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六十三話 その後

 ソールズを倒し、門から出てきたもの全てを撤収させて、その後。


 まず突撃してきたのがリングだ。

 門の真下で何かが起こっていると当たりをつけたリングは全速力で移動してきたらしい。そして大通りのジンを見つけるや否や質問攻めにしてきた。


「あの門は〈地獄の門は金次第〉によるものですか」「いくら払ってあれを召喚しましたか」「門の中にいるものはなんですか」「最高位の私ですらデバフを受けましたが時間制限はありますか」「他にスケルトンがいたらしいですが何種類召喚できますか」


 答える暇すらない怒涛の勢いだった。

 最初は気圧されたジンだが、ユノたちがまだ無事かわからないのを思い出し無理やり話を打ち切る。


「後で!! ユノたちをどこに避難させたかまだわかってねーんだよ!!」


 叫ぶジンにリングは驚いた様に目を見開く。


「あの二人がここにいたんですか? ……ああ、ジンさんはつまり、その二人を解放するためにソールズを倒したと。なるほど、ふふふなるほど」


 リングは何故か満面の笑みを浮かべる。


「な、なに?」

「いえ、《大悪党》を倒せば解放されるとは言いましたが、正直倒せる可能性は低いと考えていましたから。あの時でも高位ジョブ二つ持ちだろうと予想はしていましたし――しかし、それ以上の相手にジンさんは勝利したので」


 じっとリングが眺めてくる。


「市場で再会した時から面白い人だとは思っていましたが……予想外の事態に、さらに予想外の結果です!」


 ああ、と息を吐いてリングは微笑む。


「やっぱり、人は面白い」


 どこか恐ろしくなるような眼差しだった。

 ジンは僅かに寒気を覚えたが、すぐにリングが「ああ」と手を叩く。


「ユノさんたちを探すんでしたね。私も協力しましょう」

「あ、ああ、どうも」


 やっぱり気圧されつつジンはスケルトンが去った方角、宿屋の方へ歩き出そうとする。

 しかしその時ハッと広場を振り返った。


「そういやソールズも普通にリスポーンするじゃん! 押さえとかないといけないか⁉」

「それは問題ありません」


 リングがきっぱりと言い切った。


「今はデスペナルティでスキルもまともに使えないでしょう。それに似顔絵もありますし、すぐ衛兵が来て捕らえますよ。あの門の影響で少し遅れるでしょうが」

「あ、よかっ……待ってあの門ってそんな広範囲に影響あったの?」

「少なくともここから西門までは受けてますから! 街中に広がっていてもおかしくは無いですね!!」

「あの地獄絵図が街中に……⁉」


 改めて被害の大きさを自覚したジンが顔色を悪くする。

 が、ユノたちへの心配が勝りその辺は全て横に置いた。


「なんか聞かれたら全部ソールズのせいにしよう!!」

「いい切り替えです!」

『まあ衛兵が遅れるとしても私が見張っていよう』


 休んでいたアルマが立ち上がる。


『デスペナルティ中の奴なら逃げないよう押さえるぐらいは楽なものだ』

「アルマさん、色々とありがとうございます! 守ってくれなきゃ本当に死んでました!」

『ジンがいなければソールズは倒せなかった。こちらこそ、だ』


 アルマとジンはお互いに礼を言い合った。


「では行きましょう!」


 リングの掛け声に走り出そうとして……ジンは最後に一度広場を振り返る。

 脳裏によぎるのは、止めをさす前に見えたソールズのハッとしたような顔。


 驚きというより、何か探し物を見つけたような。

 冷たくも激しくもない、『ソールズ』ではない別の人間がするような目だった。


 なんだったのだろう、と少しだけ思い返したジンだが……それも前を向いたころには頭の隅に追いやっていた。



 宿へと走る途中、ジンは今の状況をリングから聞いた。


 たか丸はリングたちによって倒され、街長やギルド長も助け出されている。

 ソールズが倒されたことで、襲ってきたNPCも今は全員解放されている。

 そして恐慌状態に関しては《大神官》のドプリーストが治しているだろう、とのことだ。


 第二陣のNPCたちもその場にいたようで、これで貢献度が丸々手に入りますとリングはご満悦だった。

 さらに指名手配の人物を倒した分や、街長たちを助けた分でも報酬があるだろうと。


 そしてここへ来る途中でクランメンバーの《吸血鬼》とも合流して話を聞いたらしい。

 西門に迫っていたモンスターは彼や第一陣によって完全に制圧され、それを為した《扇動者》も倒されている。

 《扇動者》の顔もわかったため、全員ペナルティとして牢屋に入れられるようだ。


 プレイヤー用の牢屋にはジョブやスキルを封殺する効果がある。

 だから刑期を終えるか、脱獄するかしなければ出られない。

 プレイヤーを数人キルした程度なら早々に出られるが、今回の場合アカウントを作りなおした方が楽でしょうねとリングは語った。


 そんな話をしつつユノとアニカを探していたジンたちは、宿屋の入り口の前に寝かされている二人を見つけた。


「ユノ! アニカ!」


 ジンが駆け寄り二人の様子を見る。

 二人とも怪我はない。

 アニカは「骨がたくさん……」とうなされていたが。


「よかった……」

「あのぅ、お客さん」


 ジンが安堵していると、宿屋のドアがそっと開かれ中から宿の主人が顔を出した。


「そ、その二人、大丈夫ですか?」

「え、ああはい。別に怪我とかは無いですが……」


 主人の様子はおかしい。何故かぷるぷると震えている。

 主人は信じられないモノを見たというように語り始める。


「その子たち、少し前にモンスターが運んできたんですよ……寒気がするような雰囲気を纏った、恐ろしい骨のモンスターが……!」

「あっ」

「しかもさっきまでここの前にずっと佇んでいて……! お客さんも出られなくなってどうしようかと! あなた方が討伐してくださったんですか⁉」

「あー、えー……」


 どう誤魔化すかジンが焦っているとリングがずいと主人の前に出る。


「いいえ、私たちが来た時にはもういなくなっていました! 誰かが既に倒したのかもしれませんね!」

「そ、そうなんですか」


 応対してくれたリングにジンは目線で感謝を送る。

 リングからは後でスキルの事を教えてくださいと現金な眼差しが返ってきた。


「それと、あの、色々な場所で騒ぎが起こっていたようですが、今はどうなっているんでしょう?」

「全て落ち着いていますよ。もうすぐに街長やギルド長から知らせが来るでしょう」


 主人とリングが話をしている時、ユノがごそごそと体を動かし始める。

 その瞼がうっすらと開いていた。


「ジン、さん……?」

「ユノ⁉ 起きたのか⁉」


 しかしうっすら開けてはまた閉じてと寝ぼけているような様子だ。

 まだ薬が抜けたわけではないらしい。


「あれ、宿……あ、終わった、んで……」

「あ、ああ。ソールズは倒したよ。他の所もリングとか、他の人たちが終わらせたらしい」

「あは、は……やっぱり、助けて、くれた……ジンさん……」


 ユノは眠たげにしながら、安心したように微笑んだ。


「……私、アイテム作るの……頑張り、ますよ……また、おかね、かせぎま……」


 ユノはそう言いながらまた眠りに落ちた。


「最後に言うのが『またお金稼ぎましょう』なのか……まあ、でも」


 励ますように金を稼ごうと言われる。

 ジンは自分がどう見られているのかがわかってちょっと落ち込んだ。

 だが、ユノはジンのことを金の亡者だと思っていないと、ジンは知っている。


 だから。


「うん。頼りにしてる」


 ジンは眠るユノに笑いかけた。


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