表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

61/65

六十話 反撃

 ソールズに対し、十歩以上も距離をとってジンは向かい合った。

 ソールズは面倒そうにジンを見て……ふ、と剣を動かした。

 その刃は倒れていたアルマの首を切り裂く。


『ぐっ……!』

「てめっ……⁉」

「お前の方が厄介だ」


 ソールズは冷たい目をアルマに向けて言い放ち、再びジンへと向く。

 ジンは《ピニオン・クロウ》を構え、ソールズへと仕掛けようとする。


 その時ソールズの首、ジンがダメージを与えた場所に手の刺青が現れた。

 〈餓者の取り立て〉による現象だ。


 ジンは特に気にもせず突撃しようとした。

 だが、刺青がぐっと手を握った瞬間だ。


 ダメージエフェクトが、溢れる程のギルへと換わった。

 それはソールズの顔半分を覆い尽くす程の量だ。


「⁉」

「うぉっ⁉」


 突如出現したギルにソールズとジンの両方が驚愕する。

 ソールズは未知の状況に、ジンは既知よりも遥かに高いスキルの効果に。

 そして驚きから覚めるのはソールズの方が速かった。


 ソールズがドッと地面を蹴り接近してくる。


「うぇ⁉」


 歩いて十歩の距離をほんの二歩程度でソールズは潰してきた。

 先ほどまでは遠くから見ていても消えたとしか思えなかった速度だ。


 だが現在のジンは速いと感じつつもその動きが見えていた。

 正面から迫ってくるソールズも、左から右へ首を狩るように振るわれる剣も。


「んぬぅっ!」


 後ろへ跳びながら仰け反り、ギリギリで刃を回避する。

 それに喜ぶ暇もなく、ソールズはさらに踏み込んで振り切られた剣を斬り返してきた。

 ジンは無理やりに体を傾けてそれもまた避ける。


「とぉっ……⁉」


 しかし無茶な避け方のせいで体勢が崩れた。

 転ぶほどではないがソールズの速さの前では致命的だ。

 ソールズは一瞬で剣を引き戻し、そのままジンの顔にその切っ先を向け。


『%$』


 その時、不協和音がジンの後方から鳴る。


 同時にソールズの動きがぎしりと止まった。

 再びの現象にソールズが顔を険しくする。

 その懐に体勢を整えたジンが潜り込み、首と右目を切り裂いた。そしてすぐに距離をとろうとする。


「ちっ……!」


 一瞬の後、ソールズは舌打ちをしながら突きを繰り出す。

 ジンは先に離れようとしていたにもかかわらず、その突きはギリギリで頬を掠めた。


「あっぶぅぁ⁉」


 追撃がまた来るとジンは全身全霊で警戒しながら後ろ歩きに距離を離す。

 しかしソールズはその場でぴたりと止まった。

 眉間にしわを寄せて睨みつけてくる様子は、ジンのことを警戒しているようだった。


 その間にソールズの傷二か所に再び刺青が現れ、今度は顔全体を覆うような量のギルが噴き出した。

 ソールズの視界は完全に隠れているだろう。攻撃するチャンスだ。

 しかしジンは先程の速度を思い出し躊躇する。


 動きを止められていても反撃を避け切ることはできなかった。

 なら今攻撃すると最悪両断される、と。


「なんなんだ、お前は」


 ソールズは溢れるギルを手で払いながらジンを睨んできた。

 ちょっと面白い絵面にジンはにやっと笑みを浮かべて声を張り上げる。


「ただの一プレイヤーでぇす!! おいおいどうした止まっちゃって! ビビってんのかなぁ⁉ さっきまですかした顔で無双してたのにぃ⁉ ちょっと叩かれたら怖くなったかなぁ!!」


