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五話 薬屋の借金

【クエスト〝裏通りからの脱出〟をクリアしました】

【報酬 〈裏通りの地図〉〈隠し宝箱〉】


 通りを抜け、薄暗い雰囲気が無くなった瞬間にそんなウィンドウが出現する。


「クリア……脱出できた、のか」


 息を切らしながらジンは辺りを見回した。

 どこか寂れた雰囲気の通りだ。並ぶ建物にはひびが入ったりレンガが一部崩れたりしている。

 井戸の周りで年配の女性たちが笑い合い、小さい子供たちが棒を振り回して遊んでいた。


「ここ、住宅街だ。抜けられましたよジンさん!」


 背負われているユノが喜びの声を上げてジンは息を吐く。


「ようやく出れたか。あいつらももう追ってこないみたいだし……追ってこないよな?」


 振り返っても男たちの姿はない。しかし何度振り切っても再び追いつかれた追いかけっこを思い出すと、油断するのも不安だった。


「多分大丈夫だと思います。表で騒ぎを起こしたら衛兵が来ますから」

「ならいい、か?」

「はい、ですからあの、もう下ろして貰っても」


 ユノが恥ずかしげに呟いてくる。気づけばジンたちは周りの人々から物珍しそうな視線を送られていた。


「お、おお、ごめん」


 ジンは慌ててユノを背から下ろした。

 同時に頭が冷えてきて、借金と聞いた瞬間の暴走ぶりが恥ずかしくなってきた。

 いきなり悶え始めたり、ユノの話も聞かず木箱から飛び出したり。

 そんな行動を思い出してジンが頭を抱えていると。


「それで、ジンさん。借金のことについてなんですが」

「ぐぅぅすみません……!」

「えっ?」


 ユノが借金の話を出してきてジンは反射的に謝っていた。

 しかし困惑したユノの顔を見て正気に戻る。


「いや、なんでも」

「は、はい。あの……借金は私だけだと返せない額なんです。またあの人たちみたいに邪魔されるかもしれないし。だから」


 ユノは深く頭を下げてくる。


「どうか、お金を返すのに協力してもらえませんか」


【クエスト〝薬屋の借金返済〟が発生しました】

【クエストを受けますか? はい/いいえ】


「ああ、もちろん」


 ユノの頼みへジンは即座に頷いた。


【クエスト〝薬屋の借金返済〟を受注しました】


「ありがとうございます……!」


 ユノは安心したように顔を上げた。そして何かに気づいた様にハッとする。


「そうだ。お父さん大丈夫かな」

「お父さん? ああ、病気だったっていう」

「はい。病気は治ったんですけどまだ本調子じゃなくて、すぐに帰らないと」

「じゃあ送ってくよ。またあいつらが来ても……まあ戦力にはならんけど背負って逃げるぐらいはできる」

「あ……そうですね。お願いします」


 ユノと共にジンは薬屋へと向かう。



■  ■  ■



 住宅街を歩く間、多くの人からユノは話しかけられていた。


「ユノちゃん、この前貰った薬よく効いたよぉ」

「よかった、また持っていくね」

「あとこれ前のお金。いつも遅れてごめんねぇ」

「全然いいよ」


「おぉいユノ! 男連れでどこ行くんだぁ⁉」

「この人は絡まれてるところを助けてくれただけ! あ、あと腰痛に効く薬草また仕入れたから」

「あんがとよ! ありゃ安いのによく効くんだ」


「お姉ちゃんまたあの綺麗な石見せてね!」

「あの石は綺麗なだけじゃなくて特定の薬液と調合したら一瞬で溶ける不思議な性質を持ってて」

「ばいばい!」



「……慕われてるな」

「うちはこの辺りだと少ない薬屋ですから。この辺の人が病気やけがをした時によく相談に乗るんです」

「なるほど、うーん」


 感心すると同時にジンは借金を返すのは難しそうだと思案する。

 この辺りの寂しい……悪く言うと貧しい雰囲気。

 そして安く売っている薬。それでも遅れる支払い。

 ここで稼ぐのは無理だろう。


「家はあそこです」


 ユノが指したのは「薬屋エニシディム」と看板が掛けられたレンガ積みの一階建てだった。

 レンガが崩れたりひびが入ったりもしていない、周囲よりも綺麗な建物だ。


「あれ、あの人達、は……」


 その薬屋の前では数人の厳つい男たちが何か騒いでいる。

 誰も彼も裏通りに居た者たちと同じようにガラが悪く普通の客ではないように見えた。

 相手をしているのは痩せた壮年の男性だ。困り果てたような顔をした男性はいきなり男たちに突き飛ばされた。


「お父さん!」


 その瞬間にユノが駆け出す。


「……いやテンプレすぎるわ」


 大体の事情を悟ったジンはユノの後を追いながら感嘆すら込めて呟いた。


「お父さん大丈夫⁉」

「あ、ああ、ユノ。無事だったんだな……!」


 ユノに抱き起された父親はユノを抱きしめた。

 ジンはそんな二人の傍で男たちを観察する。


「無事って……」

「おやおや、あんたは」


 不穏な言葉をユノが疑問に思った時、厳つい男たちの後ろから意外そうな声がする。

 男たちを割って前へと出てきたのは、男たちより多少上等な服を着て胡散臭い顔にちょび髭を生やした痩せぎすの中年だった。

 どこからどう見ても三下の小物という風体だ。


