1話目 朝とギルドとAランク
みなさん、こんにちは、ヒッキーです。
初めての完全異世界ファンタジーでかなり不安もありますが、生暖かい目で見守ってくれたらうれしいです。
朝の賑わいを少しずつ見せ始めた街。あたしはこの時間が大好きだ。
まだ目覚めきってはいないけど、だんだんと人が町並みに加わっていく。そして、どんどん活気にあふれていくこの風景が大好きだ。
そんな街中をいつも通り、軽いテンポで歩いていく。背中には愛用の棒。そして、必要なものを全部入れた大き目のバッグ。
「おはよう! シャムちゃん!」
「おっはよー!」
近所のおばさんにあいさつを返す。やっぱりいつも通りだ。王都ミスレイアは今日も明るく優しい。そんな感じ。
そんなミスレイア南区の中心ぐらい。そこにある木製のちょっと年季の入った縦に長い建物。あたしはそこに入った。
「やっほー、レオ!」
「ん? おお! シャムじゃねえか!」
台の上でひじをついて暇そうな感じでいた茶髪の青年が反応した。そこには受付と書かれている。
こいつはレオニード。たいていの人間がレオという愛称で呼んでいて、受付をしている。
「なんだ? 仕事か?」
ここはギルドである。ギルドというのは、民間から依頼を請けて、その依頼をギルドに登録する人間に提供する仲介業みたいなものらしい。詳しくは知らないけど。
「そう、仕事! いい仕事ない? 護衛で!」
「まったく。たまにはそれ以外の仕事も請けやがれ。えっと……」
レオは紙の束を確認し始めた。ぱらぱらとめくって、10秒くらいですべての書類を確認し終わった。
「なし」
「なし!?」
「そう。なし」
あたしは思いっきり受付の机をたたいた。
「なんで!? ここんとこ毎日来てるけど、毎回仕事なしだよ!」
「俺っちに当たるんじゃねぇ! ただでさえ護衛の仕事はすくねえんだ! そんなに仕事ほしいなら討伐の仕事しやがれ!」
この国、シュトレゼウム王国は魔獣と呼ばれる生物がいる。もともとギルドは、軍などが動かないような小さな問題を請けていたらしい。
今はなんでも屋みたいになっているけど、やっぱり魔獣の討伐の仕事のほうが多いらしい。
「討伐の仕事なら2、3件入ってるぞ」
「討伐は、いいや」
あたしはこの討伐が苦手だ。苦手というより、嫌い。
「それにしても、なんで依頼がそんなにないの?」
「しょうがないだろ。お前のランクが一番人が多いんだからよ」
このギルドではランクとかがあって、そのランクに応じた仕事しか請けれないようになってる。
「いまさらだけど、なんでそんなシステムなのさ?」
「ここは民間人が仕事を持ってこなくちゃ営業できない。しかし、実力よりも高い依頼を請けて失敗されたら、信用が落ちるわけ。信用が落ちると仕事が減る。ゆえに、仕事を制限している。この前なんて失敗しやがった奴がいて、それの依頼主が文句言いに来やがったし……あのクソばばぁ、さっさと死ねばいいのに」
ものすごい面倒そうな表情でレオは遠くを見た。……なんか、受付も大変みたいです。
「そんなわけで、仕事を請けさせるわけにはいかねぇ。どうしても請けたいなら、討伐の仕事請けやがれ」
むぅ。できれば討伐の仕事は請けたくない。でも、ここ数日までにお金がほしい。どうしよう。
「あ! そういえば、ずっと前にレオが言ってた裏技は使えないの? ほら! 上のランクの仕事を請ける裏技ってやつ!」
「……なんでお前はそんなことを覚えてんだ?」
「前聞いたときは必要になったら教えてやるとか言ってたけど、なんなの?」
「簡単なことだ。上のランクの奴とチームを組む。そうすれば、そいつのランクの仕事まで請けれる」
なるほど! ランクが上の人と……
一応周りを見回してみるが、ほとんど人はいない。というか、あたしの知り合いに自分よりも上のランクの人っていたっけ? ……しまった! ギルドに知り合いは何人かいるけど、ランクまでは知らない!
