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彼女は
「やっぱり凄いねー。あたし緊張して水零しちゃった」
あははー、と間延びした笑い声。何がおもしろいのか分からないけれど、口角をどうにか上げておく。
席でぼうっとしていたら、数人が私のところに来て話している、そんな光景。まあ、こんな時、私はいつも聞き役だけれど。
授業まであと五分、次は教室だから大丈夫だよね、何となく確認。それから笑い声をBGMとして、窓の外に目を向ける。
いちめんのあお。一面の青。一面のあお。
「……雲」
が、欲しいなあ。あんなに奇麗なあお、私何かが見るには勿体ない。だけれど目線はそこから外れることはなく、チャイムが鳴って、ようやく本来の自分を取り戻したように前を向く。
だけど、心の水底に広がった波紋は消えることなく、あおは私に貼りついたままだった。
あーあ、こんなのじゃあ、洗ったくらいじゃ取れないよね。
私はようやく笑った。だけれどそれは、自嘲の笑みでしかなくて。何を嘲っているのかすら分からない笑みは、ただ不気味さをかもし出しているだけでしかない。