「これはこれはユノ嬢、お久しぶりですね」

「どうしてあなたがここに。返済の期限はまだ先でしょう⁉」


 ちょび髭はやはりというべきか、ユノに金を貸した悪徳金貸しらしい。

 いやらしい笑みを浮かべてちょび髭は口を開く。


「いやぁ、どうもあんな額を返せるとは思えなくてねぇ。だってこんなボロい区画で商売してるんだから」


 ちょび髭が辺りを見て鼻で笑った。


「……まだ時間があります」

「あと一週間だけね。それまでにあんな額返せます? 返せないでしょう。何を担保にしたか覚えてますよねぇ、ユノ嬢」


 いたぶるように笑みを浮かべるちょび髭にユノは怯んだ顔をした。


「もし返済できなければこの店と中にある器具、そっくり全部明け渡すって契約です」

「……わかっています」

「でもね、私も鬼じゃありません。一つ提案を飲んでいただければ借金全部チャラにしてあげてもいい、とお父上に言いに来ましてね」

「提案?」

「ユノ、聞かなくていい」


 ユノ父は震える体を起こしてちょび髭を睨んだ。

 だがちょび髭はそんなユノ父を見下すように口を開く。


「ユノ嬢、あんたが私の愛人になってくれれば借金——100万ギルは全部無くしましょう」

「愛人……⁉」

「そんなことを誰がさせるものか!」

「まあ本人がここにいるのなら、答えはユノ嬢から聞きましょう。どうです? ああ、もし了承しないと言うなら、さて返済までにこの店が残っているか」


 後ろのいかつい男たちを見せつけるようにちょび髭は体を動かした。

 涙すら浮かべるユノをいたぶるようにちょび髭は笑い。


「返せばいいんだろ?」


 そんなちょび髭に対し二人を庇うようにジンが立ちあがった。


「……誰ですあんた」

「《富豪》のジンだ。ここの借金を代わりに返しに来た」


 服を見せつけるようにジンは胸を張った。


「代わりにですって? あんた、100万ギルなんて金額を」

「返せるね。楽なもんだ」


 余裕そうにジンは笑う。当然ハッタリだがこの服を見た誰もがジンを金持ちだと誤解していたのだ。

 動揺を見せなければ効果はあるだろう。

 ジンの推察は当たっていたようでちょび髭はジンの服に目をやると僅かに顔を歪める。


「ああそれと、さっきユノがチンピラに襲われてたが……あれもお前の仕業だろ?」


 ちょび髭の髭がピクっと震えた。


「あいつら今頃路地裏で寝てるよ。そこの奴らも同じようになるかもな?」

「……!」


 ちょび髭は男たちの後ろに隠れるように一歩下がった。

 その表情は悔しげでぽつりと「あの役立たず共」と呟いている。

 実際はただ逃げただけで戦闘はむしろユノの道具が無双していたが。


「……ふん、私の慈悲だったんですがね」


 しかしちょび髭は引き下がった。


「いいですか、一週間ですよ。100万ギルを一週間以内に! それかユノ嬢が愛人になることです!」


 そんな捨て台詞を吐いてちょび髭は男たちを連れ帰っていった。



■  ■  ■



「はー、どうするかな」


 あの後、気絶したユノ父を店の中に運んでジンはすぐにユノと別れた。

 一週間で100万ギルという額をどうにか稼ぐためだ。


「wikiで見た限りだと正直、達成できるか怪しいんだよな……手っ取り早いのは戦闘職に就くことだけど」


 戦闘職に就き、ギルドからクエストを受ける。

 これが序盤で効率のいい金稼ぎだった。


「ただそれだと一週間やり込んでも十万ぐらいなんだよな。しかも俺がやりこめるの今から三日間、てかほぼ土日の二日ぐらいだし」


 ジンには学校もバイトもあるのだ。

 他に生産という方法もあるが、こちらも難しい。


「ベイギンだと全然素材集まらないから生産は次の街に行ってからの方がいいんだっけ。次の街にいくまででボス戦突破しなきゃいけないらしいし……どの道戦闘職には就かないといけないか」


 残された手段はクランに所属するか、パーティを組むかだ。


「金策パーティが《富豪》のジョブ募集してたら……でも俺パーティに影響あるスキル覚えてないんだよな」


 ジンのスキルは〈収益〉のみ。

 だがパーティで《富豪》に期待されるのは別の〈増収〉というスキルだった。

 〈増収〉はスキルレベルが高い程パーティの獲得する金額が上がるというものだ。


「今から獲得してもスキルレベル足りないしなー、うーーーーーん」





 ジンは悩みながら冒険者ギルドへとたどり着いた。


「……戦闘職が一番かな」


 戦闘職に就いてレベルを上げ、次の街へと行く。


「それで頑張ってみるか」


 ギルドのジョブ変更の場所へジンは足を向ける。

 ごった返す人を抜けて、石像がある一室へと辿り着く。

 本の形をした石像の周りで手をかざすと、就けるジョブが出てくるらしい。


「えー、こうか」


 ジンは周りのプレイヤーがそうするように手を向けると、目の前にジョブ一覧のウィンドウが出現する。

 と同時に。


高位(ハイ)ジョブ《金の亡者》が解放されました】


 そんなウィンドウが目の前に出てきた。


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