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二十八話 復興大祭 開始

 リングとのダンジョン探索をしてから五日が経った。

 今日は金曜日の夕方五時半、あと三十分でイベントが始まる。


「いよいよだな……」


 ジンは興奮と、僅かな緊張を持って『ランコス』へログインした。




 目を開くとそこは見慣れた宿屋の一室だった。


「あ、ジンさん起きましたよ」

「やっとか。早く行こうよー」


 部屋の中にはユノとアニカが立っていた。

 ユノはパンパンのカバンをさげ、アニカはピッケルとリュックを背負っている。

 二人とも準備は万端のようだ。


「おはよう。じゃあ行くか」

「はい」

「おう!」


 宿屋を出てジンたちは広場へと向かった。




 広場には大量のプレイヤーがひしめき合っていた。

 背が高かったりごてごてした巨大な装備を持つプレイヤーもいて、景色すら満足に見えない。


「うわっ、ここちゃんと広場だよな?」

「はい、多分……」

「この五日でプレイヤーはどんどん増えていってたけど……今日が多分最高だろうな」


 五日間の間でプレイヤーは大量にネクスタルへ移動して来ていた。

 しかし二度目にして、大規模なものとしては初のイベントに参加する人数としては少ない気もする。


「ただなんかそれほど数は増えてないような……」

「ここ以外にも全ての広場で開会式がされるらしいですよ。あまりに人が多かったから、と」

「全員こっちに集めたらあたしたち潰されそうだしな」

「本当に……っと」


 ユノが人混みに押されてこけそうになる。それをジンは咄嗟に支えた。


「だ、大丈夫か?」

「は、はい。ありがとうございます」


 体が触れ合う程距離が近くなってジンは内心で大慌てだった。ユノも慌てながら体勢を直し離れる。


「お、始まるぞ!」


 二人の前を歩くアニカが広場の真ん中を指さした。


 そこには五日前と同じく台が用意されていた。

 登壇するのは前にも見た街長だ。

 その姿にざわつきが広がっていく。


「静粛に……とは今は言うまい! 諸君! とうとうこの日が来た!」


 プレイヤーたちが騒ぐ中で街長は声を張り上げた


「この一大事業にして国中を見回しても屈指の祭りが、今日開催される!」


 うおおおおと広場中から耳が痛くなる程の叫び声が上がる。


「詳しいルールについてはもうほとんどの者が把握しているだろう! 把握していない者は今からでもギルドで確認できる!

 故に簡単な概要だけを説明する!


 我々街側はやって欲しい事、持ってきて欲しいものをクエストとして出す!

 諸君らはそのクエストをこなし貢献度を稼ぐ!

 その貢献度に応じて、祭りが終わった際に豪華な報酬を渡そう!


 そしてクエストにないものは持ってきても貢献度にはならない! 気を付けてくれ!」


 ルールを説明し終えたころにはプレイヤーたちのざわつきが収まり始めていた。

 それはけして興奮が落ち着いたわけではない。

 今か今かと全員がイベントの開催を待ち構えているのだ。


 その空気を読み取ったのか街長は笑みを浮かべる。


「もう難しい話などいるまい!

