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五十八話 再びの恐怖

 腹に強烈な衝撃を受けて吹き飛ばされたジンは、バガァンとどこかの建物に叩きつけられた。

 ガラガラとレンガが崩れて落ちてくる。


「いっってぇ……⁉」


 ジンは瓦礫に埋もれながら呻く。

 腹と背中にジンジンと衝撃の余韻が残っていた。

 ステータスを見てみればHPは10ちょっとしか残っていない。


「蹴られただけでこんなダメージ……⁉ 直撃じゃないのに⁉」


 ジンは見ていた。

 蹴られる寸前、近くにいた十数体のスケルトンが盾になってくれたのを。

 それでなおこの衝撃とダメージである。


「100万も払えばちゃんと働いてくれる……いや、そうだアニカ!」


 蹴られる前にジンはアニカを突き飛ばした。

 しかしこの威力では巻き込まれているかもしれない。


 急いでジンは瓦礫から這い出ようとする。だが覆いかぶさった大量の瓦礫は簡単には押しのけられない。

 どうにか顔だけを動かしてジンは飛ばされてきた方を見る。


 すると大通りにアニカの姿見えた。へたりこんではいるが怪我をしているようには見えない。

 だがその様子はおかしい。

 アニカは体を抱えて震えていて、その表情はまたも恐怖に染まっている。


 それに気づくと同時だ。

 アニカのすぐそばに立っているソールズと目が合った。


「げっ……!」


 どうやらジンの様子を見ていたらしい。

 生きているとわかったからか、ソールズがこちらに進んでこようとする。

 しかしその時、ソールズの後方から声が上がる。


「そいつ! そいつがこの騒ぎ起こしたやつだ!」


 声の主は広場から脱出してきたプレイヤーだ。

 スケルトンによりNPCが押さえられたからか、もみくちゃになっていた広場から何人ものプレイヤーが脱け出てきている。


「なんかそいつのスキルでNPCが暴れてるらしい! このスケルトンはー……わからんけど!」

「お、じゃあこいつ倒したら色々終わりか?」

「迷惑なことしやがって!」

「ひゃっはー袋叩きだぁ!!」

「こっちの方が悪者っぽいな」


 広場から出てきた者、大通りにいた者、騒ぎを聞きつけて集まってきた者。

 そんなプレイヤーたちが一斉にソールズへ襲い掛かった。

 それなりの装備をしていて、恐らく高位ジョブも混ざったプレイヤーたち。


 それに対し、ソールズはコートを払って——隠されていた腰の鞘から剣を抜く。

 それはごく一般的な長剣だ。

 ただ、刃の部分に幾何学的な模様が浮かんでいた。


「――邪魔だ」


 ソールズが剣を振るった瞬間、数人のプレイヤーがその身を切り裂かれ。

 そして光の塵と変わっていく。


「ちょっ、嘘……?」


 塵になっていくプレイヤーは、それが信じられないというような表情のまま消えていった。

 その場のプレイヤーはジンを含めて全員が驚愕に包まれていた。


「こいつNPC操るだけのジョブじゃないのかよ⁉」

「大丈夫だ! 拘束アイテムとかで動き縛れば——おぶっ⁉」


 アイテムを取り出そうとしたプレイヤーはソールズに仕留められた。

 それなりに離れていたというのに、一瞬で距離を詰めてその首を切ったのだ。

 さらにソールズはスキルを宣言する。


「〈アフレイド・インフェクション〉」


 ざわりと、ソールズを中心に空気が変わったように感じられた。

 それと同時に大通りのNPCたちの様子がおかしくなっていく。


「う、ああ……⁉」

「ひっ、また、あの声……⁉」

「ぐああぁぁ……!!」


 スケルトンから逃げ惑っていたNPCたちが、その動きを止める。

 そして涙を流しながらその武器をスケルトンたちへ振るい始めたのだ。


