3月
3月の内容
■盲導犬のサポーター
■繁殖ボランティア訪問(仔犬1カ月目)
■今日から訓練犬 1歳になりました(パピーから訓練犬へ)
■健康チェック
■新入り訓練犬の初仕事と稟性
■月次報告(3月)
■盲導犬のサポーター
盲導犬の育成を資金面で支えてくれているのは、寄付金であったり会費であったり、補助金だったりする。店舗に置いていただいているような募金箱、街頭募金もいくつかの柱の一つだ。金額面だけではなく「もの」を寄贈していただく場合もある。例えば盲導犬を市中での訓練に連れて行くための自動車も寄贈のものが何台もある。よく見るとヒノキハウスの中の訓練犬が暮らす犬室の柵も寄贈品だ。このほかに「人」や「場所」を提供してもらう場合がある。ライオンズクラブのような組織が主催するイベントで募金をさせて頂いたりもする。小売業の季節のプライベートセールでブースを貸して頂くこともある。そして最近ではSNS上で寄付を呼びかけてくれるところもある。
・古都マラソン ランナーExpo.
「今回の募金はライオンズクラブ(LC)さんのお誘いなんですか。」
「ええ。京都中央LCさんが古都マラソンの受付会場でブースを出すということで、今回、盲導犬を連れて来たらどうですか?と声をかけて貰たんです。」
「なるほど。大きな市民マラソンだと、当日受付だと手が回らないので、前日とか前々日からとか事前受付をやるっていうのは聞いてました。その時に展示会みたいなものがあってランニンググッズとか栄養食品の販売をしているんだと思ってました。LCさんも出展しているんですね。」
「でも売るものは無いのでパンフレットを配る程度が普通なんですわ。それやったらということで、盲導犬募金に使うてみたら、という話になって今回に来ることになったんです。」
ライオンズクラブという言葉は知ってはいたが謎の組織だった。今改めて説明を聞かせて頂いたら、献血から視覚・聴覚の福祉、青少年育成やら環境保全まで各種の奉仕をする団体なのだそうだ。
「大阪のLCさんの一つが3月末の土曜日に、地域振興を兼ねてミニ桜の通り抜けを計画していて、そこでも募金を計画してはります。大阪やと造幣局の『桜の通り抜け』が有名なので、それを模しているネーミングらしいですわ。どのLCさんでも募金を支援してくれるだけではなく、LCさんの中で会員の方から寄付を募って下さって大きな金額にしはって協会へ設備を提供してくれたりしたはります。」
「本当にありがたいですね。」そういえばヒノキハウスの中のあちこちで、『贈呈 なんとかライオンズクラブ』と書かれた札が付いているのに気がついていた。普通の会社勤めをしていると、企業で何か慈善活動の旗振りをする機会はほとんどなく、また地域との結びつきも強くはなかったのでLCというものに鈍感だった。慈善活動を積極的に行ってくれている団体にはLC以外にも「世界オプチミスト」という世界的な組織もあるようだ。この名前が入った近盲車両なども見る機会はあった。慈善団体も改めてお世話になっていることが分かってきた。これ以外にも、全国組織でより大きな財団からの金銭的や物的な支援も沢山ある。いろいろな民間団体や企業が盲導犬の育成を支援してくれている。
「そろそろ会場ですね。会場に入るにはこの腕章を着けて、この名札を首から下げて下さい。メロディにはコートを着せて連れて行ってください。」
「はい、福島さん。」
「荷物は少ないので、こちらで持っていきます。」
・ドラッグ・ウェルビー 店長会議
「急にお願いしてすみませんね、須田さん。」PR犬のメロディと私を乗せた車を白河さんが運転している。行先はレンタル会議室がある大阪市内のビル。
「空いている日だったので問題ないんですけど、今日なにをするのかが今一つ分かっていないんですが。」
「ドラッグ・ウェルビーって名前のドラッグストアを聞いたことある?」
