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Blu Azzurro  作者: ヒッキー
序章
4/26

4話目 知識と力と知ること

 目をゆっくりと開ける。まず見えたのは天井。たぶん家の次によく見る汚い木の天井。寝ている布団は薄いし、お世辞にも寝心地がいいとは言えない。しかし、ここは不思議と安心できた。


「……起きたの?」


 誰かが入ってきた。声だけで誰かわかった。ソラくんだ。


「うん」


 ゆっくりと体を起こした。ゆっくり寝れたおかげで体力的にはかなりいいが、体の節々が痛い。


「体は大丈夫?」


「あー、うん。むしろ休めて元気なぐらい」


「そう。よかった」


「……」


「……」


 か、会話が続かない。


 元々、ソラくんは自分から話題を出すタイプじゃない。だったらあたしが話題を振るべきなんだろうけど、その話題が見つからない。


 あたしは熊みたいなのに吹っ飛ばされて、あの力を見せてしまった。見せたくなかったあの力を。


 ……はっ! い、いけない。危うくマイナス思考に陥るところだった。と、とりあえずそれは置いといて、1匹倒したところまで記憶に残っているけどそれ以降は覚えていない。つまり、残りの熊や護衛をソラくんに任せてしまったことになる。


 そんな失態だらけだったし、できればその話題は避けたいわけであるけど、じゃあここで関係ない話題を振ってもそれは違う気がする。というか、そんな空気じゃない。


 ……ここは、思い切って謝るしかない。謝って、もしあの力について聞かれたら覚えてないでごまかそう。正直、あたしも知ってることは少ないし、ここは記憶がないで押し通したほうがいいよね。


「……熊を倒したことは覚えてる?」


 そう決めて話そうとした瞬間、ソラくんのほうからその話題を振ってきた。


「え……」


 まさか、謝るより先に聞いてくるとは思わなかった。


「そ、そうだね。覚えてるよ」


 って、あたしの馬鹿! さっき覚えてない方針でいくって言ったじゃん! なんで本当のこと言っちゃうかな!?


「そっか。どこかで訓練でもしてたの?」


「え、いや、あたしもよくわからないっていうか、何でああなっちゃうかわからないんだよ」


 これは本当のこと。いつなるのかはなんとなく分かるけど、何でなるかまでは自分でもよくわかってなかったりする。


「そうなんだ。もしかして、天性なのかな?」


 ソラくんはあたしのことを別に怖がることもなく、いや、むしろあたしの力のことを知ってる風に言った。


「ソラくん、あたしの力が何なのか知ってるの?」


「そうだね」


「教えて!!」


 思わずあたしはソラくんに詰め寄った。ソラくんはまったく表情を動かさない。


「いいよ」


「無理ならいいよ! これはあたしの勝手なことで……え?」


 あれ? なんか思ったものと違う……


「いいの!?」


「うん。それを伝えるためにここに残ってたんだし」


「それじゃ、そろそろ出てきてもいいか?」


「レオ!?」


 扉を開けて入ってきたのはレオ。いつも通り、めんどくさそうな感じで頭をかいている。


「い、いつから聞いてたの!?」


「最初っから。というか、お前の看病をしてやったのは俺っちだぜ」


 そういえば、基本的にここを利用している人間の管理はレオがやってるとか言ってたっけ。


「まあ、起きれるなら受付のほうに来い。そこに居座られた受付を開けてでもお前の様子を見る義務が発生するんだよ」


「あ、ごめん」


 あたしは手早く服装や髪を直すとベッドの横においてあった靴を履いた。そして、出ていくレオとソラくんに続いて部屋を出た。






「そんなわけで、説明は俺が担当すっぞ」


「なんで!?」


 受付に座っていきなりのレオの言葉に思わず叫んでしまった。


「静かにしろ。ご近所さんに怒られるだろ」


 外を見てみたら、外はかなり暗くなっている。でも、この辺は食事所もあるからこの程度の騒がしさなら問題ない気がするんだけど。


「……ごめんなさい」


 でも、騒がしいのはいけないことだよね。


「まあ、何で俺っちが説明することになってんのかというとだな、1つにソラにためしに説明を練習させてみたら思った以上にひどかったこと。2つに、このことは俺っちも無関係じゃないから。こんなところだ」