 スケルトン数体に押さえ込まれているNPCなどは、自分の安全を顧みないほど滅茶苦茶に暴れ始める。

 傷つけないようにしているスケルトンが力を緩めると、その隙に反撃されて体を砕かれてしまっていた。


「なんかさっきよりNPCヤバくなってないか⁉ おぶっ⁉」


 そしてプレイヤーたちが困惑する間にソールズが再び動きだす。

 さらにその速度はさっきよりも速く。

 断末魔すら上げさせずプレイヤーたち十数人を一瞬で葬り去った。


「リングかよ……⁉」


 目にもとまらぬ速さと強さに、ジンは思わず声を上げた。

 プレイヤーたちを蹂躙していくソールズの姿は、【海越えの大燕洞】でボスを蹴散らしたリングとよく似ている。


「あいつほんとに《大悪党》なのか⁉ いくらなんでも強すぎるだろ!! ていうかアニカがヤバい!!」


 さっきのスキルの影響をアニカも受けている。

 スケルトンに対して狂乱したように短剣を振り回していた。

 それを見たジンはとにかく瓦礫から抜け出そうともがく。


 だが抜け出したところで何をするかとも考えていた。

 所持金はもうない。あったとしてもあんなステータスの相手へ悠長にダメージを受けている暇もない。

 そうしてもがく間に……ソールズの顔がジンへ向く。


「……!」


 次の瞬間にその手に持つ剣が自分を真っ二つにする様をジンは幻視した。


 だがその時、ソールズの後方から人影が飛び出してくる。


『〈ターゲット・ムーブ〉!』


 その人影がスキルを使った瞬間、ソールズの体がぐんと後方へ向けられる。

 明らかに予期せぬ動きへソールズが僅かに目を見開いた。


 そのままソールズは人影へと剣を振るい。

 しかしガギャァンと甲高い音を立てながら、その剣は力を逸らされ弾かれた。


 それを為したのは全身に鎧を纏い、大盾を持つプレイヤー。


「アルマさん!」


 昼頃に【交易路の整備】で共闘した、とても頼りになるプレイヤーの名をジンは叫ぶ。


『やはりいたかジン! さあ、行け!』

「はい!」


 さらにアルマの背後からも人が出てきた。

 ソールズに対抗できるようなプレイヤーか、とジンが期待を込めて見た。


 だが、その姿は想像するような厳つい装備のプレイヤーなどではなく。


「ジンさん!!」

「ユノぉ!!??」


 見慣れた少女の姿にジンは声を裏返して叫んだ。


「ちょちょちょままま待て待って!!? なんで毎度危ないとこに来るんだよ!!!」


 【交易路の整備】の時も、弓使いのプレイヤーを護衛に平原へと来ていた。

 そして今回も何故かスケルトンが後ろについてきている。スケルトンはなんかダブルピースしていた。


 ジンが驚愕している間にユノはジンの方へと走ってくる。

 その途中、スケルトンを叩き壊しているアニカを見つけて目を見開いた。


「アニカさん⁉」

「あぁぁ……ユノ、駄目だ……! 来るな……! あたしは――」

「とりあえず《睡眠薬》十本!!」

「ぶあっ⁉ う……ぐぅ」


 ユノは両手へ大量に持った《睡眠薬》を全てぶっかけ、アニカを眠らせた。


「うわぁ躊躇いねぇ!!」

「スケルトンさん! アニカさんをお願いします!」


 そして倒れたアニカをスケルトンたちに預ける。

 スケルトンたちはびしっと敬礼をしてアニカを避難させ始めた。


「あれぇ!!? お前ら俺の時より言うこと聞いてない!!?」

「ジンさん! 大丈夫ですか⁉」


 瓦礫をようやく抜け出したジンにユノが走り寄ってきた。


「大丈夫っていうかそっちこそ大丈夫か⁉ 今ここにNPCが来たら――!」


 ユノの体が震えていることにジンは気づく。


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