「ごめんなさい。最近ドラッグチェーンは再編が続いていて名前が変わってしまって…。」
「近畿地方を基盤としたドラッグストアなんだけど、30店舗くらいあって各店舗に募金箱を設置してもらっているんです。年に一回、たいてい年度はじめにこのグループの店長さんを集めて長めの店長会議をするんだそうで、それが今年は今日。小売り業は2月決算期が結構あるので3月が年度はじめになるんだそうです。店長会議の冒頭で募金箱設置のお礼として感謝状をお渡しするのが慣例になっているんです。その後会議の最初の休憩のところで、盲導犬のデモをして、買い物で盲導犬を連れて来店したお客様への対応の仕方などをお願いして、我々は撤収です。」
今日は白河さんのお供としてこの店長会議についてきた。今日の白河さんはスーツ姿。自分は街頭募金でも着る盲導犬協会のプリントが入ったジャンパーを羽織っている。会議室の外にすでに会議机を置いてくれてあって、募金箱をその上に置く。PR犬のメロディと白河さんとで待機していると、会議の進行担当の人が来て白河さんと手順を確認している。確認の後、白河さんから
「会議は9時開始予定で、その冒頭に感謝状の贈呈をします。その時メロディも連れて前に出て行くので、須田さん、贈呈の場面の写真を撮って欲しいんだけどいいかな?」
「ええ、バッチリ撮りますね。」
「その後退室して、最初の休憩が10時から10時15分まで。私とメロディは休憩時間中10分くらいデモをするけど、その間須田さんは募金箱のところに居て下さい。募金のお願いする必要はないので、盲導犬について質問されたら説明するようにして下さい。」
「はい、分かりました。」
しばらくして、先ほどの進行担当者が白河さんを迎えに来た。
「じゃ、いきましょう。メロディ、行こうか。須田さん、写真お願いします。」
スーツ姿の白河さんも珍しかったが、贈呈式という形で感謝状を渡すということ自体が新鮮だった。
休憩時間に入って、白河さんはメロディのデモと盲導犬を連れて来たお客様の対応の説明を会議室でしていたようだ。こちらは、休憩時間に廊下に出てきた各店の店長さん達が募金箱に募金をしてくれるのに対してお礼の言葉を伝えてお辞儀をしていた。休憩時間が終わり、廊下はすっかり静かになる。
「須田さん、撤収しようか」
「ええ。感謝状の贈呈で店舗や会社の皆さんがさらに盲導犬育成に協力して下さったらありがたいですね。キャッシュレスの時代になってますがおつりが出ないようになって、お店においてある募金に影響は出ていませんか?」
「それが、ウェルビーさんはやり方が変わっていて、会員カードもなく、現金決済しか受け付けていないんです。だからキャッシュレス化の影響は出てないんですよ。しかもウェルビーさんは店舗数を増やしているから合計の金額はまだ右肩上がり。ただ、他社の状況も踏まえて全体的に見てみると確かに募金箱は厳しい時代ですね。」
・ネットでコラボ
ケータリングとキッチンカーを組み合わせたようなサービスを展開して、ネット上で話題となっている『くっきんチャンネル』という配信サービスがある。料理の作り方を教えてくれたり、それを料理教室でリアルにも教えたり、クローズドなイベントで提供したり、キッチンカーのように街やイベントで販売したり。これらをうまく組み合わせて配信して総合的に収益を上げている。その『くっきんチャンネル』と、正確にはこのチャンネルを運営している株式会社クックインと近盲はコラボしている。
「あの車を寄贈してくれた『くっきんチャンネル』とはどうやってお付き合いが始まったのですか?」
「コロナの時期に近盲がSNSで広報活動を始めたときにクックインさんから連絡を貰ったの。クックインさんも動画配信で認知度が上がって、動画配信の利益をまずは寄付します、というところから始まって、それからすぐ代表の方が盲導犬育成事業により強い関心を抱いてくれたんです。」白河さんはまさにその連絡を受けた当事者だった。
