彼女は
「はい、じゃあ次の人」
人当たりの良いおばさん、と言ったイメージの先生が評価用紙から顔を上げて声を掛ける。
あー、私か。がたっ、と静かな空間に椅子の音が響く。机の上に置いておいた試験管を引ったくると、教室の前へ足を運ぶ。
「……お願いします」
小さな声でも響く声。先生が軽く頷くのを見てから、試験管のコルクを抜く。そしてそのまま手を離す。
ガラスの試験管が割れて、がしゃんと音が――するはずもない。
私の操る水が、試験管の下に入ってその場に留めているのだ。
右手を前に差し出して、試験管を手まで誘導させると、残りの水は窓をくぐらせて校庭に捨てた。ここは三階だから、今の時間校庭を使っているかなんてすぐ分かる。使ってなかった。
「……ありがとうございました」
何にお礼を言うのかいまだに分からないけれど、皆に沿ってとりあえず言っておく。
なるべく音を立てずに席について溜息。
大丈夫だったよね。特に目立つことはしていないし、サービスもしていない。水を捨てたのは、持って帰るのは嫌だったし、どこにやっていいのか分からなかったから。不可抗力ってやつだと思う、うーん、何か違うかな。