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三十八話 これが……ハーレム……⁉

 アニカの悩みの解決方法を考えてしばらく後、ジンは【怨霊鉱山】へと辿り着いた。

 鉱山のプレイヤーは前よりさらに数が増えている気がする。ニュースでやっていた野外のフェスをジンは思い出した。


「探すのも一苦労だな……」


 辺りを見回しジンは途方に暮れる。

 その時横から聞き慣れた声が上がる。


「あれ、ジン。こっち来たのか?」

「アニカ⁉」


 入り口からすぐ横にアニカと荒くれたちはいた。

 全員がパンパンになったリュックを背負っていて今仕事が終わった、という出で立ちをしている。


「何で入り口に?」

「そろそろ鞄に詰め込むのも限界なんだ。だから一度帰ろうと思って」


 一旦とはいえ本当に仕事を終えていたらしい。


「マジか、その鞄かなり多く入るんじゃなかったっけ。一日働き続けてようやく貯まるぐらいって聞いたような」

「ああ、今日はその。ちょっと張り切ってさ。あ、取れたもの見るか?」


 どこかぎこちなく笑い、アニカは自身のリュックを下ろし中を開いて見せる。

 そこには平均的なものからレアなものまで大量の鉱石が詰まっている。


「うおぉ……! 昨日と比べても大量じゃない⁉ これを昼までに⁉」

「へへへ、凄いもんだろ? ……あの、それでさ」


 アニカは照れたように笑うが、すぐにその表情が硬くなり口ごもる。

 今日はどうもアニカが緊張しているように見えた。

 まだ昨日の落盤について引きずっているのだろうか。

 ジンがそんな疑問を持った時、アニカはふぅと軽く息を吐く。


「ジン、聞いてくれ」


 そして決意のこもった瞳でジンをまっすぐに見据えて——。


「あたしにもう一度、鍛冶をさせてくれないか」


 その眼差しにジンは困惑したように「え?」と声を漏らした。


「いや! わかってる! 何言ってんだって思うだろう! だけど少し聞いてくれ!」


 アニカは慌てたように言い訳を始める。


「あたしはジンに買ってもらった素材を無駄にした! 自分が作ったものに納得できないとか、こんな武器じゃ振るう人の命を守れないとか、そんなこと言って……」


 言いながら拳をぐっと握りしめる。


「……正直、その気持ちはまだ消えてない。あたしの武器も、腕もまだ未熟だって躊躇してる。けど昨日、ジンが落盤に巻き込まれても死ななかったのを見て気づいたんだ」


 アニカの目はギラギラと輝いている。


「——例えあたしの腕が未熟でも、冒険者なら、ジンなら……死なないんだって」


 アニカは鉱山のごつごつとした地面に座り込み、バッと頭を下げた。

 土下座だ。


「酷い事を言ってる自覚はある。でも頼む! どうかあたしの武器を使ってくれ!! それで使った感想を聞かせてほしい!! 至らないところがあったら必ず直す……!!」


 その覚悟のこもった姿を荒くれたちは戸惑ったような顔をしていた。

 そしてその目をジンに向ける。

 根が割れている当事者がどんな反応をするのかと。


 そして当のジンはといえば。


 ——それ、全部俺が言おうとしてたことなんだけど。


 内心で驚愕し狼狽えていた。

 そう、ジンもアニカの悩みの解決方法を考えていた。

 しかし内容は全て被っていたのである。


 アニカは自分の武器に自信がない。しかしジンならアニカの武器を使っても死なない。

 だから俺なら武器を使えるぜと説得し、作ってもらったらその出来を褒めよう。

 それなら好感度もアップだ、などと。


 そんなジンの打算はだいぶ崩れ去った。

 だってアニカから言い出してきたのだから。

 しかも死なないからって言った時のそのギラギラした目は何? 俺のことを君は何として見てるの?