 ギリ、とソールズが歯を噛みしめる。だが突撃はしてこない。

 そしてその目が一瞬下を向いた。

 恐らくステータスを確認しているのだろう。


 体からギルが出ていき、ジンの手に吸われている状況。

 それはHPを奪い取っていると捉えられてもおかしくない。

 まあ実際にそういうことはないのだが。


 そしてビビっているのはどちらかというとジンの方だった。


「(なんだよあの速さ反則だろ⁉ つーかクリティカル出してるのに全然堪えてない!!)」


 ソールズを警戒しながら、ジンはちらりと自身のステータスを見る。

 さっき掠っただけでダメージは数十も受けていた。

 HPとENDに特化し、Lv40を超えるジンが、直撃もしていない一撃でだ。


 ジンのSTRとAGIは現在230、そしてDEXも160となっている。

 それほど爆増したステータスでも正面からではあっさりと負けそうになったのだ。

 ジンは冷汗をかく。

 しかも〈亡者の激怒〉発動中にダメージを受けたことで、所持金が数万減りレベルも下がっている。


 だが。


「うおぉっ……滅茶苦茶稼げてる……⁉」」


 しかしそのダメージとレベルは、ソールズから吸い取るギルでどんどん回復していった。

 その額は数十万にもなる。

 あまりに多い額に疑問を覚えつつもジンは一先ず安堵する。


「150万使ってあっさり負けるのはシャレにならん……!」


 ジンのステータスはいつも通り、〈亡者の激怒〉やブースト薬、装備によって上げている。

 そしてレベルがマックスになった〈亡者の激怒〉は、そのステータスを最大150まで上げられる。


 が、ジンはソールズと敵対するまでダメージを受けていなかった。

 だというのに〈亡者の激怒〉をどうやって発動したのか。


 それは簡単な話だった。

 〈亡者の激怒〉は、ダメージを受けるとギルを失う。

 そして失ったギルの分ステータスを上げる。


 だが、この失ったギルというのは「ダメージを受けて失ったギル」の分ではない。

 発動中に失ったギルによってもステータスは上がるのだ。

 しかしいくら覚悟を決めたとはいえ、ただ150万を捨てることなどジンには難しい。

 ユノを助けるためなら惜しくないと言ったが、ゲーム内とはいえジンにとっての金は重い。

 150万という金額は惜しくはあるのだ。なげうてるが難しいのだ。


 故に、ジンは〈亡者の激怒〉を発動すると同時に。

 もう一度〈地獄の門は金次第〉を発動し、門へと150万ギルを投げ込んだ。


 それは一種の賭けだった。

 他のスキルのコストに使った場合、それは失ったとカウントされるのか。

 心臓を握りつぶされるような思いで行ったその賭けは、だが成功した。


 それによりジンのステータスは爆増し、ギリギリでソールズに食らいつけている。

 さらにジンはギルを投げ込む時、門へ一つ注文を付けた。


 その内容は――『強力な奴を一体寄こせ』。




 ソールズはその目をきょろきょろと動かして、やがてジンの後方で止めた。


「……それが、動きを止めるからくりか」


 そこにあるのは赤黒い門と……その前に浮く、手だ。


 門から手だけが出ているのではない。

 手首から先の部分だけが宙に存在している。


 その手は死に際の老人のようにしわがれていた。

 そしてあらゆる指に指輪をいくつも嵌めている。

 大きな宝石がつき、ごてごてと装飾のされた金の指輪だ。

 いかにも趣味の悪い成金がしそうなものだった。


 この手が、ジンの注文に応えて出てきたものである。


「状態異常に特化した召喚モンスター、か」

「ふっ、それはどうかな」


 ソールズの推察をジンは余裕たっぷりに鼻で笑って見せる。


 実際ソールズの動きを止めたのはこの手だ。


 門からふわりと手が出てきたのは、アルマがちょうど追い詰められた時だ。

 手はすぐにソールズを指さしたかと思えば、ソールズの体が止まったのである。

