第2話=【ブラック・パラディン】level:7
その頃水無月さんその1
盗賊の少女が、豪勢な宝箱に手をかざし、一生懸命にスキルを唱えていた。
それを見守る4名の仲間達。
「【スティール】!【奪取】!【アサルト・スティール】!」
応援する仲間達。
「いけるっす!」
「ああ、今、惜しかったな!」
「あと少しよ!頑張って!!」
「......私思うんですけど、これって奪えない系じゃないかと、あれ?私の話聞いてません?」
そして、正解にたどり着いた魔法使いは皆からハブられていた。
誰も彼女の声を聞こうとしない。
「いじめじゃね?あと、そんなに頑張っても俺から奪うなんて不可能!」
しばらくして盗賊の少女のMPが切れた。
「あれだよ?実力行使ってやつ?」
「良いわね、全員で留め金を狙いましょう。」
「ご、ごめんなさい。私のスキル熟練度不足で。」
「いいっすよ、MPばっかりあって役に立たない魔法使いさんもいるっすから。」
「あれ?それって私のことなのかな?そうなのかな?だから、素直に罠ハズーーー」
「やるっすよ!」
「おおおおおおおおーーーー。」
「あ、無視!?」
こいつらだめだ......
もう、魔法使いの女性ソロでやった方が絶対良いって。
いじけて隅っこで体育座りをする魔法使い。
近づいてくる4人の冒険者。
綺麗で真っ白な台座に鎮座する宝箱に群がろうとする。
「いいです、私の【感知】スキルで罠は宝箱にしかないということが分かっています。」
「それにしてもデカイ宝箱ね。」
「4人で山分けだな」
「じゃあ、いくっすよ。せーので.....」
それぞれの武器を振りかぶる4人。
それと同時に軽い音。
ーーーーカチッ。
「ん?」
「え?」
「あっ」
「ちょ、おま。」
宝箱の4方には大きな落とし穴。
○くん人形のようにボッシュ~とされた4人。
「......いつから、トラップが箱だけだと勘違いしていた。」
満足感一杯な俺。
生き残った魔法使いの女性は近づいてきた。
穴に落ちて死んだ冒険者の装備が穴の横に転送されていた。
何をするのか見ていると、彼らの装備を拾っていた。
「売りさばいてやるんだから!ざまあみさないよ。ばーかばーか。」
涙目で宝物庫から走り去ってしまった。
今日の水無月さんの戦果12勝3敗1分
レファンシアの呪海迷宮の第3層は、出会う敵が連携を取り始める階層である。
ソロで挑む者にとってはこの階層は大変だろう。
出てくるモンスターはほぼすべてが騎士甲冑を纏った者達で、彼らは戦闘を始めると人間のように仲間を呼び始めるのだ。戦い方もモンスターのように本能で戦うわけではなく、騎士のように戦うのだ。
冒険者の一団を見つけると彼らは、一度、ポーズを取ってから攻撃してくる。
冒険者にとっては騎士系モンスターのその動きは、明らかな隙でしかなくその間に攻撃するのが効率が良いとまで言われているが.......彼らが何を考えているのかは創造主であるダルフ・レファンシアも分かっていない。迷宮にいる5人の幹部や、69層の小悪魔のように言語を話せるのなら、意思の疎通も楽だっただろう。
ただ、この階層の騎士系モンスターをよく観察してみると、冒険者と向かい合うときのあの行動。
剣を上に掲げた後、ゆったりと構えるあれは名乗りでもあげているのかもしれないが、それを知るには彼らの声が聞ける存在が必要不可欠だ。
そんな3層の騎士モンスターの種類は5種類。
【レッド・アーチャー】......弓を使う遠距離型の赤い騎士甲冑。兜で視界が狭まっているので弓の命中精度は高くない。
【ブルー・ブレード】......身の丈もある大剣一本を持つ青い騎士甲冑。大剣が重いのか、動きが遅い。また大剣がデカイせいで狭い通路では木偶の坊とかす。
【グリーン・シールダー】......大きな盾を持った緑の騎士甲冑。攻撃方法はなく、味方を守ることだけする。盾は固く倒すのに時間が掛かる。
【イエロー・ランサー】......1m30cmはある槍を振り回し、全身を黄色いローブで覆い隠す槍兵。基本単独行動をしている。攻撃力は高いが装甲が薄いので一対一なら倒しやすいが、団体戦になるとグリーン・シールダーの後ろに隠れて攻撃してくるのでタチが悪い。
