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7月~9月

7月の内容

■クラウドファンディング(2)

■月次報告(7月)

8月の内容

■夏の訓練

■水あそび

■月次報告(8月)

9月の内容

■これからの盲導犬

■月次報告(9月)

【7月】

■クラウドファンディング(2)

スタート

今年のクラウドファンディング(CF)が始まった。ファンドの目的は近盲として一貫して「医療費の支援」。全体企画は深津さんがスゴイ勢いで完成させていった。そこからWebの全体デザイン、お礼の品の設定、YourToolによるライブ動画配信イベント・録画再配信予定、イベントやお礼の品の追加が必要なときの対応方法が各担当に割り振られていった。今日はCF開始のアナウンスを兼ねて動画配信イベントが行われる。生配信だが、一部は前撮りしているビデオを流す。その録画編集は、クックインさんに手伝ってもらうことにした。ライティングからして素人とは違う。食事を見せるのがクックインの腕の見せ所なのか、黒ラブがおいしそうにフードを食べて見えるライティングをしてくれた。

全体の配信は、概要の説明、引退犬とその飼育ボランティア、以前その犬と歩いていたユーザーさんが話をするコーナー、働く様子のビデオなどが次々と表れる。配信されているウラでチャットで尋ねられる質問に回答していく職員。はじめチャットはあまり活発では無かったが、一つ質問が出てくると、次から次へと質問が出て来た。

「今年は、チャットが盛況ね。気軽に質問してください、というのを画面に表示するようにしたし、進行役も折に触れてチャットという言葉を言っているのが成功しているのかな」

リアルタイムの視聴者は300人程度だった。YourToolのいいところは、このまま無修正でいつでも見られるコンテンツとして残せることだ。

CFの開始は、FriendBook、iGRAM、BirdYが連動してアナウンスを行っている。今日の配信イベントもこれらのSNSからリンクされてYourToolの近畿盲導犬協会チャンネルから見られるようになっている。また街頭募金でも、募金をしてくれる人にチラシを配っている。気温の上昇が著しく、街頭募金もそろそろ休みに入らなければならなくなってきた。


自動化

自分が相談を受けた2つの件は何度か深津さんと話をして試作品を作ってみた。

まずメッセージの返信。有償の最新版でいくつか学習を追加できることが分かったので、それを使ってみた。

「だいぶ良くなったかな。でも何か対応が冷たい気がする。」

深津さんの感想はこうだった。そこでもう一つのアプローチを提案した。

「送られてきたメッセージが情緒的過ぎて理解するのに時間がかかってしまっているのではありませんか。それならば短文のサマリーを作らせるので、深津さん自身で返信を考えるというのはどうです?同時に生成AI自身の回答も作らせるので、同じ部分、違う部分を比べて納得できるかどうか見たらどうですか?違いを判定することもできますよ。」

「須田さん、いろいろと調べてくれてありがとう。最初はAIを使えば時間を節約できるかもしれない思ったの。でも支援してくれる人のことを考えると簡単に機械に頼ってはいけない部分だって思いはじめているの。電子的な文字でのやり取りと言っても、皆さん様々な想いを乗せてくれているから、感謝の気持ちもちゃんと自分の言葉で伝えようって。だから時間はかかるかもしれないけれどもう少し自分の力で頑張ってみます。」

領収書については、ほんとうはこのクラウドファンディングのプラットフォーマーであるDoFAへ改善要求するのがベストなんだろうと思ったが、どんな形が本当にいいのか迷った。特に書式については見えやすい部分なのでいろいろと意見が出てくるだろう。

「深津さん、一度テスト版を作ってみます。これをベースにDoFAに話しましょう。」

「えぇ、そうしましょう。自分もやりたいことがまだ曖昧なのはよく分かっていたから、そう言ってもらえて良かった。」

こちらの件は何をどうしたら良いのかまだ時間がかかりそうだ。深津さんの意見だけではなく、実際の作業を担当している経理と総務の事務担当の人からも聞いておきたい。そう、言い換えると要件定義がまだ不十分だということなんだと改めて思った。大畑さん、一緒にやってみようか、そう心の中でつぶやいた。


中盤戦

「うーん、昨年よりは出だしがいい、と思ってたんだけど、少し伸び悩みかな。」深津さんはグラフを見ながらつぶやいた。

「どう分析しているのですか?」

「支援者の数は増えているの。ただ10,000円が一番多かったのに今年は5,000円と10,000円が同じくらいの件数になっているの。つまり全体の件数は増えても純粋に医療費に回る金額が少なくなってしまっているわけ。」

