第十話=レファンシアの呪海迷宮の知名度:20%増
迷宮の各階層に存在するボス、冒険者ギルドでは階層主と呼ばれているそいつはその階層で一番の強さを持つモンスターだ。
そんな当たり前の事は子供の俺だって知ってるんだ。
いつも一緒に遊ぶダチのナエトが、『レファンシアの呪海迷宮』で見つけた宝箱をお披露目するらしい。という情報を手に入れて一目散に俺に教えてくれたから、会場になっているこの町のギルド広場に、ナエトと直行した。
ナエトはすぐバテていた。
まったく、そんなんじゃ将来俺と『パーティー』が組めないじゃないか.....
「まってよ、置いてかないで!!」
......ナエトは後衛職っていうのが良いと思う。
ナエトをその場で足踏みしながら、待っている俺。
「そんなに、煽らないでよぉ!!」
煽ってない、駆け足してるだけだよ。
ギルド広間までもうちょいなのにな......先に行ってようかな?
そう考えが頭をよぎったとき、イヤな声を聞いてしまった。
「おいおい、ナエトのやつとまだつるんでるのか?あんなのろまほって置けば良いのに......」
お前も律儀だね....そう言われた。
右側から現れたのは同い年のいけすかないヤツ。
そういうお前は相変わらず、イヤなヤツだ。
そう返してやりたい衝動に刈られるが、相手の思う壺なので黙っていることにした。
「ナエト、オマエ遅すぎ、そんなんで騎士学校に入る気でいるのかよ?はははっ、」
「はぁはぁ、あれ?キグルくんなんでいるの?」
おい、いいから行こうぜナエト、深層や上層まで潜ってる冒険者が帰ってきたんだぞ!
その、武勇伝や宝物の話を聞きに行かないと!!
「シシェル、次の月には学校も始まるんだ、その間までにそのトロマとの関係を絶っておかないと後悔することになるよ」
「オマエには関係ない」
「関係あるだろ?君の家と僕の家の事だからね」
「うるさい、用が終わったなら帰れよ」
「ああ、広間でやってるお披露目の一番目の『とてもいい宝物』を見逃したシシェルに教えてあげようと思ったのに残念だ....じゃあね。僕はこれで.....」
「この!?......」
ナエトの目の前で、俺にだけ話すキグルを殴ってやりたい。
でも.....昔殴りかかって冤罪にされたことがあるから、子供の俺にはどうしようもない。
今に見てろよ、キグルのやつ!!
「......ゴメンね、僕のせいでシーシェにまで迷惑を....イテ!?」
「暗いんだよ!ばか」
キグルの吐き捨てていった言葉に自虐するナエトを一発叩き、騒がしくなり始めた広場に急ぐ。
「ほら始まった!!本当に見逃すかもしれないだろ!?」
「え?また、走るの!?」
イヤそうな顔をしたナエトとプンプンしているシシェルの二人は、騒がしい広間に消えていった。
そこで見た宝に、目を奪われた他の冒険者と一緒に、その日の出来事を忘れる事はないだろう。
その広間でお披露目された中に、豪勢な装飾の宝箱から、偶然手に入れることが出来た「宝物」をもつ冒険者の一団がいた。
彼らは迷宮に入っていく後続のテンションを高めるために、手に入れたものを自慢できる場で『あの部屋』に転がっていた宝玉・宝剣・補助道具の類いを出来るだけ出していった。
その一つ一つが今まで見たこともない綺麗な造形.....鍛冶では出来ない輝き。
回復ポーションは軒並み既存のモノより効果が良い。
さらにポーションを入れるガラス細工の鮮やかさ。
そのどれもが一攫千金の値段が付けられそうなモノばかりだ。
そして、恐ろしいことにそれらは宝物庫に捨てられるように転がっていた。
そう冒険者が言うのだ。
じゃあ、豪勢な宝箱にはなにが入っているのだろうか?
それだけは教えてくれなかったが、エルフ女性がクシャクシャの紙切れを大事そうに持っていたことに不思議に思った。
それを見た、いや、見てしまった冒険者や街の人々、さらには見学に来た貴族......
噂は広まり、財宝を巡る冒険者が急増。
近場の街からも、遠くの街からも実力者がここ『レファンシアの呪海迷宮』がある街に集まり出した。
彼らは求めた、ボス部屋の向こうの桃源郷を.....
だが、その部屋は『ただの』宝物庫ではないとは知らずに。
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