1 ゼツ
死あるのなら生あり。
命あるのなら存在あり。
拒絶があるのなら創造あり。
外があるのなら内があり。
そして、世界があるなら私あり。
とある人間の言葉
背が高い少年こと影無歪人は、暇を持て余していた。
イーニッドに電話にかけようとも、あいつの電話はいつも、
『御免ネ~。今ハイナイノダヨ~。残念ダネ~歪人。マタ今度ネ~』
と、明らかにウザいロリ声を披露してくるのだ。歪人はそれはそれは大嫌いなのだ。
「ていうか、あいつと現実でもそんなに会ってないよな……」
実際のところ、会ったのは最初と二回目ぐらいである。そう考えると、そんな人間から命令を言われて行動している自分が馬鹿らしくなってきそうだが、歪人にとって、あいつは恩人といわざる人間でもある。
(能力を拒絶し続けていたあの時、あいつは俺に能力を使わせた。あの時は怒ったが、今思えばあいつには悪いことをしたな)
だが、そう思っているのもつかの間、すぐにその後のことを思い出してしまう。
(俺、あいつの実験体なんだよな…。いつか人体実験されるんだよな……)
彼女と初めて会った時の一言が未だに彼を蝕んでいる。そう思うと、彼はなんだかんだで不幸だ。自称マッドサイエンティスト的な性格を持つ少女に助けられ、なおかつその少女に感謝の言葉を言ってしまったのだ。今更だが、退く事はできない。
しかし、少年はネガティブ思考を振り切って、別のことを考え始める。
(そういえば白、ちゃんと飯を食ってんのか? お金は入れているが不安だ)
白というのは歪人の弟であり、同系統の能力者である。その能力の名は『空間移動』。名前の通り空間を移動できる能力であり、歪人の『空間創生術』とは対照的に戦う力を持たない。それにまして、白自体が平和主義なので、兄である歪人は心配で心配でたまらないのだ。
(しっかし…、本当に連絡無しだな)
考え事をしている間、何度も連絡を取ろうとトライをしていたのだが効果なし。さっきからウザいロリ声の連続である。
さすがの歪人もうんざりしたのか、ケータイを使う事をやめて、ポケットの中にあった広告を取り出す。それは有名なハンバーガー専門店のクーポンであり、美味しそうなハンバーガーの写真が並んで載っている。
(さて、折角だから使うか。たまには丼以外でもいいよな。おっ、親子丼風バーガーか。いいな)
結局丼系に走る歪人の思考は、一度進むと止まらない。言うのが遅れたが、彼は世界で一番(自称)丼を愛している人間で、丼のどんという字だけを聞いたり見たりすると反応してしまう。そして、イーニッドすらが退くほどのキャラ崩壊をしたこともある。しかし、それはまたのお話。
まぁ、そんなわけでハンバーガー専門店にたどり着いた歪人であったが、ここで大きな問題を考えていた。ようは、金銭的問題だ。
(今日使用できる金額は強いて800円。ここでの消費はでかいが…、いやしかし、丼の分より安いと考えると……)
将来、いい主夫になりそうな少年歪人は、大いに悩みつつ店の前をうろうろしだす。思いっきり変質者である。ただでさえ、皆に怖がられる風貌を持っているのだ。本当に不審者に見えてしまう。
(くっ……。ここまで来たならば、悩んではおられない。喰う。喰らう。食してやる!!)
