六話 《金の亡者》
「誰が金の亡者じゃい!」
ログアウトしたジンは枕に顔をうずめて叫んだ。
「俺はただ貯金が好きで出費が嫌いなだけだ……!」
枕を顔に押し付けてゴロゴロと転がる。
かつて好きだった女の子に「金の亡者じゃん」と言われた思い出が、ジンの頭の隅の隅から出てきたのだ。
「……いや、やってる場合じゃない」
胸を押さえてジンは携帯を手に取った。
高位ジョブ。
基礎ジョブに就いて何かしらの条件を満たした時に解放される一段階上のジョブだ。
大抵は基礎ジョブのレベルやスキルレベルをマックスまで上げることが求められる。
「高位ジョブについてはわかったけど……《金の亡者》の情報はないな」
突如解放された《金の亡者》の情報を調べるためジンは再びログアウトしていた。
しかし《金の亡者》はジョブ一覧のどこにもない。
高位ジョブは条件を満たさないと出現しないため、現在判明していない隠れたジョブもあるようだ。なんなら基礎ジョブすら後で見つかった物もあるらしい。
「これも誰も開放してないジョブってことか……でもなぁ」
自分だけのジョブという特別感にジンの胸が高鳴る。
しかし喜びきれもしない。
「《金の亡者》って人聞き悪すぎないか?」
理由はジョブ名だった。
「俺そんな亡者みたいに執着した覚えないんだけど! 確かに、不労所得の感覚味わいたくて《富豪》のままでいたりしたけど! 出店で買ったアイテムもなるべく安いもの探したけど! それぐらいじゃん! 流石に亡者ってほどじゃないだろ!」
ジンは頭を抱えて悩む。
「あんまり就きたくない……けど、とりあえずお金稼げそうなジョブではあるんだよな。しかも《富豪》の派生のジョブなら基礎ジョブのスキルも引き継げるらしいし」
もし〈収益〉もそのままに新しいスキルも獲得できるならそちらの方が当然いい。
嫌な思い出はあるが、ユノがあのちょび髭の愛人になることと比べる程ではない。
「俺は……《金の亡者》になる……!」
「お兄ちゃん、ごはんできたけど」
「あ、うん。ありがとう」
再び『ランコス』に入ろうとした所で妹から呼ばれ、ジンは現実での生活に一旦戻るのだった。
■ ■ ■
NAME:ジン
ジョブ:《金の亡者》Lv1
▽ステータス
HP:300/300
MP:50/50
SP:100/100
STR:10
END:30
AGI:10
DEX:5
LUC:0
〈スキル〉
:〈収益〉Lv2
:〈亡者の換金〉Lv1
『所持金 2100ギル』
■ ■ ■
「HPとENDが高めか……おお、ちゃんとスキル引き継げてる」
ジョブ変更を行ったその場でジンはすぐにステータスを確認していた。
《金の亡者》は《富豪》から派生するジョブだったらしく〈収益〉はそのままだ。
そして新たに現れたスキルは〈亡者の換金〉。
「これが役に立たなそうならすぐに変えるが……」
役に立たないものなら《金の亡者》の名から解放される。
しかし役に立つものでないと100万ギルは稼げない。
板挟みになりながら、ジンはその効果を確認し——。
一時間後。
ジンは木々が生い茂る森の中、広く整えられた道を歩いていた。
この森は【豪熊の森林】。
次の街ネクスタルへとつながるエリアであり難易度は荒野などよりかなり高くなっている。
さらに踏破するにはボスを倒さなければならない。
そんな初心者には少し手強いエリアを、ジンは背を丸めどこか落ち込んだ雰囲気で、そして片手に不気味な短剣を持って進んでいた。
短剣の柄頭には目を血走らせた亡者の顔が彫られていて、柄は骨ばった手がしがみついているような形だ。
ふとジンが横を向いた。
「ブギィ」
「フゴッ」
道の横合いからモンスターたちが歩いてくる。
