三話 クエスト発生
苦しげな女の子の声が聞こえてきてジンはバッと振り向いた。
通りを少し行った路地の陰、そこから声がする。ジンはそちらへ走った。
「おいおいそんなに嫌がるなよ。遊んでもらいたいだけじゃねぇか」
「ちょっとぐらいいいだろぉ?」
「やめて! 離してください……!」
狭い路地の中、頭の上に『▽NPC』という文字が出ている男たち三人が手前と奥に分かれて誰かを囲んでいた。
声やちらっと見える姿からして誰かはジンと同じぐらいの歳の少女のようだ。
テンプレな状況に乗っかりジンは声を張り上げる。
「待てーい暴漢共!」
「あぁん?」
男たちは怪訝な様子で振り返る。
それにより囲まれていた少女の容姿がしっかりと見えた。
「————」
その姿を見た瞬間、ジンの時が止まった。
後ろで短く纏められた金の髪、丸く見開かれた碧い目には僅かに涙が光っている。淡いピンクの唇が僅かに震え、頬についた汚れが雪のような肌の白さを引き立たせていた。
——俺はこの子と出会うためにゲームを始めたのだ。
「なんだてめぇは!」
「おほぁ⁉」
ジンはチンピラの恫喝ではっと我に返る。
完全に見惚れていた。
NPCでありながら、いやだからこそか。少女はジンの理想を形にしたかのような容姿をしていたのだ。
「この女の連れか?」
「いい身なりしてんじゃねぇか。金でもくれんのか?」
男たちはジンの身なりをみるなりにやにやとした笑みを浮かべて近寄ってきた。
手前からモヒカン、ハゲ、ヒゲと特徴がある。
奥にいるヒゲが少女の手を掴んでおり、モヒカンとハゲがジンに近寄ってきている。
ジンは色ぼけた頭を無理やり切り替え、どうしようと考える。
ノリで声を掛けてしまったもののジンは《富豪》で戦闘はできない。男たちを華麗に倒して少女を救出なんて当然無理だ。
しかし少女の姿を見た後では助けないとか逃げるなんて選択肢はない。
「……」
ジンはそっと一歩下がる。
倒せはしなくとも囮にはなれるかと考えて。
「はっ、おいおいビビっちまったか?」
モヒカンは鼻で笑ってずんずんジンとの距離を詰めてきた。
テンプレな反応をするAIに感謝しつつ、ジンは引きつった愛想笑いのような表情を作って言い訳をする。
「いやぁ、そういうわけじゃ……でもほら、女の子に酷いことはあんまり、ねえ?」
「酷い? 俺たちゃ遊んで欲しいだけだぜ」
「てめぇの顔近づけるのが酷いってことじゃねぇかぁ?」
「なんだと⁉ おい、そう言いてぇのか?」
「そんなことは……」
モヒカンがジンを逃がすまいと肩に腕をかけてくる。そしてハゲもいたぶるように笑いながらジンの方に近寄ってきた。
二人が少女から離れた。奥のヒゲもジンに注目しているのか少女を掴む手が緩んでいる。
男たちの目はジン……特に右手に嵌めた金の指輪へ注がれているようだ。
それを見て取ったジンは即座にウィンドウを開きマントや指輪を装備から外す。
「まあ、ほら。ここはこれで許してもらいたいんですが……」
ジンは指輪を外して注目させるように掲げた。
そして男たちの目が指輪に集まった瞬間、奥のヒゲに向かって指輪を弾く。
「「「‼」」」
全員が指輪に思わず手を伸ばし——少女から手が離れた。
「慣性の法則うぅぅ‼」
同時にジンはモヒカンの腕から逃れ、男たちからしたら訳の分からない大声を上げてヒゲに向かって走った。
《富豪》は戦闘ができない。
しかしゴブリンにボコられた時、ジンは棍棒を受ける直前まで普通に動けていた。
つまり敵視している・された状態でごく近くにまで寄らなければ戦闘状態にはならないのだ。
だから、ジンは跳んだ。
ヒゲに向かってマントを外しながら跳びかかった。
その瞬間にジンの体の動きはいきなり鈍くなる。しかし跳びかかる勢いまでスローにはならなかった。
ジンは『ランコス』の超クオリティが再現する慣性に感謝しマントと共にヒゲの顔へぶつかった。
「もがっ⁉」
「逃げろ!」
ヒゲと共に壁へ叩きつけられながらジンは少女へ叫ぶ。
「あ……はい!」
少女はすぐさま走り出し路地の向こうへ駆けていった。
「よし! あだっ⁉」
ジンは少女を逃がせたことにガッツポーズをする。だが直後に腹を蹴られた。
「てめぇ、よくもやってくれやがったな」
蹴ってきたのはモヒカンだった。モヒカンは金の指輪を拾い上げて睨みつけてくる。
「てめぇら、そいつをやっちまえ!」
「あだだだだ!」
モヒカンに命じられたヒゲとハゲがジンを滅茶苦茶に蹴りつけてきた。
痛みはないがいろんな所から来る衝撃で酔いそうになる。
「ふん、こいつはもらっておくぜ。いい値で売れそうじゃねぇか」
モヒカンは指輪を見てにやついていた。
どうやら男たちにとっては少女より指輪の方が価値があるらしい。
「くそー、流石に死んだらジョブ変えるか」
少女が追われる心配もなくなり、ジンは蹴られたままステータスを見る
出店で買ったことで少し減ったが、それでも所持金は1500ギルになった。武器と防具は買えるだろう。
残り少ないHPを見ていたジンはふと目線を上げ。
「えっ」
さっき逃げたはずの少女の姿を見た。
男たちの後ろから少女はそろそろと近づき、出店で見た小瓶をジンたちの近くに投げた。
「ぶおっ⁉」
「うぶっ!」
小瓶は地面に叩きつけられて割れ——ぶわっと白い煙が立ち込めた。
「なっ!」
「なんだこりゃぁ⁉ げほっ」
「ごほっ、てめぇの仕業か!」
「げほげほごほっ!」
チンピラたちは狼狽え、ジンは煙を一番多く吸って咳込んでいた。
「こっちへ……!」
少女の声が耳元でして腕を引っ張られる。
ジンは引っ張られるままに立ち上がり走った。
その瞬間にポン、と音がして目の前にウィンドウが表示された。
【クエスト〝裏通りの迷路〟が発生しました】