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五十九話 ユノの想い

 震えながらもユノはぐっと拳を握ってみせる。


「だ、大丈夫、です。アルマさん、に……守ってもらった、ので!」


 どうやらここへ来るまではアルマがどうにかしてくれていたらしい。

 しかしスキルかアイテムかはわからないが、それの効果が切れてきているようだ。

 喋る度にユノの震えは酷くなっていく。


「いやどう見ても大丈夫じゃない! 早く逃げてくれ⁉」


 言いながらジンはちらりとアルマの様子を伺う。

 アルマと生き残りの盾役が守りつつ、他のプレイヤーが攻撃に回ってソールズは押さえられているようだ。


 だがそれでもなおプレイヤーは少しずつ数を減らし、アルマの盾にも傷が目立つ。

 ジンは焦りながらユノを急かす。


「ほらアニカと一緒に!」

「いえ! 待ってください……!」


 しかしユノは恐れと焦りの混じった様子で背に負う鞄を下ろそうとする。

 そこでようやく、ユノが大きな鞄を二つも背負っていることにジンは気づく。


「すみません、ジンさん……これ、持ってきちゃいました」


 ユノはどこか申し訳なさそうにその鞄を開いて見せる。

 その中には、ぎっしりと大量のギルが詰まっていた。


「これ、って……!」

「ジンさんの、お金、でも、必要かと思って……」


 確かに今アニカを助けるために必要ではあった。

 


 そこでユノが体を抱えてがくっと崩れ落ちそうになる。

 ジンは慌ててその体を支えた。


「ユノ!!」


 その目は恐怖からか焦点が合わなくなってきている。

 だがユノはうわ言のように何かを呟いていた。


「騒ぎが、起きて、外に行って……広場で、人が暴れてて……。あのスケルトン……人を押さえて、でも、押さえるだけで、お金を見たら……味方になってくれて、ジンさんのかなって」

「嫌な信頼……!!」


 お金にがめつい=自分という認識にジンは胸を痛める。


「ていうか金で他人の味方になるなよあいつら⁉ いくら《金の亡者》(俺)のスキルだからって!!」

「金の、亡者……? ジンさんは、違う」


 嘆くジンの服をぎゅっと握って、ユノが呟くように言う。


「そうだよ!! 俺は別に――」

「金の亡者、なんかじゃ……ないです。だって、ジンさん、は」


 ユノは縋りつくようにしながら、ぐっと顔を上げた。

 その目がジンの顔をまっすぐに見る。


「お金、大好きだけど……私を、助けてくれて……交易路、でも……お金をなげうっても、人を助けてくれる人、だから」


 


