6話目 銀髪とツインテとテクノロイ
「あたしはいったん家に帰るけど、ソラくんはどうする?」
「僕は準備ならできてるから」
そう言ってソラくんは背中にある小さなかばんを見せた。
「へぇー。準備いいんだね」
「結構、数日間帰ってこれない依頼も請けるから」
そういえば、初めてソラくんと会ったときもレオがあと3日はかかるって予想してた依頼を請けてたっけ。ソラくんにとってはこれくらい普通なのかもしれない。
「シャムはあんまりそういうのは請けないの?」
「うん。たいてい1日で終われる依頼ばっかり。あんまり日を跨ぐってのはないかな。Dランクの依頼自体そういうのは少ないらしいし」
今までで日を跨ぐっていうのは、たぶん2~3回請けたぐらいだと思う。
「そっか」
「あ、ちょっと待って! あたしの家すぐそこだから用意してくる!」
家の近くになったのでちょっと待っててもらおう。
「わかった」
「そんなわけで、しゅっぱーつ!!」
北門からあたしたちは出発した。北門は往来も多く、結構にぎわってる。
「やっぱり北門は盛ってるね」
「そうだね」
南北の道は南北にある2つの主要都市につながっているので、物流の主要となっている。そのため王国騎士隊がよく魔獣の駆除を行っているらしく、あたしもあまり仕事で南北の道に来ることはなかったりする。
「そういえば、テクノロイまでどれくらいかかるの?」
「……たしか6時間ぐらい?」
「6時間!?」
「シャムは旅に慣れていないみたいだから8時間はかかると思うよ」
「8時間!!?」
そんなにかかるとは思ってなかった。
「行ったことなかったの?」
「うん。仕事もたいていミスレイアの周りの仕事ばっかりだったし」
レオから聞いた話だと、ギルドはミスレイアの他に南北の主要都市2つにも出張所があるらしい。そのためランクの低い仕事ならミスレイアのギルドから行く必要はないけど、ランクの高い仕事なら、高ランクが多いミスレイアに回ってくることもある。
「そっか。だったら、がんばって」
「へ?」
なんかソラくんに応援されてしまった。何でかわからないまま、ソラくんについていくこととなった。
「つ~か~れ~た~」
出発から約5時間後、あたしは死にそうになっていた。
「どういうことなの、これ?」
歩いても歩いてもつく気配がない。しかも、途中からソラくんが普通の道だと日が暮れてもつかないと言われてわき道に入ったけど、そこは魔獣駆除がしっかり行われておらず、時々魔獣と遭遇する羽目になった。
「でも、いつもよりは魔獣は少ないよ。なんか、前より整備が行き届いてる気がする。もしかしたら、大量駆除がやられたばっかりなのかも」
「ねぇ、まだつかないの?」
あれだけの距離を歩いて、しかも魔獣との戦いもあったせいでもうフラフラだ。
「あと30分くらいかな? 魔獣がいつもより少なかったから予定よりはずっと早く着けそう」
ソラくんが言うには、予想ではもっと魔獣と戦う羽目になって、あたしが疲れきって休みを4~5回入れるつもりだったらしい。でも、思ったほど多くなかったからほとんど休みを取らずに来れたらしい。
「……できれば休んでほしかったかも」
「ここまで来たら一気に行ったほうがいいと思う。もう主要街道には戻ってるから魔獣もほとんどいないはずだし」
そういうわけで、あたしはファイト一発で歩みを進めた。
「ねぇ、聞きたいことがあるんだけど」
とりあえず、足の疲れをごまかすために気になっていたことを聞いてみることにした。ソラくんがいままでどんな依頼を受けたのかとか、いつもは何やってるのかとか。ちょっとはソラくんのことがわかった気がした。
「そういえば、テクノロイって魔工都市だよね。どんなとこなの?」
魔工都市テクノロイ。よく噂では聞く街だったりする。魔法技術や魔法工学に特化した街で、見たこともないような機械がわんさかいるらしい。
ちなみに魔法技術っていうのは、そのまま魔法のこと。あたしはよくわからないけど、呪文を言ったり陣を書いたら炎とか出せるらしい。本当に使ってる人を見たことはない。
魔法工学っていうのは、その魔法で機械を動かすことらしい。この前運んだ魔鉱石を使った機械のことらしい。レオが連絡に使っていた電話も、テクノロイで作られたとか言ってた。
「ミスレイアより機械を多く使った近代的な都市。たぶん、最初は圧倒されるよ」
「へぇ」
それはちょっとだけ興味があるかも。
「……はい?」
テクノロイに到着した。いや、正確には到着してない。まだ見えただけだ。それでも、十分おかしなものが見えた。街の中心部に建つ建物。周りの建物に比べて飛びぬけて高い。それが4つ見える。
「なに、あの高いの?」
「クアトロタワーのこと?」
なるほど。あれがクアトロタワーなんだ。うわさでは聞いてたけど、あんなに大きいんだ。
「とりあえず、早く入ろうか」