しかし、運命とは非常である。ケータイから少し暗めのピアノの音が聞こえた。彼のケータイの着信音の幻想即興曲である。
(……タイミングよすぎだろ…)
歪人が心の中で泣きながら、ケータイを開いて耳に当てる。そこから聞こえたのは、あのウザったらしい声だった。
『歪人~。憑キ物、登場ダヨ~』
「お前の登場タイミングは無駄に良すぎる。たまには外せよ」
『ン? アァ、今ハンバーガーデモ食ベヨウトシテイルノ? 止メトイタホウガイイヨ~。ソレ、不味カッタシ』
「何故分かるんだ…? そして、不味かったのか……つーか、俺が食べようとしてるバーガーも分かるのか?!」
『親子丼風バーガー。君ラシイネ』
「がっ……」
何もかもお見通しのイーニッドは、ケラケラ笑いながら歪人を攻める。しかし、歪人は一旦大きなため息をついてから、真面目な表情にして、
「んで、どこに出た? 急いで向かう」
『嬉シイ事ニ、君ノ近クダヨ。後ロニアルスーパーノ裏ニイルヨ』
「そうか……」
それだけ聞くと、歪人はケータイにイヤホンを繋いで耳につけてから、ハンバーガー専門店からスーパーへと走り出す。
『ツイデニ、パーセントハ30パーセント。早クシテネ』
「言われなくてもだ」
歪人はそう言って、スーパーの裏へ急いだ。
目に汗が垂れるのを払って、視界を確保したときに見えたのは、明らかに人間とはおかしい右手を持った一人の化物が立っていた。その右手にある物体は、ショベルのような鉄の物体がある。
『感想ヲドウゾ』
「すごく可笑しいぞ。気を抜いたら吹いてしまう」
『モウ、オ構イナシダモンネ~。ジャア、ガンバ~』
そうして、イーニッドとの通信が途切れる。歪人は再び敵を見て苦笑いをしながら、戦闘体勢に構える。といっても、拳を握っただけなのだが。
「さぁて、まぁ、殺るしかねぇか。もう50パーセント超えたらしいし」
その言葉に反応するかのように、敵の腕が機械のクレーンアーム上に変化していく。一種の改造人間ぽい。
歪人は最近こういうやついたなーと思いながら、敵の懐へ走り出す。
「拳一発で終われよ…!!」
しかし、そんな意味も無い妄想は崩される。敵のクレーンアームで綺麗にガードされた。
歪人は一旦退き、拳をぷらぷら(何も強化もしていないので、純粋に痛い)させながら、再び拳を作る。
敵は、しかしそこを攻めてこない。
(空間拒絶は…まだやめておくか)
彼の切り札である空間拒絶は、威力こそ高いが、彼自身、使用を控えている。力が強力すぎるからだ。
「空間創生術、『大剣』!」
彼の基本能力の空間創生術は、空間の中で物質を作ること可能とする力だが、この力の弱点は脆いことだ。使用者である歪人が離した瞬間、綺麗に消え去るのだ。まぁ、詳しく言えば半径五メートル以内を越えたら消えるのだが。
歪人はその力で構成した大きな剣(歪人が作ったので軽い)を片手に、攻撃の連続を喰らわすが全て敵のクレーンアームによって止められる。
(意外と使い勝手がいいんだな、あれ)
いざとなれば鎧でも何でも作れる歪人でも関心するほど、敵の武器の使用方法は良かった。未だにダメージを受けてはいないとはいえ、クレーンアームで止められたあとのシャベルでの攻撃を避けるのは難しい。
しかし歪人も負けてはいない。クレーンアームの弱点である押し込みでバランスで崩させた。だが、下半身が人間であるせいかバランスをとるのが速く、次への攻撃へと移せなかった。
しかし、歪人はにやりと笑う。不吉に。そして、自身ありげに。
「お前が攻撃タイプじゃなくて良かったぜ。時間稼ぎのおかげで速く終わりそうだ」
そして歪人は持っていた大剣を捨て、右手を左肩の後ろへ持っていき、
「空間拒絶!! 拒絶刀……!!」
彼の切り札である黒い柄のある綺麗な刃をした剣を、空間から取り出した。右手に握られたそれは、落ちてきた葉っぱを吹き飛ばす。
それとともに、敵に殺気が纏わりつく。敵は恐怖に包まれつつもシャベルで歪人の頭を狙うが、逆に握られていた拒絶刀によってシャベルは斬られる。隙が生まれた敵に対して、歪人は
「拒絶狼世!」
と言いながら敵の腹に回転切りを喰らわせた。敵は、その姿が普通の人間に戻った。その人間は特に怪我も無く気絶していた。
「実験及び実践終了。イーニッドのやつの評価はどうだろうな?」
歪人はそう言いながら、ケータイを開いてロリ声の持ち主へと電話をしながら、ハンバーガー専門店へと行くのだった。
宣伝、活動報告に本気出しているので、この作品にはあとがきは特にありません。ので、見てくださいませ。