「事前の打合せのときに、中押しをしてくれる道具を考えておくことになってたと思うのですが、何か使えそうなものありますか?」

「みんなに考えてもらったお蔭で、今年はすぐに募集数を増やせて支援いただいたり金額も動かせるようなものを考えてあります。私たちが本当に困っていることなのでお礼の品だけでなくCFに協力してよかった、と思えるメッセージも沢山あったの。」

「ところで今年のお礼の品として作ってあったものがまだあったのですか?」

「いいえ、これから作るの。でも基本的なデザインと印刷用の版はあるので、準備や製作にそんなに時間がかかることは無いと思って大丈夫よ。」

作るのは布をベースにしたものだった。できるだけ縫製部分が少ないものを選んだのだそうだ。「ハンカチ」「Tシャツ」が今までのお礼にはあった。「大判ハンカチ」「バンダナ」「ミニ風呂敷」「ランチョンマット」のいずれかを作ろうというものだった。これなら染物屋さんで時間をかけずに作製することができそうだ。

「金額はシフトしますかね、深津さん」

「ハンカチの人が多かったので、バンダナも重宝がられると思います。」

「そうするとハンカチの受付を締め切るという手もありませんか。」

「上限数はすでにWebに公開されているので、そこをいじるのは好ましくありませんね。」

「すみません。では、街頭募金の時に配っている盲導犬カードの裁断する前のシート状のものを付けるというのはどうですか?マニアにとってはレアものにしてあげるといいかと思います。そうだ、手帳なんかもいいな。」

「うんうん。手順を考えておくわ。これらで再点火できること願いましょう。」


達成まであと少し

CFも残り5日間となった。目標金額まであと100万円を切った。

「リターンの追加が効果的だったのですか?」深津さんに尋ねた。

「もちろんそれもあるけど、DoFAの分析だとiGRAMやFriendBookからCFサイトへの来訪者も先週から増えたので近盲のSNSの効果も大きいみたいね。それから企業や団体で応援してくれている人に改めてお願いをしているのも効いていると思うわ。」

「やはり黙って見ているだけじゃだめなんですね。」

「今日もその効果があったのかな、あと50万円になったわ。そろそろ私じゃないFさんに言っておかないと。」

「Fさん?ああ、Fさんですね。CFで何かの担当をしているんですか?」

「CFのためにしてくれたこととしては、街頭募金の時にCFの案内チラシを配布してくれたことかな。いつも配っているカードの他にチラシも配る、結構大変だったみたい。Fさんに伝えるのは、そろそろ目標額になりそうだということ。目標金額達成できなければ残りの寄付は自分がする、と言っていたの。集まらなかったら大変だと、ドキドキしてたみたい。」

「Fさん、太っ腹ですね。近盲以外でもいろいろと寄付しているって聞いてますけど、今回はいくら寄付する気だったんでしょうね。」

「そうね、私は聞いているけど本人が言ってくれない限り個人情報だから伝えられないわよ。」

翌々日昼過ぎに深津さんから同報でメールが流れた。

「今年のCFはあと2日残して目標金額に到達しました。」

その後Fさんからもメールが入った。

「今年のCFでは『マイクロチップ購入コース』に寄付させて頂きました。」



■月次報告(7月)

第10回報告

御手洗社長

7月(第10回)の報告をします。


<業務内容>

・クラウドファンディング実施支援

・夏休み見学会準備

<次月の予定>

・訓練暑熱対策

・夏休み見学会実施支援

<所感>

クラウドファンディングへのご協力ありがとうございました。会社の何人かも参加して貰えました。社長からのご協力は非常に有難く頂戴しました。内部では「MDK、御手洗大明神基金」と呼ばれています。こちらの運用改善については、テスト的な仕組みを作って評価をしてもらい、クラウドファンディングの事業者側への改善要求としてまとめております。必要であれば事業者側へ説明することになるかと思います。


須田


返信:第10回報告

須田さん

しばらく業務として担当していなかったプログラミングも上手く行ったようですね。深入りせずによいところで留めたと理解しました。だいぶ暑い日が続いているようです。外で活動するときはきちんと対策をして下さい。


御手洗



【8月】

■夏の訓練

冬に強い犬たちも夏場はめっぽう弱い。特に温暖化の進み方が速いので、犬たちの進化は追いつかない。

「今日はどの犬もみんな靴を履いてるんですね、佐渡さん。」

「そう、暑い日は訓練のとき靴を履くようになってきているの。最近はユーザーの方にもお願いして、現役の盲導犬にも犬用の靴を履かせるようになってきてるの。」

「アスファルトの温度が上昇しているところは結構ありますよね。」

「人間は普段靴を履いているので気が付かないんだけど、マンホールの蓋とか工事現場などでよく見る鉄板は結構高い温度になってることが多いのね。だから犬たちの靴は真剣に考えてあげなくてはいけない時代ね。」