「だから、お金必要かなって……スケルトンも、お金大好きで、人を助けて……だから、ジンさんのだって、思……う、ああぁぁ……! 駄目、薬……!」


 もう耐えられないと考えたのか。

 ユノは自身で《睡眠薬》をいくつも飲み干し、その意識を落とした。

 その様子を見ていたジンは。


「――」


 ユノを抱きかかえながら、固まっていた。


『金の亡者なんかじゃ、ないです』

『お金、大好きだけど……私を、助けてくれて……交易路、でも』

『お金をなげうっても、人を助けてくれる人、だから』


 その言葉が自分の頭の中に響き続けている。

 今、自分は泣いているかもしれないとジンは思った。


 ユノを助けたのはただの下心で、交易路ではユノたちを連れて逃げようともした。

 ユノがああ言ってくれたのはジンの内心を知らないからだろう。


 ジンはユノをスケルトンに任せて立ち上がる。


 今はアルマたちがソールズを倒そうとしている。

 倒せなくとも足止めはできていて、そのうち他のプレイヤーが来るかもしれない。

 リングなんかはあの速さで駆けつけて、ソールズを一蹴するかもしれない。


「それがどうした」


 かつて好きだった子に、金の亡者と呼ばれたのがトラウマだった。

 ああ、けれど、ユノがそうじゃないと言ってくれるのなら。


 例え他の誰かがあっさりと片づけられるとしても。

 もうすぐに誰かが来るのだとしても。


 今、この時。

 誰よりも早くあの子を助けるために。

 ここにあるもの全てを使っても惜しくない。


「〈亡者の激怒〉」


 ジンはスキルを発動し——門へと大量のギルをなげうった。





『〈シールド・パリィ〉!』


 振るわれる剣を、スキルまで使いアルマは再び受け流す。

 だが威力を流しきれずガゴン! と腕に衝撃が走った。


『ぐぅ……クリープ・ピラーより強力だな……!!』


 守ることだけなら高位ジョブ二つ持ちにも負けないとアルマは自負している。

 しかしその技量をもってしても、目の前の男一人の攻撃が防ぎきれない。


「あんた大丈夫か⁉ ほら《ハイ・ポーション》!」

『すまない!』


 アルマの背後から《暗器使い》のプレイヤーが現れ回復をしてくれる。

 だが応答した瞬間に、ソールズの剣がアルマを上から押し切るように振るわれた。

 アルマは瞬時にその角度を見切り、刃が斜めに入るよう盾を調整し、受ける。


『くあっ……!!』


 完全に受けたと思ってなお、その衝撃が盾越しに腕を打つ。

 ダメージ無しで済むのはスキルを使ってかつ完璧に受けた時のみだ。


 だが、受け流せたことで少しだけソールズの体勢は崩れた。

 その瞬間、先ほどの《暗器使い》がソールズの後ろへ現れその首目掛けて両手のナイフを振るう。


「〈デモン・ペネトレイト〉」


 スキルも乗せた一撃は確かにその首へと突き刺さった。

 クリティカルが入り、赤いエフェクトが溢れ出す。

 が、ソールズは首を刺されたまま動き出す。

 一瞬で体勢を立て直し、剣を無造作に、だが目にもとまらぬ速さで横に振るった。


「おぐっ……⁉」


 刃が体を両断するように通り抜け、《暗器使い》は光の塵となった。

 またも一人プレイヤーが消えた。

 残りは片手で数えられるほどだ。アルマは鎧の中で表情を険しくする。


『まったく、なぜ直撃して立っていられる!』


 〈デモン・ペネトレイト〉は防御を貫通し大ダメージを与えるスキルだ。

 さらにクリティカルとなった場合、威力は跳ね上がる。

 ENDとHPの高いアルマですらまともに受ければ一撃で死ぬだろう。


 だというのに、ソールズは気にもせず再び攻撃をしてくる。

 プレイヤーはこれまで何度かダメージを与えたが、それが全く効いていないかのようだ。


『《大悪党》にはステータスを高めるスキルがあるらしいが……!』


 アルマもまた《大悪党》というジョブについて知っている。

 しかしこれは高位ジョブにできるような高め方とは思えない。

 もしや最高位か、とアルマは戦慄する。


 幾度も振るわれる剣によって大盾はボロボロだ。

 戦い始めて数分も経っていないというのにこれである。


『彼女を連れてくるべきではなかったか……⁉』


 ここに来る前、広場の近くにいたユノから必死に頼まれてジンの下まで届けた。

 だがこんな相手がいるのなら、帰るように言うべきだったか。


 その僅かな思考の隙にソールズが攻撃を仕掛ける。

 アルマは咄嗟に刃を見切ろうとするが……剣は直撃する寸前にぴたりと止まる。

 そんな動作にアルマは一瞬固まり。

 間髪入れず尋常でない威力の拳が叩き込まれ、アルマは盾ごと吹き飛ばされた。


『しまっ……!』


 大通りに叩きつけられたアルマへとソールズは瞬時に接近してくる。

 そしてアルマがひしゃげた盾を掲げる暇すらなく、その体を両断され——かけた時。


「ッ⁉」


 ギシリと。

 ソールズの体が止まった。


 次の瞬間、ソールズの首を短い刃が通り抜けた。


 赤いエフェクトが飛び散り、ソールズが僅かに目を見開く。

 一瞬の後にソールズは動きを取り戻し、背後にいる者に拳を振るった。


 しかし既にその人物は距離を取っている。

 その姿を見たソールズが、眉間にしわを寄せて不快そうに口を開く。


「お前か……何をした」

「金使ったんだよ!」


 ジンは知らないモノからすれば訳の分からない事を叫んで、ソールズを睨みつけた。



■  ■  ■

NAME:ジン

ジョブ:《金の亡者》Lv43


▽ステータス

HP:2440/2440

MP:50/50

SP:100/100


STR:10(+220)

END:238

AGI:10(+220)

DEX:5(+150)

LUC:0


〈スキル〉

:〈餓者の取り立て〉Lv10(Max)

:〈亡者の激怒〉Lv10(Max)

:〈ライフ・イズ・マネー〉Lv10(Max)

:〈血の涙〉Lv6

:〈亡者の執念〉Lv1(Max)

:〈地獄の門は金次第〉Lv6


『所持金 4774800ギル』

■  ■  ■


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