二十話 イベントの詳細
大歓声に包まれる広場の中で、ジンは発表された内容に驚いていた。
クエストの規模が『ランコス』の全土に届く程大規模だったから、ではない。
リングが語っていた推測とほとんど一致したからだ。
「本当にそういうイベントでしたね、リングさ——うわ」
隣にいるリングの方を向いた瞬間、ジンは小さくのけぞった。
リングの表情は、喜びやら興奮やらを煮詰めすぎたような不気味なものになっている。
「ふ、ふふふふ……そうですか。『他の街への物資供給』、『インフラの整備』、どちらも行い、さらに予想よりも大規模にしてくるとは……やりますね『ランド・オブ・リコンストラクション』!!」
よくわからないが、予想を超えてきたのが嬉しいようだ。
ジンが引いていると街長が声を張り上げる。
「ではこれより、この復興大祭の詳しい説明を行う! 静粛に!」
大歓声の中でもよく通る声によりプレイヤーの声は少しずつ落ち着いていく。
やがてざわつき程度に収まったころに街長は再び語りだす。
「では説明を——ああ、その前に一つ。これから行う説明は冒険者ギルドの方でももう一度確認できるものだ。質問や疑問があればこの後にギルドの方で聞いてもらいたい」
「あぁ、結構親切なんだ」
「まあ本当にすぐ後に行くと何時間か並ぶことになりそうですが」
ジンの呟きにリングは表情を元に戻して応じてきた。
テンションの高低差にジンはリングの情緒が心配になる。
「では、説明を始めよう。まず今回の復興大祭は、先ほども語った通り多くの物資を集め、造ってもらうことになる。
しかし街の復興だからといってタダで動いてもらおうなどとは考えていない。
当然参加したものには報酬を用意してある!」
報酬という言葉に周囲がざわつき始める。
ざわつきのほとんどは報酬の内容への期待だ。
「しかし全員一律というのも味気がない。
故に集めた物資によって貢献度を決め、貢献度の高さによって報酬を変えることとした。集める物資は何でもいいというわけではないからな。騎士よ、あれを」
街長は後ろの騎士に合図を送る。
すると騎士の一人が前に出て手に持つ何かを掲げた。
それは羊皮紙にひもを通して纏めた紙束だ。
「これは集めて貰いたい物資をクエストとして発注したものだ。
同じものを冒険者ギルドにも置いておくため、そなたらはこのクエストに書かれてある物を冒険者ギルドへと納品してくれ。
クエストには貢献度も同時に書かれているからよく見て受けるかを決めてほしい。
そしてクエストとして出していないモノを基本的に我々は受け取らない。ただの石ころなどは役に立たぬのは当然、伝説的なアイテムであってもクエストにないものは貢献度にならん。
そして祭りの最終日では稼いだ貢献度が発表される。
報酬は段階的に分けるが、貢献度がごくわずかでも報酬はある。どうかふるって参加してくれ。
最も貢献度の高い上位十名には特別な報酬を用意し、さらに上位の三名は街に保管しているアーティファクトを贈与しよう!」
おぉー! とどこかから歓声が上がった。
ただジンにはその価値がよくわからない。
「アーティファクト?」
「古代遺跡……ダンジョンから稀に出てくるアイテムですね。大体が高位の生産職でも作れないようなユニークかつ高い性能を持っています」
「へぇー。ありがとうございます」
イベントとは関係ない疑問にもリングは律義に答えてくれた。
「また、貢献度はクランと個人の二つで分かれることとなる。
しかし貢献度が二分されることはないので安心してほしい。
個人の貢献度は個人のものとして計算し、その個人がクランに所属していたならクランの貢献度としても数えよう。
ちなみに個人への報酬とクランへの報酬は違うものだ。どちらを目指すかは後日発表する報酬の詳細を見て決めてくれ」
「個人で動いてても上位に入れる可能性はあるのか」
「そしてどちらも手に入れることもできる、ということです。ふふふふ」
好戦的な笑みをリングは浮かべる。
「そして当然だがクエストによって貢献度の大きさも違う。
危険なクエスト程貢献度は大きくなるぞ」
再び騎士が前に出て、丸められた大きな羊皮紙を開く。
地面につくほど長い羊皮紙には貢献度の大きさが書かれている。
「クエストの種類は大きく分けて四つ!
