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四十話 大襲撃

 ソールズはジンたちから離れた後、プレイヤーたちの集まっている部分から少し離れた場所へと移動する。

 移動した先には二人の男が立っていた。


「お、戻ってきた。おっせーよソールズ」


 一人はちゃらちゃらした雰囲気をした大学生ぐらいの若者。


「時間は厳守してほしいもんだ」


 もう一人は嫌味な表情をした痩せぎすの中年だ。


 二人はネクスタルに店売りしている標準的な装備を身に着けている。

 格好だけならもうすぐ【古狼草原】へ向かう初心者、といった風だ。


 二人の文句にソールズは切り捨てるように返す。


「必要な確認だ」


 その声色はへらへらした青年の時とはがらりと変わっている。

 低く、どこか重圧を感じさせる声だった。


「交易路の整備において、《雷公》リング含め他のトップは先行してモンスターを討伐する。それは確定した」

「そんなのは最初からわかってたことだろう? むしろあんたがちょっかいかけて警戒されるんじゃないかね。やめてほしいもんだ、今日仕事するのが誰だったか忘れたかい」


 中年は眉間にしわを寄せてねちねちと言いつのる。

 傍から聞いていても嫌になるような声音だったがソールズは一切表情を崩さない。


「問題ない。何かをするとは気づいても、何をするかはわからないだろう」

「そうかぁ?」


 その発言に若者が薄笑いを浮かべて口を挟む。


「リングってでかいクランのリーダーだろ。もういろいろ情報集めて気づいてんじゃねーの? イベント(・・・・)の邪魔してる奴(・・・・・・・)がいるってことぐらい」


 中年も同意するように首を縦に振る。

 しかしソールズは冷たい目を二人に向ける。


「推測できるほどの活動をしたか?」

「……ちっ」

「……」


 若者はつまらなさそうに舌打ちし、中年は口をへの字に結んだ。


「妨害計画の内、一つは【怨霊鉱山】にて落盤に見せかけたプレイヤーの殺害。もう一つはクエストの標的を洞窟に閉じ込めクエストを失敗させる」


 だが、とソールズは言う。


「落盤は初日の最初に起こったせいで一人しか巻き込めず、閉じ込めたモンスターはいつの間にか解放されていた」

「しょーがねぇだろ、どっかのバカがいきなり一番奥にまで突っ込んできたんだから! つーかおれも巻き込まれて死んだしよ!」

「あんな辺鄙な、しかもクエストの標的がいない洞窟ですよ。プレイヤーが来るなんて想定外でしょうが。苦労して閉じ込めたギガ・ボウまで解放されて……」


 苦々しく二人は言い訳をする。

 ソールズは中年の方を向き情報を付け加える。


「ギガ・ボウを倒したのはリングだそうだ」

「……ふぅん」


 中年はギラリといやらしげに目を光らせた。


「リングが解放したってことですか?」

「可能性はある。あの速さと好奇心なら、奴はどこにいてもおかしくない」

「厄介な性格ですねぇ」


 中年は忌々しげにとんとんと地面を踏む。


「ふん。ならあいつが参加してるこのクエストを、せいぜい台無しにしてやりますよ」

「ああ、存分にやれ《扇動者》」


 ソールズたちは動き出す。



■  ■  ■



 交易路を整備するクエストが始まって30分ほどした頃。

 ジンたちは交易路をぼんやりと歩いていた。


「最後方って結構暇だな」

「そうですね」

「だなぁ……」


 ネクスタルとゼノをつなぐ道は、平原の中を曲がったりくねったりしながらどこまでも続いている。

 道の真ん中には物資を詰め込んだ馬車が走っている。その数は二十以上あるため道には馬車が連なるように進む様が見えていた。


 ジンたちプレイヤーは馬車の周りに散らばって護衛をしている。

 護衛といっても隊列を組んだりはしない。馬車の周囲へ散らばっているだけだ。

 一つの馬車に十数人が割り振られ、パーティを組む者たちは雑談なんかをしながら緩い空気で進んでいた。


 ジンは「うーん」と眉間にしわを寄せる。


「本当にただ歩いてるだけだなぁ」

「でも、それは先行部隊の人たちがしっかり仕事をしてくれてるってことですし」


 今回のクエストは部隊が三つに分けられた。


 一つ目は先行部隊。

 まだ危険なモンスターが交易路には残っている。あるいは大人数で移動すれば近づいてくるという。

 故に先行してそういったモンスターを討伐するのがこの部隊だ。

 危険な役目だけに貢献度も多く、またモンスターを倒せばそれも貢献度に加算されるため立候補は多かった。

 リング含めてトップクラスの実力者たちはここに参加している。


 二つ目は整備部隊。

 交易路はモンスターによって荒らされている。今回の先行部隊たちの戦闘でさらに荒れることになるだろう。

 それを整えてまともな道にするのがこの部隊だ。

 またモンスターが来ないよう魔除けなども設置するらしい。

 先行部隊が蹴散らしたとはいえまだモンスターが寄ってくることはある。

 こちらもそれなりの貢献度であり、まだモンスターとの戦闘もある。

 高位ジョブをカンストさせたぐらいのプレイヤーがここに参加している。


 そして三つ目は荷運び部隊。

 先行部隊、整備部隊の仕事が終わった後、物資を運ぶのがこの部隊だ。

 今回運ぶのは途中にある宿場町を再建するためのものだった。

 城壁を築くための石材や、家を建て直すための木材、それらをこなす職人や職人たちの道具など。

 基本的に宿場町についてからが本番の部隊である。