【ホワイト・ヒーラー】......後方支援要員。真っ白い聖職者の格好をした仮面をつけた人物。レア個体。団体戦にしか参加しないが、いるかいないか冒険者にとっての脅威度が段違いな存在。ただし、回復魔法を3回使うとMPが切れてなにもしなくなるため、攻略法は意外に豊富。
この寡黙な5種類のモンスターが3階層を闊歩している。
しかし、所詮は初心者最初の壁と言われる3階層なだけあって、こちらも6人以上のパーティーを組むか、メンバーに魔法使いが入れば簡単にボス部屋までは突破できる。
そして、3層のボスはメタルブラックの騎士甲冑に左手には黒い盾、右手の直剣という出で立ちの【ダーク・ナイト】。
ボスと言われるが身体の大きさはそれほど大きくなく、他のモンスターと大差がない。
今まで発見しだい集団戦を仕掛けてきた騎士系モンスターと違うところ、それは、【ダーク・ナイト】は単体で戦うのだ。取り巻きなどは存在しない。
それならば、袋叩きに出来るとパーティー全員で向かうが、ボスを張るだけの戦闘力は持っているため、剣技も中々のものだ。
唯一の弱点は剣を手放させることにある。
これは【ダーク・ナイト】の固有スキル【剣身一体】から来ている。
【剣身一体】......所有する剣の性能やスキル特性をある程度自らの身体に宿すことが出来る。強さは所持する剣によって影響されるため、剣を折ったり、手放したりすると果てしない弱体化が起こる。
つまり、これにより剣を折るか、奪うかが、3層を突破出来ない冒険者の勝利条件となる。
それならば、魔法で遠距離からバンバン攻撃すればいいと思えるが、残念なことにそこも、初心者の壁と言われる存在である【ダーク・ナイト】に抜かりは無い。
【ダーク・ナイト】の2つめのスキル【魔法無効(低)】というものがあるのだ。
それによって、未だに初心者の域をでない冒険者の魔法なんか全く効かないし、それ以上の中層域のベテランの冒険者の魔法攻撃も緩和することが出来る。
魔法を主体として戦う冒険者の天敵と言える存在である。
さて、そんな【ダーク・ナイト】から急激な進化を遂げた【ブラック・パラディン】である黒木聖は今、一層のボス部屋の前で倒れ伏している。呼吸はない。
段々と薄れていく身体と共に意識も落ちたように見える。
そして、その光景をため息を吐きつつ見つめる人物、ダルフ・レファンシアは、何故かオロオロしているコメットに指示を出した。
「コメット、その剣持ってきて頂戴......ってどうしたのよ?」
『......(ペタペタ)』
ダルフは、自らの豊満な胸に手を当ててくるコメットに不思議そうにしていた。
コメットが手を当ててきた場所は丁度先程、【ブラック・パラディン】の黒木聖に貫かれた場所だった。当然怪我も回復した痕跡もない。
訳が分からず混乱するコメット。
コメットから見ると、先程の戦闘は一瞬の出来事で、起こったことが理解できなかった。
まず、近くにいた黒木聖が身体強化魔法の速度上昇の【シャドー・インパルス】と力と闇属性増幅の【ダーク・リベリオン】を掛けてダルフ目掛けて、消えるような速度で突っ込んでいったのまで理解できたが、主であるダルフの方に視線を向けると、悠然と立つダルフの胸に生える漆黒の剣とその側にドサリと倒れる黒木聖の姿があったのだ。
黒木聖の方はもう息はなく、リスタート地点に戻されるだろう。しかし、胸に剣が生えたダルフが何事もなかったかのように振る舞うのだ混乱もするだろう。
『???』
「ああ、やったことがわからないのね?」
コメットの様子を察したダルフは説明をした。
「私が無事なのは、【呪術式・転痛身】を使ったからよ。ほらこれよ。」
そういってその場にしゃがんだダルフは足元で四散している何かが書かれた紙の切れ端を拾った。
「これって『呪符』って言うんだけど、これを刺される前に私に貼っておくでしょ?すると、私が受ける傷を攻撃者に返すっていうモノなのよ。それで私は無傷。まぁ今回は、この子の実力もよく分からないし、手加減しなかったから、私が受けた8倍のダメージが入っているかしらね.....」
『......!!!?』
それを聞いたコメットは主の服を引っ張り、急いで黒木聖の様子を見るように懇願する。
ダルフは必死そうなコメットに驚いたが、納得した顔を作った。
「そっか、コメットにとっては唯一の進化仲間だものね.....いや、後遺症とかない、でしょ?」
『.....!』
「あれ、なんか不安になってきたわ!」