それは二足歩行の猪だ。ぼろ切れを纏い手に棍棒を持つ猪たちは、頭上にオークと名前が表示されている。
「……」
ジンは短剣を逆手に持ち、無言でオークたちへと駆けた。
「ゴフッ⁉」
「ブギィィィ!」
駆けてくるジンに気づいたオークたちは威嚇するように棍棒を横なぎに振るった。
ジンはそれを屈みこんであっさり避ける。
動きが鈍くなるようなこともなく、軽やかなものだった。
そして棍棒を振り切って隙が出来たオークの懐へ踏み込み短剣を喉に突きこんだ。
「ゴッ……」
ドズンと重く突き刺さるような音が響く。
同時にオークの動きが止まった。
短剣を引き抜くと、オークは後ろへ倒れながら光の塵となって消えて行った。
「……クリティカルか?」
「ブギィ‼」
手ごたえに疑問を持つジンへ、もう一体のオークは叩きつけるように棍棒を振るってくる。
「おっと」
それを避けるのではなく、ジンは腕を盾に受け止めた。
ゴン、と衝撃音。
しかしジンは揺るぎもしなかった。
「フゴッ⁉」
棍棒を払い、驚いたような様子のオークにジンは短剣を突き刺す。
「ブギィィィ!」
「やっぱ一発じゃ無理だよな」
悲鳴を上げるオークを二度三度と斬りつけると、先の一体と同じように光の塵となる。
初心者には難易度の高い森のモンスターをジンはあっさりと倒しきった。
同時にころりと何かが地面に落ちる。
「ああ〈棍棒〉か」
それはオークが持っていた棍棒がアイテムになったものだった。
モンスターは倒すとギルが貰え、さらにアイテムを落とすことがある。
それは希少なものであったりありふれたものであったりと様々だ。オークの〈棍棒〉は特に珍しいものではないが、それでも集めれば多少の金にはなるだろう。
ジンは〈棍棒〉に手をかけて。
「よ、っと」
それを握りつぶした。
同時にじゃらぁん、と音を立てて《棍棒》は金色の物体——ギルへと変わる。
そして《棍棒》だったギルはジンの手に吸い込まれていった。
「さて所持金はいくらになったかな」
■ ■ ■
NAME:ジン
ジョブ:《金の亡者》Lv8
▽ステータス
HP:730/740
MP:50/50
SP:100/100
STR:10
END:72
AGI:10
DEX:5
LUC:0
〈スキル〉
:〈収益〉Lv3
:〈亡者の換金〉Lv3
『所持金 34720ギル』
■ ■ ■
「結構増えたな。ていうか〈亡者の換金〉Lv上がってる。また稼ぐ額増えるな」
三万を越える所持金にジンの口角が上がる。
ドロップアイテムを、ギルへと変える。
それこそが〈亡者の換金〉の効果だった。
それも普通に売るよりも余程高く、だ。
スキルレベルに応じて額は変わるが、Lv1の時点で普通に売る倍の額のギルが手に入った。
「こいつもかなり攻撃力高くなってきたし」
ジンは不気味な短剣のステータスを開く。
《執着の短剣》
:金に狂った鍛冶師による遺作。
所持金が多い程攻撃力が高くなる。
:攻撃力 +20/上限30
この短剣は【クエスト〝裏通りからの脱出〟】のクリア報酬、〈隠し宝箱〉から出てきたものだった。
STRの伸びない《金の亡者》にとって、攻撃力の高い武器はとてもありがたい。
今ではクリティカルが出ればこの森のモンスターも一撃で倒せるほどだ。
「〈亡者の換金〉で稼いで、《執着の短剣》で攻撃する。めっちゃ簡単にモンスター倒せるし、ほんと稼げる。稼げるんだけど……」
ジンは顔を両手で覆った。
「《金の亡者》をやめる理由がない……!」
武器とスキルの完全なシナジーが、ジンを《金の亡者》として成長させている。
それがジンにとっては納得いかないのだ。
「クソ、稼げるのは嬉しいけど《金の亡者》になるのは嫌だけど稼げるのは嬉しい……!」
矛盾を抱えながらジンはひたすらに森を進んでいく。