2話目 護衛と往路とロックホーン
当分は毎週、日曜日更新にしたいと思っています。
「そういえば自己紹介がまだだったね。あたしはシャムリア・スフィアライト。知り合いはみんなシャムって呼ぶからそう呼んでね」
「わかった。僕の名前はソラ・アリスガワ。呼び方は何でもいいよ」
ソラ・アリスガワ?
「珍しい名前だね。もしかして外国出身?」
「祖父が東洋の小さな国の生まれらしい」
なるほど。珍しいと思ったら外人さんの子供だったのか。
そこから、あたしはソラくんにいろんな話を聞いてみたが、かなりの無趣味らしくあまり話は盛り上がらなかった。
「ん? あれかな?」
そして、西門の近くに着くと大きな荷馬車を持つ男性がいた。
「たぶんそうだね。すいません」
「はい? なんですか?」
馬車で待っていたのは若い青年だった。
「ギルドから委託を受けたソラ・アリスガワです」
「同じくシャムリア・スフィアライトです」
そう言って、2人でかばんから大きくGと書かれた鎖のついた金属のメダルを出す。これはギルドの全員に配られるギルドの人間であることの証明証らしく、依頼で依頼主と会うときはいつもこれを見せる決まりになってる。ちなみにこれって開けると、中には名前が彫ってる。
「あ、護衛の人ですか! よかったです。ギルドから適正ランクが微妙だからもしかしたら派遣できないかもしれないと聞いてたんですが、来てくださったんですね。あ、俺はラムール・ディンバーと申します。まだまだ親方に弟子入りしたばかりの新人ですがよろしくお願いします」
青年は笑顔で話しかけてきた。まだまだ不慣れな感じがしたけど、新人さんだったらしい。
「なら、ロックホーンまでの護衛をさせてもらいます」
こうして、ソラくんとの初任務が始まった。
「……これが適正ランクA~C?」
街を出て平原や街道のあるところに出ると魔獣が出てくる。たいていの護衛というものはこれから積み荷や人を守るのが仕事だが、正直拍子抜けもいいところだった。
現在までにもたしかに魔獣は何体か出てきた。しかし、そのどれもがあたし1人でも対応可能なレベルのものばかりだった。実際、あたしが前に出て魔獣を倒してソラくんが魔獣の急襲から守るために荷馬車の近くにいるという陣形で問題なく進めている。
「いやいや、お嬢さんって強いんですね」
「いえ、あたしなんてまだまだですよ」
そういえば、あたしもロックホーンまでの護衛なら何回か受けたことがある。そのときの適正ランクってたしかD~Eだったはず。魔獣が突然強くなったってわけじゃなさそうだし、いったいなんでこれが適正ランクA~Cなんだろう?
そんなことを考えているうちにロックホーンに到着した。ちょっと疲れたけど、やっぱり強い魔獣は出てこなかった。
「ありがとうございます! それじゃあ、俺は親方と合流して荷物を荷馬車に乗せときます。予定では13時出発なんで、それくらいまでに帰ってきてください!」
どうやらここからは自由行動らしい。そういえば、護衛でロックホーンまで来たことは何回かあったけど、ちゃんと街の中を見たことなかったや。石造りの家が立ち並び、街中からハンマーでたたくような音が聞こえる。そして、奥には鉱山みたいな場所もある。
「へぇー。こんな街だったんだ」
「来るの初めてだったの?」
「そういうわけじゃないんだけど、なんか1人で歩くのが嫌な感じなんだよね」
この町自体、鉱山の町だからしょうがないんだろうけど男手が多くて鍛冶屋みたいなものが何件も点在している。そういう町並みがどうしても得意になれず、何回か来た時もいつも宿屋で備え付けの音楽再生機でティリミア様の音楽を聴いていた。
「治安もいいし、人たちも気さくな人が多いと思うんだけど」
「そういうのじゃないんだよ」
そう説明してみたが、ソラくんは首をかしげるばかりだ。こういうところが男と女の違いってやつなんだろうか?
「じゃあ、僕がお勧めのお店を紹介してあげる」
「え?」
そう言ってソラくんが歩き始めたので、あたしはあわててソラくんを追いかけた。
「おいしかったー!!」
ソラくんが案内してくれた店はちょっと裏道にあるお店だった。最初は少し怖かったが、料理はおいしくボリュームもあって、店の人もお客さんも明るい人が多く楽しい店だった。
「満足してくれた?」
「うん。なんか印象変わったかも」
「それならよかった」
ソラくんも最初はあんまり表情が変わらないからちょっと怖かったけど、話してみたらちゃんと反応してくれるし表情も分かりにくいけど変わってることが分かった。
「おせぇぞ!」
そろそろ時間だと思って馬車のほうに行ってみると、そこにいたのは身長の小さくてまっ白な髭を蓄えたおじいちゃん。
「親方、自分が13時なんて言ったからこうなっただけですからギルドの人を怒らないでください」
ラムールさんがあわててそのおじいちゃんの前に立ってなだめだした。なるほど。あれが親方さんなのか。確かに、よくわからないけど雰囲気はある。
「遅れてしまって申し訳ありません」
「ごめんなさい」
ここは素直に謝っておく。実際、ちょっとのんびりしすぎた気もしてたし。
「……ミスレイアまで荷を無事届けられたら許してやる。しっかりやれよ。往路は楽だったかもしれないが、復路はそう簡単にいかねえぞ」
親方さんはそう言って馬車に乗った。ラムールさんも「すいません、すいません」って言いながら馬の手綱を握った。
「ねぇ、復路が簡単にいかないってどういうこと?」
親方さんの態度は気にならないけど、あの復路は簡単にいかないってどういうことかよくわからない。
「出発してから教えるよ」
ソラくんがそう言ったので、とりあえず出発することにした。
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僕は隣で元気に話す少女を見ていた。正直言って、レオがお勧めする割にはそこまですごいわけじゃない。体を触った時の感想としては、女性としては鍛えてると思うけど……レオが言ってなかったら認めるか悩むところだった。
「ねぇ、こんなに簡単でいいのかな?」
「帰りは少し大変かも」
「そうなの? ああ、行きで疲れてるもんね」
特にここだ。なんでこの依頼がA~Cランクなのかわかってない。ある程度経験を積んだ人間ならなんとなくわかるはずだけど、全くわかってないみたい。つまり、経験でもまだまだ。
レオはわかってる何かがあるのかな?
「あぶなっ!」
紙一重で魔獣の攻撃を避けてる。うん。たぶん、レオの気まぐれかな。この調子だとチームは組めないかな。
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