プロローグ
2099年12月31日の夜、夜空はいつになく澄みきっていた。
新年まであとわずかと差し迫った寒空の郊外の丘で塚沢恒一は叔父である塚沢求史と星を眺めていた。
「今日はいつになく綺麗だね、叔父さん」
「そうだね。最近はめっきり見える星も少なくなってきたのに今日だけはよく見えるね。
あっ、恒一君、あれは何か分かるかい?」
求史が砂時計のような形をした星々を指さす。
「やだなー、あれはオリオン座だよ。叔父さんが指してるのはリゲルだね」
恒一は求史にニコニコしながら青白い星を指す。
「あっはっはっ、恒一君には簡単だったかな。それにしても恒一君は本当に星が好きだね」
そんな求史に、うん、と元気よく頷くと恒一は空一面に広がる無数の星々を再び見つめた。
恒一は昔から星が好きだった。初めて星を見たのは五歳の頃だった。
その時も今日のように夜空は澄みきっていた。
暗い夜空を彩る宝石のようなきらびやかな星々の群れに幼い恒一はすぐさま魅了された。
恒一はその時から星を眺めるのが日課となった。
日毎の星の移動を図ったこともあれば一晩中星を見続けたこともある。
恒一の星の観察は12歳になった今日になっても続いていた。
「だけど、本当に良かったのかい?家族との海外旅行を断って僕と一緒に星座観察なんて」
キラキラした目で星を眺める恒一に求史は少し顔をこわばらせながら問い掛ける。
「ううん、いいんだよ。せっかくの記念日なんだから。それに僕は今こうしているのがすっごく楽しいよ」
恒一は求史の問いにゆっくりと首を横に振る。
昨日、恒一を除いた父、母、妹の三人がハワイへと旅行へ行った。
昨日は妹の幸の生誕一年の記念日であり、今日は両親の結婚記念日である。
当然恒一も誘われたのだが、以前から約束していた求史との星座観察と自分がいない方が父と母は楽しめるだろうと、そんな子供じみた安易な考えから恒一は三人だけで行くように勧めた。
両親は最初こそ反対したが、自分は大丈夫だという恒一の再度の返答に留守中を求史に任せると日本を飛び立った。
実のところ、恒一はやや自分の考えに意固地になっていた所もあり、少し寂しかったのだがそれを打ち消すかのように今日の星の観察を一層楽しんでいた。
星を眺め始めてから三十分後、恒一はある異変に気付いた。
「ねえ、叔父さん。あれは何かな?」
恒一の問いに求史は恒一の指差した方角を見る。すると、黄と赤と白の大きな星がオリオン座よりも高い位置に連なっていた。
「うん?何だろう。あの光り方は一等星以上だけど・・・・・・あんなの見たことないなぁ」
突然現れた謎の星に求史は首を傾げる。
すると次の瞬間、その星々が下へと降り、虹のような大きな模様を作った。
「何、何?」
三つの星が地に堕ちたかと思うと、似たような星々が上から次から次ぎへと降りて光のカーテンを作り、空を覆っていく。
ロスト・ユニバーサル・デイ。
後に名付けられたこの日が、今後どのような惨事を招くのかこのときの恒一にはまだ分からなかった。