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「なんだよ…聞いてねえよ何してんだよ…」
くってかかるが、まるで無視。手を休めることなくヤツはおれに鞍を載せる。
「うるさいな。いつもやってることだろ。つべこべ言うな」
横顔からは何も窺えない。何もないみたいに、前だけを睨んでいる。いつもは辛いことなんかないように好奇心にきらめいている眼が暗く沈んでいるのは傍目に見ても明らかだった。
「おい、ほんとやめろって。鞍はおれに乗るやつが載せるべきだ。お前、こんなことまでしなくていいよ」
「おいらだよ」
「はあ?」
「今日お前に乗るの、おいらだ」
そういってヤツは…おれの主人は泣いてるみたいに笑った。
「意味わからん。お前整備士だろ…兵にはならないって…しなないって言ったじゃん。なにそれ、バカなの?」
「状況がかわったんだ。それに、戦闘にでないだけで戦争には加担してるんだ。覚悟はしてたさ」
わからんわからん意味わからん。覚悟ってなに。状況って?獣にもわかるように説明しろよ。
「ガキの癖になにいってんだ…覚悟とか…ガキなんだからしににいくのは別のやつにまかせてろよ」
「子どもということは戦わない理由にはならない。昨日お前が載せて戦闘にでたやつはおいらの後輩だったよ。おいらよりも年下のガキすらうちじにするのにどうしておいらが戦わないなんて言えるんだ?」
「おれが守ってやる!!」
そうだ!おれの鱗は銃弾をはじくし、魔法にだって負けやしない。炎だって吐けるし人のガキ一匹守るのなんて、わけないはずだ。
「それで、どこに行くんだ。人間の住む場所でこの国の息のかからん場所なんかない。ここを裏切っておいらが生きることができる場所なんかない。しねと言われたらもう、しんだも同然だ」
そういってヤツはくるりとおれに背を向けた。くやしくてくやしくて、きっと人間なら視界が滲んでいるんだろうなと思うがやっぱりおれは人ではなかったのでせんないことだった。
「おいらは親兄弟もいないしこの国に守りたい誰かがいるわけでもなし、強いていうならお前な訳。だから」
そうしてヤツは意思の強い眼で笑い、こう言った。
「おいらの心臓を返してくれ。いま、このときから契約は破棄だ」
「どうして…」
「どうして?それこそどうして?おいらはただしぬなんて嫌なんだ。意味の有るしが欲しい」
そういって朗らかに笑み、こう続けた。
「相棒、きっとお前には自由に羽ばたく蜥蜴が似合いだと思うんだ」
戦争においてのままならん感じを表現したかった…のかなあ。