「クックインさんは『自分たちの仕事で街を笑顔で満たそう!』という理念を持っていて、これは盲導犬育成も通じるところがある、そう考えてくれたようなんです。」
「でも向こうも飲食業、コロナでは大変だったんじゃないんですか?」
「代表の方はもともとレストランでシェフだった人で、コロナの影響でレストランを退職して、料理番組を作り始めたばかり。コロナで外出が減った反動もあって、家庭で食事を作るようになって来て、むしろ何を作ったらよいのか分からない単身者や若者がまずはくっきんチャンネルを見始めたみたいね。それがコロナが少し収まって来て、食材配達、イベント配食・ケータリングなども増えて来て。ネットの影響力ってすごいですね。くっきんチャンネルの終わりのところで近盲のことを紹介してもらったおかげで近盲の知名度も高まってこちらのSNSのビュー数も増えたし、クックインさんから盲導犬協会への寄付金もあって、寄付金全体の数パーセント増えたみたい。数パーセントって全体換算だと数百万円増えたということになる。」
「それはすごい。でも、近盲にとってだけ良くても続かないですよね。」
「そうなんです。やはりWinWinの関係を作らないと長続きしないでしょう。そこで、近盲のイベントの時に良い場所を割り当ててキッチンカーを出してもらうとか、PR犬をくっきんチャンネルに出して、ちょっとはクックインさんの話題につながるようにしてます。」
「偶然かもしれませんけど、盲導犬に興味を持ってくださる視聴者層と料理系チャンネルの視聴者層はかなり近いのかも知れないですね。」
■繁殖ボランティア訪問(仔犬1カ月目)
「はい。分かりました。では元気になったらまたお願いします。」
今日は小学生に盲導犬の仕事を教えるとのことで、加賀さんと出かける予定になっていた。少し気になっていたインフルエンザの流行で学校行事が変更になり、盲導犬の仕事紹介も中止になってしまった。
「時間が空いたのね。ニーナのところのパピーちゃん達の写真を取りに行くんですが、一緒に行ける?」と宮藤さん。近盲の写真のほとんどは宮藤さんが撮っている。
「もちろんです。ちょうど…」
「そう30日。生まれて1カ月です。」
「ペットショップとかで見ると、入ったばかりの仔犬でだいたい生後60日ですよね。」
「8週齢規制というのが2021年にできて、生後56日以下の犬や猫を母親から引き離すことは禁止されたんです。だからペットショップに出てくるのは生後57日以降ということになりますね。」
「生後30日の仔犬を目にするには、ブリーダーさんのところに行くか、とにかく母犬のところに行くしかないってことですね。」
「須田さん、ラッキーですよ。1カ月くらいが一番かわいいんだから。」
ニーナの住む家、ボランティアの中山さんのお宅についた。ちょっとした広さの芝生の庭があり、LRが走るのは無理にしても日向ぼっこくらいはできるなと思った。
「こんにちは。」と慣れた感じで宮藤さんはインターホンを鳴らした。
「あ、ようこそ。須田君も来てくれたんですね。すごいことになっているけど気にせず入って。」
1カ月前、出産のときにお会いしたご主人が玄関に迎えに出てきてくれた。
家の1階、玄関入ってすぐのところにLDK。その居間の部分には出産の時に見た産箱と同じ大きさの囲いがあって、その周りにもまた囲いがいくつか用意されていた。そしてそのどの囲いの中もペットシーツで埋め尽くされて床が見えなくなっていた。安心して出産できるように自宅と協会の産室で大きさを揃えた産箱を置くことにしている、と谷野さんが言っていたことを思い出していた。