「ところで素直に履いてくれるんですか?」

「そう、そこは訓練する側の腕の見せ所ね。」

やはり何事もノウハウがあるようだ。

・まず履かせる。

・履いた状態でボール遊びなどをして慣れさせる。

・靴に慣れてきてスムーズに歩けるようになったら褒めてやる。

書き下すとこんなことなのだが、その気になるまでは多少時間もかかり褒めるタイミングも重要なようだ。

「近盲では貸与している全部の盲導犬に今は靴を支給しています。靴以外も夏用の服を着せて直射日光を避けさせたりもしてます。」

「そうすると次は空調服ですかね、ファンがついた。」

「最近は工事現場だけでなく、宅配便のドライバーさんなんかも着てるわね。たしかに空調服を着せることは無いとは言い切れないけど、音が大きいのはダメかもね。周りの音が聞こえなくなると困るから。電子的に温度を下げる音のしないペルチェ素子を付けた服なら可能性はあるかもしれませんね。」

「夏は暑いから街頭募金をしていないと福島さんが言ってらしたのですが、訓練は夏場もしてるのですね。大変ですね。」

「そうね、夏も訓練してるんですよ、毎日仕事や学校に通っているユーザーさんもいるから、夏場に外出禁止とはできないものね。そして育成課程の中で中断できない場面もあります。そこでいろいろと工夫はしてます。例えば本当に暑い期間は早朝に訓練をしたりもしてます。今は訓練部は6時から勤務開始というサマータイム制をやっています。」

「6時からですか。それは大変ですね。」

「ご家族の協力もあってできていることなんです。また外へ訓練で連れ出す時には充電式の扇風機を車に用意しているとか、バンダナに保冷剤を入れて首に巻いてやるとかもしてるわ。だけどこれでは限界があるので、町の中で会議室を借りてエアコンを入れ、そこで犬は待機して、順番に訓練して戻って、というのができないか模索しているんだけど。」

「なかなか条件に合うところがないのですか?」

「そう。幸い今年は近盲をサポートしてくれている烏丸技研という会社が協力して下さって、犬も訓練士もずいぶんと助かったわ。」

「四条烏丸のあの会社ですか?あそこの付近だと障害物、段差、歩行者、自動車、大交差点などたっぷり訓練できますね。」

「訓練犬だと法的には施設に立入りを強制できないので、貸会議室を借りるのもなかなか難しくて。烏丸技研さんのような会社はほんとにありがたいの。」

犬たちも大変だが、犬と違って待機時間なしで訓練をしている職員も大変だ。日中、市内での訓練から帰って来る訓練士の顔は日焼け止めやファンデーション越しにも暑さで紅潮しているのが分かる。

「雨風と日差しが避けられる室内運動場が欲しいですね。」

「そうね、所長はもちろん職員全員そう思っているけど、無理な資金調達はできないから。」

「そうですね。じゃあ、今度願いを込めて宝くじを買っておきますね。次のジャンボ宝くじはなんだったかな…。」


■水あそび

旧盆が近いある日の午後3時。事務室の窓からヒノキハウスの前庭を見ていると、谷野さんが強い日差しにも関わらずせっせと荷物を前庭へ運んでいる。ホース、バケツ、そして、あれは小児用プール?ヒノキハウスの前庭に置かれた散水用のスプリンクラー。つないだホースが水圧でまっすぐになったと思うと勢いよく水を噴き出しながら回り始めた。ヒノキハウスの中から2人の訓練士がそれぞれ担当の訓練犬を連れて出て来た。リードを外してボールを投げる。一頭がそのボールを追いかける。もう一頭はボールを追う犬を追いかける。二頭はスプリンクラーが撒く水で濡れることをいとわず走る。

「やっぱりラブは水が好きですね。」

「この二人は水遊び好きね。暑いからたまにはこんなのも有っていいわね。」

「佐渡さん、島田さんと浅香さんが水遊び好き、ということですか。」

「あ、二人って言うのは二頭っていう意味。実はLRやGRの中にも水が嫌いな子もいるのよ。」

ヒノキハウスに残っていた犬達が、かわるがわる出てきて前庭を走る。確かにあまりはしゃがない犬もいる。

「All work and no play makes Jack a dull boy. こうやって一緒に遊んで、人といることが好きになって、また訓練しようってなるんですね。」