 冒険者たちよ——復興大祭の開催だ!!」


 その宣言と共に——ドッ、とプレイヤーたちは動き出した。






 ジンたちもまたすぐに動きだす。


「よし! じゃあ動きは予定通りにな!」

「はい! 私は工房で納品用のアイテムを作っておきます!」

「そんであたしとジンは採掘だ! 行くぞ!」

「おう!」


 全員がいつになく張り切っていた。

 元々ジンはそれほどイベントをやり込むきはなかったのに、何故ここまで気合を入れているのか。

 その原因は復興大祭の報酬……特に個人の上位百位以上に与えられるものだった。


「上位百位以上で1000万ギル……!」

「高位アイテム詰め合わせ……!」

「武器・防具に鉱石……!」


 各々が求める物が報酬に入っていたのだ。

 ジンは金、ユノは素材、アニカは素材と武具そのもの。

 自身の欲望を口にしながらジンたちは別れる。


「さて俺たちは【怨霊鉱山】だな」

「ああ! あたしの目利きを見せてやるぜ!」


 外へと走るプレイヤーたちに紛れながらジンたちは予定を確認し合う。

 アニカは声を張り上げてやる気を示しているようだ。

 ただ今自分が鍛冶を任されていないことをどう思っているのか。

 ジンはアニカを見ながら五日前の事を思い返す



■  ■  ■



 リングと別れて宿屋に帰るとそこにはユノの他にもう一人、アニカがいた。

 どうも帰ろうとするアニカをユノが引き留めて、少し話をしていたらしい。

 仲良くなったようにみえる二人を見ながら、ジンはふとアニカに聞こうとしていたことを思い出し口に出した。


「そうだ、アニカってどうやって高位ジョブになったんだ? 今まで仕事こなしてないとなれなそうだけど……」

「っ……」


 その瞬間アニカは表情をこわばらせた。

 何かいけないことを聞いてしまった。アニカの顔でそれを悟ったジンは慌て出す。


「ああいやちょっと気になっただけというか! 別に大したことじゃないから!」

「……いや、ちゃんと話すよ」


 アニカは首を横に振った。そして真剣な目でジンを見てくる。


「あたしはね、《鍛冶師》だった時には普通に仕事ができたんだ。子供のころから親父の手伝いをして、武器を打つようになって……だから、こんな風になっちゃったのは《鍛冶職人》に就いてからだ」