出産のときにはイエロー♀、ブラック♂、ブラック♂、イエロー♂、ブラック♀、イエロー♀の順だったので区別のために1頭目と2頭めにリボンをつけていた。中山さんのお宅ではぱっと見てどの子がどの子なのかの区別をつけるため4頭がリボンをつけていてリボンをつけていないのはブラック、イエローそれぞれ1頭だけだった。このためリボンの色で皆呼ばれていた。名前はまだついていない。PWさんが名前をつけるので決まっていないためだ。せめて仮の名前をつけたらどうかと思ったが、名前は一生で1つと決まっているため、仮の名も付けられないのだった。
「これからフードを上げるところなの」
中山さんの奥様がぬるま湯でふやかしたドライフードが入った小ぶりの容器を6個持って来た。
ともかくパピーたちは食欲旺盛。運ばれてきたフード目指して進み、勢いよく食べ始めた。自分の容器からフードが無くなると隣のフードを狙っている。狙われたパピーも慌てて食べる。
「一カ月でずいぶん大きくなりましたね。」
「ちょうど今が一番可愛い時期かな。これより少し前だと、イエローのパピーはジャガイモをいくつかくっつけたような形だったのよ。ようやく犬らしい形になってだいぶ歩けるようになってきて、どこに行くかわからないので怖いくらい。そして気を付けないと、すぐ落とし物。」
食べたあと柵の中を少し歩き回って運動をすると、今度はすぐにうんちをする。
「これを拾って、トイレに持っていくの。まだニーナのおっぱいも飲んでるの。母乳だけのときはニーナは仔犬が排泄したものをきれいに処理してくれてたけど、フードになったらそうは行かないから、ほんと、大変。最初のお産の時は毎回流してたけど、水道代がすごいことになっちゃって。トイレも毎回流してたら水道代がたまらないことが分かったので一頭ごと一回ごとに流さずに何頭か分をまとめて流すの」
おなか一杯になって、うんちをして。気持ちよくなったのか、パピー達はそろってニーナのところに集まりお昼寝タイムになった。中山さん夫妻は、うんちのあとのペットシーツの片づけをして、食器を洗って。ようやく
「つかの間の休息なんだよ。」とご主人。
「そう、1時間もしないうちに今度はニーナの授乳タイムなの。」
たしかに1時間もしないうちにパピー達が起きだしてきて今度はニーナの母乳をむさぼる。平和なようでいてまるで戦場だ。すぐにまたフードの時間がやってくる。
「いい写真が撮れました。」宮藤さんは冷静にシャッターを切り続けていた。そして一転、宮藤さん、表情を緩めてパピー達の重みとぬくもりをはかるように一頭ずつ抱きかかえて微笑んだ。
■今日から訓練犬 1歳になりました(パピーから訓練犬へ)
パピーウォーカー(PW)の家庭からパピーたちが帰って来る。1歳になった犬たちは、仔犬というには大きすぎるけれどまだ成長過程で、もう少し大きくなるとのことだ。そのためフードもまだアダルト用には切り替わっていない。
生まれてから2カ月一緒に育ったきょうだいであり、その後もパピーレッスンで顔を合わせているので一緒にするとすぐに遊び始める。
・パピー修了式
「それではこれからパピー修了式を始めます。」
PW担当の川崎さんの声で会議室のざわめきが収まる。パピー修了式にはこれから訓練を始めることを示すために、犬達を指導する訓練部の部長も参加している。
「PWの皆さん、10カ月間にわたるボランティア、大変ありがとうございました。」
所長の挨拶から式が始まる。そして感謝状の贈呈。続いてこれからヒノキハウスでの生活や訓練の動画が流される。動画では説明しきれなかったことの説明が職員から行われる。長いようであっという間。とうとう全体の記念撮影、続いてPW一家族ごとの犬も一緒の記念撮影。まだ訓練も始まっていないので気が早いのだがPWの方の願いも込めてハーネスを付けての写真も撮っている。盲導犬として活躍してほしい反面、別れたくはない。しかし式次第は進んで行く。PWさんから一言ずつ順番にメッセージを話してもらう時間になる。ご家族そろって来ている時には、夫人からメッセージが贈られるよりも、ご主人からのメッセージの方が多い。人前で話すのに慣れているからだろう。長い話、短い話。いずれにしても熱い思い出に、心も目もとも熱くなることが多い。そして、いよいよお別れである。