「? 無関係じゃないって……」


「その辺については俺っちが説明する。まずシャム、『気』ってのは知ってるか?」


「木? その辺に生えてるよ」


 街の中だと緑化運動がしっかりしている公園とかが中心になっちゃうけど、ちゃんと木は生えてる。


「了解。わかってないみたいだな。お前の言う木とは意味が違う。俺っちの言ってる『気』は……概念的なものだから説明し辛いな。とにかく、違うんだ」


 よくわからないけど頷いておく。とりあえずその辺に生えてる木とはまた違うものみたい。


「この『気』はソラの出身の東方の国とかで扱われるものでな、体術を極めた人間が使えるようになるもので、身体能力や回復能力を高める力があるらしい」


 なんか難しいけど、そういうものがあっても不思議じゃないのかも。


「これは通常、体術を極めたりそれのための訓練をしないといけないらしいんだが、たまに才能で使えてしまう奴がいるらしい。お前のはそれらしい」


「え?」


 なんとなくしかわからなかったけど、なんとなくはわかった。確認するようにソラくんの方を見てみると、ソラくんは無表情のまま頷いた。


「つまり、あたしっておかしいわけじゃないの?」


「おかしい? おかしいって何が?」


 ソラくんは不思議そうに聞いた。そして、それが答えだった。


「そっか……」


 体の力が抜ける感じがした。たぶん、泣きたい気持ちだったと思う。でも、泣かなかった。ただ、大きく息を吸って、吐いて、笑った。


「よかったよ。ほんとに、よかった」


 あたしはゆっくりと言葉を思い出してた。……あれ?


「ねえ、レオが無関係じゃないってどういうこと?」


「ああ、つまり俺っちは結構前からこのことに気付いてたんだ」


「……え?」


 ちょっと待ってよ……


「え!? ちょっと待って! なんでレオがあたしの力のことを、っていうか知ってたって!?」


「そのままだ。お前の力も正体も俺っちは知ってたんだよ。はっきりとじゃなくて、なんとなくって感じだけどな」


 つまり、レオは全部知ってた?


「何で教えてくれなかったの!?」


 思わずレオに詰め寄ってしまった。知っているなら教えてくれてもよかったのに!


「俺っちじゃ答えを教えるだけで、学ばせることはできないってことだよ。仮に、答えを教えたとしても俺っちじゃそこまでで制御を教えれない。だから、何もいえなかった」


 レオは表情を変えずにそう言った。


「教えれないって、え? つまり……」


「僕が、シャムに『気』の使い方を教えるよ」


 ソラくんがそう言った。


「いいの?」


「仲間だしね」


 ソラくんが初めて笑ってくれた。それが、嬉しかった。


「よろしくお願いします!」


 あたしは元気よくそう言った。ソラくんは少し驚いた様子で、レオはうなづいていた。


「どういうことをすればいいかは今度教えるよ」


「わかった!」


「よし。話が終わったなら帰れ。お前らが残ってるとギルド閉めれねえんだよ」


 レオがあくびをしながら言った。そういえば、外もだいぶ暗い。もう結構な時間だろう。


「ごめんね、レオ」


「謝罪はいいからさっさと帰れ。今日俺っちをこんな時間まで起きさせていた罰として、お前らには明日からしっかりと仕事してもらう。寝不足なんて言い訳は聞かねえからな」


「了解!」


 あたしはギルドから出て家に向かった。なんか、今日はいろんなことがわかって、いろんな希望が持てた気がする。


 明日からまた頑張らないと。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆






「……この提案は本気か?」


 楕円に伸びた円卓。そこに銀色のきれいな甲冑を着た人間たちがいた。全員、10枚程度の書類を読んで、各々が複雑な表情をしている。怒鳴りだしそうな表情をしているのもいる。


「はい」


 それに答えたのは、入口の近くで唯一立っている女性だった。


「こんなやつらに頼むなぞ、ありえんぞ」


「しかし、もはやこの方法以外ないんじゃないのか。確かに前代未聞だが、身内に頼むよりは絶対に確執は少ない」


「馬鹿を言うな! あんな寄せ集めに頼むなぞ、こちらから願い下げだ!」


 円卓は大騒ぎになった。しかし、騒いでいるのは反対派ばかりで、賛成派はしぶしぶという感じで強くは何も言わない。


「黙れ」


 そんなとき、円卓の一番奥(正確には入口である扉から最も遠くの席)に座る老人がその言いあいを一言で止めた。


おさ、しかし……」


「この案の長所と短所を教えてくれ」


 それは円卓の人間でなく、女性に聞いたものだった。


「長所としては相手がこのことで借りという形にならないこと、確実に動くという点などがあげられます。短所としては金銭が必要な点などがあげられます」


「まともな戦力が来るのか!?」


 さっきから大声を出していたやつが聞いてきた。


「それについては保証されると思います。あそこは払った金銭に応じた実力を持つ人間が来ます。こちらが十分な金銭を支払えばそれに見合った実力の人間が来るのは確実でしょう」


「なるほどな」


 女性の説明を聞いて、円卓はさっきの騒がしいような状況ではなく、ひそひそと隣同士で相談をするような感じになった。


「では、決をとる」


 最奥の老人がそう言うと、そんなひそひそ声もなくなった。


「この案に賛成の者は挙手」


「……」


 15人中8人が手を挙げた。ぎりぎりの可決だ。


「賛成多数。よってこの案を通すこととする。女王陛下の承認を持ってこの案は実行される。実行は君に任せる、ノエル・エリントン少尉」


「謹んで受けさせていただきます」


 女性は頭を下げると「失礼します」と言って部屋を出て行った。


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