街の近くでボーっと止まってるわけにはいかないので、街に向かって歩いて行った。
「近くで見るとさらにでかいねぇ」
街に近づくほどにその建物の大きさに圧倒されていく。
「たしか10階建ての建物だよ。僕も中に入ったことはないけど」
「え? そうなの?」
何度も来てるって言ってたし、あれも見ても全く驚かないから入ったことぐらいあるんだと思ってた。
「あそこは魔法大学校の敷地内にあるから一般人は入れないんだ」
魔法大学校というのは、魔法を学ぶ学校らしい。ものすごく難しくて、魔法自体だけじゃなくて魔法技術の研究もされているらしい。レオの使ってた電話もここで発明されたものだった気がする。
「魔法大学校って入れないの?」
「うん。魔法大学校で多くの新しい技術もできてるし、貴重なものも多いから一般人が入って何か盗まれたりしたら大事だから」
そっか。あれを見たおかげで足の疲れも吹っ飛んだし、ちょっと見学してみたいなって思ったのに。一般人が入れないならしょうがないや。
「とりあえず、街に入ったらギルドに行こう」
そんなあたしの考えを読んでか、ソラくんに先回りをされてしまった。
「……中もすごいね」
クワトロタワーが目立っていたから気付かなかったけど、テクノロイはほとんどの建物が2階建て、3階建ても結構見える。さらに、ミスレイアより頑丈そうな建物も多い。
さらに、見たことないようなものがいっぱいある。正直、どうやって使われるのか全然わからない。
「ここがギルド出張所だよ」
そう言われた場所はきれいな3階建ての建物。ぼろぼろ2階建てのミスレイアのギルドとは比べ物にならないくらいだ。
「なんでミスレイアのギルドよりきれいなの……」
思わず不満も出てしまう。
「ミスレイアは仕事を受け付けるだけの場所だからだと思う。ここは、ミスレイアから来たギルドの人間を泊めれるようにも出来てるし」
なるほど。ちゃんとここにはここの理由があるらしい。
「失礼します」
「こんにちはー!」
「いやっほー!! やっと到着したかい、お2人さん」
ギルドの受付で迎えてくれたのはハイテンションなお姉さんだ。金髪をツインテールでまとめている。
「ソラっちは常連だけど、そっちのお嬢さんは初顔だね。はじめまして。私はハルテン・デンマンド。ギルド出張所、テクノロイ地区の受付をやってるよ!」
「はじめまして! あたしはシャムリア・スフィアライトです」
「ならシャムっちだね。よろしく、シャムっち」
シャムっちと言われて違和感があったけど、そういえばソラくんもソラっちって呼ばれたし、そう呼ぶのが普通なんだろう。
「よろしくお願いします」
あたしは頭を下げてそういった。
「うんうん。やっぱり初々しいってのは可愛いよねぇ。この前そっちから来たのどうにかならないの? 可愛いのに無愛想なのだよ!」
可愛いのに無愛想? もしかして、レオが電話してた人かな?
「やっと来たの」
そう思っていたら上の階から女の子が降りてきた。
銀髪のきれいな髪の女の子。顔もきれいで、その儚くも静かな感じは月という表現がぴったりだった。でも、身長は小さい。あたしよりも小さい気がする。
「やっほー、ヴィーっち。数十分ぶり」
「……」
ヴィーっちと呼ばれた少女はハルテンに答えずにこちらに向かってきた。そして、あたしの目の前で止まる。そして、あたしをじーっと見てきた。
「え、えっと……?」
銀髪の子はあたしをじろじろと見渡した。いきなりのことでびっくりしたけど、嫌悪感みたいなものはあたしにはない。でも、この子はなぜか嫌悪感ばりばりの目であたしを見ている。
「レオが疲れてるからもしかしてと思ったけど、やっぱりヴィーなんだ」
「え? ソラくん知ってるの?」
まだじろじろと見られているけど、気にしてたら話が進まない気がしたからソラくんの話に乗った。
「うん。一緒に仕事をしたことはないけど、時々見かけるから」
ヴィーちゃん?はある程度満足したみたいで、やっと見るのをやめて離れてくれた。
「ヴィーっち、自己紹介して」
「……ヴィライエ・ミランデルト。ランクB」
短くそう答えるとそれ以上何も言わなかった。
「えっと、それだけ?」
「それ以上必要?」
うわっ。なんか嫌悪感がまだある。ソラくんやハルテンさんが驚いてる様子はないから、いつもこんな感じなんだろうか? いや、どう考えても嫌悪感がひどくない?
「え、えっと、あたしはシャムリア・スフィアライト。ランクはD。よろし……って、えっ!?」
ヴィーちゃんはこちらの挨拶が終わる前に、踵を返した。
「……明日朝まで自由」
それだけ言い残すとさっさと階段を上っていってしまった。
「……ねぇ、なんかあたしやばいことした?」
「そういうのじゃないんだけど。ヴィーっちはもともと無口だし、難しい性格だし、ちょこっと子供っぽいからね。そういうのが関係してるんだよ」
……最初の2つはわかった気がするけど、最後のはどういうことだろう?
