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作文
「暗くなったな」
ふと外に目をやって、ペンを弄る手を止める。
私ってば偉い。その瞬間に、そう思った。
目の前には長期休暇の宿題で余った原稿用紙とペン、消しゴム。原稿用紙には「育ててくれた人」と題がうってあり、一枚の半分以上は埋まっているが、数行ペンで線が引いてある。
「嫌なことも進んでやるなんてね」
でもやっぱり大まかな流れくらいは書いておくんだった。いきなり書き始めても線が増えるだけだって言うのに。
私はゆっくりと文章を読み返す。嗚呼、適当な字だ。なんてね、後で清書するんだろうけど。
そして目が止まったのはある部分。
「なので私は父に感謝しています」
良くもまあ……、多分無意識に書いたんだろうけど……。
感謝してないと言ったら嘘になるけど、父親と出掛けたことなんてほとんどないから、「親」と「育ててくれた人」のニュアンスの差があまり思い浮かべられない。
まあ「どうでもいい」けど。
ぽつりと呟いた一言がやけに虚しかったのは、気のせいだろう。