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――ソラ――
確かに、聞こえたんだ。
1.
冷蔵庫からペットボトルの紅茶を取り出して階段を上る。電気はつけないまま。
今は夜。星が煌々と輝く時刻。人々が眠りへと落ちている時刻。
私はこの暗さが好き。子供の頃は後ろを振り向いたら何かがいるんじゃないか、って思っていたけれど。今は昼間にはっきりと見える人が、怖いかな。
「……はっ」
なんて、私ってば何を考えているんだか。自嘲の笑みを点々と残しながら、十五段の階段を音を立てずに上り切った。
右に曲がってすぐの扉に手を掛ける。一瞬開いているのかと思ってぶつかりそうになったよ。
キィ……と嫌な音をたてながら開く扉。私は真っ直ぐ迷わずに歩いて、人が一人か二人くらいはいることの出来るベランダへと降り立つ。
素足で木の感触を味わいながら顔を上げると、さっきまでの温かい感情が影を潜める。
「……誰」
まともに声を出したのが久し振りだったせいか、少し掠れてはいたが、届いたようだ。
――空色の先客に。