 モンスターは先行した二部隊に討伐されているためほとんど出ず危険性は低い。

 代わりに貢献度も低い。


 ジンたちがいるのはこの荷運び部隊だった。


「でも平和なのはいい事じゃないか?」

「それはまあ」


 アニカの言葉へジンは頷く。


 そもそもジンが何故この部隊を選んだのか。

 それはユノとアニカの存在があるからだ。

 危険な部隊へ入ってもし二人に何かあったら。

 そう考えてジンは最も簡単と説明された荷運びに参加した。


 だから平和なこと自体はいい。

 いいのだが。


「このままだと武器も使えないんだよな」


 ジンは腰のあたりを見る。

 そこには白い鞘に収まった短剣がさげられていた。

 この短剣はアニカがこのクエストの前ギリギリに完成させたものだ。


「このままだと計画が……」

「計画?」

「いやなんでもないよ?」


 ジンは慌てて誤魔化す。

 アニカの武器を上手く褒めて自信をつけさせる、という作戦を本人に言えるわけがない。


「あーそうだ。ユノは体の調子大丈夫なのか?」

「え? あ、はい。もう全然何ともありません」


 唐突に話を振られたユノは、戸惑いながらもぐっと拳を握りしめた。

 ジンはその様子に安心する。

 話を逸らすように聞いたが本心から心配してもいたのだ。


「そっか、よかった。あのソールズって奴が逃げてからもしばらく震えてたから」


 ソールズに胸ぐらを掴まれてからのユノは明らかに様子がおかしかった。

 声を掛けても俯いて震えたままだったり、声が聞こえていないようだったり。

 ジンは一度クエストを中断しようかと考えたほどだ。


「そう、ですね。あの人に掴まれた瞬間、なんだかものすごく怖くなって……いうことに従わなきゃいけない、みたいな気持ちになったんです」


 でも、とユノは首を傾げる。


「しばらくするとあれだけ感じてた恐さが全部綺麗に無くなったんです。何だったんでしょう、薬か何かを使われたとか……? だとしたらどんな調合で……?」

「いや別に薬と決まったわけじゃないし……」

「でも薬だったら気になりませんか? そうですよね、ジンさんも気になりますよね」

「俺の気持ちを決めつけないで」


 そんな会話をしている時、突如カァンカァンと甲高い鐘の音が鳴り響いた。

 その瞬間にプレイヤーが全員右側を向いて歓声を上げる。


「来たかモンスター!」

「これがたまの楽しみなんだよなぁ!」

「ひゃっほう癒しの時間!!」


 その鐘はモンスターの襲来を表す警報だ。

 モンスターが少ないとはいっても一応出るのは出る。

 十分に一度というペースで、右にある【古狼草原】側から攻めてくるのだ。


 襲撃とはいうが、退屈していたプレイヤーたちにとっては美味しいおやつの時間みたいなものである。

 しかし。


「あー来たか」


 ジンの反応は淡泊なものだ。

 まるで自分には関係ないとでもいうような態度である。

 その反応にユノは苦笑している。


「ジンさん、一応構えておいた方がいいんじゃ」

「いやまあそうなんだけど」


 ジンは草原側を見る。

 草原側には小高い丘がありそのせいで向こうまで見通すことはできない。

 しかし数秒後に丘から十数体のモンスターが顔を出し、丘を駆け下りてくる。


「グラスラン・ウルフか」


 それは前までのジンではブースト薬でも使わなければ苦戦する敵だ。

 その速さは凄まじくぐんぐん距離を詰めてくる。


 だが馬車にある程度近づいた瞬間。


「うおぉぉ! 〈ストロング・シュート〉!」


 そんな声と共にグラスラン・ウルフへ数十本の矢が降り注いだ。

 矢はグラスラン・ウルフを貫き一瞬で十数体のウルフたちが光の塵へとなっていく。

 そんな光景を見ながらジンはユノに顔を向ける。


「どうせ遠距離武器持ってる人がこうやって倒すからさ……」

「あ、あはは……」


 荷運び部隊の下に現れるモンスターはその強さも数も大したことはない。

 ここにいるプレイヤーはあまり強くないが、それでも二百といればこの程度はあっさり倒せてしまう。

 さっき歓声を上げたのも遠距離に対する攻撃手段を持っている人ばかりだ。


「また十分ぐらい暇になるな」


 ジンがまたぼんやりと空を眺め始めた時。


 カンカァン、と。

 再び鐘が鳴らされた。

 その事態にプレイヤーがざわつく。


「えっ?」

「二回連続?」

「ちょっと変化つけて来たね」

「やべ、スキルのクールタイム終わってない。遠くまで飛ばすの無理じゃん」

「今度こそ俺達近接戦士の出番か⁉」


 剣や斧を持つプレイヤーが自身の獲物をやる気満々に抜き放つ。

 同時に丘の方からモンスターの姿が現れ始めた。

 ジンも短剣を抜きながらそのモンスター達を確認する。


「あれキモドキか。それにセント・ピードとデッドグラス……三種類もいるのは初めてだ、な……?」


 どれが一番倒しやすいか、などと見定めていると。

 それらのモンスターの後方からさらにモンスターが現れる。


 白い体に牙の生えた馬。

 ふよふよ浮く赤い球体。

 角の生えた猪。

 デッドグラス。

 鳥の群れ、球体、グラスラン・ウルフ、セント・ピード、馬、獅子、鹿球体猪デッドグラス――。


「……多くない?」


 誰が言ったのかわからない言葉の通り。

 モンスター達は続々と。

 続々と。続々と。

 ただひたすら――草原を埋め尽くす波のように丘を駆け下りてくる。



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