか.....
後輩の要望に答えるべきなのか?
それとも、上司を立てるべきなのか.....
「特になにもしてないぞ?勘潜りすぎじゃねーの?」
上司を立てることにした。
「うん、そうか、ならいいんだ」
聖は、俺の言ったことにすんなり納得していた。
なんかそう素直に信用されると心にヒビが入るな......
俺が聖と受け答えしたことで、隣に立つ上司は聖の反応をビクビクと伺っていたが、納得した顔を見てホッと胸を撫で下ろしていた。
まぁ、部下に失態を見られたくないって心とか、親の愚痴を子供に聞かせたくないとか、そんなところじゃないのか?
「それにしても、聖......なんでインナーのままなんだよ?」
「むっ、それに関してはデカ乳が悪い」
聖はしれっと返す。
当然俺の声は聖にしか聞こえていないため、聖の声しか聞こえないダルフは会話の予測を元に話しかける。
「それって.....あ、服のことね?」
『それ』という単語と『悪い』と指摘されただけで会話を読み取るのか......ニュータイプか?
俺が驚愕していると身振り手振りで訴えるダルフ。
乳がぷるっと......有り難うござい、あーざーす。
「違うでしょ!?私のせいじゃないでしょ!」
俺と同じ高さの台座にいたダルフは、段差を降りて聖の正面まで行った。
「あんたが!!私が幹部に特注で作らせた服を粗末に使うからでしょうが!!」
「......ふっ、粗末に使ったんではない、元々耐久力が低かったせいだな」
アイアンクローを繰り出すダルフの手を、聖はかわしてドヤ顔をしてい.......うぜぇ.....
後ろ姿しか見えないがダルフめっちゃ怒ってる雰囲気なんだが、なぜ聖はやり遂げた顔をしているんだ?
「そもそも、ヒラヒラフリフリで戦うのが騎士としてどうかと思うぞ?それに、私の魔力が流せないからスキルの効果範囲外だしな!しかし、まぁ、この外套は中々の性能だったぞ」
わなわな震えるダルフに、お構い無く喋りだしたが......
もう、止しとけば良いのになぁ。
遠くではコメットが『あわわわ』と言っていそうな表情で固まっている。
聖が上機嫌な理由は俺が思うに、初対面の時に喰らったクローを避けれたのが、よっぽど嬉しかったんだろう。
聖は最後に飛びっきりの笑顔でふるふるしているダルフの肩に両手を置いた。
「まっ、そもそも、私がゼライムごときに丸飲みにされなけーーーー」
聖は最後まで喋らせて貰えず、その場でプスプスと黒い煙をあげて消えていった。
何が起こったかをありのままで話すと、俺がトラウマになりそうだから三行で言う。
黒炎で
黒木聖
燃える
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。
「ふうっ......」
シーンと静まり返る宝物庫で「きょうも良い仕事したわ!」と言えるほどの満開の笑みで額を抜くっているダルフ。
呆気に取られてなにも言えない俺。
ダルフに駆け寄るか、ダルフの部屋の扉に向かうか、オロオロしているコメット。
なんとも言えない空気の中だった。
すると、ダルフの部屋へと繋いである扉が勢いよく開いた。
俺から見て右側だ。
「ふざけるな!!台詞の途中だったぞ!!」
『......!!?』
開けられた扉から出てくるのは、ボサボサ状態の銀髪な聖だった。
コメットが見てられないとばかりにテッテッテと駆け寄って、然り気無く髪を整えていた。
聖がコメットに好きにさせている事に俺は驚きを隠せないが、他3人、ダルフと聖とコメットにとっては何時もの事なのか流していた。
「それは、こちらの台詞よ!」
ダルフはコメットを随伴させ近寄ってきた聖に、聖が大事に持っていた剣を突きつけた。
何故持っているのかというと、聖が消えたときに剣は残ったからだ。
外套は完全に焼失していた。
俺は始めてみたが、冒険者と同じく死んだら装備品もドロップしてしまうのか、すると6回死んだ聖の剣は毎回誰が回収していたんだ?
そう考えたが、答えなんて一つしかない。
「コメットさん....俺もコメットさんみたいな子が欲しい」
少し離れているため、俺の俗物まみれの声は届かないだろうが......
「あっちょっと、剣を返せ!!」
突きつけられた剣を奪い返そうとするが、即座に手を引っ込めるダルフ。
お怒りですね.....
「いままで、見逃してきたけどもう怒ったわ」
「け、剣を人質に何をする気だ!?」
じりじりと近寄ろうとする聖。
ダルフはチラッと俺を見て申し訳なさそうな顔をしていたがすぐ向き直った。
気のせいか?
「【誓約】ー私に口答えした場合、黒木さんの剣を私が折って良い権利を得るー履行!!」
ダルフの周りに6重の魔方陣が現れ、そして新たに7つめの新しい魔方陣が加わり、発光した後消えていった。聖の方は右手の甲を押さえていたが.....そこに何か印でもあるのかもしれない。
「な!?う、そだろ?」
驚愕に包まれる聖。
まぁ、わかる....かな?結構大切にしてたもんな....専用装備も欲しいって言ったくらいだしな。
「でも、仕方ないな、これで少しは立場を学ぶと良いと思うぞ.....」
許せ、聖、俺は今回上司に付くぜ!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。
というか、だね?