「大丈夫だと思うけど、みんな、ちゃんと拭いておいてね。皮膚炎になると可哀そうだから。」

佐渡さん、冷静だった。

「大丈夫で~す」元気に訓練士から返事があった。そして『拭いてもらっているよ』と言わんばかりのバウバウという返事も返って来た。

ひと騒ぎ終わると、林の中にあるヒノキハウスはだいぶ暗くなってきた。よく見ると青白い光が宙を舞っている。

「この時期に蛍が飛ぶんですね、福島さん。」

「はい、蛍の大きさ、8月のこの時期に飛んでることを考えると、これはゲンジボタルでなくヘイケボタルですね。」


■月次報告(8月)

第11回報告

御手洗社長

8月(第11回)の報告をします。

<業務内容>

・訓練の暑熱対策

・夏休み見学会実施支援

<次月の予定>

・盲導犬育成方法提案

・出向終了報告

<所感>

訓練犬の暑熱対策は体温上昇防止に加えて、足裏のやけど防止が喫緊の課題だったようですが、後者はブーツの導入で大幅改善したようです。体温上昇については、頸部への冷却材などもありますが日射にさらされる時間を減らすことしかない状態です。

夏休み見学会は、進行役を公募した小学生にしてもらうという内容にし、映像記録も残しました。公募条件に「ビデオへの映り込み・配信」を入れたのですが、これは来年の「歩こう一緒に!」イベントのハイブリッド化に対する私からの提案でした。採用され嬉しく思っています。

<連絡事項>

出向先での休暇取得ルールの都合上、7日間の連続休暇を取得しました。


須田


返信:第11回報告

須田さん

提案が採用されたのですね。おめでとう。まだまだ出せるものがあるようですね。ぜひ盲導犬協会へ残せるものは残してください。


御手洗


【9月】

■これからの盲導犬

盲導犬協会には、団体の見学や取材が入ることがある。近盲は関西に拠点がある関係で、大阪、京都、兵庫、奈良、滋賀からの見学も多い。大阪や、近盲がある京都の放送局や新聞社といった報道機関からの取材が入ることもまた多い。ただ全国放送の電波に載ったり全国紙に掲載される機会はあまり多くない。5月の「歩こう一緒に!」の時も京都日々新聞やSHK(新日本放送協会)、KHT(京都ひかりテレビ)などの取材があり、テレビ取材はニュース枠で放映された。8月にも「愛を贈ろう~サマチャリ24」という番組の収録があった。この番組は全国で放送される特番なのだが、収録された内容は関西ローカルの時間枠での放送だった。もうすぐ出向が終ることもあり、自分は映らないまでも近盲が番組で放送されることを会社の人に伝えたかったが、残念ながら会社のある中部地区では放送されなかった。しかし数日経つと番組公式YourToolとして掲載され、全国的に見ることができるようになった。そして数日後、ネットニュースに近盲へのインタビュー記事が掲載された。

「宮藤さん、この記事、いつ取材があったんですか。ぜんぜん気づかなかった。」

「これリアルじゃなくて、リモート取材だったの。隣の部屋で、Zoneしていたのに気づかなかった?」

「ZoneってWeb会議とかでいつも使っているあれですか?」

「そう、やはり便利よね。取材する側もされる側も便利。そしてこうやってWebニュースとして掲載されるとすぐに反響があるから、それも全国規模での反応なので、実際に来て取材してほしいと思っても無理な場合には、リモート取材もWelcomeで受けちゃうの。」

「今回の記事は、かなり盲導犬のことについて広範囲に書かれていましたけど、ずいぶん取材時間がかかったんじゃないんですか?特に最後の方にあったAIとの関係なんかは、とても興味の湧くところでした。」

「結構取材は短時間だったわ。せいぜい3時間くらいかな。Zoneの打合せだと録画録音もできるし、話した内容を自動でテキストにしてくれるからかなり効率が上がるんじゃないかな。ただこちらの話していることが通じない部分も合ったみたいで、出来上がった原稿を送って貰って何回かやり取りはさせてもらったの。で、AIのところはやはり難しくて。」

「盲導犬がどれだけAIと競合するかというとこですね。自分もここに来たばかりの頃は、何回か通った道は盲導犬が道を覚えていて、信号も判断して目的地に連れて行ってくれるもんだと思っていました。道を覚えるのは人間、信号の判断も犬には任せない、と知って少し驚きました。」