「レオ! 誰かランク上の人紹介して!」
「いきなりかよ! ランク上の奴つってもな、だいたいが仕事で遠出してるか、滅多に顔を出さないような奴らばっかりだからな。しかも、報酬を山分けしなくちゃいけなくて足手まといになる可能性大のお前を仲間に加えてくれる優しいやつとなると、ほとんどいねぇぞ」
そんな人が何人くらいいるか聞いてみたけど、思った以上に少なかった。何でも、上のほうにいるのはすでにチームを組んでるのがほとんどで、組んでないのはチームが苦手な奴や、戦闘能力が異常に高い、仕事をあまり請けないのがほとんどらしい。
「もしかして、ピーンチ?」
「どうしても要りようなら討伐を受けてろ。できるだけ割のいい仕事を出してやる」
うーん、なんかここまで来て折れるなんてくやしい。でも、数日後までに要りようなのは事実だし。
ガチャッ!
「レオ、いる?」
誰かが入ってきたので後ろを見てみると、そこにいたのは黒に近い深い青の髪を持つ男の人。その髪を見たとき、あたしは夜空が思い浮かんだ。
「お? ソラか。どうしたんだよ?」
どうやらレオは知っているらしい。
「依頼完了したから報告に来た」
「は!? お前、一体どんなハイスピードで仕事完了させてやがんだ!? 俺っちはてっきり、あと3日はかかるもんだと思ってたぞ」
「終わったんだから。ちゃんと依頼人の証明書もある」
そう言って、ソラって呼ばれてた男の人は依頼人からサインをもらった依頼書をテーブルに出した。チラッと書類を確認したら、魔物の集団の壊滅と書かれていた。
「壊滅!?」
「おい、シャム! 人の依頼書を勝手に見るな! たしかに問題はないみたいだな。これが報酬だ」
レオが金庫から取りだした金は今まで見たことのないような額だった。
「……レオ、これってランクはいくつの仕事?」
「適正ランクはA~Bだ」
「お願いがあります!」
あたしは思いっきり頭を下げた。なんか、空気だけで残念な状況になっていることはわかるけど、しかし、あたしは気にせず続ける。
「あたしとチームを組んでください!」
「……どういうこと?」
あたしのいきなりの願いにかなり困惑しているようで、レオに説明を求めているらしい。
「実は、こいつのランクはDでな。現在、Dランクの仕事でいい感じの仕事が入っていなかったけど、金が危ういから上のランクの仕事を請ける裏技を教えてやったらお前登場というわけだ」
上を見るとやっと納得したような表情でいた。
「ソラ、俺っちはこいつをおすすめするぜ」
え? もしかして、レオが売り込みをしてくれるの?
「行動がアホっぽく子供っぽい。見ていて飽きないし、ボケからツッコミまで幅広くこなす。かなりの優良物件だぜ」
「そんなおすすめいらないよ!」
「……この子は建物なの?」
ソラくんもところどころ抜けてるよね。
「それにお前らお似合いだろ、髪の色的に」
言われてみれば、あたしの髪は明るい水色で、よく青空みたいと言われる。そして、ソラくんは夜空みたいな髪の色してるし。
「えっと、お願いします! このままだと食いっぱぐれてその辺の路上で餓死しなくちゃいけない運命になっちゃうんです!!」
「……レオ、本当のところは?」
「歌手のティリミア・シュトレゼウムって知ってるか? こいつはそれの大ファンで来週ぐらいにミスレイアでライブをするんだ。そのチケット代を払うために金が必要ってわけだ」
「なんで知ってるの!?」
あたしがティリミア様のライブに行くなんてレオには一言も言ってないはずなのに! そういえば、さっきソラくんに説明するとき金が足りてないとかサラっと言ってたよね。もしかして、全部わかってる!?
「ティリミア・シュトレゼウムって、たしかこの国の第3王女じゃなかったっけ?」
「正解だ」
ティリミア様は歌手なんだけど、実はこの国、シュトレゼウム王国のお姫様だったりする。それなのにファンには優しくて謙虚で、その上歌が最高級にうまい。さらに見た目もお姫様って感じの雰囲気でとてつもなくかわいい!
