05:しれっとお揃いにしてくる七海くん
11月最初の日曜日。
ハロウィンが終わった途端、街中はクリスマスムードに包まれる。
ショッピングモールに流れるクリスマスソングを小さく口ずさみながら、大きなツリーの前を通り過ぎた、その時――
「「あ」」
七海くんと鉢合わせた。
同じタイミングで目が合い、お互いに小さく口を開ける。
「スーパー行ったの?」
「はい」
「今日5%オフだもんね」
七海くんの手にはエコバッグ。そこからネギの頭がはみ出ていた。
(自炊するんだ……)
少し驚いたけど、想像してみたら案外しっくりきた。
材料は等間隔に綺麗に切りそうだし、調味料は計量スプーンできっちり測りそう。
「一宮先輩は、何か買い物ですか?」
「私はクリスマスコンサートの小物を買いに」
私が向かっているのは、クリスマス特設売り場。
というのも、クリスマスコンサートでは"クリスマスっぽいもの"を身に付けることが義務付けられているからだ。
「七海くんは何か用意した?」
「いえ……まだなので、一緒に選んでくれませんか?」
「えっ、うん、いいよ」
なんか、さらっと一緒に買い物することになってしまった。
「みなさんどういう物を付けるんですか?」
「一番無難なのはトナカイのカチューシャとか、サンタ帽かなぁ。あ、でも鈴は去年ウサギの耳付けてた。ちょっと前に流行った、耳が動くやつ」
赤と緑のクリスマスカラーに囲まれたフロアを、七海くんと並んで歩く。
3センチのヒールを履いていても、私の頭のてっぺんは彼の肩に届かなかった。
「あと、クラの根岸さんは毎年サンタ服着て白ひげも付けてガチサンタになってる、よ……」
話しながら途中でハッと気付く。
七海くんはここまで細かい情報は欲していないのでは……?
入団したばかりで団員の名前もまだ覚えていないだろうし、つまらない話だったかもしれない。
「……!」
恐る恐る七海くんを見上げてみると、とんでもなく優しい眼差しを向けていた。
私は慌てて顔を逸らして、目の前に見えた売り場へと小走りした。
「な、七海くんは何がいいかなー」
ドキドキと騒ぐ心臓を誤魔化しつつ、商品を物色する。
棚には色とりどりのサンタ帽やら、いろんなモチーフのカチューシャやらが綺麗に並んでいた。
「見てこれ! ガチトナカイ!!」
その中で、ひと際異彩を放つ商品を見つけてしまった。
トナカイの角のカチューシャ……と言えば一般的なアイテムだけど、角のクオリティが桁違いだ。
普通はデフォルメされた丸っこい角なのに対して、これは本物のように刺々しく枝分かれしている。
北欧の部屋の壁に飾られているオブジェのようなリアリティである。
「ね、付けてみて!」
「じゃあ付けてください」
「お、おおう」
カチューシャを渡そうと思ったのに、七海くんは頭を私の目線に差し出してきた。
また、可愛いつむじが目の前に現れる。
ここで躊躇したら変に意識してると思われそうで、テンションの高さでなんとか乗り切った。
形の良い丸い頭にカチューシャをかける。
指先に触れた黒髪は羨ましいほどにサラサラだった。
「ふッ、ふふ、似合う……!」
「けっこう重いです」
仰々しいトナカイの角は、高身長でクールフェイスな七海くんによく似合っていた。
「めっちゃ強そう!」
「じゃあこれにします」
「ほんとに? 嫌なら無理しなくていいからね?」
「先輩が笑ってくれたのでこれがいいです」
「!?」
一瞬、息が止まった。
「んん゛っ」
意味のない咳払いをして、なんとか心臓を落ち着かせる。
顔の良い後輩に懐かれるのって、大変だ。
「先輩はどれにしますか?」
「私は去年と同じサンタ帽被るんだけど、トランペットに付ける飾りないかなーって思って」
「なるほど。じゃあこっちですかね」
七海くんは相変わらずおすまし顔で、売り場の奥へと進んでいった。
私ばかりがペースを乱されて少し悔しい。
私は七海くんの背中をこっそりと睨みながら、あとに続いた。
「これとかどうですか?」
「んー?」
隣に並んで手元を覗き込む。
七海くんの手のひらには小さなサンタの人形が収まっていた。
私も同じ物を一つ手に取る。
手の先がマジックテープになっているから、色んなところに付けられそうだ。
「可愛い! 管に付けようかな」
「俺も付けます」
「……待って。トロンボーンに付けたらスライド動かす度にサンタが荒ぶっちゃうよ」
「最悪ふっ飛んでユーフォのベルの中に入りますね」
「あはは!」
想像したら面白くて大口を開けて笑ってしまった。
「スライドの手前に付けるので大丈夫です」
そう言いながら、七海くんは私の手にあった人形を取った。
「レジ混んでるし、一緒に買ってきます」
「え、そんな……」
引き止めたのに、七海くんはさっさと行ってしまった。
トナカイのカチューシャとサンタの人形を二つ買う七海くん……。
そのシュールな光景を見ながら、ある重大な事実に気づいてしまった。
(お揃いじゃん!)
……もう手遅れだった。




