お隣の間違いじゃないですか?
こんな噂がある。
深夜に身に覚えの無い宅配業者が来たら絶対に扉を開けてはいけないと。
「は~今日も会社はクソ!」
透(とおる)はいつもの様に会社の愚痴を言いながら遅くまで晩酌をしていた。
酒を飲まなきゃやってられない。最早、晩酌が趣味と化している。
そんな時。
ピンポーン。
インターホンが鳴った。
こんな深夜に誰だとモニターを見ると宅配業者が荷物を持って立っていた。顔はキャップに隠れてよく見えない。
何かを頼んだ覚えはない。とりあえず対応してみる。
「はい」
すると宅配業者は淡々とした喋り方で告げる。
「103号室の石井様ですね。お届けものがございます」
「……」
ここは104号室だし、自分は石井なんて名前ではない。誤配か……めんどくさいと思いながらも透は言う。
もし宅配業者が来たらこう答えなきゃいけない。
「お隣の間違いじゃないですか?」
少しの間の後、宅配業者は淡々と「失礼しました」と言って去っていった。
透はため息をついた後、晩酌を再開した。
しかし、一回来たらそいつは毎日やって来る。同じ事を言い続けるんだ。
透は昨日と同じく、くだを巻きながら晩酌をしているとインターホンが鳴った。
モニターを確認すると宅配業者がいた。背格好からして昨日と同じ奴だろう。
透は不審に思いながら対応した。すると宅配業者は淡々と言う。
「103号室の石井様ですね。お届けものがございます」
「……」
一言一句昨日と同じ文言。透は怪しく思いながら述べる。
「あの、お隣と間違えてませんか?」
少しの間の後、宅配業者は淡々と「失礼しました」と言って去っていった。
透は、なんなんだ……と思いながらまた晩酌を再開した。
宅配業者は毎日来る様になった。いつも同じ文言。自分も同じ言葉を返す。
しかし透は会社と趣味の晩酌を毎日邪魔されるストレスでだんだん苛立ってきた。
今日もまたインターホンが鳴る。
「103号室の石井様ですね。お届けものがございます」
透はついにキレた。
「いい加減にしろ!! 毎日毎日間違えてんじゃねぇ!!」
少しの間の後、宅配業者はいつもの様に淡々と「失礼しました」と言って去っていった。
だが結局次の日も宅配業者はやって来る。
「103号室の石井様ですね。お届けものがございます」
透は怒鳴った。
「お前んとこの会社にクレーム入れてやるから覚悟しとけ!!」
宅配業者はいつもの様に淡々と「失礼しました」と言って去っていった。
次の日、透は宅配業者の制服から割り出した会社にクレームの電話を入れた。
「お宅のとこの社員が毎日毎日誤配してくるんですけど? どういう教育をしているんですか? 嫌がらせか何かですか?」
オペレーターは状況を細かく聞いてきたので隅から隅まで伝えた。
すると、オペレーターの態度が一変した。
「あの、大変申し訳ございませんがこちらでは対応できかねます……」
「は?」
それは困っている様にも何かに怯えている様にも聞こえた。
「それでは失礼いたします……」
そう告げられて電話は切られた。
「ちょっ……!」
親元の会社にクレームを入れても無駄さ。会社も『奴』を持て余しているんだ。
また今日も彼はやって来る。
透が無視を決め込むといつの間にか消えていた。
警察にでも言った方がいいのか……。しかし警察がこんな事で動いてくれるとは……。
二週間。二週間耐えればそいつは来なくなる。しかしそれまでに扉を開けてしまえば……。
ピンポーン。
インターホンの音に透は、こうなったら直接文句を言ってやろうと玄関に向かった。
そして扉を……開けた。
すると宅配業者は顔を上げ、恐ろしい笑みでこう言った。
「みぃつけた」
「え」
こんな話がある。
深夜の業務途中で宅配先を間違えた宅配業者がいた。しかし、そこは不運にも殺人鬼が犯行をしていた現場で彼は巻き込まれて殺されてしまった。
それから亡霊となった彼は自分を殺した殺人鬼を探している。
探してどうするかって? もちろん……。
ピンポーン。
今日もどこかで深夜にインターホンが鳴る。