 ぎゅっと拳を握りしめる。


「あたしの親父は工房長で、あたし以外にはたった一人の《鍛冶職人》なんだ。親父はあたしよりずっと鍛冶も上手くて、ずっと尊敬する師匠でもあった。

 そんな親父と同じになって……それから、自分の武器に自信が持てなくなった」


 話しながらアニカは俯いてしまった。


「どれだけ打っても、親父の作には追いつけないんだ。

 それで、こんなものを持たせて人が怪我をしたら危ないと思っちゃって……もっといいものを、なんてやってるうちに客が怒って帰るようなことが、何度かあって。

 それで、まあ、色々あって親父と喧嘩して……工房を飛び出したんだ」



■  ■  ■



 そのため今度のイベントでアニカは鍛冶をしないと言ったのだ。

 武器を作れないんじゃ迷惑になるから、と。

 それで今はジンと共に採掘に回っている。





 ジンとアニカは門を出て【怨霊鉱山】を訪れていた。

 【怨霊鉱山】にはジンたち以外にも多くのプレイヤーが訪れ、モンスターを討伐したり採掘をしたりしている。


 そんな中、ジンたちは少し浮いている。

 なにせその後ろにつるはしを抱えた屈強な男たちが十人ずらりと並んでいるのだ。



「さあ、採掘だ。頼むぞみんな」

「「「「「おう!」」」」」


 彼らはジンが酒場で雇った採掘用の人員だ。

 それも一人五千ギルという、酒場としてはかなり高級な人員である。


 上位へと入るためにジンたちはかなり考えながら作戦を立てた。

 なにせジンはバイトがある日にそれほどログインができない。しかも百位以内となるとリングやそのクランメンバーというトップたちと張り合わなければいけないのだ。

 故にジンは自分がいなくとも行える方法を考えた。


 それが戦いもできる荒くれ者を雇い、アニカの指示で採掘をさせるというものだ。


 リングと潜ったダンジョンでジンは250万以上の金を持っている。

 だから多少高くともその程度は出せるのだ。

 今回の出費でレベルは20以下に下がっているが、ネクスタル近くのモンスターは相手にならない。


「それでアニカ、わかるんだよな?」

「おうよ!」


 そして何故アニカが指示をするのか、という点。

 これはアニカのスキルが関わっている。


「〈観鉱眼〉っと」


 呟いてアニカは辺りの岩を観察し始めた。

 この〈観鉱眼〉は《鍛冶職人》が覚えるスキルの一つであり、自分が探す鉱石の在り処を見つけられるのだ。


「お、あったぞ! ここだ!」


 やがてアニカがある場所で手を上げる。

 それを合図に荒くれ者たちはその場でつるはしを振るい始めた。

 ガンガンとつるはしが叩きつけられる度に岩は崩れていく。


「さて、出るかな。アニカは任せろって言ってたけど……」


 そうして採掘されるアイテムをいくつかジンは手に取った。

 そして表示されたアイテム名を見て驚愕する。


「《高位鉄鉱石》に《怨念結晶》! マジか、珍しいって書いてなかったか⁉」


 それは採掘系のクエストの中でも貢献度が高く設定されているアイテムだ。


「見つけるのにかなり掘り進めないといけなくて時間がかかるから、だっけ。こんな簡単に出てくるとは」


 アニカの〈観鉱眼〉はレベルもかなり高いと言っていた、予想以上の結果だ。

 周りを見るとたまに似たようなことをしているプレイヤーはいる。しかし自分たちのような人数を揃えているわけではない。


「これなら、スタートダッシュ決められるんじゃないか……⁉」


 ジンは笑みを深くして採掘の光景を眺めていた。

 一つ問題があるとすれば。


「ただ……俺がぼんやり眺めてるだけになってるのがな」


 〈亡者の換金〉によりジンは採掘をしても意味がない。

 ここに着いてきたのは初日だから様子を見るのと、もし荒くれ者たちがモンスターに対抗できなければ倒すためだ。


 しかしモンスターはプレイヤーに狩られ続けていてこちらに近寄ってくることはない。

 もしいても一体や二体なら荒くれ者たちが対処している。


「……ちょっと暇だ」


 いいことではある。

 あるのだが、ゲームの中でただ眺めているだけというのは退屈だった。




 そうして何ヶ所か掘り進めて多くのレア鉱石をジンたちは手に入れていた。

 現在は坑道内に入り採掘をしているのだが、二又に分かれた道でアニカが足を止めた。


「ん、うーん?」

「どしたアニカ」

「いや、次は右だと思うんだけど……なんか音がしないか?」

「音?」


 ジンは耳を澄ませてみる。確かに規則的なゴン、ゴンという音が重く響いてくる。


「モンスターか?」

「どうだろう。なんか嫌な予感はするんだよな」

「じゃあ俺が様子見てくるか。みんなはここで待機な」


 指示を出してジンは走り出した。

 今まで全く出番がなかったから少しは何かしたかったのだ。

 鉱石が大量に手に入ったのもあって、ジンは少し浮かれて坑道内を駆ける。


 だから、だろう。

 途中にあった看板をジンは見逃していた。


『落盤注意』と書かれた看板を。




 ジンは坑道内をまっすぐに走っていく。

 しかしそれなりの距離を走ってもモンスターも何もいない。


「……そろそろ戻るか? 景色も変わんないしちょっと飽きてきた……ん?」


 そう考え始めた時、ジンは走る速度を落とす。

 先の壁に何かキラキラとしたものが目に入ったのだ。


「これは……」


 それを凝視すると《クリア・クリスタル》とアイテム名が表示された。


「《クリア・クリスタル》って、これ確か二番目か三番目に貢献度高いやつじゃないか⁉」


 採掘系のクエストでトップクラスの貢献度となるもの。

 それが辺りの壁にずらりと埋まっていた。


「すげぇ! これ全部取れたらほんとに上位も夢じゃないんじゃないか……!」


 辺りを見ながらジンは歩き続ける。

 しばらくすると行き止まりが見えてきた。


「あ、ここで終わりか。じゃあ早く戻ってアニカたち呼んで——」


 引き返そうとした時、ジンはビキッという音を聞く。


「ん……?」


 音はいくつもいくつも、辺り全てから聞こえてくる。ビキ、バキと何かが砕ける前のような音が。


「な、なんかヤバイ⁉」


 ジンは嫌な予感を覚え急いできた道を戻ろうとし——その瞬間に天井がバカッと崩落し。

 岩の塊がジンに降り注いでくる。


「うおおぉぁぁぁぁぁ!!?」




■  ■  ■




「ハッ⁉」


 次に目を覚ました時、ジンは広場に居た。


「え、何が……」


 少しの間、ジンは自分がどうなったのか理解できなかった。

 しかし崩落と岩に潰されたことを思い出して、現状と繋ぎ合わせる。


「あ、もしかして……死んだ?」


 そして自分がデスペナルティとなったと結論付けた。


「ええ……マジか。モンスターとかじゃなく崩落って——!」


 愚痴るジンの背筋へ唐突に寒気が走る。

 思い出すのはリングから言われた推測。


『死んだら全てのお金を失う——』


 ジンは瞬時にステータスを開いた。



■  ■  ■

NAME:ジン

ジョブ:《金の亡者》Lv1


▽ステータス

HP:300/300

MP:50/50

SP:100/100


STR:10

END:30

AGI:10

DEX:5

LUC:0


〈スキル〉

:〈収益〉Lv10(Max)

:〈亡者の換金〉Lv10(Max)

:〈亡者の激怒〉Lv5

:〈ライフ・イズ・マネー〉Lv5

:〈血の涙〉Lv3

:〈亡者の執念〉Lv1(Max)


『所持金 0ギル』

■  ■  ■


 

 元の所持金は247万8750ギルだった。

 それが現在は全て失われている。


「……………………」


 ジンはそれからしばらくの間、所持金の0の数字を見ながら固まっていた。


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