一つ目は外での採取!
《薬草》などを摘むのはもちろん、木の伐採や鉱石の採掘も行ってもらう。
あるいは釣りなども入るだろう。
二つ目はモンスターの討伐!
モンスターから取れる素材は様々な用途に使えるものだ。また伐採や採掘における危険度を減らすという目的もある。
素材が取れぬモンスターも減らして貰えるだけでありがたい。
三つめは生産!
これは貢献度にも大きく影響する。
造船、馬車の製作、食料の加工、薪・石炭といったエネルギー原や武器・防具の製造など。
素材はそのままでは使えんものも多い。こういった加工は必須だ。
そして最後、四つ目は交易路の整備!
どれほど物資があろうとも送り込めなければ意味がない。
このクエストでは落石・倒木の撤去、荒れた道のならし、そしてモンスターの討伐などを行ってもらう。
そしてこれはただの討伐ではない。
どうにも近くに強大なモンスターが確認されることが多くなっていてな。難易度が跳ね上がる可能性もある。
さらに、このクエストはこちらで準備を整えての決行となる。
そのため他三つと違い、常に発注しているわけではない。
一日前には告知するため、参加する者は見逃さぬよう。
難しい依頼となるだろうが貢献度も高いぞ。失敗はしてほしくないからな。
……と、概要はこんなところだ」
語られる情報にジンは眉を寄せる。
「これ覚えきれるかな……」
「今覚えられずともギルドで聞くことはできますから。大丈夫ですよ」
「あ、そうか」
「さて、大体のルールは理解できただろう」
街長は話を締めにかかった。
「祭りの開催は五日後の今と同じ時間からとなる。
それまでは力を蓄えるもよし、この街で体を休めるもよし、存分に過ごしてくれ。そして最後に」
街長は力強い目で周囲のプレイヤーたちを見回す。
ざわつくプレイヤーたちはまだ何かあるのかと静かになっていく。
「……この復興大祭は多くの人間の命がかかっているといっても過言ではない事業だ——が、しかし同時に人々が楽しむための祭りでもある」
街長は厳つい顔に快活な笑みを作る。
「そなたら冒険者にもそれは同じ!
街では盛大な市が連日開催され、最終日にはパレードも開かれる! 参加する者も、せぬ者も、存分に楽しんで貰いたい!」
「それでは——解散!」
■ ■ ■
広場からは少しずつ人がはけていく。
リングも「また後で」と去って行った中で、ジンは大きく息を吐いた。
「はぁー……なんか、話聞くだけでも結構疲れたな」
「そうですね。でもこんなに大きなお祭り、楽しみですよ」
ユノはどこかうきうきしている。
「クエストによっては私もお役に立てそうですし」
「あたしは……うん」
それに比べてアニカは表情を曇らせていた。
自分が作らせてもらえるとは思っていないからだろう。
そのアニカの様子を見て、ジンは思い出す。
「そういえばアニカってさ、高位に就くまではどうやって仕事——」
「ジンさん」
「うおぁぁ⁉」
ジンは仰天した。去ったと思ったリングの声が背後からいきなり聞こえてきたのだ。
ジンが振り返るとリングはきょとんとした顔をしている。
「どうしたんですか?」
「いやいきなり話しかけてくるから! ていうかどこか行ったんじゃなかったんですか⁉」
「ちゃんとまた後でと言ったじゃないですか」
「こんなすぐ後とは思わんでしょ!」
「まあそれは置いといて」
「勝手に置いとかれた……」
リングは自分の用を続ける。
「さっきはクランメンバーに話を通してきたんです」
「話……?」
「はい、ジンさん」
微笑んでリングは告げる。
「私と、少し冒険しませんか?」