「とりあえず、今日は自由行動でいいの?」
「できればヴィーっちと作戦会議なんかしてほしかったなぁ、って思ってたんだけど、ヴィーっちがあの様子だとそんなことしてくれなさそうだよね。よしっ! 今日はもう自由行動! 泊まる場所はここにあるから、今日はテクノロイ観光をして英気を養っておくれ」
「いいの!?」
「いや、時間的に無理だよ」
だいぶ日が暮れかかってる。たしかに、こんな時間から外には出ないほうがいいだろう。明日は早いらしいし。
「ありゃありゃ。それは残念。部屋のほうは……こいつだ! この鍵に書いてある番号の部屋を使っておくれ」
ハルテンさんがそう言って机の下から鍵を2個取り出した。あたしには302と書かれた鍵を、ソラくんには201と書かれた鍵を渡してくれた。
「一応、頭番号が階になってるから。3階は男子禁制。女の子しか入っちゃいけないフロアだから、間違ってもソラくんは忍び込まないように」
「わかってるよ」
なるほど。そんなルールなのか。
「それじゃあ、明日の朝に下に下りてきてね」
「わかった」
ソラくんとそういって別れ、あたしは3階に上っていった。
「ふぁ~あ」
夜、少し目が覚めてしまったので廊下を歩いていた。今日はあれだけ歩いて疲れたはずなのに、意外と体は元気だ。なんでだろう?
しょうがないから、少し外に出てみることにした。ちょっと気晴らしをしたら、また眠くなるだろうし。
「……なんで起きてるの?」
「え?」
そう思って廊下を歩いてたら、いきなり声をかけられた。誰かと思ったら、ヴィーちゃんが扉を開けてこっちを見ていた。
「ちょっと目が覚めちゃって。ヴィーちゃんはどうして起きてるの?」
「ヴィーちゃん?」
あれ? そういえば、ヴィーちゃんをヴィーちゃんって呼んだことまだなかったっけ?
「もしかして、ダメだった?」
「……いいよ。ハルテンのやつよりはましだし」
……ハルテンさんのこと嫌いなのかな?
「……聞きたいことがある」
ちょっと空気が止まってどうしようかな、と思ってたらヴィーちゃんがそう言った。
「レオのこと、どう思う?」
「レオ?」
レオのことをどう思うかと言われても……おもしろい? いや、どうなんだろう? 物知りだけど尊敬はできないし……
「ギルドの受付?」
それ以上の何かと考えることができない。レオと遊びに行くことはないから友人じゃないだろうし。
「……それだけ?」
「それ以外ないと思う」
「かっこいいとか、頭いいとか、もしかしたら好きかもだとかも?」
一気にまくし立てられた。さっきまで全然話してなかったのに、一気に話し始めた。
「……ないかな? たぶん」
かっこいいかと言われたらかっこいいかなと思うけど、おもしろいって印象のほうが強い。頭がいいかと言われたら頭はいいかなと思うけど、皮肉屋な感じのほうが強い。好きかって言われたら……ない。
「そうなの。……よかった」
「あれ? もしかしてヴィーちゃんってレオのこと好きなの?」
「うん」
……あれ? そこは赤くなって恥ずかしくなるとかしないの?
「わかった。じゃあ、明日よろしく」
「あ、うん……」
なんか納得できなかった気がするけど、とりあえず仲直りできたのかな? よくわからないけど、眠気が来たから眠ることにした。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
(レオの電話)
『どっちですか?』
「あー、ハローハロー。俺っちだ」
『どちら様ですか? 知らない人は帰ってください』
「いや、ここにかける奴なんてほとんどいないだろ」
『わかったるわかってる。レオっちでしょ?』
「まったく。それでだが、ヴィーのやつはいるか? そっちに行ってるはずだろ」
『えっと、おっ! ナイスタイミングで入ってきたよ!』
「ナイスタイミングで入ってきたのか? ちょうどいいや。伝えておいてほしいって、なんでかわろうとしてる?」
『レオ?』
「あー、俺っちだ」
『予定より仕事が多かった』
「いや、それについてはすまないと思ってる」
『レオだから許してあげる。どうしたの?』
「お前に頼みたい依頼があってな。結構割のいい仕事なんだがどうだ?」
『報酬はレオとデート?』
「いや、お前の割のいいってそれか?」
『ダメならやらない』
「いや、もうちょっと譲歩してくれて……」
『じゃあ、嫌』
「わかったよ! それでいいよ!」
『わかった。がんばる』
「まったく、うれしそうにしやがって。とりあえず、依頼はそこであるから今日はそっちで待機しといてくれ。じゃあな」
感想、誤字報告など待ってます。そして、ハルテンのヴィライエの呼び方を絶対に口に出してはなりません。絶対にです。