「そういう意味では道案内や信号判断は犬ではなくAIというかコンピューターの力を借りてもいいのでしょうね。記事にあったと思うけどAIという言葉がこんなにはやる前から道案内をしてくれるスマホアプリがあったし、カメラを使えばある程度障害物も検知できるだろうし。通信の遅れも5Gがそのまま使えるようになればほとんど気にならないでしょ、きっと。」

「光学カメラ以外にもLiDARという装置を持ってるスマホもありますもんね。LiDARは車の自動運転でも使われている立体形状を取り込む装置なので障害物の検出に使えます。スマホのカメラじゃなくて眼鏡形のデバイスに複数の光学カメラをつけたりすることだってできるだろうし、耳を塞がずに骨伝導で音声を伝えたっていいし。だけどどうしても今の機械ではできないものがあるんだと思うんです。」

「そう、私もそう思っています。私が思っているのは、一番は移動する速度、二番目は段差。そして安全の確保。盲導犬だとその人のその日の目的に合った歩く速度にすぐ合わせられるでしょ。急ぐときもゆっくり歩きたいときもすぐに対応してくれる。速いだけならロボットでもかなりの速度で歩くものもあるけど重くて。今の段階では盲導犬替わりにはならないの。簡単に移動するだけだと二足歩行や四足歩行ではなくて車輪タイプになるけど、そうすると今度は段差に対応できないと思うわ。そして、AIの場合どう実現されるのか分からないけど不服従の判断は難しいわよね。」

「不服従というのは、ストレートゴーとコマンドを出しても行かないとか、ですね。」

「そう。段差の検出とか安全の判断とかで、盲導犬は場合によってはユーザーさんのコマンドを守らないようにしているでしょ。身体をユーザーに押し付けて『行っちゃだめ』とばかりに止めることもあるわよね。」

「そうですね。そしてその押し付けてくれた力で危険を回避し、体温で安らぎを与えていますよね。」

「そうね。体温は四番目かな。盲導犬とユーザーをユニットと呼ぶこともあるけど、互いにパートナーよね。」

「パピーから盲導犬になる割合は30~40%って言ってますよね。AIを使って教育する、と言っても教育されるのは訓練士の側かもしれませんが、これが10ポイント良くなって40~50%になれば、30頭のパピーから盲導犬になれる数が9~12頭だったのが12~15頭と3頭も増えますよ。その上、キャリアチェンジも減るのでその手配をする手間が減るのではないですか。」

「具体的にはどういうこと?」

「犬に出すコマンドは同じでも訓練犬ごとに誉めるタイミングが違うとか言ってたことがありましたね。今だと訓練士がその微妙な反応の違いを見つけて、教え方を変えているようですけど、犬ごとのそれまでの行動を記録してこれから行う訓練の指針や進め方をAIから教えて貰うという形になるのかな。」

「確かにそういう事ってありますね。今は訓練士が一生懸命考えてやってますもんね。AIならもっといい答を出してくれそうね。でもそんなに上手くいくかな?」

「行かないかも知れません。」

「え、自分で言ってハシゴを外しちゃうの?」

「最近のAIはものすごく勉強してるんです。いろいろなことを無限と思えるほど食べつくす。だからもの知りになって先が読めるんです。ところがデータ数が少なすぎると学習したことだけでは良し悪しの判断がきちんとできないんです。年間育成する頭数が50頭位ではデータ数が不足するだろうと思ってしまったんです。」

「それはそうね。全国規模・世界規模でデータベースを作らせることができればだいぶ状況は変わるでしょうけど。まず手始めに日本国内でそんなデータを集めて、より多くの訓練犬を盲導犬にできるようになりたいですね。」

「自分は凍結精液なんて言葉を聴いて、とても驚きました。盲導犬協会ってすごいんだな、って。中国ではクローン猫とかまで売られているって聞きます。クローン盲導犬なんてどうですか。」

「すぐには無いでしょうけど、未来永劫そんなことはない、とは言い切れませんね。」

「質問している自分も実はピンと来てなくて。クローンだと効率はいいかもしれませんけどみんな同じになってしまって、個性がなくなっちゃうかもしれませんね。」


■月次報告(9月)

第12回報告

御手洗社長

9月(第12回)の報告をします。

<業務内容>

・盲導犬育成方法提案

・出向終了報告

<所感>

育成方法提案として、まともすぎる(がちがちの)提案から、かなり空想の入った内容まで幅広く会長、所長へ報告しました。

長いと思っていた1年でしたが、あっという間でした。来月から改めてよろしくお願いします。


須田

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