第1話=【ブラック・パラディン】level:1→5
時は遡り数日前の話
レファンシアの呪海迷宮は、それぞれの独特の階層が存在する。
中層域の69層では攻撃してくるモンスターなんか存在しないし、そもそも迷宮階層であるかも不思議な場所である。なぜなら、69層の構成は、68層の階段から降りてきた冒険者が見るのは、目の前にあるボス部屋の入り口とその隣にある『18禁』と書かれた扉のみだ。
下の階層に行くならボス部屋に向かうべきだが、ほとんどの男性冒険者はこそこそ、しながら隣の扉に入っていく。彼らが口々に言うのは「休憩だよ休憩」「英気を養ってるんだ!」とツルテカの顔で言うのだ。大きな迷宮ガイドマップにはこの階層の出現モンスターをこう記していた。
『妖艶な小悪魔』と.....そして今日もこの階層まで来たパーティーが吸い込まれるように入っていく。
「最低ね」
「雄ね」
などと、一緒にいる女性冒険者から軽蔑の眼差しを向けられるのだが、彼らはそれでも辞められないのだ。
そんな変わった階層がある中、第一層のメインステージは迷路みたいに細かく区切られたモノではなく、ここが室内か怪しくなるほどの解放感溢れる広々とした高原で成り立っていた。
上を見上げれば、光も射し込んでいる場所が存在し、ステージ全体を明るくしている。
冒険者が随時出てくる場所は、北にある重厚な扉と南にある綺麗な扉の二つだ。
つまり、入ってきた冒険者はこの空間を縦断しなければならない。
さらに言えば、レファンシアの迷宮では階層を越えるのに3つの方法が存在する
1つめは、同じ階層のモンスターが、たまに持っている『ボス部屋の鍵』
と言うアイテムだろう。これは手に入れた階層でしか使えない特注品だ。
その名の通りボス部屋に入るとこができるファストパスみたいなものだろう。
2つめに、指定されたモンスターをある一定数倒すことで、手にはいる『挑戦の呪符』を3つ集めることだ。これは一つめと違い、誰かが手に入れていたら手に入らない一品ものではなく、誰でも条件をクリアすれば手には入る。
しかし、指定されるモンスターは階層の中でも一癖も二癖もある奴らばかりだ、しかし、冒険者にとってはこれが一番的確な方法である。誰が持っているのかも分からない鍵を探すより、早いのだろう。
それに、例えいくら強くても3つめの方法だけは誰も取らないからだ。3つめの方法をとる奴を死にたがりとバカにもしていた。
そして、その3つめが........階層主の扉の前に佇む、門番を打ち負かすことだ。
その門番はその階層主より、10階以上、上の階層主を名乗れる強さを誇った。
当然挑めば殺されることになるのは誰でも知っている。
彼らの役目は、門番よりも強い冒険者を下の階層に素通りさせることと、迷宮のルールを守らせるためだ、どうしてそんな面倒なことをしているのか、というと、一言で言えば無駄に死なせないためだ。
ちゃんとした条件をクリアできる実力者じゃないと、階層主に挑んでも無駄死にも良いところだろう。
迷宮の創造主である魔精の目的は『知名度』を上げ、自らを強くすることであるから、冒険者が無理だと諦めて減ってしまうことが一番不味いのだ。また、遥かに強い者達を先に進ませることで、迷宮階層の混雑を防止する役目もあるのだ。
当然ながら、中層域に一番冒険者が多いために、歩く先々で冒険者と出会うほど、混雑するときもあるが.......
さて、そんな迷宮のシステム(ルール)を教えたが、【ブラック・パラディン】である黒木聖の取る行動をダルフ・レファンシアが予測できないわけはない。
もしもの場合にと、迷宮の案内人と偽ってダルフに仕える唯一の使用人を派遣しておいたが、予想は的中したようだ。こちらに歩いてくる二人の少女を見てため息をつく。
向かってきた人物は、最近進化したブラック・パラディンの黒木聖。
もう一人は、ダルフの身の回りの世話をする唯一の使用人であるコメット。
褐色の肌に銀色の髪という、ダークエルフの容姿をした黒木聖は、ダルフを見つけたのか指を突き付け、隣を歩く色白で金髪、さらに真っ白なロリータファッションのコメットに問い掛けているようだ。
「おい、なぜデカ乳がここにいるんだ?」
『......(フルフル)』
問いかけられたコメットは首を左右に振り、知しませんでした。と示す。
少し離れた所に立ち止まった彼女はダルフを睨み付けたまま近づいてこない。
「どうせ、門番に挑むつもりだったんでしょ?いい加減にこっちにきなさい。私とやりあっても勝てないでしょ?」
そういう、ダルフに剣を突き付けるブラック・パラディン。
「ふざけるな、デカ乳!貴様は一層のボス、まして門番じゃない筈だ!!帰れ!!」
「バカね、私は迷宮の主よ!トップよ。変わって貰ったわ!」
「貴様、横暴だぞ!!」
「なんとでも言うが良いわ!迷宮内にダークエルフの痴女がいるなんて噂が入ったら私の種(子)たちからどう思われるか、あんたに分かるの!!」
「......おい、誰が痴女だ!私は聖騎士だぞ!」
そんな大声でのやり取りは普通気づかれるが、流石はダルフの使用人コメット。
彼女が即座に人払いと物理障壁で覆った結界を形成していた。
叫びあっていた似た容姿の二人はお互いに異様な空気を纏わせる。
結局、戦わずして言うことを聞かせることを諦めたダルフは、目の前の自らの劵族を一度倒すことにしたようだ。
「覚えているわね?黒木聖、アンタは一回死ぬ度に私の言うことを聞くことを」
「はっ、当然だ、騎士は嘘を付かない」
「......どの口が言うか!」
剣を構える少女と悠然と佇む女性。
「今回だけだから、今回だけだから」
ボソボソとつぶやくダルフの声は若干うきうき気味の黒木聖には聞こえていない。
「いくぞ!デカ乳。その胸切り落としてくれる!!」
「偏見持ちすぎでしょ!?」
そして、その戦いが終わるのをハラハラして見守るコメット。
彼女は張ってあった結界に魔法障壁も組み込むことにした。これで、もしものことがない限り、第一層ではあり得ない戦闘を目撃されずに済む筈だ。
読んでくれてありがとうございます!!
突然でビックリしたと思います!ごめんなさい。
元々から2章は『挑戦者』なので組み込む予定でした。
黒木聖さんで最後です。
会わなければ、3章までお待ちを!!
黒木さんの2層攻略までお付き合いください。
一方その頃の水無月さんは、いや気がさすほど、ひっきりなしに呼び出され中です。