俺は口を開きプラカードを取り出す。
【で、やるの?やらないの?】
意気消沈して、体育座りをしてコメットに背中を擦って貰っている聖と、その光景を心配そうにチラチラと見つめるダルフを俺に注目させる。
三人して読んだ後、聖の表情をうかがうダルフと、愚直に首を縦に振る聖。
「黒木さん?」
「やる!!」
そうか、わかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。
長かった.....というかこいつら、もう主旨忘れてたんじゃないだろうか.....
俺、要らない子、いや要らない箱.....
.....さて、これから俺に挑戦するわけだけど、【罠外し系】スキル持っているのだろうか?
台座のギリギリにはダルフとコメット。
ダルフは、こういう参加する側は、はじめての事なので興味深そうに見ている。
コメットは......ハラハラしてせわしないな.....
ちょうど正面まで段差を登ってきた聖は.......
「ではいくぞ!水無月!覚悟は良いな?」
「待てコラ、なんで剣を振りかぶってるんだよ!!開かねーからその方法じゃあ」
どうやら、【罠外し系】スキル持っていないようだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。
あれから、幾度となく剣を振り被られた俺は、聖のため【罠外し】や【ロジック】を学んで貰おうと思い、罠の方針を外敵排除系から、理論・知能系に変更した。
試したいこともあったので丁度良いだろう。
この2種類を簡単に言うなら、『トラバサミ』か『知恵の輪』かだろう。
と、言うわけで、聖には立方体の6面の色を揃える『ルービック・キューブ』での指定配色を俺の嵌め込みに入れて開けるというモノにやって貰っている。
俺が試したかったのはこれだ。
これにより、時間制限を短くするだけで物凄く難しいロックになるんじゃないのかと思ったんだ。
「おし、黄色を一面揃えたぞ!!これで......」
喜んでいるところ申し訳ないが、5分経って指定配色は『白』になってしまった。
結構、いいトラップになったんじゃないかと思う。
「くっそー!」
「あてっ!?」
よほど悔しかったのか、俺作の不壊・不変の立方体を俺に投げつけてきた。
俺は痛くも痒くもないが......こう、つい言ってしまうときってあるよね?
コロコロと転がった【ルービック・キューブ】を拾ったダルフは、俺と手元を交互に見つめて、何かを求めているような.....
「ああ、そうか!わかった」
俺はプラカードを取り出す。
クイッ
【もし良ければ参加します?】
「い、いいの?」
プラカードを読んだダルフはソワソワとしており、嬉しさを隠そうとしているようだがバレバレである。そして、コメットも巻き込んで、台座を上がって俺の出したプラカードを見て不貞腐れていた聖に声をかける。
「黒木さん、別に横取りする訳じゃないのよ?『これ』が楽しそうだからね?」
「ふん、どうだかな、私よりも頭脳が良いことをアピールしたいようだが、アピールするのはデカイ乳だけにしておけば良いんだ.....」
「は?剣折ってもいいのよ?」
「っ!」
『......(オロオロ)』
しかし、こいつらなんでこんなに仲が悪いのか.....間で両方の面倒を見るコメットは大変そうだな.....そう他人事のように思う。
ダルフは俺の嵌め込みの色と5分で変わる『順番』を確かめた後、両手で的確に3面揃えた。
正直すごいと思う。
俺一面揃えるのに一週間掛かるぜ?
悩んで悩んで、結局、適当に回していたらなった、的な。
「これでバッチリよ!なんだ先を読めば簡単じゃない」
「おい、できない私にケンカを売ってるのか?そうなのか?」
色彩を欠いた目でダルフを責める聖。
気持ちはわかるぞ!ああ、まったく.......出来ない奴にケンカを売ってるのか!?
「違うから、落ち着きなさい」
悠々と語るダルフ。
「嵌め込む時の指定色が一つだからって、作って良いのは『ひとつ』という指定は無いのよ.....計算すれば......ほら、このように」
そう言って【ルービック・キューブ】を片手で弾きながら俺も前にしゃがみこみ竜の口を覗く。
「次の配色の確率は青が70、赤が20で、その他が残り。つまり、青と赤を作っておけば正解なのよ!!」
「なるほど為になるな。デカ乳さすがだな!!」
聖は自分が思い付かなかった攻略法に素直に称賛を送っている。
ダルフは、機嫌よく俺の嵌め込みに3色出来た【ルービック・キューブ】を構え勝ち誇っていた。
しかし、
ピピピッーーーー。
嵌め込みに表示されたのは、ダルフが準備したのとは別のものだった。
いや、計算はすごいけど、俺が順番決めてる訳じゃねーしな、乱数プログラムを組んだだけなんだが。
つまり、完全に運だったと言うわけだった。
どんまい、上司!!
「あれ?うそ!!」
驚きの声をあげるダルフに、聖が一言。
「なんだ、お前も一緒じゃないか....」
「私も黒木さんと同レベルですって?」
がっくりと肩を落とすダルフに、やさしげな聖がいた。
因みに........
『っ?っっ!?』
ダルフの手元を転がった【ルービック・キューブ】を拾い、主より先に六面揃えてしまったコメットは、即座に体の後ろで証拠隠滅をしていた。
もう一話で2章終わりです。