3話目 復路と魔獣と戦い
「……行きより多くない?」
さっきまでは馬車が通ったら小型の魔物は遠くからこちらの動きを警戒するだけだった。なのに、今はやけに積極的に来てる。おかげで、何匹か逃してしまいソラくんにフォローしてもらってる状況だ。
「おそらく、あの荷物が原因だろうね」
行きと違うことといえば親方さんがいることと荷物があること。さすがに、親方さんが原因とは考えられないから理由はやっぱり荷物だよね。
「親方さん。これって何を運んでるんですか?」
「ギルドの人間は積み荷のチェックまですんのか? えらいもんだな」
むっ。さっきのはちょっといらってきたぞ。
「だが、今回は言っておかないといけないものでもあるからな。こいつは魔鉱石だ。後ろの兄ちゃんは分かっていたんじゃないのか?」
魔鉱石? なんだったけ? なんか噂に聞いたことはあったはずなんだけど、どういう風な噂だったかまでは思い出せない。
「ソラくん、魔鉱石ってなんだっけ?」
「魔鉱石は魔力を帯びた石だよ。近頃では魔導制御の機械が増えてきてるって話があるよね。それの燃料とかで使われるんだ」
なるほど。そういえば、魔鉱石が必要な新しい機械がもうすぐギルドで試験運用されるって話をレオから聞いたんだっけ。……ん?
「なんか質問の根本的な答えになってないような? 結局、なんで帰りは魔物が多いの?」
「魔物っていうのは自然にある魔鉱石から魔力を吸収してしまった生物のことを言うんだ」
「へぇ」
「つまり……」
がさっ!
……さっきなんかよりも大きい音がした気がする。
恐る恐るそっちを見てみる。そこにいたのは、自分の身長の1.5倍近くある二足歩行の熊。
「魔物はより強くなるため魔鉱石の魔力を求めるってこと」
「先に言って欲しかったよ!!」
あたしは襲い掛かってくる熊の爪を棒で強引に受けた。
「ぐっ!」
思った以上に重い。あたしはどうにかそれを受け流した。
「ソラくん! 手伝って」
「無理」
後ろを見てみると、同じものが3匹。
「1匹はどうにかして。他はどうにかするから」
ソラくんでもこの数は厳しいらしい。組んで1日にも満たないのにチームプレイなんてできるはずがない。となると、各個撃破しかないみたい。
「……嫌だったのにな」
あたしは構えて一気に近づいた。あたしは力がない。なら、手数で勝負するしかない。狙うなら一点。体を支える足を狙う。
方針が決まったのでまずは突っ込む。
「ぐおぉっ!」
熊が爪を振ってあたしを狙う。それを体勢を低くして何とかかわして懐に跳び込む。そこから右足のひざを強打した。
「っ!?」
しかし、攻撃した結果はむしろあたしの腕がしびれるだけという結果になった。この熊、体毛が鎧みたいに固い。しかも、熊に全くダメージは通った様子はない。
あたしは狙いが完全に狙いが馬車にならない程度の距離をとった。熊の意識もまだちゃんとこっちを向いてる。ソラくんのほうもちらっと見てみたけど、かなり苦戦しているみたいだった。たぶん、援軍は見込めない。
こうなったら体毛の効果があまりないと考えれる場所を狙うしかない。そうなると、狙うべき場所は頭。あそこなら思いっきり叩いてやれば少しは食らうはず。
あたしはもう1回突っ込んだ。今度は、熊も調整するようにさっきよりも下に爪を振ってきた。しかし、今度は跳んだ。脚力を限界までためて一気に熊の頭まで。その勢いを棒に乗せる。
今度は取れた。確実にでかいダメージを与えられる。そう思っていたが、そんなあたしにでかい衝撃が左から来た。
「がっ!」
何か最初はわからなかったが、吹っ飛ばされながら熊を見てわかった。強引に左腕を振って、腕の力だけで吹っ飛ばされたんだ。ただ、強引に振った上に狙いが荒かったおかげだろう。運よく、爪のところではなくその内側の手のところで叩かれたらしい。
「ぐっ!」
しかし、あたしの体はその衝撃で思いっきり地面にたたきつけられた。
「げほっ! げほっ!」
たぶん、腹のあたりを叩かれた。気持ち悪い。何とか立ち上がって構えるが、自分でもわかる。こんなふらふらの体じゃ次は受けることもよけることもできない。
「ぐおっ!」
こっちの事情なんか、いや、こっちのこんな状況を分かって熊が突っ込んできた。あたしはそれに成すすべなく吹っ飛ばされて地面にたたきつけられる。
あたしは、死ぬの? ……嫌だ。
目の前が真っ赤になる。いや、真っ赤じゃない。オレンジのような赤のような。それが揺れながらあたしを襲おうとしてる。
「嫌……」
あたしを殺そうとするのは誰?
「嫌……」
そんな悪い人は、殺されてもしょうがないよね。
「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!!!!」
あたしは跳ね起きた。そして、熊も反応できないくらいの速度で熊ののど元に突っ込む。それは熊の体毛など関係なく、容赦なく熊にダメージを与え熊を倒した。
「はぁ……はぁ……」
あたしは、世界がななめになる感じがした。あ、倒れる。そう思ったが、体は全然動いてくれなった。
「大丈夫?」
それが止まった。誰が助けてくれたのかなんて意識する間もなく、あたしの意識は闇に落ちて行った。
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「……なるほど」
僕は腕の中で眠っているシャムを見た。そして、シャムを馬車に乗せた。僕の戦っていた熊3匹はすでに後ろで倒れている。
「だ、大丈夫なんですか!?」
「すこし気絶してるだけです。すみませんけど、馬車に乗せといてあげてください」
「ぐおおっ!」
そして、シャムを馬車に乗せたあたりで団体が現れた。さっきのと同じ種類の熊が10匹。
「ひぃっ!?」
「慌てるんじゃねぇ!」
ラムールが思わず、馬車の手綱を思いっきり引っ張りそうになったが、何とか踏みとどまった。
「邪魔だよ。淘汰流剣術、三式」
僕は足に力を込めて熊たちに突っ込む。そして、すり抜けざまにすべての熊に斬撃を食らわしていく。
「疾風」
そして、すべての熊の腹が切れていた。
「さすがだな」
親方が僕を見てそう言ってきた。とりあえず軽く頭を下げる。
「でも、それだけの実力があるならさっきの奴らもすぐに倒せたんじゃないですか?」
「……嬢ちゃんへの試練ってところか?」
親方の指摘に僕は何も答えなかった。そして、魔物が塵のように死んだのを確認すると親方が馬車を進めるように指示し、そこからは大規模な戦闘なくミスレイアに到着した。
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