 ジンはそれを見て慌ててソールズの首を切り裂いたのだ。


 しかしやせ我慢だとしても確信されるわけにはいかないとジンは冷汗を流す。

 なにせ確信されてしまえば。


「あの手か、門か。まずアレを破壊する」

「そうなるよなぁ!」


 ソールズは手を切り捨てるため突っ込むだろう。

 そう考えたジンは足止めのため立ちはだかろうとする。


 しかしソールズは手に向かってゆっくりと距離を詰めだした。

 これまでのような強引な特攻ではない。

 ジンや手を最大限に警戒しながらの接近だった。


「お前を、敵と認める」

「っ……!」

「ここで足を止めてたまるものか……!」


 向けられるのは射貫くような視線。

 ジンは今までにないその様子へ足を止める。

 手の援護なしに真正面へ出ればあっさりと切り捨てられるだろう。


 次に手がソールズを止めたとしても、一撃入れて離脱しよう。

 ジンが心の中で決めると同時に再びその時が来る。


『&¥』


 全く違う声を十も二十も重ねたような音を発し、手がソールズを指さそうと動く。


 その動きに対してソールズは恐ろしい速さで横に跳んだ。

 指の範囲から出れば動きは止められないと踏んだのか。


 しかしその動きの間も指はソールズから全くズレず、その動きを止めた。


「150万ギル最高だな!」


 すでに走り出していたジンはソールズへと接近し、またも目の近くを切り裂く。ギルによる目隠しを狙ってのことだ。

 そしてすぐに離れようとした時。


「おおぉぉ!!」


 ソールズが雄たけびを上げ全身に力を込めた。

 常に大きく感情を動かさなかったその顔が激しく猛る。


 お前を殺すという意志の漲る表情にジンが動きを一瞬止める。

 その瞬間、バキン!! と甲高い音が響き渡り――動き出したソールズの剣がジンの胸を切り裂いた。


「っ……!!」


 拘束時間はまだあった。だがソールズはその力で拘束を千切ったのだ。

 ジンは驚愕しながらも、自身が死んでいない事を確認する。

 ギリギリで後ろに跳んだのと狙いが上手くつけられていなかったことが理由だろう。


 そしてソールズが動けないこともわかった。

 無理やりに力を込めたせいで剣は地面に埋まり、ソールズ自身もバランスを崩している。

 AGIのせいか、集中によるものか。

 緩やかに進む視界の中ジンはとにかくここから離れようとして。


 ソールズが剣を捨てて拳を握りしめたのが見えた。


「あぁっ!!」


 例え素手でもソールズはジンを殺せるだろう。

 そして手の援護もさっきの今では行えない。


 死が迫る中で、だがジンは見ていた。

 ソールズの背後から迫る、大盾を持つ全身鎧の人物を。


『〈ターゲット・ムーブ〉!!』


 ソールズの体がぐんと後ろへ向き、その拳はギリギリでジンに掠らず大盾へぶち当てられる。


「う、おおぉぉぁぁぁ!!」


 死を回避したジンは全力でソールズの体へ短剣を突き立てる。

 さらに首や顔を二度切り裂いた。


「こ、のっ」


 そしてソールズが反撃に移ろうとした瞬間に後ろへ飛び退く。

 同時に助けてくれた人物、アルマへと感謝を告げる。


「マジで助かりましたアルマさん!!」

『こちらこそ、だ。奴の気が逸れたおかげで、蘇生ができた』


 ソールズは離れたジンではなく、近くにいるアルマを怒りの形相で睨みつける。


「まだ生きていたのか……!!」

『こちらのセリフだ。まだ生きているのか?』


 呆れたようにアルマが言う。

 その際にジンのつけた傷からギルが溢れ出す。


「鬱陶しい!」


 ソールズが苛立ちと共にそれを振り払いながらアルマへと攻撃を仕掛ける。


「んん……?」


 そして、そのギルの量を見たジンは違和感を覚えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