パピーは順番に名前が呼ばれ、訓練士に連れられて一頭ずつ会議室から退出する。訓練士のリードさばきが巧みなせいか、どの犬もほとんど振り返ることなくヒノキハウスへ行ってしまう。パピー達は意外とクール?振り返らないばかりか尻尾さえ振って歩いて行く。一方でPWの皆さんは、10カ月前にパピーを預かった時からこのお別れのタイマーが動き始めていたのを知ってはいた。知ってはいたが、一秒でも長く一緒にいたい、これがPWの心の中だそうだ。
「つい、パピーを自分の背中に隠して、自分の仔が呼ばれないようにしたくなります。」
しかし、そんなことが叶うわけもなく全てのパピーの名前が呼ばれ結局PWさんだけが会議室に残る。皆すぐにその場を立ち去ろうとはしない。これでしばらくの間会えなくなる。次に会えるのは盲導犬になって引退するときか、キャリアチェンジが決まって、その飼育先に移る少しの間のいずれかだ。PWの皆さんの思いは、『別れたくない』から『もう一度会いたい』に変わる。
家に帰ったPWさん達は、広くなった居間にしばらくの間戸惑いを覚え、『早く次のパピーを割り当てて欲しい』『もうPWはやめよう』などの思いがよぎるようだ。
■健康チェック
パピー達は修了式を迎えるため訓練センターに戻ってくる前に必ず寄るところがある。獣医さんのところだ。動物病院でしてもらうことは、脚部の関節の検査を行うこと。小型犬と比べて大型犬は股関節形成不全であるケースが多い。悪化すると歩行ができなくなる。このため本格的な訓練を行う前にこの病気の可能性を確認しておくことが求められている。
「中川さん、股関節の検査結果はもう出ているんですか?」
「獣医さんのところに寄って検査をしてもらったっていう話を聞いてたのね。でも獣医さんは確定的な診断してないんです。」
「どういうことですか?獣医さんのところでは何をしたんですか。」
「X線の撮影をしただけなんですよ。もちろん獣医さんはその場で所見を伝えてくれてるんですけど、撮影した画像はAAHD(全日本動物遺伝病)ネットワークというところに送られて、そこで分析をしてその結果が協会へ報告されてきます。」
「やはりかなりの専門知識がないと画像を正確に読み取れないのでしょうか。」
「普通の獣医さんでも一般的な判断はできるようだけど、AAHDではかなり細かく調べてくれます。股関節の場合、左右9つずつ、計18箇所についてそれぞれ5点評価、計90点で評価してくれます。だから低評価だけでなく高評価も分かるんです。ちなみにこちらは点数が低い方が良い評価です。生後12カ月にならないとチェックできなくて、そのため修了式の直前に獣医さんで見てもらうことにしています。盲導犬協会の場合、繁殖犬を決めることも必要なので、この結果は訓練方針にも影響します。あ、それから、股関節だけでなく肘関節も検査してるんですよ。こちらは全体で4段階の評価になってます。股関節形成不全も4段階評価くらいだったら、一般の獣医さんで診断できるとかなと思うけど、90点なんて細かくチェックができるのはAAHDしかないというのが現実かな。またAAHDにデータを集めることで遺伝の問題がここに集積されていくので、その方がいいのかな、とも思っています。でもちょっと残念なのは検査結果が届くまでに2カ月かかってしまうことなの。」
「そうすると、その2カ月の間にするトレーニングは検査結果によっては有効活用されないことになるんですか。」