『!?』
考え込んだ後難しい顔をしてそう言ったダルフをポカポカと叩くコメット。
ダルフとコメットは一層の高原ステージから自らの部屋へと飛んでいく。
高原ステージには、ボス部屋の前に不自然に抉れた跡が残っているだけだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。
「よっと......おいコラ!」
『???』
場所は代わり、ダルフの部屋に戻った二人が目にしたのは、裸になってあぐらをかき、自らの胸を触っている銀髪の少女がいた。
「ん?遅かったな!今回はよく分からんが私の敗けのようだ。やるなデカ乳!!」
二人に気づいた少女、黒木聖は両手を腰に当てて偉そうに言った。
その様子を見て、ダルフは後遺症なんかこいつに起こるのか不思議に思ったが、コメットは何かに気付いたようで、黒木聖に身振り手振りで話し掛けていた。
『......!...!!』
「ん?恥ずかしいから服を着ろ?何を言う騎士である私に恥ずかしい所など皆無!」
『.....!?』
「おい、バカと言ったのか?言ったのか?」
『....ッ.....!!』
「くっ、これは敗北などでは......」
『.....?....!?』
「なんだ、やぶからぼうに、後遺症?変わったこと?」
二人がしゃべるところを見ていたが、ダルフにはコメットが何を言っているのか聞こえない。
あの変わった偽宝箱と喋る事と良い、どうやら、黒木聖には何かしらのスキルを獲得していると見て良いだろう。
(聖騎士の純人族が確か、【神の囁き】というスキルを持っていると聞いたから、それに準ずるものかしら.....)
そう思いつつダルフはため息を溢す。
「もっと性格がマトモならいいのに.....」
二人はまだ話しているようだがいい加減ダルフも疲れてきた。
『!!』
「いや、待て、そう大袈裟にペタペタと触るんじゃない」
『.....?』
「胸のな......ここら辺が、デカ乳刺したとき痛かったんだが、もしかしたらと思ってな。」
『???』
「いや、私の胸が成長、痛!何故殴る!?」
『!!!!』
しかし、いつまでもじゃれさせて置くわけにもいかず、ダルフは真面目な話切り出す。
「黒木さん、分かってるわね?誓約は破れないのよ?」
「ああ、もちろん。」
何故そんなにカラッとしているのか不思議に感じるダルフだが、すんなり行く事は良いことであると思い直す。
「じゃあ、絶対に服をきること!これね」
「わかった。じゃあ、この黒い外套でいいか?」
そういって黒木聖が取り出したのは、ダルフが外出用にと、腐れ縁の元エルフの精霊種で、今は同じく魔精をやっているエルフィに作って貰ったものだ。
「ちょっと、待ちなさい。ストップ!」
「なんだ?」
「が、外套は服に入らないと思うのだけど.....」
「じゃ、どれを着ろって言うんだ?言っちゃなんだが、ここにある服は私のサイズじゃ無理だぞ?」
「しまった!着せることばかりで、肝心の服を用意してなかった!」
ダルフは後悔した。準備と言うのは大事なんだと。
あと数日稼いでおけば、準備できたが、迷宮を歩くインナー姿の黒木聖のことで頭が一杯だったのだ。
故に、外套を手離すことにした。
それに、次に黒木聖が死んだとき取り替えて貰えば良いと言う考えもあった。
「しかたないか.....いいわ。でもちゃんと羽織るのよ?余り素肌は晒さないこと」
「任せろ!デカ乳。次は負けないからな」
「そう?精々頑張りなさい」
屈託の無い笑顔を向ける黒木聖を微笑ましく思いながら、一層の入り口に転移させる。
(外套という出費はデカイけど、これで精神的に落ち着けるわね)
「コメット、紅茶をいれてくれる?」
『......♪』
コメットにいれて貰った紅茶を飲んで、さっそく黒木聖の服をどうしようか悩んでいると部屋に目映い光が満ちた。そう、転移の光だ。それも死に戻りの。
「おい、あの門番のリザード・バイパー通してくれる。と言ったから通ろうとしたら後ろから切られたぞ!?どういうことだ!」
「......出た。」
早すぎる再開にうんざりしだすダルフ。
この日、黒木聖は一層で4回の死亡を経験した。
普通の【魔】のモノなら記憶が消えるが、水無月に貰った【黒聖騎士の首飾り】のバックアップ効果で記憶を引き継いでいた。
読んでくれてありがとうございます!