 などとジンは混乱していた。


 しかしこのままだと女の子を多くのプレイヤーが見ている中で土下座させている男になってしまうと遅れて気づき慌てだす。


「わかった! 使う! 武器使うから顔を上げて⁉」

「いいのか……⁉」


 バッと、アニカは土に汚れた顔を上げる。


「でも、あたしのために死んでくれっていってるようなもんだぞ! ほんとにいいのか⁉」

「そもそも俺もそう提案しようとしてたんだ。そう、俺もな!」


 実は自分も考えてたんですよ、とジンはアピールする。

 その行動は傍から見るとだいぶダサいが、アニカは素直に「ええっ⁉」と驚いていた。


「今から帰るならちょうどいい。アニカは午後からの採掘には参加せずに武器をつくってほしい」

「わ、わかった!!」


「あ、あと二つ要望があるんだけど」

「なんだ⁉ 何でも言ってくれ!」

「俺が使うから武器の種類は短剣で」

「うん!」

「それとあと二、三時間ぐらいで大規模なクエストに行くんだ。交易路の整備ってやつ。それに間に合うよう作って欲しい」

「二、三時間か。……え、それだけか?」

「やっぱり短いかな」

「い、いやそうじゃなくて」


 首を傾げるジンにアニカは説明する。


「ほら、重いとか軽いとか、どういう機能が欲しいとか。そういうのはないのか?」

「あー……正直どこまでできるかわかんないからなぁ」


 ジンは《鍛冶師》や《鍛冶職人》がどんな武器を作れるのか知らない。

 機能といわれてもぱっとは思いつかなかった。


「じゃあ理想だけでも言ってみてくれ。可能な限りそれに近づけるから」

「そう、だな……じゃあ《執着の短剣》より攻撃力が高くて、あと持ったら速くなるとか?」


 ジンは昔やったことのあるRPGで、装備すると素早さの上がる武器を思い出していた。

 自身のAGI不足を考えての適当な意見だったがアニカは至極真面目に頷いている。


「攻撃力が高くて、持ったら速くなる、だな? わかった!!」

「あ、あとこの鉱石も好きに使ってくれていいから。って言ってもアニカたちが掘った物だけど」

「——」


 鉱石を使っていいと言われたアニカの顔つきが一気に引き締まる。


「必ず、いいものを作るよ」


 アニカはそう言って立ち上がり、荒くれたちに号令をかけて街へと戻って行った。


「……まあ、やる気になってくれてよかったよ、うん」


 アニカは自分で悩みに向き合っていた。

 自分がここに来た意味はあったのだろうか。


「デッドグラスに八つ当たりしよう……」


 情けない事を言いながらジンは【古狼草原】へと足を向けた。






 そして三時間後。

 ジンは交易路の整備のため街の外、平原へと来ていた。

 周囲は広場より遥かに多くのプレイヤーが集まっている。

 ジンが想像する中では全校集会の人数が近いだろうか。いや、それより遥かに多そうだ。


 そんなプレイヤーの群れを見ながら、ジンたち三人(・・)は纏まって隅にいる。


「こんなにたくさんの冒険者さんが外に集まっているのは始めて見ました……」

「【怨霊鉱山】にいる人数より多そうだな」


 ジンの両隣にいるユノとアニカは物珍しげにプレイヤー達を眺めていた。

 ジンは美少女二人に挟まれている状態だ。

 それを僅かに楽しみながら、楽しさより強く感じている疑問を口に出す。


「なんで二人ともここにいるんだ……⁉」


 交易路の整備は難易度が高いと書かれていた。

 内容を見てもプレイヤーが死ぬ可能性もあるだろう。

 そこに何故〝祝福〟のないNPCである二人が来ているのか、と。


「なんで、って」


 ふたりは顔を見合わせる。


「あたしは当然、武器の様子を見るためだ! ジンがいくら死なないからって、ただ渡して終わりじゃいいも悪いもわからないだろ!!」

「だからって直接見に来る必要はないだろ⁉」

「ある!! これもあたしの鍛冶の内なんだ!!」

「うぅっ……!」


 ジンは決意のこもった大声に押し切られた。

 しかし次は、とユノに目を向ける。


「ユノは別にそういう用事ないよな⁉ ていうかむしろ街でアイテム作っといてくれると助かるんだが⁉」

「すみません。もう素材がないんです」

「もう⁉」


 確かにユノは張り切っていた。

 しかし素材は二日持つ程度の量はあったはずだ。

 それを実質一日未満で使い切ったらしい。


「い、いやでもついてくる意味は」

「……アニカさんはいいのに、ですか?」

「え? だってアニカは武器の出来を見るためって理由があるし……いやそれも納得はしてないけど」


 むっとしたようにユノは頬を膨らませる。

 そして下げている鞄から丸い球を取り出した。

 その玉は黒く輝き、表面に赤い色の×が書かれ、上部からちょろっと太めの糸が飛び出している。


「私も、これの出来を確かめに来ました」

「待ってそれなに? 明らかになんか見た目がヤバそうっていうか……え? 爆弾じゃない?」

「はい、《爆弾》です」

「何作ってんのぉ⁉」


 ジンは思わず後ろに飛び退いた。

 爆弾が目の前にあることへの危機感がそうさせた。


「これをジンさんに渡します。ちゃんと威力があるか確かめるために、魔物相手に使ってみてください」

「待って待っていきなり握らせようとしないで爆弾を!」

「たくさんありますから」

「おあーっ増えた!!? これちゃんと威力発揮したらどうなんの⁉」

「一つでも辺り一帯が爆炎に包まれます」

「俺死なない⁉」

「遠くに投げたら大丈夫ですよ。近くで使うと……うーん、冒険者さんならちょっと死ぬだけで済むかも……」

「ちょっと死ぬ⁉」


 死に強弱があるのか。全て平等に0ではないのか。

 現実から逃避するようにそんな思考をするジンの前でユノはぽつりと呟く。


「……私だって久しぶりに一緒に……」

「え、なんて言っ——」


 ジンが聞き返そうとしたその時。


「ジンさーん」


 前方からプレイヤーをかき分けて銀髪の少女がやってきた。


「り、リング?」

「どうもどうも。お久しぶりで……何故そんなに《爆弾》を持ってらっしゃるんです?」


 両隣にアニカとユノ、そして前方にリング。


 三方を美少女に囲まれたジンは回らない頭で「これが……ハーレム……⁉」などと考えていた。


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