「いいえ。最初は生活に関する訓練を中心にして、盲導犬としての誘導に関する訓練はほとんどしてません。だから仮にCCになったとしても役に立っています。そして股関節形成不全については今まで全く問題がなく、これが原因でCCになった子は15年以上一頭も居ません。交配の際に気を付けているからだろうねと獣医さんからお褒めの言葉も貰っています。さっき少し触れたけど、結果がとてもいいと、盲導犬ではなく繁殖犬に切り替えることもあるのね。それからこの期間は関節だけでなく、他にもメディカルチェックをしているの。股関節の次に重要なのは目ですね。視覚の検査も専門医じゃないとできない部分があって、こちらも長いと1カ月くらい診てもらう機会がないの。だけど診断の信頼性は高くて、遺伝的な疾患があるかないかが分かるので繁殖に向いているかが判断できます。ただそれは、絶対に白内障にならないという意味じゃないの。日本人だと70代で80%以上が白内障になるように、老犬では9歳で半数が白内障に罹患するとされていることなど丁寧に説明しないといけません。」
■新入り訓練犬の初仕事と稟性
近盲においてPWさんから帰って来た新入り訓練犬の初仕事は写真を撮られること。実はPWさんのところへ行く前にも写真を撮られていた。
「大きさは変わったけど、やっぱり変わらないね。」
2つの写真はiGRAMにアップされ、こんな記事になる。
『本日パピー修了式が行われました。1枚目の写真、本日撮影、すこし大人の顔になってきました。2枚目の写真、生後2カ月の時撮影。どうです?優しい眼の特徴は変わってませんね。』
帰って来た最若手の訓練犬にはあと2つ重要な仕事がある。1つはBart(Behavior Assessment Research Template)という検査を受けること。これは日本各地にある盲導犬協会だけでなく、FEGBN(Far East Guide Dogs Breeding Network)で行われているテストだ。この検査はそれほど複雑な運動を犬がしなくても犬の特質を見抜くことができる可能性があるのだそうだ。もう1つは4つのチェックコースを歩くこと。農地ののどかな小径、住宅街の静かな道、市街地のにぎやかな道路、そして建物の中の通路の4つだ。
「これらのチェックで分かる稟性もあって、その結果を使って盲導犬や繁殖犬としての適性を判断できないか検討している論文も発表されています。」
「『ひんせい』ですか?品質の品に性格の性って書くのですか?」
「違います。漢字では『なべぶた』の下に回転の『回』、下に『禾』へんの『のぎ』を書いた稟という字ですよ。」
「あ、確かにどこかで伺ったような気がします。性格には訓練で変えられる部分もあるけれど、どんなに訓練しても変えられない部分が犬ごとに違っていて、その変えられない部分を『稟性』と呼ぶんでしたよね。」
■月次報告(3月)
第6回報告
御手洗社長
3月(6回目)の報告を行います。
<業務内容>
・支援団体調査
・繁殖ボランティア訪問
・訓練犬受取(修了式)
なお先方都合におり「啓発活動(学校訪問)」は今月は見送りとなりました。
<次月の予定>
・パピー委託式立ち合い
・引退犬の扱い調査
・啓発イベント支援
<所感>
B2Bでは分かりませんでしたが、地域ごとの団体がそれぞれ福祉事業などで貢献していることが分かりました(当社でも復興基金への寄付等をしてますが、人的な貢献もされているようです)。またオールドエコノミーからネットを中心にしたビジネスへと軸が移っているのを感じました。
啓発活動での学校訪問を予定していましたが実施できなかったため先月出産した仔犬の様子を見てきました。来月予定の委託式で再会しますが、成長度合が楽しみです。今月は昨年委託したパピーが戻って来て新たな訓練が開始しています。
須田
返信:第6回報告
須田さん
別途レポートで「支援団体」について読みました。リアルとバーチャル空間の双方を含んだ支援というのは面白い切り口ですね。転換点を超えたように思えます。出向も折り返しですね。見ることができることはいろいろと取り組んで下さい。
御手洗




