出向終了(エピローグ)
1年間、久々に戻った自分の職場は懐かしくもあったが、近盲での環境とは大きく違う。途中何度か帰社して報告をしようかとも思ったが、結局帰社するのはやめて1年間戻ってこなかった。人事部に顔を出したあと、社長室のドアを叩いた。
「はい、どうぞ。あ、須田さん、お帰り。」
「御手洗さん、1年間どうもありがとうございました。」
「まあ、そこ座ってよ。」
そこは、1年前に出向の話を聞いた時の椅子だ。
「途中月報メールの他にいくつか報告をしましたが…」
御手洗社長はそれを遮るように
「1年間の細かい活動内容はまた聞かせて貰うけど、何か得る物はあったかな?」
「ええ、まず頂いた宿題ですが、この間書いた企画書のようになりました。とてもいいアイデアだと思うのですがいかがでしょうか。」
「あれは面白いね。早速知財部にも回して他社状況を確認したけど、温度を使ったインターフェースに関する研究はほとんどされていないことが分かったよ。特に風速により体感温度が変わるところを利用するとか、皮膚にある温点・冷点の密度から割り出した温度アクチュエータの配置とかはかなりユニークに思えた。」
「ありがとうございます。」
「それから他はどうかな。何か得たものはあった?宿題とは関係なくていいよ。」
「実は盲導犬協会での訓練を見ていて、犬の訓練と社員教育の似た点をずいぶんと見つけました。今まで自分がこの会社ではかなりスパルタで育てられて来ていて、それは許されると思っていたんです。でももっと上手な育成方法があると感じるようになりました。」
「具体的には?」
「まず肯定的に、そして繰り返し、業務に満足感を得られるように…。」
「うん。須田さんはもともと優秀だからあまり気づいていなかったかもしれないけど、周りには須田さんよりも部下扱いがうまい人がいる。今の発言を聞くと、きっと今、須田さんはその誰よりも部下育成に長けているんじゃないかな。今は10月なのですぐにポジションを用意することはできないけど、もっと大きな組織を回せるようになって欲しいと思って1年間世界を広げて貰って来たんだよ。そして今は何より顔色がいいよ。また激務に戻ってもらうかもしれないけど、ストレスマネジメント覚えて準備しといてね。」
(了)