「歌手なんてやってたんだ」
「知らなかったの!?」
ティリミア様は歌手として有名すぎるせいで王女であることを忘れられることは多々あるけど、歌手としてのティリミア様を知らない人間なんていたんだ。
「うん。そういうのに興味がないんだ」
「なんてもったいない! それだけで人生の8割を損してると言っても過言じゃないよ! ティリミア様は歌がうまくて見た目もかわいい、それでいて誰にも優しく謙虚な素晴らしい性格を持っている、まさに神なんだよ!!」
なんかソラくんが少し引いているような気がするけど、ティリミア様のことならば引かれても気にしない!
「ここ3年間は外国での興行が中心で全然シュトレゼウム王国でライブができなかったんだけど3年ぶりにここ、王都ミスレイアでライブが決定されたんだよ!!」
「……王女様なのに歌手ってできるんだね」
「まぁ、これも王女の務めってわけだ」
レオがなんか熱弁をふるう私を見て、ソラくんを見て軽く笑いながら言った。
「知ってると思うが、この国は不戦条約を周りの国と結んでいるがまだまだギスギスした関係であることは事実だ。あの王女様のファンは国内だけじゃなく国外にも多い。しかも、政府高官も結構いるって話だ。ティリミア姫の興行はただの興行じゃなくて平和のための興行ってことだ」
「「へぇー」」
あたしとソラくんは同時に感嘆の声を上げた。
「……お前ら、ちょっとは政治というものを知っとけ」
レオは呆れたように言った。
「それでどうするんだ、レオ。俺っち的にはお前らが組んでくれたほうがおもしろ……しっかりと仕事をしてくれそうだからありがたいんだが」
さっき完全に面白そうと言おうとしたのがわかったが、ここは何も言わないでおこう。せっかくレオが売りこんでくれてるんだから。
「……ちょっとごめん」
ソラくんがあたしに近づいてきた。そして、突然二の腕をつかんできた。
「ふぇっ!? へ、変態!!」
あたしは反射的に背中にさしていた棒をとり、思いっきり振り下ろした。しかし、それは床に勢いよく当たっただけだった。気づくとソラくんは足のふくらはぎあたりを触っていた。
「……うん。OK」
ソラくんは納得したように離れて行った。
「な、なにがOK!? もしかしてあたしの身体狙い!? そんな変態とチームを組むことなんてできないよ!!」
「お前のおこちゃま体型を狙う奴なんているのか?」
「うるさい!!」
たしかに身長も140cm前半だし、スリーサイズも残念だけど……って、そこじゃない!!
「いきなり身体を触って何なのよ!?」
「? 筋肉のつき方をとかを確かめただけだよ」
へ? 筋肉?
「レオ。今すぐにできるような護衛の依頼ってある?」
「あるぜ。今日の10時からロックホーンに仕入れに行く武器屋が護衛の依頼を入れている。適正ランクはA~C。行って向こうで仕入れをして帰るまでの護衛を依頼されている。先に武器工の職人が入ってるらしいから、今日中にこっちに戻ってこれるはずだ」
「うん。それでいいや」
「なら、これがギルドからの委託書だ」
ソラくんはあたしが?マークを出しまくっている間に、レオから書類を受け取っていた。
「……どうしたの? 行くよ」
「え?」
「一緒に来るんでしょ。早く来ないと」
その言葉を聞いて、あたしはあわてて荷物をまとめてソラくんの後を追った。
「じゃあね、レオ!」
「おう」
レオは軽く手を挙げて見送ってくれた。
「せいぜい死ぬなよ」
最後に何か言ってた気がするけど、よく聞こえなかった。
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「大丈夫かねぇ」
俺っちは依頼書に改めて目を通しながら言った。
往路は間違いなく問題ない。危険があるのは復路だ。というか、復路が危険だからこの依頼はランクが高いわけなんだが。
そんな事を思いながら、レオはソラを思い出していた。あいつなら間違いなくシャムを守り切るだろう。しかし、危機に陥る可能性は十分あり得る。
「ああ見えて、地味に性格悪いしな」
いくら心配してもしょうがないだろう。俺っちはしがない受付。なにもできることなんてないわけだ。
そう納得させてレオは事務処理に戻った。
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