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妃として

維月は、一年前には毎日のように歩いたその庭を、懐かしく歩いた。十六夜の手前、維心に会いたいなどと決して口にすることは出来なかったが、それでも、一年ぶりに見る維心は、記憶の中よりずっと凛々しく美しく、維月の胸を締め付けた。愛している…でも、共に居ることは叶わない…。

せめてと、維月は庭を歩いていた。宴の場を早々に辞したのは、維心の姿を遠目に見ているしか出来ない自分がつらかったからだった。

歩いていると、維心が幼い頃からよく来たと行っていた、池の畔に出た。鯉が泳ぎ回る。維月はそこに佇んで空を見上げた。珍しく、月に十六夜の気配がない。宮に降りているのかしら…。維月は思って、水面に視線を落とした。その水面に、背の高い姿が映った。

「?!」

維月は慌てて振り返った。そこには、維心が立っていた。

維月は、声を詰まらせた。何と言えばいいのか分からない。維心様…何とご立派なお姿であられるの…。

維心は、口を開いた。

「維月…」その声は、震えていた。「分かっていたのだ。だが、我には結界内は見える。主が庭へ出たのを知って、どうしても、傍で見たくて…。」

維月は、維心を見上げた。

「維心様…。」

維月は、維心を見上げた。一年の間愛し合った維心。でも、これ以上一緒に居たら、辛いだけ…。

「失礼を致しました…、」

維月は顔を伏せて踵を返した。維心はそれを追って維月の手を掴んだ。

「維月…!」

「どうぞ、お捨て置きくださいませ!」

維心は首を振った。

「出来ぬ!」維心は、維月を引き寄せた。「そのように涙を流しておる主を一人にするなど…我には出来ぬ…。」

維月は、泣いていた。涙が溢れて止まらなかった。愛しているのに…!

「ああ維心様…!」

維月は維心に抱きついた。維心は、維月を抱き留めた。

「維月…!会いたかった…!」

維月も泣きながら言った。

「私も…!私もお会いしたかった!とても…!」

維心は維月に口づけた。維月の優しく慕わしい気が流れ込んで来る。維心は夢中になってただ維月と唇を合わせていた。

「もう、我は良い。」維心は、唇を離して言った。「もう良い…十六夜ご何を言おうとも。我と共に、維月。」

維月は、黙って頷いた。それで十六夜が維心様に何かしようとしたら、その時は私が逝こう…。

維心に抱き上げられ、維月は維心の奥の間へと入った。

「維月…愛している。」

維心は、袿を脱ぎながら言った。維月は微笑んだ。

「愛しておりますわ、維心様。」

二人はお互いに着物を脱がせ合い、口づけ合ってお互いを求めた。一年前、突然に別れた後、顔も見ることも叶わずにいた。愛し合っていながら、会えなかった一年…。

「維月…愛している…。もう離さぬ…。」

「維心様…。」

二人は、また口づけ合った。そしてその夜、二人は眠らなかった。


夜が明けて来る。維心は、十六夜が来ることは分かっていた。十六夜に分からないことはない。きっと、このことは知っているだろう。自分は、滅しられるか封じられるやもしれぬ…その時に、維月には見られたくない。きっと悲しむだろう…。

維心がそっと寝台を抜け出そうとすると、維月が維心の手を掴んだ。

「維心様…?どちらへ行かれますか?」

維心は、維月の頭を撫でた。

「…少し、政務にの。主は休んでおれ。」

維月は、維心に抱きついた。維心は困ったように維月を抱いた。

「維月…すぐであるから…。」

 維月は首を振った。

「…戻って来られぬおつもりであられるのでしょう?」維月は、涙で潤んだ目で維心を見上げた。「維心様…共にここに居てくださいませ。」

維心は困った。維月は、気付いているのだ。我が十六夜に、封じられようとしておることを…。

「維月…我は十六夜には抗えぬのだ。分かってくれぬか。」

維月は、維心を離さなかった。意地でも話すつもりはなかった。

「もう、決して離さないとおっしゃったではありませぬか。あれは、偽りであったのですか?維心様は、私を愛していらっしゃらないのですね。」

維心は慌てて首を振った。

「そのような!我は主を愛しておる。これほどに…」

維心が先を続けようとしたが、維月がそれを口づけて塞いだ。絶対に維心様を守る。絶対に奪われたりしない…十六夜は、きっとそんなことはしないけど…。

維月の口付けを受けながら、その心地良さに維心の決心は、揺らいだ。維月を手にしていたい…。傍に居たい、出来る限り…。

維月に抱きつかれて、それを腕の中に抱いて迷っていると、聞き慣れた声がした。

「…で?どうするつもりだ。」

維心は顔を上げた。遅かったか…。

「何も。主の思うようにすればよい。我は逃げぬ。」

維月は振り返った。

「十六夜…」と、維心の前に立った。「私が悪いの。十六夜も、維心様も、両方共愛してしまって…。」

十六夜は維月を見て、フッとため息を付いた。

「お前はなあ、オレが気付かないとでも思ったか。この一年、毎日毎オレに隠れて涙ぐんでやがって。分かってたよ。お前はそいつのことまで好きなんだろうが。」

維月は涙ぐんで頷いた。

「うん…。」

十六夜は、維月の頬に触れた。

「だから昨日は、わざと見逃してやったろうが。」と、深く、またため息を付いた。「仕方がない。お前が辛そうにしてるのは、オレも辛いんだ。ここに居るのを許そう。だが、迎えに来る。月の宮へ里帰りするようにな。会えなかったことを思ったらいいだろうが。え?維心、文句はあるか。」

維心は、信じられない気持ちで十六夜を見た。

「それは…それは、維月を我に許すということか?これからも?」

十六夜はフンと横を向いた。

「仕方ないだろうが。維月がお前まで愛してるっていうんだから。そうと決まったら、一か月後にまた迎えに来るからな。そうして変わりばんこって感じだ。文句言いやがったら今度こそ連れて帰ってこっちへこさせねぇぞ?わかったか。」

維心は何度も頷いた。

「わかった。約す。主が迎えに来たら、必ず渡す。」

十六夜は、頷いた。

「それを忘れるな。」と維月にそっと口付けた。「ほんとによお、お前は小さい頃からわがままばっかだな。ま、仕方ないがな。オレもお前に惚れてるんだからよ。」

「十六夜…。」

維月は十六夜を見上げた。十六夜は笑った。

「まあいいさ。オレ達の子は、蒼に宿って子育てする必要なかったし。こっちの子は、まだ赤ん坊だろう。お前も育てたいだろうからな。だが、里帰りして来いよ。迎えに来るから。」

維月は頷いた。

「うん。待ってるわ。」

十六夜は微笑んで頷いた。そして、飛び上がった。

「維心!何かあったら月に言え。オレが手を貸してやる。」

十六夜はそう言うと、空に向かって帰って行った。



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