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三十五話 造船見学と交易路


「壮観ですねぇ。どんどん出来上がっていってます」

「一日経たずにこれっすからね。早送りで見てるみたいだ」


 船の上や周りには多くのプレイヤーとNPCが忙しく動いている。

 リングたちの顔見知りもいるが、全員が《船大工》や《木工師》、あるいはその高位ジョブといった顔ぶれだ。


 船は外で作られていた。

 海の近くに全長四十メートルはある作りかけの船がどんと五つ陣取っている。


 船の底に基礎となる竜骨があり、その左右に曲線を描く木材が立てられていた。背骨と肋骨の形を仰向けにしたような形だ。

 それが少しずつ板で覆われて、誰もがイメージする帆船の形に近づいて行っている。

 造船の進行度はばらつきがあるが、最も進んでいるものはかなり完成に近いようだ。

 マストが船尾近く、真ん中、船首と三本堂々とそびえていた。


 リングはそんな光景に感心の声を上げる。



 《船大工》は《大工》から派生した基礎ジョブだ。

 船を作ろうとした生産職が発見した隠しジョブである。

 ネクスタル側から向こうに見える大地へ渡ろうとしたり、船釣りをしようとしたり、造船に四苦八苦している内に解放されたらしい。


 《船大工》はスキルを使い一気に板を張り付けたり、船の上を軽々飛び回っている。


「これなら今日中か明日にはできそうだよね」

「そしたら生産職は暇になるんであるかなぁ」

「どうでしょうね。追加で発注されるんじゃないでしょうか」

「ラスティの船全部壊されてたものね。あそこが被害としては一番酷かったわ」

「あーねー」


 クロネの言葉にクランメンバーが深く頷いた。


「ラスティなぁ、最後の街なのに惨状としか言えない光景だったからな。その前のホルメラは被害少なかっただけに」

「城砦は三分の一ぐらい壊されてたし、近くの地面も穴ぼこだらけだったし」

「元々は海の上に立つ綺麗な街だったらしいけどね。漁業も盛んだったって」

「海に面してるところは船や家の残骸しかなかったであるな。店の品揃えも貧相だったのである」


 ネクスタルが鍛冶の街と呼ばれるようにラスティはかつて海の街と呼ばれていた。

 街の半分が海の上にあり、街の中を船で移動することもできたらしい、と。

 それをリングたちはNPCから聞き取りをして知っていた。


「最後の街ってどんなのかなーってうきうきで辿り着いたらボロボロの街に追い詰められた人々がいた時の気持ちよ」

「浮かれてすいませんって気持ちになったであるな」

「しかも船が無いからネクスタルまで戻れないのよね。最初の街まで戻ろうと思ったらまた大陸踏破しないといけないっていう」

「確かに移動が不便すぎるんだよねぇ……」


 クランメンバーが愚痴を漏らしていく。

 その愚痴に対しリングは北の方、山脈を指さして言う。


「移動なら、あの山脈を越えたら楽に行き来できますよ」


 その意見にメンバー全員が顔をしかめた。


 『ランコス』の移動が不便な理由は二つある。

 一つはネクスタルとラスティの間が海になっていて行き来できないこと。

 もう一つは大陸の真ん中にある巨大な山脈だ。


 それがあるせいで、プレイヤーは大陸の真ん中を突っ切って移動することができない。

 左から大回りに山脈を迂回するのが正規ルートになる。

 歩けないという意味では真ん中に穴が空いているのと変わらない。ドーナツのようなものだ。


 ではリングの言う通り山脈を越えればいいのでは、と思うだろう。

 しかし山脈に一度でも挑んだことがある者のほとんどはこう言うのだ。


 ——やれるもんならやってみろ、と。


「無茶言わんでくれます? あそこリアルでガチ登山するような人ぐらいしか挑めないでしょ」

「めちゃくちゃ足場悪いし、下手したら遭難するし、道踏み外したら落下死するからね。ステータスがどんだけ高くても超高度から落ちたら死ぬんだよ」

「しかもモンスターも普通に出てくるのよ? トップクラスの強さの奴が」

「たまにボスクラスも出てくるである。ギガ・ボウ並みの、我らがパーティで挑まなきゃいけないような奴である」


 しかし文句を言いこそすれ、リングにやれるもんならやってみろなどと言えるメンバーはいない。

 何故なら。


「私はできますが」

「「「「あんたは例外である」」」」


 リングはできるしやっているからである。


「最初に踏破した時散々自慢されたんだから誰でも知ってますよ。ダル絡みやめてください」

「ていうか《雷公》の速度と〈稲妻〉で無理やりジャンプし続けてゴリ押すって何? マ〇オじゃないんだからさ」

「いーなー。あたしも最高位ジョブ就きたい。それか空飛ぶ乗り物が欲しい。飛行機じゃなくても空飛ぶ絨毯とか、羽とか」

「やめとくである。吾輩は羽出せるけどあそこ風も凄いから飛ばされるである」

「じゃあとりあえずリング殴っとこ」

「そんなぁ、何故ですか?」

「あんたの自慢がイラつくからよ!」


 振るわれるクロネの杖を微笑みながらリングは避ける。


「まあまあ落ち着いてください。今回船が完成したら行き来はしやすくなりますよ」

「まあ、それはそうね」


 クロネは杖を振るうのをやめて同意する。


「そういえば交易路の整備ももう少しでクエストが出るっけ」

「ああ、昨日のうちに告知されてたな」

「今日の午後三時からですね」


 交易路の整備。

 討伐、生産、採取の三つとは違い、NPC側が準備を整えた時にのみ張り出されるクエストだ。

 その重要性から貢献度が高い上に、受注したプレイヤー全員が参加できるという仕様である。


「一つのクエストとしては貢献度が破格なんだよねぇ」

「ただ時間の拘束がどんなもんかわかんないんだよな」

「あと船に関わってる人たちは参加しなくても問題なさそうね。造船も相当貢献度は高いいし」

「まああっちは船にしか興味ない人間も多いであるしな」

「ちなみに皆さんは参加されますか?」

「面白そうだからする」

「貢献度高いからするね」

「NPCの人たち襲われたりするのかな。心配だし参加するわ」

「吾輩、午後から仕事である……」


 ヴァンパイアが遠い目をする。


「……今日休日じゃね?」

「休日に仕事する人もいるから……」

「が、頑張って」

「お疲れ様です」


 その肩をメンバー全員がぽんぽんと叩いた。





「そういえばジンさんはどうされているんでしょうか」


 一度ダンジョンへ共に潜った青年の事をリングは思い出す。


「今回のイベント、楽しめているでしょうか?」


 その頃、ジンは。





 酒場の入り口で人とぶつかっていた。


 ノブへ手をかけようとした瞬間にドアが向こうから開かれて、男が出てきたのだ。

 人が出てくるとは思わなかったジンは咄嗟に避けようとしたが、肩がぶつかってしまった。


「うぉっと、すみません」

「……」


 男はジンを一瞥して、謝罪をすることも責めることもなくそのまま去っていった。

 ジンは少しむっとする。

 しかし直後に男の姿に見覚えがあることに気づいた。


「あれ、確かイベントの前に街ですれ違った……」


 NPCと仲間を集める、というような話をしていたプレイヤーだった。

 そしてちょび髭たちなど裏通りの荒くれと似た雰囲気を覚えたものでもある。


「……そういうロールプレイかな」


 裏組織の幹部のような人だと服装も合わせてジンは感じた。

 不愛想なのもその演技(プレイ)の一環なのかと。


「だとしたら雰囲気までそのままなのは凄いなぁ」


 ひとりごちてジンは酒場の中に入った。


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